瞳

再開

再開（5）

｢失礼します。｣

ノックをしてゼミの研究室に入る。

まだ集合時間まで30分程余裕があり、研究室内に居たのは1人だけのようだった。

背を向け立っていた男性が扉をノックする音でこちらを向く。

｢こんにちは。｣

｢こんに…………えっ？｣

響はその人の顔を見て動けなくなってしまった。

瞳が逸らせなくなった。

そこに居たのはあの時の男性だったから。

それに気づくと同時に身体の中の血液が物凄いスピードで体内を駆け回っているような気がした。

｢……っ！君、薬は！？｣

男はハッとした様子で慌てて声をかける。

｢………くすり？なんの？｣

｢病院で貰ってるでしょ？｣

体が暑くて暑くてたまらなくて頭が働かない。

響のぼーっとする頭では、男が言っていることの意味の半分も理解することが出来なかった。

こてん、と首を傾ける響。

男はなにかに苦しむように顔を顰める。

｢ヒートの薬だよ！｣

｢ひーと？んー？かばんかなぁ？｣

｢！とりあえずこっち来て！！｣

部屋の外から物音がする。

そろそろゼミが始まる時間だ。

いつ誰がこの教室にやってくるか分からない状況に男は舌打ちし、ヒートで熱くなった響の手を引いて空き教室に駆け込んだ。