14 / 19
14.浅田光の愚かな試み。
しおりを挟む
今日は月に二度程ある、早上がりの日だ。着替えを終え、裏口から出る。駐車場に到着すると、その子ははにかみながら立っていた。
「こんにちは」
「……こんにちは」
流石に動揺した。磨夢ちゃんは少し照れがあるのか、それとも他に何か思うところがあるのか柱に隠れながら俺を見ている。一歩足を踏み出すと、磨夢ちゃんはびくんっと背を伸ばした。怯えられているのだろうか。ひとまず止まった。
「パパならまだお仕事中で診療所にいるよ。待てる?」
「あ、ちがうの。今日はね、その」
どうも歯切れが悪い。子どもの相手なんて慣れていないせいで、どうすればいいかよく分からない。少し無言の間が空いて、でも磨夢ちゃんから口を開いた。
「……ママとけんかしちゃって」
声が、とても細い。それに、震えている。
「喧嘩?」
「塾にいかないで公園に行ってるの、ばれちゃったの」
何とも子どもらしい。磨夢ちゃんは言葉を選ぶようにして続けた。
「でも……まゆね、友達のお誕生日会にどうしても行きたかったの。でも、ママ怒ってたから……言えなかったの」
目元が潤み出している。ぎょっとして駆け寄ると、ぼろぼろと大粒の涙を溢れさせだした。
……この顔ですら、葵に似ていてくらくらする。
「どうしよう、ママに、会うの、こわい……おうち、かえるのこわい……」
「大丈夫、大丈夫だから」
我ながら何が大丈夫なのかは分からないが、そう言うしかなかった。
そして……思いついた。とても、卑怯な手を。
「俺が一緒に謝ってあげる」
「え」
「だから、大丈夫」
磨夢ちゃんは恐る恐る「いいの?」と口にする。頷くと、磨夢ちゃんは手で涙を拭いた。
「ありがとう。まゆ、がんばる」
「ああ。じゃ、お家行こうな」
「うん!」
どくり、どくり、と心臓が鳴る。こんなに、うまくいっていいものなのだろうか。
磨夢ちゃんを車の助手席に乗せ、シートベルトを締めさせる。俺も運転席に座りベルトを締め、車を発進させた。
「家、どこか言える?」
「うん」
流石にカーナビに履歴を入れるのは躊躇われた。ドライブレコーダーは……まあ、うまくやるしかないだろう。
磨夢ちゃんはいつも診療所に来る時、どうやらバスを乗り継いでいたらしい。小三ながら恐ろしい行動力だ。修治の血を感じる。顔はこんなにも、葵なのに。
「ママね、いつも全然おこらないの」
慣れてきてくれたのか、磨夢ちゃんは少しずつ口数が増えてきた。
「だから、すごく怖かった」
「そっか」
確かに葵が怒るところなんて、想像もつかない。修治は見た事があるのだろうか。そう考えると、胃がきゅっと痛む。
「ママ、許してくれるかな」
「大丈夫だろ」
ふと、思った。
「なあ、磨夢ちゃん。俺のこと、何か聞いてる?」
磨夢ちゃんは首を縦に振った。
「パパとずっとお友達だったんでしょ」
「うん、そう」
「名前は、あさださん」
「正解」
つまりそれくらいしか聞いていない、ということか。少し安心した。
数十分走らせて、閑静な住宅街に到着した。念のため近くのコンビニに停車させ、磨夢ちゃんを下ろす。そして磨夢ちゃんの道案内のもと、進んでいく。そして、ある一軒家の前で立ち止まった。
磨夢ちゃんは不安そうにこちらを見てくる。思わず苦笑が漏れた。
「大丈夫だよ」
……むしろ、俺が大丈夫じゃないくらいだ。
磨夢ちゃんは頷くと、扉に手をかけた。
「こんにちは」
「……こんにちは」
流石に動揺した。磨夢ちゃんは少し照れがあるのか、それとも他に何か思うところがあるのか柱に隠れながら俺を見ている。一歩足を踏み出すと、磨夢ちゃんはびくんっと背を伸ばした。怯えられているのだろうか。ひとまず止まった。
「パパならまだお仕事中で診療所にいるよ。待てる?」
「あ、ちがうの。今日はね、その」
どうも歯切れが悪い。子どもの相手なんて慣れていないせいで、どうすればいいかよく分からない。少し無言の間が空いて、でも磨夢ちゃんから口を開いた。
「……ママとけんかしちゃって」
声が、とても細い。それに、震えている。
「喧嘩?」
「塾にいかないで公園に行ってるの、ばれちゃったの」
何とも子どもらしい。磨夢ちゃんは言葉を選ぶようにして続けた。
「でも……まゆね、友達のお誕生日会にどうしても行きたかったの。でも、ママ怒ってたから……言えなかったの」
目元が潤み出している。ぎょっとして駆け寄ると、ぼろぼろと大粒の涙を溢れさせだした。
……この顔ですら、葵に似ていてくらくらする。
「どうしよう、ママに、会うの、こわい……おうち、かえるのこわい……」
「大丈夫、大丈夫だから」
我ながら何が大丈夫なのかは分からないが、そう言うしかなかった。
そして……思いついた。とても、卑怯な手を。
「俺が一緒に謝ってあげる」
「え」
「だから、大丈夫」
磨夢ちゃんは恐る恐る「いいの?」と口にする。頷くと、磨夢ちゃんは手で涙を拭いた。
「ありがとう。まゆ、がんばる」
「ああ。じゃ、お家行こうな」
「うん!」
どくり、どくり、と心臓が鳴る。こんなに、うまくいっていいものなのだろうか。
磨夢ちゃんを車の助手席に乗せ、シートベルトを締めさせる。俺も運転席に座りベルトを締め、車を発進させた。
「家、どこか言える?」
「うん」
流石にカーナビに履歴を入れるのは躊躇われた。ドライブレコーダーは……まあ、うまくやるしかないだろう。
磨夢ちゃんはいつも診療所に来る時、どうやらバスを乗り継いでいたらしい。小三ながら恐ろしい行動力だ。修治の血を感じる。顔はこんなにも、葵なのに。
「ママね、いつも全然おこらないの」
慣れてきてくれたのか、磨夢ちゃんは少しずつ口数が増えてきた。
「だから、すごく怖かった」
「そっか」
確かに葵が怒るところなんて、想像もつかない。修治は見た事があるのだろうか。そう考えると、胃がきゅっと痛む。
「ママ、許してくれるかな」
「大丈夫だろ」
ふと、思った。
「なあ、磨夢ちゃん。俺のこと、何か聞いてる?」
磨夢ちゃんは首を縦に振った。
「パパとずっとお友達だったんでしょ」
「うん、そう」
「名前は、あさださん」
「正解」
つまりそれくらいしか聞いていない、ということか。少し安心した。
数十分走らせて、閑静な住宅街に到着した。念のため近くのコンビニに停車させ、磨夢ちゃんを下ろす。そして磨夢ちゃんの道案内のもと、進んでいく。そして、ある一軒家の前で立ち止まった。
磨夢ちゃんは不安そうにこちらを見てくる。思わず苦笑が漏れた。
「大丈夫だよ」
……むしろ、俺が大丈夫じゃないくらいだ。
磨夢ちゃんは頷くと、扉に手をかけた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
文化祭実行委員はこの世を守りたい。
湖霧どどめ
