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第五章 これまでの決着をつけます

あたしは……………~ウィアナ視点~

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 今まであたしの思い通りにならないことはなかったのに。

 あたしが願えば、みんなこぞって叶えようとしてくれたのに。
 前世のお父様やお母様は、あたしがねだれば、なんでも買い与えてくれたわ。生まれ変わっても同じ扱い……ううん、それ以上じゃなきゃいけないわよね?
 だって、物語なんかだと、転生した人はみんなハッピーエンドになってるじゃない!あたしもそうに決まってる。

 ここは、前世のあたしが大好きだったゲームを世界でしょう?
 だったら、あたしが好きにしていいってことだもの、何をしても許されるわよね?全てあたしに有利に働いてくれるはずだもの!
 ゲームの通りに動いていれば、逆ハー間違いなしよ!!
 多少アレンジしたって、上手く帳尻が合うようにできてるはずだもの。ほら、あの“主人公補正”とかいうやつよ。それがあるから、何の問題もないわね!
 画面越しでに囁いてくれていたあの言葉を、今度は生で聴ける!
 前世の記憶を思い出してから、みんなから愛される逆ハーレムエンドを目指して突き進んできた。

 なのに。なんで?この世界はあたしのためにあるはずなのに!

 なんで、この世界の人たちはあたしの願いを叶えてくれないの?
 なんで、あたしにばかりするの?
 なんで、あたしを悪者呼ばわりして、冷たくするの?

 あたしだけを愛して、あたしだけを慈しんで、あたしだけを守ってくれるはずのエルフィンたちは、なんであたしを助けてくれないの?あたしの側にきてくれないの?
 みんな、あたしに夢中になるはずでしょう!?がそう言ってたのに!
 なのに、あの精霊が目覚めさせてくれた“あたしが本来持つ力”は、エルフィンたちにはなんの効果も与えてはくれないじゃない!引っかかるのはどうでもいいモブばっかり………っ!!
 仕方がないから、そいつらにあたしがユフィリアに虐められている話を流してもらった。噂が事実だと気づけば、エルフィンたちだって、あたしに振り向いてくれる。を解いてあげられるチャンスだってきっと来るわ!

 ところが、その話を流してもらう端から否定の言葉が返される。むしろ、あたしが悪者のような噂が流されたわ。
 ひどい。あたしの言葉は信じてくれないのに、あの悪役令嬢の言葉は信じるの?
 学院祭の出し物だって、あたしは劇がいいって言ったのに、よりによって刺繍ですって。できるわけないでしょ!きっと、これもユフィリアの嫌がらせなのね!?なんて陰湿なことをするのかしら。

 そんなこんなで、学院祭の日が近くなってきた。ここでのイベントで、魔王がラピスフィアを狙って暗躍してくるのよ。騙されて拐われないようにしなくっちゃ!
 たしかこのイベント、選択ミスすると、即バッドエンドになるのよね。前世のゲームをやってて、何度失敗したことか。魔族侵攻の時にも、選択ミスでバッドになりまくってたから、そこは結構覚えてるのよね………さすが、あたし!同じ失敗はしないっていう教訓が活かせるわね!とか、絶対嫌だしね!!
 悪役令嬢ユフィリアは、魔王直々に魔族にされたって、あのゲームでも出てたからね。ゲームじゃ、魔王は実はユフィリアを自分のモノにしたかったとか明かしてたのよ。そこはラピスフィアじゃないの?と思ったら、ラピスフィアに関しては世界を手中に収めるのに、彼女の力が邪魔だから、いっそ手下にしようとしてたとか判明するのよ!?あたしだったら、嫌よ!そんな理由で狙われるの、ヒロインあたし!?逆ハーは真相解明ルートでしか出来ないとはいえ、そんな真実、嫌すぎる………
 いっそユフィリアに全部押し付けられればいいのに。ま、ヒロインはあたしだから、エルフィンたちに愛されるのはあたしだけの権利だけどね!

