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第一章 メルトヴァル学院での日々

好感度が上がらない

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 ※このお話はゲームヒロイン視点です。



「なんで?なんでリュミエルの好感度が上がらないの……⁉」

 あたし──シーラ・ステイトは苛立ちを隠せずにそう声を荒げた。あたしはこの世界のヒロインのはずなのに。

 あたしは転生者だ。前世は日本の平凡な一般家庭に生まれた。容姿はごく平凡で、彼氏どころか男子とまともに話したことすらない。
 だからあたしは、乙女ゲームや恋愛物の小説にのめり込んだ。現実では無理だったことを、架空の世界で満たしていた。
 事故で死んだあの時も、ゲームをしながら登校していた。信号が赤なのに気づかず、突っ込んできた車に轢かれて、あたしの前世は終わった。

 前世の記憶が甦ったのは、10歳になる頃。教会でやりたくもないお祈りをさせられるのが嫌で、図書室に逃げ込み、建国のことが描かれた本を読んでいた時だ。
 初めて読むはずなのに、なんだか見覚えがある話ね、と思った瞬間、前世の記憶が流れ込んできてあたしは気を失い、一日寝込んだ。
 そして気づいたのよ!この国が『スピリチュアル・シンフォニー2~聖なる乙女と天翼の守護者~』の舞台だって。

 あたしは狂喜したわ。だって、あたし、ヒロインだったんだもの‼
 前作から5年も経ってようやく続編が出たのよね、このシリーズ。
 何百年かに一度、国に邪気が蔓延し、魔物の大暴走スタンピードが起きる。そのたびに『聖獣』が契約者たる無垢な子供『聖なる乙女』を選び、国を救ってきた。その魔物の大繁殖と重なる時期が続編の世界になる。

 ヒロインは、教会で働いていた修道女が生んだ子供だ。そのヒロインが『聖獣』と出会い、彼女を『聖なる乙女』に選ぶのだ。
 シーラと『聖獣』リュミエルとの出会いは、リュミエルが神官に連れられ、教会に引き取られて来た日だ。両親を何者かに殺されたその名無しの子供は心を閉ざしていた。純真無垢なシーラは、その子を何かと構い、次第に打ち解けてゆく。彼女に名前が無いのを不便に思ったシーラは、出会った日を彼女の誕生日とし、教会の保管庫で見つけた綺麗な石を誕生日プレゼントにして、その子に名前をつけてあげるのだ。『リュミエル』と。

 その途端、石はリュミエルに吸い込まれ、彼女は獣に姿を変えてしまう。そこで初めて、リュミエルが『聖獣』だと判明するのだ。
 彼女の変貌に驚いたものの、シーラは変わらず彼女に接し続け、心を開いたリュミエルはシーラを『聖なる乙女』に選び、共に魔物と戦おうと二人は決意する。
 そして入学した学院で彼ら攻略対象たちと出会い、恋と戦いの日々が始まるのだ。 

 攻略対象は前作に登場したファンディスクでのヒロイン、ユフィリアの双子の兄で公爵子息のシルディオ、宰相の息子のソール、パルヴァンの王太子レシェウス、その弟で第二王子のクルシェット、そのクルシェットの側近のシュドヘルが攻略対象となっている。シルディオとソールは隣国ストランディスタから留学生として学院にやってくるのよ。
 もちろん、隠しキャラもいる。ウェインっていうヒロインの同級生がそうだ。実は彼、前作で敵だった闇の高位精霊シャウドなのよ。精霊王マクスウェルによって、力が封じられて隣国へ追放されていたの。そこで出会ったヒロインと恋に落ち、更正するって訳よ。

 そこであたしは疑問に思った。この教会にリュミエル、いなくない?
 彼女との出会いイベントはヒロインであるあたしが5歳になる頃だったはず。なのに、もうあたしは10歳だ。どういうこと?
 それからこっそり抜け出しては街を歩き回ったけれど、リュミエルらしき子は見る影もなかった。なんで?リュミエルと出会えないと、ゲームが始まらないのに!

