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第五章 これまでの決着をつけます

学院際・三日目 その三・緊急事態です!~???視点~

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「ふぅ。こんなものでしょうか」

 走り去るウィアナ・キューレにトドメとばかりに追い討ちをかけて、姿が見えなくなるまで注意深く視ていました。
 あれが?冗談じゃないです。
 この国の方にを知っている人はいなさそうですね。ユフィリア様本人に然り気無く聞いてみましたが、私の忠告のまでは分からなかったようでしたし。ゲームの知識を悪用はしてないみたいで、ほっとしました。──ウィアナ・キューレは違うようですが。彼女も間違いなく転生者でしょうしね。それもかなり質の悪い部類の。何をやっても“ご都合主義”で帳尻が合うとか思ってますよね、あれ。

 この国を舞台に物語が進行していたゲーム、『スピリチュアル・シンフォニー~宝珠の神子は真実の愛を知る~』略して『スピ愛』──前世でこのゲームにドはまりしていた知り合いがそう呼んでいた──は、ユーザーから賛否両論な意見の出ていた作品でした。
 ユフィリアの末路は自業自得の結果だ、と言う人と、ユフィリアの結末が不幸過ぎる、と言う人。
 まあ、全てのルートにおいて悪役として必ず死ぬのですから─幽閉の結末もあったけど、あれ間違いなく永くは生きられなかったと断言できる──、いくら我儘放題の挙げ句に親共々裁かれるほどの罪を犯したとはいえ、死なせ過ぎじゃ?救済措置もないのか!という意見が大多数だったようです。
 ちなみにゲームの類いは知り合いに薦められたからやっていただけで、そこまでハマっていた訳ではありませんでしたね、私は。
 真相解明ルートにおいて、そうなるまで──ユフィリアが我儘放題な歪んだ性格になった理由です──の経緯が明らかになったのを知った後の知り合いが、追放エンドくらい作れよ!と、あれこれifストーリーを自作しては熱弁していましたね。こっちがドン引する勢いで。
 私自身がこの世界に転生するとは思いもしませんでしたが、それならば、とユフィリア様を悪役にしないように暗躍するか、と決め、早二年。私が邪魔をしなくても攻略対象者の皆様が破滅フラグを片っ端から叩き潰してましたけどね。───そう私が思考の波に身を任せていた時に、脳天に衝撃が。

「痛いっ!」
「お・ま・え・は!と言っただろうが!!」

 誰が、とは聞かなくても分かります。やったの犯人は我が主です。さらにこめかみに両拳をあて、ぐりぐりされました。

「痛たたたたた!?主、酷い!」
「黙れ、馬鹿者!!」

 そんなに怒ることないじゃないですか。あと主、んで、もうそろそろやめて欲しい。地味に痛いです、これ。

「(お前、オレたち──我々がだということを忘れてないか!?)」

 小声で怒鳴るという器用なことをしながら、主はぐりぐりをやめてくれました。対外的には“私”という一人称なのに、うっかり素の方でいいかけたのはスルーすべきですか?………指摘したらまた仕置きが始まりそうなので、ここはスルー一択ですね。

「(ですが、主。さすがには看過できませんでしたよ。明らかにユフィリア様を嵌めようとしてたじゃないですか、あの電波)」
「(他にやりようがあっただろう!あの“クナイ”はお前が自作している特注品なのだから、類似品など在りはしないんだからな?確実に疑われるぞ、我が国が関わっているんじゃないか、と!この国の王太子殿下がこの場にいたらどう言い繕っても追求は逃れられないからな!?)」

 我が国を含めた諸外国から完璧パーフェクト王太子と呼ばれているあの王子殿下ですか。この学院に来てから遠目に見ていましたが、王太子殿下の視線がこちらに向いてくる時があったんですよね。あの時、一瞬背筋が凍ったのは気のせいだと思いたいです。

 王太子殿下は、ユフィリア様を溺愛しているのが態度から滲み出ているので、あの電波──ウィアナ・キューレが何をしようとも揺らがないだろう、と確信してますけどね。
 この一年、陰からこっそり見守ってきましたが、魔王が復活した辺りから、やや後手に回っている感がありますね。
 本来なら、魔王はユフィリア様やハルディオン公爵家を唆してこの学院に侵攻してくるはずだったのですが………必ずしもゲーム通りにはならないとはいえ、ゲームとは真逆の立場ですよね、彼女たち。
 言わずもがな、ユフィリア様とあの電波です。

「(とにかく!お前、これ以上目立つ行動は控えろ。留学先でトラブルを起こしたとあっては、兄上からなんて言われるか───)」
「(分かっています。これまで通りに、陰からこっそり見てます)」
「(ルティウスにもバレたら恐いことになりそうなんだが?)」
「(大丈夫ですよ、今のところ気がついた人なんていないので───?)」

 あれ?ユフィリア様は?
 私はさっきまで壇上にいたはずの彼女の姿を探して、きょろきょろと辺りを見回しました。

「どうした?」
「主、ユフィリア様がいらっしゃいません」
「ああ、優勝商品はウェディングドレスだっただろう?それを着て皆に披露するまでがこのコンテストの流れだろうが。お前、一応出場していたのだから、覚えておけよ」
「優勝する気がなかったもので………聞き流しちゃってたんですよね。大体、結婚の予定もないのにそんなもの……………ん?………?─────!!」
「おい!?」

 しまった!!主のお説教の間にユフィリア様、の状況になってた………!!
 主をその場に置いて、私は出せる限りのスピードで、出場者の待機ブースへ走りました。
 近くの生徒を捕まえて、ユフィリア様が入った部屋を聞き出し、ノックも忘れて勢いよく扉を開け放つ。そこには─────

「────ッ!やられた……………!!」

 そこには誰もいませんでした。いいえ、これでは言葉に語弊がありますね。正確には直前まで人がいた形跡がある───ユフィリア様は間違いなくここにいた。注意深く見れば、争ったような痕跡もありますしね………!
 今日に限って、生徒会が出張らなければならないトラブルが起きたとかで、皆様、ユフィリア様のお側を離れていた───いや、と見るべきですね。

 主にはこれ以上目立つ行動は控えろと言われたけど………そんなこと言っている場合ではないでしょう。要は、接触すればいいのです。そういえば、ユフィリア様の双子のお兄様、会場にいらっしゃいましたね─────

 急いでもと来た道を走っていると、曲がり角で人とぶつかりそうになったので、

「ぷぎゃぁあああ!!」

 というか、何でここにいるんですか、電波。もとい、ウィアナ・キューレ。
……………何か知ってそうですね、これ。一刻も早くシルディオ様と会わなければ。そう思って私はとりあえず、電波をぐるぐるに縛り上げて、引き摺りながら走りました。

 そうして会場に戻ってくると。
 何故だか絶対零度の微笑みに晒され、固まる主を発見。その相手はこの国の王太子殿下、エルフィン様でした。あ、ルティウス様からは胸ぐら掴まれてますね、主。この場に主だった方々が勢揃いしてますし。

「……………王太子殿下、実は──「おい!私の心配は!?」なんですか、主。報告を先にさせてくださいよ」

 そうでなくても緊急事態なんですから。

「───お前は?クルシェット殿の連れか?」

 先程からにこりともしない冷たい空気を纏ったまま、王太子殿下が私に尋ねてくる。あー………身分、完全にバレてますね、これ。

「主?」
「──私が言ったんじゃない。どうやらこの国にも、随分優秀な諜報員がいるようだな」
「ああ、やっぱりですか」

 そうして、王太子殿下に向き直り、礼をとる。

「事情があったとはいえ、貴方方を欺いた形となり、誠に申し訳ありませんでした。私はパルヴァンの第二王子、クルシェット殿下を主とし、護衛の任に着いています、リュミエル・フォーレリクスと申します」
「………リュミエル?隣国パルヴァン最強の騎士と言われている?」

 私の名乗りに真っ先に反応したのは、シルディオ様でした。

「私はあくまで、クルシェット殿下専属の護衛騎士なだけです。最強など、過ぎた評価です」
「………リュミィ、というのは偽名か」
「いえ、どちらかといえば愛称ですね。そう呼ぶのはごく限られた方のみでしたが」
「報告というのを聞かせて貰おうか?………まぁ、言わずともある程度は察しているがな」

 そうでしょうとも。最愛の婚約者が拐かされたとあっては、平静ではいられないだろうとは思っていたのですが。さすが、時期国王というか、冷静さは失っておられないようですね。

「もうお分かりかと思いますが、ユフィリア様が連れ去られました。犯人はが知っているはずです」

 そう言いつつ、電波を王太子殿下たちの前に放りました。途端に、彼女に向けて殺気やら嫌悪感やらが向けられます。やはりというか、すっかり嫌われものですね?ウィアナ・キューレ。
 

 さて、これからどうやって囚われのお姫様──ユフィリア様をお助けしましょうか。
 エルフィン王太子殿下、頼みましたよ。緊急を要するとはいっても、私と主はあまり好き勝手には動けませんから。

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