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第五章 これまでの決着をつけます

忍び寄るもの~デュオ視点~

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 学院祭の準備も着々と進む中、相変わらずウィアナ・キューレの奇っ怪な言動は相変わらず………むしろ、悪化しているように見える。
 ボク──デュオことセルデュオレクトは、教師として授業を行いつつ、が原因だろうと思われる、ここ最近の学院内の不穏な空気に頭を悩ませていた。
 
 正直、前世とはいえ、と血が繋がっていたなど、おぞましいにも程がある。ミラも同じ思いだろう。ユフィリア様も、そんなことを言っていたし。いくら(前世の)あの両親に甘やかされて育ったとはいえ、何故あそこまで自己中心的かつ自分に都合のいいことしか信じない性格になるのか理解出来ない。前世のボクが物心ついた頃にはもうだったから、なるべくしてあんな性格になったのだろう、とは思っているけど。

 今のところ、ユフィリア様とエルフィン様の体調は良好だ。前にが側に来る度にエルフィン様が露骨に体調を崩されていたから、新学期が始まれば、また苦しむことになるのでは?と不安だった。

 そこで手を打ってくれたのが、精霊王マクスウェルだ。長期休暇の際、を間近で視て、彼女──ウィアナ・キューレは闇属性の魔術に適性があると気付いたらしい。
 最悪の状況を想定した結果──がボクらを洗脳しようとしてくる可能性があるとのこと──、マクスウェル自身の加護をボクらに与えてくれた。本来、精霊の加護は得意属性でない者には与えない。本当の意味で緊急事態なんだな、と現状の深刻さを改めて知った。そして、マクスウェルの防御魔法を込めた装飾品──魔道具事態はボクら魔術師団が作り、術式は精霊たちに付与してもらったもの──を製作した。あまり華美にならないように、ブレスレットタイプにした。
 これには、ラピスフィアの浄化の魔術式も込められている。闇属性の魔術には、相手を惑わし、意のままに操る洗脳系の術も存在しているためだ。もちろん、禁呪指定されている。決して、“知らなかった”では済まされない、シロモノだしね。

 ちなみにルヴィカは、捕らえた犯罪者を取り調べをする際にのみ、使用を特別に許可されている。と言っても、あくまで誘導し、情報を喋らせる程度にしか使ってはいないらしい。

 閑話休題。
 
 初めは、魔王対策とはいえ、過剰すぎないか?とエルフィン様も考えてはいたみたいだ。ただ、新学期直前に学院に戻って来た際、学院に邪気が全くない現状を見て、やり過ぎることはなさそうだ、と思い直してはいたみたい。

 結果的に、エルフィン様のその言葉は嫌な方向で現実味を帯びた。

 のアプローチ──そう考えただけで鳥肌が立つ………っ!──が以前にも増してしつこくなった。
 なんというか、直接的なおねだりになっているからだ。その際、ブレスレットが鋭く光る──マクスウェルの防御術が発動している証だ──ので、嫌悪感を顕にし、突き放すことができた。

 だけど、他の生徒には被害が出始めているようだ。を信奉し、言いなりになる生徒が増えはじめている。最初の頃は、ユフィリア様の話題が出た途端、正気に返っていた者が、元に戻らなくなりつつある。
 ボクらが持つブレスレットの浄化の魔術が発動しているのか、ボクらが近くに来ると、夢から覚めたように、正気に返ってはくれるけど………間接的なものであるため、思ったほどの効果が見込めていない。けれど、ユフィリア様が浄化をすれば、様子のおかしい生徒は正気に戻ることはできるようだ。

「ですが………中毒症状にでもなっているのか、はたまた別の要因があるのか、最近では私の力でさえ及ばなくなりつつあるみたいなんです………」

 そう、苦痛に耐えるかのように、ユフィリア様が話した。ラピスフィアとしての本来の力を覚醒させることができて、やっとみんなの役に立てる、と嬉しそうだったのに。その話を聞いて、クーシェは訝しんだ。

「それはおかしいよ、ユフィリア」
「えっ?」
「“効かない”なら分かるけど、“効きづらくなる”なんてあり得ない。キミの浄化は、あくまで異物などを“消し去る”んであって、“取り除く”じゃないんだから。魔力不足ならともかく、そうじゃなかったんだから、浄化し損なうなんてあり得ない。そうでしょ?」
「あ………!ええ、そうです。魔力は充分でしたし、術式を失敗もしてません」
「クーシェの指摘通りなら、ユフィが言っているように、別の要因となるな………」