青春
「もし高校生の時、こんな使命があれば」
「もし高校生の時、自分に異能力があれば」
「もし高校生の時、仲間がいれば」
そんな事を考えてしまうような方にこそ読んでほしい、そんな物語。
文化祭実行委員なんて所詮表の所業。皆何だかんだ裏の仕事でヒィヒィ言っているものなのです。
「おやおやぁ、作戦会議に遅刻とか君なにを考えているんだい」
音楽室は彼の、文字通り城だった。
彼はゆったりと、優雅に微笑み目尻に年齢ならではの皺を寄せた。そして、囁く。
「さあ、君の出番だよ」
ーーーーーー
現代高校生の異能力バトルファンタジーです。
爽やかに、けれどひりつく物語になりますように。
アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための10の技
MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。
私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。
すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。
そんな方に言いたいです。
アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。
あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。
アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。
書いたまま放ったらかしではいけません。
自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。
どうあれ君の傍らに。
湖霧どどめ
恋愛
僕達は必死で恋をした。
だって、傍に居たかったんだ。
*大人しい系男子×奔放女子
*クール気取り男子×友人の彼女
*関西弁生物教師×ごく普通の女子
高校に通う人々の、それぞれの恋の形を一年間切り取りました。
(売り切れのため再販予定無の文フリ過去頒布作品)
アルファポリスで閲覧者数を増やすための豆プラン
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
エッセイ・ノンフィクション
私がアルファポリスでの活動から得た『誰にでも出来る地道なPV獲得術』を、豆知識的な感じで書いていきます。
※思いついた時に書くので、不定期更新です。
【完結・R18】結婚の約束なんてどうかなかったことにして
堀川ぼり
恋愛
「なに、今更。もう何回も俺に抱かれてるのに」
「今は俺と婚約してるんだから、そんな約束は無効でしょ」
幼い頃からクラウディア商会の長である父に連れられ大陸中の国を渡りあるくリーシャ。いつものように父の手伝いで訪れた大国ルビリアで、第一王子であるダニスに突然結婚を申し込まれる。
幼い頃に交わしたという結婚の約束にも、互いの手元にあるはずの契約書にも覚えがないことを言い出せず、流されるまま暫く城に滞在することに。
王族との約束を一方的に破棄することもできず悩むリーシャだったが、ダニスのことを知るたびに少しずつ惹かれていく。
しかし同時に、「約束」について違和感を覚えることも増え、ある日ついに、「昔からずっと好きだった」というダニスの言葉が嘘だと気づいてしまい──…?
恋を知らない商人の娘が初恋を拗らせた執着王子に捕まるまでのお話。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
三度目の創世 〜樹木生誕〜
湖霧どどめ
キャラ文芸
国単位で起こる超常現象『革命』。全てを無に帰し、新たなる文明を作り直す為の…神による手段。
日本で『革命』が起こり暫く。『新』日本は、『旧』日本が遺した僅かな手掛かりを元に再生を開始していた。
ある者は取り戻す為。ある者は生かす為。ある者は進む為。
--そして三度目の創世を望む者が現れる。
近未来日本をベースにしたちょっとしたバトルファンタジー。以前某投稿サイトで投稿していましたが、こちらにて加筆修正込みで再スタートです。
お気に入り登録してくださった方ありがとうございます!
無事完結いたしました。本当に、ありがとうございます。
転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます
藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!
2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました
2024年8月中旬第三巻刊行予定です
ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。
高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。
しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。
だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。
そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。
幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。
幼い二人で来たる追い出される日に備えます。
基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています
2023/08/30
題名を以下に変更しました
「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」
書籍化が決定しました
2023/09/01
アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります
2023/09/06
アルファポリス様より、9月19日に出荷されます
呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております
2024/3/21
アルファポリス様より第二巻が発売されました
2024/4/24
コミカライズスタートしました
2024/8/12
アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる