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5.俺だって、他のメンバーの作曲聴いてみたいよ?

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『とまあ、そんな感じでHijiriちゃんは落ち着いてくれたみたいだけど。玲雅、プラン考えてきた?』

 タクヤのイヤモニ越しの言葉に、玲雅は「プラン?」と首を傾げた。その挙動すら、ひじりにとっては心臓に地震が起こる程の威力である。

『デートプラン。今回は指名したお前が考えてくるって……えっお前まさか』

 玲雅は少しだけ黙った後、「そうだっけ」と口にした。その仕草すら、ひじりにとっては神か何かのように見えて「はわわ」と鳴くしか出来ない。いくらモードを切り替えてまともに話せるようになったとはいえ、さすがに普段からの憧れには屈してしまう。

『っかーお前本当歌のことしかまともにやらないんだから!あんぽんたん!この番組何回か出てるだろ!』

 そう、玲雅は『ギジデート』の出演が今回が初めてではない。それは、ずっと彼を追いかけてきたひじりには分かっていた。
 しかし毎回、相手の女性が彼のクールぶりに萎縮してしまいデートが成立しなくなる。彼のファンはその度安心してはいるが、いかんせん視聴率は取れていないと裏情報で聞いた。
 そんな彼がひじりを指名してきた……理由は先ほど聞いたものの、やはり内心の不安が拭えない。自分は、彼を楽しませることができるのか。
 玲雅は首を捻りながら、目を閉じていた。熟考する時のくせだということは、ひじりには分かっていた。それをこんな身近に見て、本当にいいものなのだろうか。

「……どこ行きたいとかある?」
「わ、私ですかっ?」
「うん。俺が指名したんだし、好きなところ行こう。むしろごめん、考えてこなくて」

 そんな気遣いをされている時点で泣いてしまいそうになるが、必死に耐えた。しかし、頭が回らない。だからとりあえず、こう言うしかなかった。

「そ、そそその、街ブラしませんか」
「街ブラ?」
「あうっ……そ、その辺歩いて、良さそうなところがあったら入るお散歩……で、デートですっ」

 今更、この単語に顔が熱くなる。まさか、玲雅相手にこんな事を言うなど。ほんの少し前まで、そもそも会話出来る日がくるなんて思いもしなかったのに。
 しかしそんなひじりの気を知ってか知らずか、玲雅は「いいね」と呟いた。そんな二人に、チーフマネージャーが声をかけてきた。

「あ、でもそれだとお店の撮影許可はご自身達で取ってほしいって番組側が」
「や、やりますやります!全然やりますから!」
「いいね、本当に街にロケに出るみたいだ」

 そう言うものの、玲雅は一切顔を崩さない。ただ、言葉通り嫌がってはいないようだった。
 スマートフォンである程度の近くの店の目星をつけてから、意を決して「いきましょう」と声をかけた。すると、玲雅は立ち上がって先にロケバスを降りた。同じく降りようとするひじりに、右手を差し出す。一瞬頭がパニックに陥ったが、目で促され震えながらその手を取った。

『エスコートじゃん!!』

 どうやら、まだ感覚が子どもに近いTakaには刺激が強かったらしい。しかし、ひじりもまた早くも目が回る思いだった。
 着地した瞬間、手は離される。それでも、彼の手の冷たさはひじりの手に尚も残っていた。そして、あのなめらかな感触も。それだけで、泣いてしまいそうだ。もう一生手を洗いたくない。

「こっちだっけ」

 玲雅が自撮り用のカメラを起動して歩き出すのに、慌てて追いかける。すぐに彼は速度を緩めた。
 二人で並んだ瞬間、玲雅は口を開いた。

「……『SIX RED』ってすごいグループだよね」
「そ、そうですかっ?」

 唐突な言葉に、全身を跳ねさせる。玲雅はそんなひじりを見る事なく頷いた。

「うん。皆個性強くて。俺タクヤに今回の話もらってからちゃんと見たんだ」
「み、見たって……」

 後ろから、ずっと無言でカメラがついてくる。完全に、一般の気配と同化してくれていた。しかし存在感はあるので、通行人達は「三田玲雅だ」「えっあれHijiri?」など声を上げるが、邪魔をされる事はなかった。撮影だと察してくれたのだろう。

「番組とか、ライブDVDとか。マネージャーが買ってくれた」
「きょ、恐縮ですっ……」
「結成して9年?だっけ」

 もうそんなになるのか、とつくづく思う。高校1年生の時にこの世界に入った時は、毎日が必死だった。
 来年には、10周年として様々なイベントやグッズ展開も企画されている。それもあって、今年は例年より忙しい。来年はもっとだろう。

「そういえば、Hijiriちゃん俺と同い年なんだっけ?偶然だね」
「は、はい!24です。私が下から二番目で。一番下のTaka……あの、今スタジオにいる子でメインボーカルなんですけど、私の4個下で」
「え、年齢幅すごいね。そっか、Naokiさんが34とかだっけ」
「そ、そうなんです。NaokiくんとTakaが並ぶと本当に親子みたいなんですよ」

 なんとかまともに話せるようになってきた。やはり、仕事の話だと何とか理性が回る。その事に、心底仕事人間でよかったと痛感していた。

「わ、私歌とダンスが上手じゃなくて。Takaに特訓してもらってるんですけど……」
『いやもうあれは感覚だから、もうあれを味としていくしかないって。Izumiちゃんも言ってたじゃんかさ』

 スタジオからそんな声が聞こえてくる。そんなTakaに玲雅が「うん、それにそれができるのも才能だよ」と返した。

「そういうのが出来る歌を、土台から作ってるなって思った。メンバー多いのにそういう個々の活かし方が出来るのって、本当強みだと思うよ」

 何だかあまりにもベタ褒めされている気がする。それに内心、玲雅と会話という緊張より純粋に仕事人としての感動が勝ち始めた。

「う、嬉しいですっ。作曲はSouくんがやってて、作詞は私なんです。たまに外部の提供もらいますけど」
「それ、何かで聞いた。どっちもセンスあるなって思ったよ」

 それを聞き、一気に顔が熱くなった。そんなひじりを覗き込むように、玲雅がカメラを寄せてくる。それにハッとして、一度深呼吸して気合いを入れ直した。
 そうだ、彼も仕事としてやってくれている。なら、自分もより仕事として徹底するように集中しなければ。

「ア、『IC  Guys』って。皆でやるんですよね。作詞作曲」
「うん。皆で作ったら持ち寄って決取る感じ。雪斗のは癖あるけど聞き応えあって俺は大好き」
『俺のはー?』
「すごく歌いやすくて大好き」

 二人のやり取りを聞いていると、ファンとしては無料で聞いていいのか分からなくなってくる。思わず財布を出しそうになるが、チーフマネージャーとの約束を思いだし踏みとどまった。
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