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1.浅田光に届いた同窓会のおしらせ。

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 もうすぐ、彩の28の誕生日が来る。結婚という手続きを踏んで、早くも6年が経過するのか。恐ろしい話だ。
 煙草に火をつけ、煙を燻らせる。元々趣味は無かったが、看護師という仕事を始めて割とすぐにストレスの行き場として定まってしまった。この小さな診療所の裏の喫煙所は、俺とあと一人しか知らない。

「いねえと思ったら先に来てたのかよ」

 呆れ声は、少し震えていた。歩み寄りながら、修治は煙草に火をつけた。そういえばこいつは、こそこそ隠れて学生時代から吸っていた。……あの子は、知っていたのだろうか。
 修治は俺の隣に立って、火をつけた。こいつは俺の苦手な銘柄を吸うけれど、俺の煙草もこいつは苦手らしい。ウマと嗜好は必ずしも同一ではない典型例だ。

「修治お前、ちょっと寝てこいよ。クマすごいぞ」
「あー大丈夫大丈夫、明日爆睡すらぁ」

 修治がこの診療所を開いて、1ヶ月が経った。元々医者の一族という事もありコネに近いものもあるわけだが、少なくとも俺から見てこいつは医者としてはちゃんとしているとは思う。実際ネット上での評判は早くも良い。結果早速多忙を極めている修治はこの有様だ。

「とりあえずこれ吸ったら飯食お……」
「そうだな」

 そう呟いた瞬間、俺と修治のスマートフォンが同時に震えた。取り出して見てみると、メールが一件。差出人は、かつての……高校3年生の時の、担任だった。修治も同じだったらしく、怪訝な顔をしていた。
 メールを開封する。

「同窓会?」

 どうやら、俺たちの学年を集めて行うらしい。それも、母校で。そういえば卒業して10年の生徒たちを募って毎年やっている、とは聞いていた。その文化が未だ生きているとは思ってもいなかったが。
 送信先のメールアドレスを見てみると、クラス全員に送っているようだった。その中に……一つ、よく見知ったアドレスを見て、ずきりと胸が痛む。
 そうか、あれからもう……10年が経つのか。

「つーかこれ、アドレス変えた奴って届いてねえのかな」

 修治の言葉に「だろうな」と返す。となると、少なくともあの子には行っていないはずだ。俺とあの子が引き離されてすぐ、修治はあの子のアドレスを変えさせていた。
 来るのだろうか。

「お前は行く? 日曜だし休診日だけど」
「……相談次第だな」
「あー、彩か……きつそうだな」

 彩のいとことしてよく知っている修治が言うんだ、無理九割だろう。あいつは10年経っても性格が変わらない。もはや信念と言っても差し支えない程にまで達している。

「お前は」
「行きたいのは行きたいけどなあ、サッカー部の奴らとか何だかんだ連絡も取ってないしさ」

 こいつは絶対あの子を行かせないだろう。それがどこか、気楽だった。胸の奥は未だにひりつくのに。
 今もし、会ったら。どうなるのだろう。

「ま、返事は来週までだしゆっくり考えようかね。今マジで仕事以外頭働かねえ」
「……だからちょっと寝ろよ」

 煙草の火を消して、修治は歩き出した。俺は2本目に火をつける。
 彩からのメッセージが来ていたのを思い出す。あいつは専業主婦になって暇なのか、常に何かしら送ってくる。勿論俺の休憩時間などはすべて把握しているので、返さないと高確率で癇癪を起こす。もう慣れてきてはいるが。ちなみに専業主婦になった原因は、実家の病院で揉め事を起こしたからである。あいつは結局どこまでもあいつだ。
 駄目元で、同窓会のお知らせのスクショを送ってみた。すると、間髪入れずに返信。

『いいじゃない、楽しそう』
「え」

 意外だった。真っ先に反対すると思っていたのに。流石に人付き合いの大切さに気付いたのか。

『でも行くとしたら二次会は無しだからね』

 しかし、しっかり釘を刺してくるのがあいつらしい。だが、大きな進歩だと思う。どこか内心嬉しくて、『ありがとう』とだけ返した。
 昔は……それこそ10年前は、そんな事一切許してこなかったのに。何なら卒業して暫くの間、俺はあいつに軟禁に等しい状況にされていた。親御さんから看護師になるよう勧められたのが今の俺の所以たるきっかけだったが、最初それすらあいつが拒んだ。だが「働く時も一緒にいたい」と言えば簡単に落ちた。そんなの、嘘八百なのに。だからこそ、修治が独り立ちする際誘われた時はあいつに縋り付いた。
 卒業してからも修治とは、それなりに付き合ってはいた。あの子との事は、俺たちの間ではもう禁句のようになっている。それでもあいつは分かりやすいから、家で何かあれば露骨に態度に出してくる。それで何となくあの子の様子が匂わされて……いつも、息苦しい。
 結局俺はまだ、解放されていない。

「……来るのかな」

 きっと来ない、というより来られないだろう。それでも胸の奥で、期待は高まっていた。
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