星の光で傷を灼く

湖霧どどめ

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 流れのまま、揺らいでいた。でも、行き先が変わる事なんてなかった。そこまで私の舟も大波も、都合よくなんてなかった。
 別に舐め合っても、癒える事なんてない。むしろ傷口に唾液を塗り付ける行為なんて、傷の悪化を助長するだけなのに。

「……やっぱり、違う」

 彼の泊まる方のホテルに行ったのは、ただ私の泊まるホテルよりも伏見稲荷大社に近いからというだけの理由だった。もう自主性もクソも無い。
 違和感を重ね、違和感をはめ込み、違和感に泣く。私たちの傷の舐め合い方は、そんなものだった。不毛だって、分かっていた。
 もうだめだ、なんて何度も思った。でもこうやって傷を生むほどに、私の中で兄の存在が浮き上がってくる。他の男でつくる傷のおかげで、私は兄と死ぬ事が出来る気がした。

「……右腕だけ、何も無いんですね」

 彼の裸体には、ところせましとタトゥーが彫られていた。けれど右腕だけは、何も無かった。綺麗な白い肌のままで、そこもまたある意味で侵せないように感じた。

「クソ女の右腕が、タトゥーだらけなんです」

 煙草を惰性のように吸いながら、彼はそう言った。彼はその白い右手で、私の左手首を掴んだ。

「……ホワイトタトゥーみたいですね」
「そんな綺麗なものじゃないですよ」

 最初に手首を切ったのは、小学校6年生の時。その4時間前に、私の処女は破られていた。だから何もかもぐちゃぐちゃに、なんてあの時は幼稚な願い方をしていた。でもこれは、兄との愛の証なんだって思うようになった。それは、兄による手当てのなくなった留学後も続いた。切れば兄が来てくれる、なんて幻覚めいた夢を見ていたのだ。かなうわけなんて、決して無かったのに。

「お兄さんの事、忘れたいですか」

 すぐに、首を振れなかった。だから、問うた。

「そのクソ女の事、忘れたいですか」

 私には分かっていた。予想通り、彼は笑った。

「俺たち、お揃いだ」

 私も、笑った。
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