8 / 19
8.浅田光による単独捜査。
しおりを挟む
あれから一週間経つが、葵からの電話は来なかった。その間ずっと、俺の中の疑念は膨らみ続けている。
そんな中だった。
「なあ、修治。ちょっと聞きたい事あるんだが」
昼休憩、俺は修治と近所のうどん屋に来ていた。今日は比較的余裕があり、精神的にも今日がいいと判断出来た。
「彩って俺と付き合うより前に、誰かと付き合ってたりしたか」
俺の言葉に、修治は一瞬ぽかんとした。しかしすぐに笑い声をあげる。
「何だよお前、ついにあいつにそういう感情出てきたのかよ」
俺が彩を快く思っていないことを、修治はよく知っている。それでも離婚をすすめてこないのは……俺を自由にしたくないに他ならない。
運ばれてきた蕎麦に箸を伸ばしながら、溜息をついてやる。
「俺には、俺が初めてだって言うんだ。でも、変な夢を見てさ。俺は観葉植物だったんだが」
「待ってくれ、出だしからして面白そうな予感しかしねえんだけど」
「あいつが小学生で、綺麗な男がそばにいて。『この子は俺の婚約者です』って俺に言ってくるんだ。起きて夢だってすぐ分かったんだが、妙に気にかかって」
夢のくだりを考えたのは俺ではなく、元林経由の渡さんだ。最初元林に彩のことを探る方法を相談したら、たまたま側にいたらしい渡さんが即席で考えてくれた。俺には無い発想でやはり頼りになる。
修治は笑いを堪えながら首を傾げた。
「えー綺麗な男で観葉植物に語りかけるようなやべぇ奴かぁ」
「いやそんな奴じゃないにしろだよ」
「ああでも」
蕎麦を一口すすると、修治は宙を見る。何かを思い出そうとする時の癖だ。
「あいつ、俺の兄ちゃんの事好きだったはず。初恋だって言ってた」
「兄ちゃん……って、どっちの」
「すぐ上の。雅治の方」
……ドンピシャか。
「まあ、近くにいる年上の男ってなればそうなるか」
冷静を装ってても、心臓は震える。これは、近付いている。
「でも付き合ってはないか、それなら」
「ないない、雅兄めちゃくちゃ腹黒いっつーか気強いし。彩のこと、あいつグレた時『あんなになって恥ずかしい』って言ってたしな」
だとすれば、今こうやっての付き合いが逆に不思議か。ますます分からなくなる。ひとまずそばつゆの中の温玉を崩した。
修治はにやにや笑いながらこっちを見てくる。
「いやーでも光から彩の話が出るの珍しいな本当に」
「お前も嫁さんの話出さないだろ」
……言ってしまった、とは思った。実際修治は一瞬口を噤む。しかしすぐに苦笑した。
「お前がきついだろ」
そうだ、こいつは優しい。きっと俺へ抱いているのは警戒心が一番大きいだろうが、それだけではないんだ。
「悪い」
だから俺は、こいつを嫌いになれない。何より、あの診療所に誘ったのは彩に「俺が光を見張るから大丈夫」と伝えるために他ならない。彩から離れる時間を、こいつは作ってくれている。
……せめぎ合い続けている。俺もこいつも。
「っし、行くか」
「ああ」
会計を済ませ、店を出る。診療所へと向かう道がてら、修治は溜息を吐く。
「しかし雅兄なぁ」
「お前苦手なんだったか」
確か前、ちらりとそんな話をした記憶はある。しかしこいつから聞く雅治さんの性格を考えれば、たしかに相性は悪そうだ。
そもそも確か、修治が本家の病院を出て診療所を開く一因そのものがあの人だった気もする。詳しくは知らないが。
「何か、俺が弟だからもってる感じ。これが逆で俺があの人の兄貴だったりしたら、大戦争だったりしたかもな」
「ああ、成程な」
「一番上の兄貴……龍兄は最初から完璧だったからさ。だから突っかかりようもなかったんだろうけど。そういや二人とも最近会ってねえなあ」
彩は二人と会っているのか、と探りそうになったがやめた。ボロが出てしまいそうだ。
しかしいよいよきな臭くなってきている。胃の底から、溜息が漏れ出した。
そんな中だった。
「なあ、修治。ちょっと聞きたい事あるんだが」
昼休憩、俺は修治と近所のうどん屋に来ていた。今日は比較的余裕があり、精神的にも今日がいいと判断出来た。
「彩って俺と付き合うより前に、誰かと付き合ってたりしたか」
俺の言葉に、修治は一瞬ぽかんとした。しかしすぐに笑い声をあげる。
「何だよお前、ついにあいつにそういう感情出てきたのかよ」
俺が彩を快く思っていないことを、修治はよく知っている。それでも離婚をすすめてこないのは……俺を自由にしたくないに他ならない。
運ばれてきた蕎麦に箸を伸ばしながら、溜息をついてやる。
「俺には、俺が初めてだって言うんだ。でも、変な夢を見てさ。俺は観葉植物だったんだが」
「待ってくれ、出だしからして面白そうな予感しかしねえんだけど」
「あいつが小学生で、綺麗な男がそばにいて。『この子は俺の婚約者です』って俺に言ってくるんだ。起きて夢だってすぐ分かったんだが、妙に気にかかって」