 で。学院祭が始まったのだけど。初日からあたしに悲劇が襲った。シナリオ通りにエルフィンたちにために、模擬戦をやってる最中に飛び込んだの。直前、視界に入ったユフィリアは首を振ってたけど、あたしが受けるべきみんなからの愛をこれ以上盗られてなるものですか!と構わず飛び込んだわ。
 結果として、誰も守ってくれなかった。あたしは、火に焼かれ、氷付けにされた。誰だか分からないけど、治癒してくれたみたいで、怪我は綺麗に治っていた。けれど、は元通りにはならなかった。あたしは絶望して、その場から走り去った。部屋に戻って、その日は一日中泣いた。
 なんで?なんで、あたしがこんな目に合わなきゃいけないの?なんでエルフィンたちは助けてくれなかったの?
 仕方がないので、その日の夜中、こっそり校舎に忍び込み、劇をやる予定のクラスからカツラを拝借した。新しく生え揃うまでは、カツラこれで過ごさなきゃならないんだと思うと、惨めで、また涙が溢れた。
 エルフィンとシクルドの手合わせは、本来なかったものだから、もしかしたらバグが生じたのかもしれない。それか、ユフィリアが二人を操って、あたしを攻撃させたんだ。………そうよ。そうに決まってる。あの場にはルティウスも、クーシェだっていた。彼らもユフィリアの洗脳下にあったから、あたしを助けられなかったのね。唯一いなかったデュオは午後の部の担当にすることで、あたしから遠ざけたのね!!
 なんて性悪女なの………!やっぱりあの女は断罪されるべき悪役令嬢だわ!あたしの美髪をよくも………!!絶対おんなじ目に合わせてやる!!
 
 二日目も、シナリオ通りにいかなかった。ゲームではここで、ヒロインの育ての親と実の両親であるフェルヴィティール公爵夫妻が出会って、ヒロインを実の親に託す、っていう展開になるはずだった。
 あたしの、あたしを冷遇してばっかりで、長期休暇の時に絶縁してやったから、学院祭ここにくるわけない。アドリブで乗り切るしかないわね。
 学院が再開した頃、あたしの両親は死んだから学院を辞めろとかいわれたんだけど、あたしの実の親は、フェルヴィティール公爵よ?頭おかしいんじゃない?とか思った──そこら辺はゲームの“強制力”が働くのかしら?──。
 でもね。あたし、知ってるんだから。ゲームシナリオにあったからね、このイベント!
 主な発動条件は、長期休暇のイベント、魔王に襲われたヒロインをクリアすること。夜会の主催者のフェルヴィティール公爵家に泊まらせてもらうことになる。その時、公爵はヒロインが行方しれずになったの娘なんじゃないかって気づくの。
 長期休暇後、魔王の策略で、ユフィリアから『あなたの両親は死んだ』と情報を教えられ、それを信じてしまったヒロインは、学院を辞めて両親の元に行こうとする。──家に戻るか、戻らないかは選択肢が出る。戻らないを選ぶと、クーシェルートは消えるのよね──そこを、クーシェに止められるの。そして、彼にこう言われるのよ。『だったら、手っ取り早く確かめる方法がある』って。それが、学院祭に招待する、というもの。
 ごめんね、クーシェ。あたしは逆ハーを目指してるから、貴方だけを受け入れるわけにはいかないの。だから、『戻らない』にさせてもらったってワケ。
 ゲームイベント『クーシェの提案』をクリアしなければ、逆ハールートに復帰できるからね!
 大丈夫よ、クーシェ?あなただけじゃなくて、みぃんなだから!!クーシェの個別ルートに入る訳にはいかなかったからだから、あなたを嫌いになったんじゃないからね?
 この時のあたしは、魔王に襲われていないのだから、このイベントが起きるわけない、ということを失念していたことも忘れていた。

 え?真相解明ルートでは嫌がらせは無いんじゃなかったって?魔王によってユフィリアが仕掛けてくるものだから、嫌がらせという訳じゃないのよね。
 
 最初に言った通り、駄目だったけど。モブが邪魔ばかりするから、怒鳴り付けてたら、そのモブの親だっていうのが、現れたのよ。なんと、それがフェルヴィティール公爵だって言うじゃない?そういうことは早く言いなさいよ!!お父様に冷たくあしらわれたじゃない!!慌てて真実ほんとうのことを教えても、お父様は信じてくれなかった。そうこうしてる内に、お父様は去って行ってしまった。ユフィリアがあたしを見て、溜め息ついてた。あの女の手の内で踊らされていたと気がつき、余計に腹が立った。
 しかもモブに、『今度は毛根が死滅するかもしれないが………見学するのか』とか脅されたので、仕方なく出直そうとしたら、カツラが外れてしまい、周囲の笑い者にされたわ。
 許さないわよ、ユフィリア……!!