 それから数年がたち、とうとうあたしは15歳、学院に入学しなければならない歳になってしまった。こうなったら、いつでもリュミエルと出会って彼女を覚醒させられるように、あの石を持ち歩いておこう。
 教会の連中は、あたしを『奇跡の少女』と言って持て囃してくれていたから、あたしの言うことはなんでも聞いてくれるしね。
 前世じゃ当たり前に知ってる知識を披露しただけなのに、単純なやつらね。

 上手く学院に入れる手筈を整えてもらい、その日が待ちきれなかった。下見をしなくちゃ、そう思って学院に行ったその日に攻略対象のソールがいたから、イベントフラグ回収のために声をかけたのに。ソールったら、そっけないの。しまいには怒鳴ってくるのよ、酷いわ。

 騒ぎを聞き付けたのか、図書室の中から誰か出てきたのを見た瞬間、あたしは驚いたわ。だって、リュミエルがいたんだもの‼
 まずはリュミエルに名前をつけてあげなくちゃ!そう思ってゲーム通りにやったのに、突然水の球体が現れて、リュミエルが全然見えなくなっちゃったの!これじゃあ、契約出来ないじゃない‼
 そう思ってイライラしていたら、これまた攻略対象のシュドヘルがやってきたの。イベントにはなかったけど、知り合えるチャンス!と喜んだあたしを、あろうことか彼は乱暴に捻りあげたの‼とっても痛かった。
 結局、騒ぎを起こしたことで、こっそり抜け出したことがばれ、あたしは教会に連れ戻された。罰として、学院へ入れるのは一月後にされてしまった。入学式イベントが丸々潰れちゃったじゃない‼
 あたしは教会で泣き喚いた。せっかくリュミエルと会えたのに。シナリオ通りに覚醒させたのに!あと少しのところで、まさか攻略キャラに邪魔されるとは思わなかった。

 それから一月たって、ようやく学院にこれたのに。どういうわけだか、攻略キャラのみんな、あたしに冷たいの。リュミエルに声をかけても、誰かしらがあの子を連れて行っちゃうし……‼
 予想だにしなかったのは、前作の攻略キャラだったルティウスがいたことよ。しかも、彼、王族になってたわ。前作でも、続編でもそんな話聞いたことなかった。

 そんな日が続いたある日、リュミエルたちが王太子であるレシェウスから呼び出しを受けたという話を聞いて、イベントだ!とあたしは喜んで一緒に行こうとした。
 ところが「外出申請してない生徒は駄目だ」と寮監に邪魔されたせいで、リュミエルたちと行くことが出来なかった。

 リュミエル……きっと困ってるわ。ヒロインのあたしがいないとあの子、一言も喋らないから話が進まないのに。クルシェットたち、どうするつもりなのかしら。リュミエル、酷いことされないといいけど。

「それにしても、本当に腹立つったら……‼」

 これはリュミエルと一緒に王城へ行ってそこでレシェウスとの出会いイベントだったはずだったのに………!
 このシナリオは、『聖獣』であるリュミエルをレシェウスが呼び出し、王家に仕えるようにしてくる。そこをヒロインが「この子は私の大切な友達なんです!道具扱いしないでください‼」と不敬を承知で庇うのだ。それを見たレシェウスがヒロインに興味を持ち、関わるようになっていくの。
 でも、これじゃレシェウスの攻略も無理かしら。

 絶対におかしい!あの子の契約者はあたしのはずでしょ?リュミエルがいないと、攻略キャラとのアドベンチャーパートを開始出来ないのに……!
 『聖獣』の力を借りることで、浄化の力をはじめとした術を使えるのだから、あの子がいないとあたし、簡単な治癒魔法も使えないのに‼
 なのになんでクルシェットが契約しちゃってるの⁉いつ契約したのよ⁉本来あたしがリュミエルと契約するはずだったのに、横取りしてくれて……‼
 リュミエルの出会いイベントを邪魔したの、あの王子だったんだ!
 本来ならリュミエルは教会であたしと一緒に生活して、学院に入学するはずだったのに。

 逆ハー狙ってたけど、あいつは駄目ね。リュミエルを自分の盾扱いしてるんだもの。そもそもあのゲームをやってた時、この王子たち、あたしの好みじゃなかったのよね。見た目はいいんだけど、性格が、ね……………
 護衛騎士?クルシェットがリュミエルの主?そんなの、ゲームの設定になかった。きっとが起きてるのよ!あたしがリュミエルを救ってあげないと!そうすれば、あの子だって気づくはず。あたしこそが、あなたの契約者だって。
 だってあの子はこの国を救うあたしの『聖獣』でしょ?
 あたしと攻略キャラの架け橋となってくれる存在でしょう?あたしの望みを叶えてくれるのは当然よね?
 あの子はあたしのなんだもの!
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