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24.彼らの仲の良さの、根底。
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「雪斗、なんか嬉しそう」
「んー、そう?」
今日は、『IC Guys』の全員での生放送ラジオ収録の日だ。まだ入りの時間ではないものの、だいたい雪斗と玲雅は早くにスタンバイしている。タクヤはこういう時だいたいギリギリにやってくるのだ。とはいえ、先に集まっても大体スマートフォンをいじるか仕事の関連をするかである。
雪斗はスマートフォンの画面を眺めて、また微笑んだ。
「まあいい事はあったけどね。というか玲雅、最近Hijiriちゃんとはどうなの?」
雪斗の問いに、玲雅は表情を曇らせた。ここまで顔が変わるのは、そうそう無い。それに雪斗は胸を締め付けられるも、同時に感じる熱を味わっていた。
「……すれ違いが多いんだよね。電話してもあっちが寝てたりとか。でも、折り返しが無い」
「最近『SIX RED』忙しそうだもんね。あれでしょ、何かのスポーツのやつのメインテーマやってるんでしょ」
「うん。だから、会えてもいない」
この男が、ひじりにここまで依存しているのは正直意外だった。しかし、よくよく考えれば彼がメンバー以外に執着する事自体が稀なのだ。
でも、引けない。
「別れないの?そんなにしんどいなら、終わればいいのに」
雪斗の言葉に、玲雅はそっと首を振った。
「絶対に嫌だ」
その声は、熱い。雪斗はにこにこ笑いながら「だよねえ」と返す。
「今日家行こうかな」
「え、さらう気?やめときなよ、Hijiriちゃんの家はお前のところと違ってセキュリティそこまで強くないんだし。見つかったら終わりだよ」
そう言うと、玲雅は口をつぐんだ。どうやら、余程追い詰められているらしい。
雪斗はひじりとのメッセージを読み返した。そして、今朝送られたばかりの写真を見て口元をおさえる。
「……本当に可愛いなあ」
雪斗が用意した、中学時代のセーラー服。それのレプリカを着たひじりが、辛そうに自撮りをしている画像。やはり10年近く経つと当時とは色々変わっているが、それでも……雪斗が出会った時のひじりと、変わっていない。
ばたばた音を立てて、タクヤが入ってきた。時間はやはりギリギリだった。全員で早足でブースに移動する。
そそくさ準備をしたおかげで、無事始まった。最初の挨拶の時点で結構玲雅の機嫌が悪いのは焦ったが、メンバー以外には気付かれない程度だった。
「はーい、じゃあコロコロジャンプサンデーさんからのおたよりです。『IC Guys』の結成の詳細を教えてください、だってさ。えー、これ結構出してない?」
「いや、でもあれじゃない?タクヤが僕達を誘ったって事しか多分言ってないし」
「それでしかなくない?」
玲雅は、ただ頷いているだけだった。心ここにあらず、といった感じだ。
雪斗は「そうだ」と呟く。
「じゃあ僕と玲雅の出会い行く?」
「あー。そっか、俺が誘った時もうそっちはニコイチだったもんな。じゃあ、手短によろ!」
中学を卒業した彼は、入学した高校の音楽室にずっと籠っていた。部活には入らず、ただピアノを弾き続けていた。
ひじりに対しては、中学1年生の時に一目惚れしていた。しかし、関わる事がなくていずれ消え去るはずの感情だった。それを動かしたのは、皮肉にもひじりが保健室に通い始めるという喜ばしくない事実だった。
ひじりを毎日のように手当し、ひじりの耳に自分の作った音楽を注ぐ。それが、少しずつ……恋として積もっていた。
卒業式直前のあの事件で、彼はひじりを抱いた。ぼろぼろに傷付いたひじりより笑うひじりが好きだったのに、彼はあの時たまらなく興奮していた。
すべてが偶然だった。それでも、絶頂はやってきた。
ひじりはあれから学校に来るわけもなく、卒業式すら欠席した。卒業証書を渡す口実で翌日家に訪れたら、ひじりの父親が「あいつは寮に入れた」と無愛想に帰された。
その数ヶ月後。ひじりは、アイドルになった。スカウトからのオーディション、そして集まった他の5人とテレビに出るようになった。
本当に、届かなくなった。だから、せめてもと思い彼女とのつながりを毎日奏でた。
「っ、うう、うっ……」
毎日、泣きながら。彼女に届くわけもないのに、面影だけを映すために。彼は弾き続けた。
そんな彼の聖域に……足音が、響いた。それは、彼がこの音楽室に篭るようになって1年は経過していた頃だった。
「何で泣いてるの」
