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第一章 転生したら『悪役』でした~五年前~

次から次へと

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 朝食後に急に眠くなり、睡魔に身を任せている間に、町へ着いていた。そのことに、私は少なからずショックを受けた。
 馬車の中から見える景色、楽しみにしてたんだけどなぁ。
 仕方ない……運がなかったんだ、と諦めよう。豪華な馬車に乗れる機会なんて、そうそうあるわけないしね。
 この先の展望なのだけど、冒険者にでもなろうと思っている。日々の暮らしは依頼をこなした報酬で賄えるからだ。せっかく転生してこの世界を生きていくのだ、楽しまなければ損だからね。
 冒険者として登録できるのは、10歳から。平民なんかだと、家計を助けるために、早くから登録するんだとか。
 貴族の中から登録しようという人は以外といる。まあ、跡継ぎではない人が中心のようだ。
 女性で冒険者になる人も少なからずいるため、私が登録してもそう目立つことはないだろう。

 で、町での暮らしなのだけど。『さすがに10歳の子供を一人で放り出すのはね……。だから、快諾してくれた友人に君を預かってもらうことにしたから』というシュディスから提案強制され、シュディスの学友の一人のお宅でお世話になることが決まった。どうやら先方には予め連絡をしていたようだ。
 シュディスたちは視察をして城に帰らなければならないため、お世話になる家の前──どう見てもお屋敷なんだけど、そこはあえてスルーした──でお別れした。名残惜しそうにいつまでも私を抱きしめる彼を、キリアが引っ剥がし、去って行く彼らを見送った。
 
(衣食住は確保してもらえたとはいえ……できる限り一人で頑張らなきゃな!)

 よし! と意を決して玄関の扉を叩いた。出迎えてくれた使用人の人──執事さんっぽく見える──は、私を温かく迎えてくれた。
 少々お待ちください、と使用人の方に客間に通された。 
 このお宅は、『武芸国家ホンロン』からの留学生が購入して暮らしているのだとか。ちなみに、姉弟で住んでおり、弟の方がシュディスの学友らしい。
 ───ん? ホンロン? あれ? なんだろう、嫌な予感がする………
 そうこうしていると、どどどど……という音がどこからともなく響き、ついで通された客間の扉が、バーンと開いた。なに!? なにごと!?
 私はぎょっとして、勢いよく開いた扉の方を振り向いた。
 そこにいたのは、前世でいうところの中華風な装いをした女性だった。両手で扉を開け放った姿勢のまま、ある一点もとい、私を凝視している。

「か………」
「か?」
「きゃわいい女の子ぉぉおお!!」
「ひ!?」

 女性はそう叫んだかと思うと、空中回転しながら私目掛けて飛び込んでくる。が、私が短い悲鳴をあげた直後。

「【旋蹴破せんしゅうは】!」

 私の前に人影が割り込み、女性へと華麗な回し蹴りが決まった。蹴りがクリーンヒットした女性は窓の外へと、──ちなみに窓は閉まっていた──粉々に粉砕された窓ガラスやら窓枠やらと共に消えていった。
……いやいや、ちょっと待とうか!? え? 今の女性ひと、凄い勢いで外に飛んでいったけど、大丈夫なの!?
 たしかにこっちに飛び込んで来た時には怯えたけども!

 次から次へと変わっていく状況に、私が唖然としていると、女性から助けてくれた(?)人が「変態が……」と呟いていた。変態……さっきの女性のことだよね、それ。
 振り向いた人はしシュディスと同い年くらいの少年──この世界の成人年齢は15歳だが、一人前と扱われるのはやはり前世と同じで20歳からとオンライン版では説明されていた──だった。短く刈り込んだアッシュグレーの髪と、ややつり目の黒瞳が印象的だった。
 そして私は叫びたいのを辛うじて堪えた。……だって、この人もそうだから。
 なにがって? それはもちろん、『アカコイ』の攻略対象だよ……!!
 なんだってこう、矢継ぎ早に会うんだ、私! ヒロインはまだ召喚すらされてないんだぞ! なぜ私にばかり出会いフラグ的なものが立つんだ、会ったこともない神様!!
 そんな感じに現実逃避していると、自分の姉だと思われる女性──まあ、場所的に該当するのはこの家の家主姉弟しかいないんだけど──を蹴り出した少年が声をかけてきた。

「愚姉がすまない。大丈夫だったか?」
「あ……ひゃい、だいじょーびゅでしゅ(大丈夫です)」

 私がはっとしてそう答えると、少年は眉をひそめた。たぶん、私の喋り方の拙さが気になったのだろう。私としても早めにどうにかしたいものなんだよね。

「シュディスが言っていた通りなんだな。よほど過酷な環境だったとみえる……。だが、安心して欲しい。私がいる限りあの変態の毒牙からも守ってやる」
「変態………」
「ああ。と言っても性的にはノーマルだが。たんに可愛らしい少女を見かけると変態的に愛でるだけだ。アレと同じ血が流れているのが時々悲しくなる」
 
 果たしてそれは“だけ”という易しい表現ですむのだろうか。
 彼は嫌そうに言っているけれど、不思議と心底嫌い、みたいな感じはしなかった。これはアレか。『困った性癖持ちだけど、嫌いになれない』とかいうやつか?

「! そうだ、まだ名を名乗っていなかったな。私はロウ。ロウ・ホン・シンフォンだ。これから同じ屋根の下で暮らすことになる。よろしくな」
「わちゃ……私、は……セシリア、でしゅ」

 せめて名前だけは、と練習しまくったのでなんとか言える。そのぶん、他の言語の酷さが際立ったけど。
 「これから上達していけばいいさ」と言いながら苦笑している彼……ロウから差し出された手を握ると、節々が硬い。武人らしい武骨な手だな、と思った。
 ところで。消えてったままの女性もとい、ロウのお姉さん、なかなか戻って来ないんだけど……大丈夫かな? そう思ったので、ロウに聞いてみたのだが。

「ああ。ヤン……執事に足止めしてもらってるから、しばらく来ないぞ。今のうちに君が使う部屋へ案内するから、行こう」

 事も無げにそう言われ、案内してくれた執事さんを思い浮かべた。あの人も相当な使い手だそうだ。
 ………だからか。自己紹介してる最中、何かの叫び声が聞こえてたの。「女の子ぉぉお!」「お嬢様、少しは落ち着きなされ」とか聞こえてたんだよね。
 途中でロウから「聞くな。君の心が荒んでしまったら、シュディスに申し訳ない」と言われたため、意識的に聞き流していた。だんだんヒートアップしてきた会話が気になりだした私を見て、ロウが張った結界で音が遮断されたので、案内してくれてる間は静かだった。

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