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第一章 メルトヴァル学院での日々
転生ヒロインはやんごとなき方々から遠ざかることにしました
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※長らく連載をストップさせていましたこと、申し訳ありませんでした。また間が空いてしまうかもですが、せめて完結までは頑張りたいと思います。
「ふぅ……。ここまでやれば決定的に嫌われたわよね」
学生寮にある自身の部屋で今学園で悪評が立つ少女──シーラ・ステイトは、実際にはかいていない汗を拭うような仕草をしながら呟いた。
端から見ても、『やりきったぜ』感が滲み出ている。
「まあ……逐一奇行をみてた私からしてもドン引きな行動の数々だったけどね」
「なによぅ! 『乙女ゲームのシナリオをぶち壊すためには、引かれるくらいがちょうどいい』って言ったのあなたでしょう!?」
「距離を置くにはナイスアイデアな策だと思ってたんだけど、予想してた以上にゲスかったよね」
「その言い様酷くない!? 確かに『流石にこんなのがいたらドン引きだわぁ……』とは思ったけども!!」
シーラの呟きのあと、聴こえてきた言葉に、ここに彼女たち以外の人物がいれば、『思ってたんかい』という突っ込みが入りそうな言葉を返した彼女は、即座に目の前にいる人物に噛みついた。
「ともかく! あれだけ媚を売って、周囲から浮いた振る舞いをしたんだから、殿下方も『そんな言動を取る相手になんて関わりたくない』と思ってくれたはず。……うん、これで大丈夫よね」
「ん。『攻略の鍵を握るリュミエルと攻略対象となる彼らに警戒心を抱かせ、君と距離を置かせる』という目標は達成できたとみていいだろうね」
君の目を覚まさせるまでが苦労したけどねー、と呟く“彼女”に対し、シーラはばつが悪そうに眼を逸らした。
「う……。それについては悪かったと思ってるわよ。でも、“前世”であれだけハマったゲームと同じ世界にヒロインとして転生したと気づいたのよ? そりゃ、テンションも駄々上がりするってものでしょ?」
前世の記憶を取り戻したシーラは、それはもう喜んだものだ、と当時を振り返り、『タガの外れた人間の行動ほど、奇行に映るものはないな』と、遠い目をした。さすがにあの頃の自分はどうかしていたな、と。当時の自分にいうなら、『夢を見てんじゃねえボケ』である。
……まあ、前世で『こんな女の子になってみたい』と憧れ、やり込んだゲームの“ヒロイン”になれたのだ、よほど目立つのが嫌いな性格の者でない限り、イベントを起こそうとすれど、回避をしようとする人間はいないだろう。
だからこそ、前世の記憶を活かしてハッピーエンドを目指したのだが、やること全てが空回りする結果となった。おそらくは、リュミエルらが前世の記憶持ちでなければ、全てとは言わずとも、上手くはいったかもしれない。
だが、聖獣であるリュミエルを覚醒させるためにこっそり教会から持ち出した『聖石』を使ったあと、彼女は人生の転機を迎えることになる。それが、たった今なされた会話に繋がる訳だが。
「とにかく! 今後は殿下方はもちろん、イベントフラグを徹底的に避け続けるわよ! そして目指せ、平穏な生活!!」
おー! と掛け声をあげつつ、シーラは自らを鼓舞するように、拳を空へ振り上げた。そして、はっとするように動作を止めた。
「あ。でも………」
「? なに? やっぱり『私は皆に愛されるヒロインなのよ!』をやりたくなった?」
「違うわよ!! それもうやめてって言ったじゃない!! すでに私の中では黒歴史と化してるのよ!! っていうか、私っ、そこまで酷くなかった、はず……」
“彼女”の嫌に似ている声真似に、とっさに言い返したものの、最後のほうは尻すぼみになっていった。そして黄昏るように再び遠い目をした。やはり、ついこの間までの自分は痛かったかもしれない、と。
いくら貴族の振る舞いに疎い平民といえど、さすがにこれはないだろう、としかいえない言動はあったかもしれないな、と思った。よくゲームのヒロインは許されてきたものだ、とシーラは思った。……まあ、だからこその『乙女ゲームご都合主義』なのだろうけど。
実際問題、この世界でそれをやったら普通に極刑ものだ。シーラがそうなっていないのは、彼女が曲がりなりにも教会で神子のような扱いをされているからに他ならない。
王族といえども、国中に信者がいる教会と事を構える訳にはいかない。すなわち、民の求心力が地に堕ちることになりかねないからだ。
現実が見えていなかった頃のシーラは、そんな実情を盾に好き勝手していたのだから、かなり危ない橋を渡っていたのだと、身震いした。
「とにかく、これでゲームでいうところの攻略は失敗したと言えるのだから、明日からは彼らと関わらないようにしようと思うのよ」
「また何か企んでいるんじゃないかと疑われそうだけどね」
「う……。それは仕方ないわよね。『どうせシナリオをぶち壊すなら、いっそやってみたかった事をやり尽くすわ!』ってテンションでやらかしたし……」
「かえすがえすもドン引きだったね、キミ。ホント、あの頃は──」