「……は?」
それは、今年同じクラスになったばかりの男子だった。男子はピアノの脇に立つと、彼をじっと見た。
「ピアノ弾くの、苦しい?なんで弾くの」
「く、苦しいっていうか……」
この男子は、クラスで非常に浮いていた。誰とも関わらず、一切笑いも怒りもしない。噂では、相当な金持ちの子息だと聞いていた。勿論、彼も話すのは初めてだった。
ただ、綺麗な声だと思った。
「じゃあ、一個お願いある」
「な、何……」
「次の音楽の授業の課題曲、弾ける?練習したくて。次やらかすと、俺成績つかないらしい」
一体何をしたんだ、と突っ込みたかった。しかし、あまりにも見つめてくるものだったから頷くしかなかった。
ひとまず、用意した課題曲の譜面を眺める。何とかなりそうだ。男子はすでに、スタンバイを終えていた。
「……いい?」
「ん、お願い」
リズムを取り、弾き始める。思えば、ひじりの関わらないピアノなど弾くのは数年ぶりだ。その事実に、少しだけ泣きそうになる。
けれど、吹き飛ばされた。
「っ……!」
その男子の声は、熱かった。甘く、苦く。会話の時からは比べ物にならない熱量。音楽の授業の歌唱のためなだけなのに、こんなにも熱く歌えるのか。
指に、力がこもる。飲まれそうな気がした。
終えた頃には、息が荒くなっていた。そんな彼に、男子は頷いた。
「うん、いけそう。ありがとう、椎名クン」
「……い、いいんだけど。何?歌手なの?」
「高校生だよ」
「そういうことじゃなくて……」
もっと詳しく話そうとしたら、一気に扉が開く音がした。ぎょっとしてそちらを見たら、背の低い男子が目をきらきらさせて立っていた。
「あの!入部希望です!!」
「……は?」
「あの!俺1年B組の村元タクヤっていいます!入部届は明日書いてきます!」
話をずかずか進めてくるタクヤに戸惑って何も言えずにいると、男子は首を傾げた。
「……何部?」
「部活じゃないよ!というか、君がやれって言ったからやっただけで」
「すげー!あの、俺!音楽やりてーんす!二人のセッション聞いたら、もう俺感動しちゃって!」
「せ、セッションって……」
慌てる彼とは裏腹に、男子はただ俯いていた。すると、急に顔を上げる。
「いいね。やろう」
「何を!?」
「俺は三田玲雅。彼は同じクラスの椎名幸人くん」
「勝手に紹介してる!?」
……この出会いが。後に国民的バンドに発展するとは、みんな露にも思っていなかったのだった。
「んー、そう?」
今日は、『IC Guys』の全員での生放送ラジオ収録の日だ。まだ入りの時間ではないものの、だいたい雪斗と玲雅は早くにスタンバイしている。タクヤはこういう時だいたいギリギリにやってくるのだ。とはいえ、先に集まっても大体スマートフォンをいじるか仕事の関連をするかである。
雪斗はスマートフォンの画面を眺めて、また微笑んだ。
「まあいい事はあったけどね。というか玲雅、最近Hijiriちゃんとはどうなの?」
雪斗の問いに、玲雅は表情を曇らせた。ここまで顔が変わるのは、そうそう無い。それに雪斗は胸を締め付けられるも、同時に感じる熱を味わっていた。
「……すれ違いが多いんだよね。電話してもあっちが寝てたりとか。でも、折り返しが無い」
「最近『SIX RED』忙しそうだもんね。あれでしょ、何かのスポーツのやつのメインテーマやってるんでしょ」
「うん。だから、会えてもいない」
この男が、ひじりにここまで依存しているのは正直意外だった。しかし、よくよく考えれば彼がメンバー以外に執着する事自体が稀なのだ。
でも、引けない。
「別れないの?そんなにしんどいなら、終わればいいのに」
雪斗の言葉に、玲雅はそっと首を振った。
「絶対に嫌だ」
その声は、熱い。雪斗はにこにこ笑いながら「だよねえ」と返す。
「今日家行こうかな」
「え、さらう気?やめときなよ、Hijiriちゃんの家はお前のところと違ってセキュリティそこまで強くないんだし。見つかったら終わりだよ」
そう言うと、玲雅は口をつぐんだ。どうやら、余程追い詰められているらしい。
雪斗はひじりとのメッセージを読み返した。そして、今朝送られたばかりの写真を見て口元をおさえる。
「……本当に可愛いなあ」
雪斗が用意した、中学時代のセーラー服。それのレプリカを着たひじりが、辛そうに自撮りをしている画像。やはり10年近く経つと当時とは色々変わっているが、それでも……雪斗が出会った時のひじりと、変わっていない。
ばたばた音を立てて、タクヤが入ってきた。時間はやはりギリギリだった。全員で早足でブースに移動する。
