上 下
13 / 19

13.元林清斗とある種のダブルブッキング。

しおりを挟む
「えっ今から仕事?」
「うん、というわけで猫さんにはちょっと今からアホになってもらいたい」
「内容によっては殴るけど、とりあえず話だけ聞こうかな」

 三崎くんから依頼を受けた僕は、昼間中に作戦を立てた。
 やはり、凪野さんの浮気相手として一番有り得るのは浅田くんしか居ない気がする。それとなくやんわり三崎くんに確認したら「とりあえずお前に任せる」と言われたから、どうとも読めないけれど。
 そして、夜。帰宅早々晩酌を開始した猫さんに作戦を伝えた。

「つまり私が浅田くんに進展を聞けってにゃんこに脅しをかけてるって背景を作ればいい、と」
「うん。すごく面倒臭い酔っ払い役でお願いします」
「……何かむかつくから今日エッチ無しね」

 なかなか堪えるが仕方ない。また眠っている猫さんの手を借りよう。
 細かい台本も仕上げた。とはいえ、相手は元同級生だ。普段より余程やりやすい。
 現在時刻22時半。丁度奥さんが寝静まった頃合いか。とはいえ、これも三崎くんからの情報だ。彼は浅田くんと奥さんのルーティンをすべて提供してくれていた。
 電話をかける。3コール程で応答があった。

『はい』
「ごめん、遅くに。今大丈夫?」

 猫さんに目配せする。すると頷いた。

『ああ、どうしたんだ」
「凪野さんの事、最近どうかなって」

 息を呑む声が聞こえた。あくまで不自然にならないように苦笑混じりで言葉にする。

「あれから進展聞いてなかったし。渡さんがうるさいんだよ、早く聞けって」

 猫さんは机に缶を叩きつけながら「そうだそうだ早く教えろー!」と煽ってくる。こういうのをやらせると、この人は本当に上手い。
 浅田くんは『あれから何も無い』とあちらも苦笑混じりで返してきた。

『悪い、メッセージでもいいか』
「ああ、奥さんいるんだもんね。ごめん、ありがとう」

 ひとまず電話を切る。猫さんに「名演技」と告げると、親指を立ててきた。
 すぐにスマートフォンが鳴る。メッセージだった。

『でも嫁の不倫疑惑出てきた』
「……ん?」

 想定外の内容に眉が寄る。ひとまず「どういうこと?」と送ると、少し時間を置いて長文が返ってきた。

『嫁が修治の兄貴と不倫してる可能性があって、それを調べようとしてる』
「……いやいや展開すごいなこれ」

 猫さんの言葉に頷く。流石に想定外だし話が脱線しかけている。しかし、すぐに連投が来た。

『ちょっと精神参ってる。あいつに会いたい』

 文面でも分かる。悲痛な言葉ではあるけれど、一応こちらも仕事だ。

「凪野さんと最近関わりはないんだ?」

 再び少し間があった。奥さんがそばに居るのだろうか。その間に猫さんがビールの缶を一本新しく開けた。

『バレないように家電でたまに連絡とってる。あいつが俺の嫁が寝静まったタイミングで』

 きた。

「すごいリスキーな事してるんだね。タイミング合わなさそうなものなのに」

 こういう時のコツは、あくまで質問で返さない事だ。一度ボロを出したなら、転がりやすいように道を整地してやるだけでいい。

『あいつは修治から嫁の生活習慣聞いてるみたいだから。それでも月1あるかないかだよ』

 猫さんの皿が空いたので、つまみを新たによそう。猫さんは楽しそうに画面に見入っていた。
 やはり家電か。そこは最初に三崎くんに調べてもらってたけれど、履歴は残っていなかった。罪悪感ありきでやっているなら、勿論処理はするとは思っていたけれど。
 スマートフォンに指を戻し、「会うのはやっぱり難しいんだ?」と送る。すると。

『ああ。どうにかならないかな』

 流石に三崎くんから依頼を受けている以上、協力は絶対出来ない。だからこそ、捻じ曲げる事にした。

「それはちょっと考えないとだね。でもそれ以上に奥さんの不倫疑惑どうにかした方が良さそうだ」

 そう送ると、『だよな』と返ってきた。そして。

『元林って、仕事探偵業なんだっけ?』
「……にゃんこ、まさか」

 少なくとも別内容ではある。問題も支障も無い。


 その日の深夜に、浅田くんからも依頼と前金が振り込まれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

諦めて、もがき続ける。

りつ
恋愛
 婚約者であったアルフォンスが自分ではない他の女性と浮気して、子どもまでできたと知ったユーディットは途方に暮れる。好きな人と結ばれことは叶わず、彼女は二十年上のブラウワー伯爵のもとへと嫁ぐことが決まった。伯爵の思うがままにされ、心をすり減らしていくユーディット。それでも彼女は、ある言葉を胸に、毎日を生きていた。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈 
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

離縁の脅威、恐怖の日々

月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。 ※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。 ※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。

処理中です...