夢のくだりを考えたのは俺ではなく、元林経由の渡さんだ。最初元林に彩のことを探る方法を相談したら、たまたま側にいたらしい渡さんが即席で考えてくれた。俺には無い発想でやはり頼りになる。
修治は笑いを堪えながら首を傾げた。
「えー綺麗な男で観葉植物に語りかけるようなやべぇ奴かぁ」
「いやそんな奴じゃないにしろだよ」
「ああでも」
蕎麦を一口すすると、修治は宙を見る。何かを思い出そうとする時の癖だ。
「あいつ、俺の兄ちゃんの事好きだったはず。初恋だって言ってた」
「兄ちゃん……って、どっちの」
「すぐ上の。雅治の方」
……ドンピシャか。
「まあ、近くにいる年上の男ってなればそうなるか」
冷静を装ってても、心臓は震える。これは、近付いている。
「でも付き合ってはないか、それなら」
「ないない、雅兄めちゃくちゃ腹黒いっつーか気強いし。彩のこと、あいつグレた時『あんなになって恥ずかしい』って言ってたしな」
だとすれば、今こうやっての付き合いが逆に不思議か。ますます分からなくなる。ひとまずそばつゆの中の温玉を崩した。
修治はにやにや笑いながらこっちを見てくる。
「いやーでも光から彩の話が出るの珍しいな本当に」
「お前も嫁さんの話出さないだろ」
……言ってしまった、とは思った。実際修治は一瞬口を噤む。しかしすぐに苦笑した。
「お前がきついだろ」
そうだ、こいつは優しい。きっと俺へ抱いているのは警戒心が一番大きいだろうが、それだけではないんだ。
「悪い」
だから俺は、こいつを嫌いになれない。何より、あの診療所に誘ったのは彩に「俺が光を見張るから大丈夫」と伝えるために他ならない。彩から離れる時間を、こいつは作ってくれている。
……せめぎ合い続けている。俺もこいつも。
「っし、行くか」
「ああ」
会計を済ませ、店を出る。診療所へと向かう道がてら、修治は溜息を吐く。
「しかし雅兄なぁ」
「お前苦手なんだったか」
確か前、ちらりとそんな話をした記憶はある。しかしこいつから聞く雅治さんの性格を考えれば、たしかに相性は悪そうだ。
そもそも確か、修治が本家の病院を出て診療所を開く一因そのものがあの人だった気もする。詳しくは知らないが。
「何か、俺が弟だからもってる感じ。これが逆で俺があの人の兄貴だったりしたら、大戦争だったりしたかもな」
「ああ、成程な」
「一番上の兄貴……龍兄は最初から完璧だったからさ。だから突っかかりようもなかったんだろうけど。そういや二人とも最近会ってねえなあ」
彩は二人と会っているのか、と探りそうになったがやめた。ボロが出てしまいそうだ。
しかしいよいよきな臭くなってきている。胃の底から、溜息が漏れ出した。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
文化祭実行委員はこの世を守りたい。
湖霧どどめ
青春
「もし高校生の時、こんな使命があれば」
「もし高校生の時、自分に異能力があれば」
「もし高校生の時、仲間がいれば」
そんな事を考えてしまうような方にこそ読んでほしい、そんな物語。
文化祭実行委員なんて所詮表の所業。皆何だかんだ裏の仕事でヒィヒィ言っているものなのです。
「おやおやぁ、作戦会議に遅刻とか君なにを考えているんだい」
音楽室は彼の、文字通り城だった。
彼はゆったりと、優雅に微笑み目尻に年齢ならではの皺を寄せた。そして、囁く。
「さあ、君の出番だよ」
ーーーーーー
現代高校生の異能力バトルファンタジーです。
爽やかに、けれどひりつく物語になりますように。
アルファポリスであなたの良作を1000人に読んでもらうための10の技
MJ
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスは書いた小説を簡単に投稿でき、世間に公開できる素晴らしいサイトです。しかしながら、アルファポリスに小説を公開すれば必ずしも沢山の人に読んでいただけるとは限りません。
私はアルファポリスで公開されている小説を読んでいて気づいたのが、面白いのに埋もれている小説が沢山あるということです。
すごく丁寧に真面目にいい文章で、面白い作品を書かれているのに評価が低くて心折れてしまっている方が沢山いらっしゃいます。
そんな方に言いたいです。
アルファポリスで評価低いからと言って心折れちゃいけません。
あなたが良い作品をちゃんと書き続けていればきっとこの世界を潤す良いものが出来上がるでしょう。
アルファポリスは本とは違う媒体ですから、みんなに読んでもらうためには普通の本とは違った戦略があります。
書いたまま放ったらかしではいけません。
自分が良いものを書いている自信のある方はぜひここに書いてあることを試してみてください。
どうあれ君の傍らに。
湖霧どどめ
恋愛
僕達は必死で恋をした。