そそくさ準備をしたおかげで、無事始まった。最初の挨拶の時点で結構玲雅の機嫌が悪いのは焦ったが、メンバー以外には気付かれない程度だった。
「はーい、じゃあコロコロジャンプサンデーさんからのおたよりです。『IC Guys』の結成の詳細を教えてください、だってさ。えー、これ結構出してない?」
「いや、でもあれじゃない?タクヤが僕達を誘ったって事しか多分言ってないし」
「それでしかなくない?」
玲雅は、ただ頷いているだけだった。心ここにあらず、といった感じだ。
雪斗は「そうだ」と呟く。
「じゃあ僕と玲雅の出会い行く?」
「あー。そっか、俺が誘った時もうそっちはニコイチだったもんな。じゃあ、手短によろ!」
中学を卒業した彼は、入学した高校の音楽室にずっと籠っていた。部活には入らず、ただピアノを弾き続けていた。
ひじりに対しては、中学1年生の時に一目惚れしていた。しかし、関わる事がなくていずれ消え去るはずの感情だった。それを動かしたのは、皮肉にもひじりが保健室に通い始めるという喜ばしくない事実だった。
ひじりを毎日のように手当し、ひじりの耳に自分の作った音楽を注ぐ。それが、少しずつ……恋として積もっていた。
卒業式直前のあの事件で、彼はひじりを抱いた。ぼろぼろに傷付いたひじりより笑うひじりが好きだったのに、彼はあの時たまらなく興奮していた。
すべてが偶然だった。それでも、絶頂はやってきた。
ひじりはあれから学校に来るわけもなく、卒業式すら欠席した。卒業証書を渡す口実で翌日家に訪れたら、ひじりの父親が「あいつは寮に入れた」と無愛想に帰された。
その数ヶ月後。ひじりは、アイドルになった。スカウトからのオーディション、そして集まった他の5人とテレビに出るようになった。
本当に、届かなくなった。だから、せめてもと思い彼女とのつながりを毎日奏でた。
「っ、うう、うっ……」
毎日、泣きながら。彼女に届くわけもないのに、面影だけを映すために。彼は弾き続けた。
そんな彼の聖域に……足音が、響いた。それは、彼がこの音楽室に篭るようになって1年は経過していた頃だった。
「何で泣いてるの」
「……は?」
それは、今年同じクラスになったばかりの男子だった。男子はピアノの脇に立つと、彼をじっと見た。
「ピアノ弾くの、苦しい?なんで弾くの」
「く、苦しいっていうか……」
この男子は、クラスで非常に浮いていた。誰とも関わらず、一切笑いも怒りもしない。噂では、相当な金持ちの子息だと聞いていた。勿論、彼も話すのは初めてだった。
ただ、綺麗な声だと思った。
「じゃあ、一個お願いある」
「な、何……」
「次の音楽の授業の課題曲、弾ける?練習したくて。次やらかすと、俺成績つかないらしい」
一体何をしたんだ、と突っ込みたかった。しかし、あまりにも見つめてくるものだったから頷くしかなかった。
ひとまず、用意した課題曲の譜面を眺める。何とかなりそうだ。男子はすでに、スタンバイを終えていた。
「……いい?」
「ん、お願い」
リズムを取り、弾き始める。思えば、ひじりの関わらないピアノなど弾くのは数年ぶりだ。その事実に、少しだけ泣きそうになる。
けれど、吹き飛ばされた。
「っ……!」
その男子の声は、熱かった。甘く、苦く。会話の時からは比べ物にならない熱量。音楽の授業の歌唱のためなだけなのに、こんなにも熱く歌えるのか。
指に、力がこもる。飲まれそうな気がした。
終えた頃には、息が荒くなっていた。そんな彼に、男子は頷いた。
「うん、いけそう。ありがとう、椎名クン」
「……い、いいんだけど。何?歌手なの?」
「高校生だよ」
「そういうことじゃなくて……」
もっと詳しく話そうとしたら、一気に扉が開く音がした。ぎょっとしてそちらを見たら、背の低い男子が目をきらきらさせて立っていた。
「あの!入部希望です!!」
「……は?」
「あの!俺1年B組の村元タクヤっていいます!入部届は明日書いてきます!」
話をずかずか進めてくるタクヤに戸惑って何も言えずにいると、男子は首を傾げた。
「……何部?」
「部活じゃないよ!というか、君がやれって言ったからやっただけで」
「すげー!あの、俺!音楽やりてーんす!二人のセッション聞いたら、もう俺感動しちゃって!」
「せ、セッションって……」
慌てる彼とは裏腹に、男子はただ俯いていた。すると、急に顔を上げる。
「いいね。やろう」
「何を!?」
「俺は三田玲雅。彼は同じクラスの椎名幸人くん」
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