「もういいわよ、そのくだりは!!」
もう何度目か分からない「とにかく」を繰り返したシーラに、蒸し返す言葉を放つ存在に、若干泣きの入った様子で彼女は声を張り上げた。
「ふぅ……。ここまでやれば決定的に嫌われたわよね」
学生寮にある自身の部屋で今学園で悪評が立つ少女──シーラ・ステイトは、実際にはかいていない汗を拭うような仕草をしながら呟いた。
端から見ても、『やりきったぜ』感が滲み出ている。
「まあ……逐一奇行をみてた私からしてもドン引きな行動の数々だったけどね」
「なによぅ! 『乙女ゲームのシナリオをぶち壊すためには、引かれるくらいがちょうどいい』って言ったのあなたでしょう!?」
「距離を置くにはナイスアイデアな策だと思ってたんだけど、予想してた以上にゲスかったよね」
「その言い様酷くない!? 確かに『流石にこんなのがいたらドン引きだわぁ……』とは思ったけども!!」
シーラの呟きのあと、聴こえてきた言葉に、ここに彼女たち以外の人物がいれば、『思ってたんかい』という突っ込みが入りそうな言葉を返した彼女は、即座に目の前にいる人物に噛みついた。
「ともかく! あれだけ媚を売って、周囲から浮いた振る舞いをしたんだから、殿下方も『そんな言動を取る相手になんて関わりたくない』と思ってくれたはず。……うん、これで大丈夫よね」
「ん。『攻略の鍵を握るリュミエルと攻略対象となる彼らに警戒心を抱かせ、君と距離を置かせる』という目標は達成できたとみていいだろうね」
君の目を覚まさせるまでが苦労したけどねー、と呟く“彼女”に対し、シーラはばつが悪そうに眼を逸らした。
「う……。それについては悪かったと思ってるわよ。でも、“前世”であれだけハマったゲームと同じ世界にヒロインとして転生したと気づいたのよ? そりゃ、テンションも駄々上がりするってものでしょ?」
前世の記憶を取り戻したシーラは、それはもう喜んだものだ、と当時を振り返り、『タガの外れた人間の行動ほど、奇行に映るものはないな』と、遠い目をした。さすがにあの頃の自分はどうかしていたな、と。当時の自分にいうなら、『夢を見てんじゃねえボケ』である。
……まあ、前世で『こんな女の子になってみたい』と憧れ、やり込んだゲームの“ヒロイン”になれたのだ、よほど目立つのが嫌いな性格の者でない限り、イベントを起こそうとすれど、回避をしようとする人間はいないだろう。
だからこそ、前世の記憶を活かしてハッピーエンドを目指したのだが、やること全てが空回りする結果となった。おそらくは、リュミエルらが前世の記憶持ちでなければ、全てとは言わずとも、上手くはいったかもしれない。
だが、聖獣であるリュミエルを覚醒させるためにこっそり教会から持ち出した『聖石』を使ったあと、彼女は人生の転機を迎えることになる。それが、たった今なされた会話に繋がる訳だが。
「とにかく! 今後は殿下方はもちろん、イベントフラグを徹底的に避け続けるわよ! そして目指せ、平穏な生活!!」
おー! と掛け声をあげつつ、シーラは自らを鼓舞するように、拳を空へ振り上げた。そして、はっとするように動作を止めた。
「あ。でも………」
「? なに? やっぱり『私は皆に愛されるヒロインなのよ!』をやりたくなった?」
「違うわよ!! それもうやめてって言ったじゃない!! すでに私の中では黒歴史と化してるのよ!! っていうか、私っ、そこまで酷くなかった、はず……」
“彼女”の嫌に似ている声真似に、とっさに言い返したものの、最後のほうは尻すぼみになっていった。そして黄昏るように再び遠い目をした。やはり、ついこの間までの自分は痛かったかもしれない、と。
いくら貴族の振る舞いに疎い平民といえど、さすがにこれはないだろう、としかいえない言動はあったかもしれないな、と思った。よくゲームのヒロインは許されてきたものだ、とシーラは思った。……まあ、だからこその『乙女ゲームご都合主義』なのだろうけど。
実際問題、この世界でそれをやったら普通に極刑ものだ。シーラがそうなっていないのは、彼女が曲がりなりにも教会で神子のような扱いをされているからに他ならない。
王族といえども、国中に信者がいる教会と事を構える訳にはいかない。すなわち、民の求心力が地に堕ちることになりかねないからだ。
現実が見えていなかった頃のシーラは、そんな実情を盾に好き勝手していたのだから、かなり危ない橋を渡っていたのだと、身震いした。
「とにかく、これでゲームでいうところの攻略は失敗したと言えるのだから、明日からは彼らと関わらないようにしようと思うのよ」
「また何か企んでいるんじゃないかと疑われそうだけどね」
「う……。それは仕方ないわよね。『どうせシナリオをぶち壊すなら、いっそやってみたかった事をやり尽くすわ!』ってテンションでやらかしたし……」
「かえすがえすもドン引きだったね、キミ。ホント、あの頃は──」
「もういいわよ、そのくだりは!!」
もう何度目か分からない「とにかく」を繰り返したシーラに、蒸し返す言葉を放つ存在に、若干泣きの入った様子で彼女は声を張り上げた。
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