だって、傍に居たかったんだ。
*大人しい系男子×奔放女子
*クール気取り男子×友人の彼女
*関西弁生物教師×ごく普通の女子
高校に通う人々の、それぞれの恋の形を一年間切り取りました。
(売り切れのため再販予定無の文フリ過去頒布作品)
アルファポリスで閲覧者数を増やすための豆プラン
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
エッセイ・ノンフィクション
私がアルファポリスでの活動から得た『誰にでも出来る地道なPV獲得術』を、豆知識的な感じで書いていきます。
※思いついた時に書くので、不定期更新です。
【完結・R18】結婚の約束なんてどうかなかったことにして
堀川ぼり
恋愛
「なに、今更。もう何回も俺に抱かれてるのに」
「今は俺と婚約してるんだから、そんな約束は無効でしょ」
幼い頃からクラウディア商会の長である父に連れられ大陸中の国を渡りあるくリーシャ。いつものように父の手伝いで訪れた大国ルビリアで、第一王子であるダニスに突然結婚を申し込まれる。
幼い頃に交わしたという結婚の約束にも、互いの手元にあるはずの契約書にも覚えがないことを言い出せず、流されるまま暫く城に滞在することに。
王族との約束を一方的に破棄することもできず悩むリーシャだったが、ダニスのことを知るたびに少しずつ惹かれていく。
しかし同時に、「約束」について違和感を覚えることも増え、ある日ついに、「昔からずっと好きだった」というダニスの言葉が嘘だと気づいてしまい──…?
恋を知らない商人の娘が初恋を拗らせた執着王子に捕まるまでのお話。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
三度目の創世 〜樹木生誕〜
湖霧どどめ
キャラ文芸
国単位で起こる超常現象『革命』。全てを無に帰し、新たなる文明を作り直す為の…神による手段。
日本で『革命』が起こり暫く。『新』日本は、『旧』日本が遺した僅かな手掛かりを元に再生を開始していた。
ある者は取り戻す為。ある者は生かす為。ある者は進む為。
--そして三度目の創世を望む者が現れる。
近未来日本をベースにしたちょっとしたバトルファンタジー。以前某投稿サイトで投稿していましたが、こちらにて加筆修正込みで再スタートです。
お気に入り登録してくださった方ありがとうございます!
無事完結いたしました。本当に、ありがとうございます。
転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます
藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!
2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました
2024年8月中旬第三巻刊行予定です
ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。
高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。
しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。
だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。
そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。
幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。
幼い二人で来たる追い出される日に備えます。
基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています
2023/08/30
題名を以下に変更しました
「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」
書籍化が決定しました
2023/09/01
アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります
2023/09/06
アルファポリス様より、9月19日に出荷されます
呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております
2024/3/21
アルファポリス様より第二巻が発売されました
2024/4/24
コミカライズスタートしました
2024/8/12
アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる