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13.元林清斗とある種のダブルブッキング。
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「えっ今から仕事?」
「うん、というわけで猫さんにはちょっと今からアホになってもらいたい」
「内容によっては殴るけど、とりあえず話だけ聞こうかな」
三崎くんから依頼を受けた僕は、昼間中に作戦を立てた。
やはり、凪野さんの浮気相手として一番有り得るのは浅田くんしか居ない気がする。それとなくやんわり三崎くんに確認したら「とりあえずお前に任せる」と言われたから、どうとも読めないけれど。
そして、夜。帰宅早々晩酌を開始した猫さんに作戦を伝えた。
「つまり私が浅田くんに進展を聞けってにゃんこに脅しをかけてるって背景を作ればいい、と」
「うん。すごく面倒臭い酔っ払い役でお願いします」
「……何かむかつくから今日エッチ無しね」
なかなか堪えるが仕方ない。また眠っている猫さんの手を借りよう。
細かい台本も仕上げた。とはいえ、相手は元同級生だ。普段より余程やりやすい。
現在時刻22時半。丁度奥さんが寝静まった頃合いか。とはいえ、これも三崎くんからの情報だ。彼は浅田くんと奥さんのルーティンをすべて提供してくれていた。
電話をかける。3コール程で応答があった。
『はい』
「ごめん、遅くに。今大丈夫?」
猫さんに目配せする。すると頷いた。
『ああ、どうしたんだ」
「凪野さんの事、最近どうかなって」
息を呑む声が聞こえた。あくまで不自然にならないように苦笑混じりで言葉にする。
「あれから進展聞いてなかったし。渡さんがうるさいんだよ、早く聞けって」
猫さんは机に缶を叩きつけながら「そうだそうだ早く教えろー!」と煽ってくる。こういうのをやらせると、この人は本当に上手い。
浅田くんは『あれから何も無い』とあちらも苦笑混じりで返してきた。
『悪い、メッセージでもいいか』
「ああ、奥さんいるんだもんね。ごめん、ありがとう」
ひとまず電話を切る。猫さんに「名演技」と告げると、親指を立ててきた。
すぐにスマートフォンが鳴る。メッセージだった。
『でも嫁の不倫疑惑出てきた』
「……ん?」
想定外の内容に眉が寄る。ひとまず「どういうこと?」と送ると、少し時間を置いて長文が返ってきた。
『嫁が修治の兄貴と不倫してる可能性があって、それを調べようとしてる』
「……いやいや展開すごいなこれ」
猫さんの言葉に頷く。流石に想定外だし話が脱線しかけている。しかし、すぐに連投が来た。
『ちょっと精神参ってる。あいつに会いたい』
文面でも分かる。悲痛な言葉ではあるけれど、一応こちらも仕事だ。
「凪野さんと最近関わりはないんだ?」
再び少し間があった。奥さんがそばに居るのだろうか。その間に猫さんがビールの缶を一本新しく開けた。
『バレないように家電でたまに連絡とってる。あいつが俺の嫁が寝静まったタイミングで』
きた。
「すごいリスキーな事してるんだね。タイミング合わなさそうなものなのに」
こういう時のコツは、あくまで質問で返さない事だ。一度ボロを出したなら、転がりやすいように道を整地してやるだけでいい。
『あいつは修治から嫁の生活習慣聞いてるみたいだから。それでも月1あるかないかだよ』
猫さんの皿が空いたので、つまみを新たによそう。猫さんは楽しそうに画面に見入っていた。
やはり家電か。そこは最初に三崎くんに調べてもらってたけれど、履歴は残っていなかった。罪悪感ありきでやっているなら、勿論処理はするとは思っていたけれど。
スマートフォンに指を戻し、「会うのはやっぱり難しいんだ?」と送る。すると。
『ああ。どうにかならないかな』
流石に三崎くんから依頼を受けている以上、協力は絶対出来ない。だからこそ、捻じ曲げる事にした。
「それはちょっと考えないとだね。でもそれ以上に奥さんの不倫疑惑どうにかした方が良さそうだ」
そう送ると、『だよな』と返ってきた。そして。
『元林って、仕事探偵業なんだっけ?』
「……にゃんこ、まさか」
少なくとも別内容ではある。問題も支障も無い。
その日の深夜に、浅田くんからも依頼と前金が振り込まれた。
「うん、というわけで猫さんにはちょっと今からアホになってもらいたい」
「内容によっては殴るけど、とりあえず話だけ聞こうかな」
三崎くんから依頼を受けた僕は、昼間中に作戦を立てた。
やはり、凪野さんの浮気相手として一番有り得るのは浅田くんしか居ない気がする。それとなくやんわり三崎くんに確認したら「とりあえずお前に任せる」と言われたから、どうとも読めないけれど。
そして、夜。帰宅早々晩酌を開始した猫さんに作戦を伝えた。
「つまり私が浅田くんに進展を聞けってにゃんこに脅しをかけてるって背景を作ればいい、と」
「うん。すごく面倒臭い酔っ払い役でお願いします」
「……何かむかつくから今日エッチ無しね」
なかなか堪えるが仕方ない。また眠っている猫さんの手を借りよう。
細かい台本も仕上げた。とはいえ、相手は元同級生だ。普段より余程やりやすい。
現在時刻22時半。丁度奥さんが寝静まった頃合いか。とはいえ、これも三崎くんからの情報だ。彼は浅田くんと奥さんのルーティンをすべて提供してくれていた。
電話をかける。3コール程で応答があった。
『はい』
「ごめん、遅くに。今大丈夫?」
猫さんに目配せする。すると頷いた。
『ああ、どうしたんだ」
「凪野さんの事、最近どうかなって」
息を呑む声が聞こえた。あくまで不自然にならないように苦笑混じりで言葉にする。
「あれから進展聞いてなかったし。渡さんがうるさいんだよ、早く聞けって」
猫さんは机に缶を叩きつけながら「そうだそうだ早く教えろー!」と煽ってくる。こういうのをやらせると、この人は本当に上手い。
浅田くんは『あれから何も無い』とあちらも苦笑混じりで返してきた。
『悪い、メッセージでもいいか』
「ああ、奥さんいるんだもんね。ごめん、ありがとう」
ひとまず電話を切る。猫さんに「名演技」と告げると、親指を立ててきた。
すぐにスマートフォンが鳴る。メッセージだった。
『でも嫁の不倫疑惑出てきた』
「……ん?」
想定外の内容に眉が寄る。ひとまず「どういうこと?」と送ると、少し時間を置いて長文が返ってきた。
『嫁が修治の兄貴と不倫してる可能性があって、それを調べようとしてる』
「……いやいや展開すごいなこれ」
猫さんの言葉に頷く。流石に想定外だし話が脱線しかけている。しかし、すぐに連投が来た。
『ちょっと精神参ってる。あいつに会いたい』
文面でも分かる。悲痛な言葉ではあるけれど、一応こちらも仕事だ。
「凪野さんと最近関わりはないんだ?」
再び少し間があった。奥さんがそばに居るのだろうか。その間に猫さんがビールの缶を一本新しく開けた。
『バレないように家電でたまに連絡とってる。あいつが俺の嫁が寝静まったタイミングで』
きた。
「すごいリスキーな事してるんだね。タイミング合わなさそうなものなのに」
こういう時のコツは、あくまで質問で返さない事だ。一度ボロを出したなら、転がりやすいように道を整地してやるだけでいい。
『あいつは修治から嫁の生活習慣聞いてるみたいだから。それでも月1あるかないかだよ』
猫さんの皿が空いたので、つまみを新たによそう。猫さんは楽しそうに画面に見入っていた。
やはり家電か。そこは最初に三崎くんに調べてもらってたけれど、履歴は残っていなかった。罪悪感ありきでやっているなら、勿論処理はするとは思っていたけれど。
スマートフォンに指を戻し、「会うのはやっぱり難しいんだ?」と送る。すると。
『ああ。どうにかならないかな』
流石に三崎くんから依頼を受けている以上、協力は絶対出来ない。だからこそ、捻じ曲げる事にした。
「それはちょっと考えないとだね。でもそれ以上に奥さんの不倫疑惑どうにかした方が良さそうだ」
そう送ると、『だよな』と返ってきた。そして。
『元林って、仕事探偵業なんだっけ?』
「……にゃんこ、まさか」
少なくとも別内容ではある。問題も支障も無い。
その日の深夜に、浅田くんからも依頼と前金が振り込まれた。
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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