 今日は学院祭最終日。せめて、今日のイベントくらいは成功させたい。逆ハールートは、攻略対象全員の好感度を一定にしておかなければならない。逆にいえば、同時に好感度が上がるこのコンテストイベントさえクリアできれば、最低ラインの好感度は確保できるはず。これまで貯めた分もあるし、大丈夫よ。
 
 そういえば──ユフィリアを口説きたいとか言ってた、最終日に来るとか言ってたわね………まぁ、協力くらいはしてあげようかな。ユフィリアをが落としてくれれば、エルフィンたちも、目が覚めるかもしれないし。

 コンテストは予選は当たり前だけど、勝ち抜けた。まあ、あたしのにかかれば、こんなの楽ショーよね!その勝ち抜けた代表にユフィリアがいたものだから、驚いたわ。
 なんであんた、ここにいるのよ!?陰からヒロインが羨望の眼差しを浴びるのを憎々しげに見てるんじゃないの!?しかも二年代表?嘘でしょ!?勝てるの!?見てくれはまあまあだけど、性格は最悪なのよ!?
 追い出そうとしてやったら、何かが頭上すれすれを通過した。観客の目が、あたしの頭を凝視している。あたしは顔面蒼白になっていたと思う。恐る恐る、手を頭に伸ばす。

 そのあとはよく覚えていない。ただただ、この場から一刻も早く離れようと全力疾走していたから。部屋まで戻り、扉を閉めて、改めて自分の姿をみると、制服の生地が裂けて、ヤバいことになってた。また奇声──自分でも乙女としてどうよ?とは思ったけど、止められなかった──をあげた。
 あれ?なんで?この制服、今年から着始めたばかりだから、解れるには早くない?知らない間に乱暴に扱ってしまっていたのかしら? 
 急いで予備の制服に着替えると、幾分か落ち着いた。
 
 あれも、ユフィリアの仕業に違いないわ。なんて酷いことするのよ、あの女!!
 あたしはただ、を言っただけなのに!逆ギレして、辱しめるなんて………!!

 あたしがそう歯ぎしりしていた時。コンコンと部屋の扉がノックされた。あたしはかっとなって、扉越しに怒鳴った。
 
「誰よ!ここまであたしを笑いにきたわけ!?!?あたしを楽しいの!?」
「何があったか知らんが………落ち着け、俺だ」
「っ!?あんたは───」

 その声主には心辺りがあった。長期休暇中、あたしがハルディオン公爵家でお世話になれるよう取り計らってくれた、の声だった。
 近くにあった、これまた予備のカツラ慌てて被り、扉を開いた。
 冷静に考えれば、おかしいことに気付かずに。ここは女子寮で、訪ねてきたのは男だ、ということを。しかも、学院祭の来場者は寮への──正確にいえば、寮付近の建物の──立ち入りを許可されていないことを。

「やけに取り乱していたが………」

 入ってくるなり、ケルニオはそう尋ねてきた。………まあ、気になるわよね、あんな風に怒鳴られれば。

「ユフィリアに………やられたのよ………っ!!」

 あたしは、無惨な残骸になった制服を指し示した。ケルニオは、制服を一瞥すると、

「ふぅん………随分

 と評した。

「えっ………?」

 あたしは意味が分からず、そんな声を出していた。

「ユフィリアは、魔術を得意としていたはずだろう?その反面、武器の類いは得意ではなかった。違うか?」
「えっ?えぇ………けど、ユフィリアが誰かにやらせたに決まってる………!」
「それはないな。を扱えるヤツは俺が知る限り、。そいつは、基本、はずなんだがな」
「はっ!?あ、あんた、あたしをこんな目に合わせた奴を知ってるの!?」
「………まあ………な。あくまでだけだがな(そうか………がいるのか)」

 何だか曖昧な返事ね。やたら詳しい割に本人とは面識がないって言いたいの?

「それはひとまず置いておくとしよう。それで、お前を訪ねた理由なんだが……」
「あぁ、何なの?来るとは聞いていたけど」
「少し協力してくれないか?ユフィリアのことを、時間が欲しい。その間、誰も近付かないように、お前の“魅了の力”を借りたいんだ」
「あたしに時間稼ぎをしろってこと?」
「ああ、そうだ。王太子たちがトラブルの解決に奔走していて、ユフィリアの側にいない今が、絶好の機会なんだ」

 道理でエルフィンたち見当たらないと思ってたわ。優勝さえできれば、みんなからのキスがもらえたのに………!
 あたしがそんなことを考えていると───

「ユフィリアが俺に応えてくれれば、王太子たちだとて、彼女に付き纏うことなどできないさ。そうすれば、お前が彼らをモノに出来る切っ掛けにもなる」
「………っ!ホント!?エルフィンたちが、あたしに応えてくれるの!?」
「それはお前の努力次第だろう?俺はあくまで切っ掛けを作る、と言っただけだ」
「そ、そうね…………あたし次第で、みんなからの愛を貰えるようになる………!」

 この時のあたしの顔は、ちょっと人には見せられないかもしれない。ニヤァと、締まりのない緩みきった顔をしていたから。

 そうして、あたしはケルニオをコンテスト会場に案内した。
 コンテストはユフィリアが優勝したようだ。あたしは納得出来なかったけど。より、あたしの方が何十倍も可愛いのに。知性も、教養もあたしの方があるはずなのに。あたしが本来立つはずだった場所にあの女がいることに、悔しくて涙が出そうだった。

 いけないいけない。今は頼まれた事をしっかりやらなくちゃ。これさえすめば、みんなはあたしのモノになるんだから。あたしにだけ愛を囁いてくれるようになるんだから。今は耐えるのよ、あたし!

 ユフィリアが楽屋に引っ込むのを確認して、あたしは動いた。ユフィリアが入った部屋の隣に入った。そこは、物置部屋にしていたらしく、隠れているにはうってつけだった。ケルニオに言われた通り、両手を広げ、こう叫んだ。

「さぁ……【あたしの意のままになりなさい】!!」

 あたしを中心に、なにかが拡がっていくのを感じた。その反面、身体から何かがごっそり抜けていく。なにかしら。あたしの何かが………そんな感覚がした。

 あたしは知らなかった。これは、魅了なんかじゃない、の力なんだってことを。ユフィリアじゃなくて、洗脳していたってことを。その力の代償は高くついたってことを。
 拡がりが落ち着くのを待って、あたしは、これまたケルニオから言われていた通りに、心の中で念じる。【ユフィリアが入った部屋に誰も近づくな】って。
 
 隣の部屋から声が聴こえる。早速、ケルニオがユフィリアを口説こうとしているみたい。

『………!!ケルニオ!?いつからそこに───きゃっ!?』
『あぁ………どんなにこの時を待ちわびていたか………』
『──くっ………、【天を統べる……】───っあ″!?』

……………?口説く、って言ってた割になんで争うような物音がするのかしら。

『この日のために、用意したんだ………──』
『っ!?や───あ……?……ゃあ………いやあぁああぁあああーーッ!!!』

 !?な、なに、この声!?状況的に指輪かなんか贈ろうとしたのよね?ケルニオ。そんなに絶叫するほど嫌だったの?だったら普通に断りなさいよ、オーバーな奴ね。

『………ぁあ………ひぁ………いやぁ………っ』
『ふ………くくっ………さすがにこれだけでは堕ちないか。だがまぁ、時間の問題だがな、ラピスフィア?』

 は?何言ってんの、あいつ。ラピスフィアはあたしなのに。っていうか、ユフィリアに何したワケ?ケルニオの奴。
 
『協力に感謝するよ、ウィアナお馬鹿さん。ユフィリアは連れていかせてもらうから、後はお前の好きにするといい──』

 そんな声が聞こえたと思ったら、隣の気配が突然消えた。………あたしの名前にかぶせてなんか言われなかった?きっと気のせいよね、蔑んだような言い方をされたなんて。

………というか、あたし、ここにいるの不味くない?あいつ、どうみてもユフィリア誘拐したわよね?明らかに嫌がってたわよね、ユフィリア。あ、嫌よ嫌よも好きのうちってやつ?──ってこんなこと考えてる場合じゃないわ、あたしまでじゃない!!

 その場から急いで離れていたら、曲がり角で突然衝撃を受けて、あたしは吹っ飛んだ。一体誰よ!?不意打ちなんて卑怯じゃない!なんて思いながら、あたしは気を失った。

 そのあとは何がなんだか。意識の無いところに、突然水球に包まれ、あたしはもがいた。地面に打ち付けられ、這いつくばった。上からルティウスらしき声が聞こえたけど、気にしている余裕なんてなかった。水球に包まれ、水球から放り出される行為を繰り返されたからだ。水球から放り出されるたびに、なんとか酸素を取り込んだ。

 次に気がついた時には、身体をガチガチに拘束されていた。
 なんで、こんなをされなきゃならないの!?あたし、悪いことなんてしてない!!ユフィリアのことだって、自業自得でしょ!?
 そんな風に目の前にいるモブに叫んでいたら、扉が開いて、エルフィンたちが入ってきたの!
 あたしを助けに来てくれたんだ!という願いは、次の瞬間木っ端微塵に砕け散った。
 ぷちっと何かが切れる音がしたと思ったら、エルフィンに怒鳴られていた。しかも、殺されるんじゃないか、と思うくらい、冷たい視線を向けてくる。

 彼が何を怒っているのか、さっぱり分からない。ただ、何か喋らないとあたし、殺される………!!そんな恐怖心から、これまでの事を話した。

あたし、あなたに何かした?なんで他のみんなも、今まで見たことないような厳しい眼をあたしに向けるの?

 なんで?
 
 





 




 
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