 二人の会話を纏めるように、エルフィン様が呟いた。
 たしかに、変だ。魔族が原因なら、ユフィリア様に浄化出来ないはずはない。マクスウェルたち、精霊の感覚曰く、魔族の魔力には少なからず邪気が混じるため、痕跡を特定しやすいそうだ。そのため、浄化を仕損じることはない。
 なのに今学院で起きている異変は、何故かユフィリア様の浄化が効きづらい。それに、邪気も感じられない。ということは、原因は自身ということになる。
 長期休暇前にはの周辺で邪気が観測され、新学期の今はの周囲の人間に変異が確認されている。
 でも、彼女にしつこく付き纏われているボクらは何の影響もない。

「みんなに聞きたいんだが、に寄られた時に、ブレスレットが反応したか?」

 エルフィン様の問にボクらはすぐさま返答した。

「ええ、反応してましたよ。僕が拒絶したのが信じられない、という顔してましたね、は。そもそも、僕が未だにハルディオン公爵家にいると思い込んでましたよ」

 初めにそう言ったのはルティウス。どうやら、『お姉様と呼んでいいのよ』と言われたのだとか。
 あぁ、たしかにそんなイベントがあったかな。未來姉さんと美琴姉さん、台詞まできっちり覚えてたから、余計にの言葉が支離滅裂だと分かる。………ルティウスが王族になったこと、公表されてるのにスルーとか。

「オレのも光ったな。ユフィリア様から自分を守れとか、ワケわからないことを言われたから、速攻で断った。しつこく食い下がられて、鬱陶しいったらなかったな」

 うん。シグルドは間違いなく断るよね、それ。ボクらがリカバリーしてた時も、ユフィリア様のやったこと、嫌がらせになってなかったから、シグルドには余計に意味が分からなかっただろうしね。
 あ、次はボクの番か。

「ボクのも、発動を確認しました。光の色からして、マクスウェルがかけてくれた防御術のほうですね。ルティウス以外はみんな婚約者ないしは恋人がいるのに、それに気づかないとか呆れてものも言えませんでしたよ……」

 本当に、あり得ない、と思った。ボクらは婚約者が出来たと学院に報告しているため、全校集会でもその旨を公表されていたはずなのに。は全く聞いていなかったようだ。
 そもそも、と婚約者とか、考えたくもない。

「ボクのも、光ったね。あいつ、こう言ったんだ。『ラピスフィアへの覚醒方法を教えて!』だってさ。本物であるユフィリアが覚醒してるのに、なんでに教えなくちゃならないのさ、って思ったから、きっぱり断ったよ。それに、ナヨってて気色悪かったよ」

 そのイベント、魔王に襲われた際、クーシェに助けられないと起こらないものなんだけどな。門前払いされてたに起きるはずのないシナリオだ。

「私のも、作動してくれていた。何度注意しても直らんな、が許可なく私の名を呼ぶのは。しかもユフィの前で、引っ付こうとしてきたぞ。婚約者のいる前で私に恥でもかかせたいのか、は………!」

 エルフィン様の怒りも最もだ。普通、婚約者のいる男にコナをかけようなんて恥知らずはそうはいない。まともな常識があれば、やろうなんて思うはずもないならだ。エルフィン様とユフィリア様の婚約が正式なものなのにも関わらず、寄ってくる令嬢がいたのは、ユフィリア様の知名度が低かったからでしかない。
 今は誰もが認める、『仲睦まじい似合いの二人』と呼ばれている。
 ユフィリア様も、あのあと、『あれだけ堂々と拒絶されても、諦めなさそう』とうんざりした様子だったからな。

「私がいくら避けようとしても、ストー………付き纏って来るんですよね………」

 ユフィリア様は、疲れたようにぼやいた。……………というか、ユフィリア様。はっきり言ってしまっていいと思いますよ?
 実際、変質者ストーカーだし。クラスも、生徒会も同じな上、婚約者なのだから、一緒にいるのは当たり前なのに、は、言うに事欠いて『いつまでもエルフィン様に付き纏ってんじゃないわよ、この悪役令嬢!!』とか言い放つ阿呆だし。
 その台詞で、洗脳が解けたような反応をしている生徒がいたくらい。ゲーム知識があったとしても、それを活かせないなら、なんの意味もない。

 それでも、の意のままになっているらしい生徒はじわじわ増えてはいる。学院祭の準備に忙しく、対応しきれていないのが現状ではある。魔術師団にその症状を照会したところ、父上からの返答は、『術者本人に解除させるか、術者の生命活動を絶つしかない』と言われた。前者はもちろん、後者の意味も間違いなくみんなに伝わった。

「───後者の方は最終手段だな。今のところ、あいつの心をへし折って、解除させる方法を狙うしかないか」

 エルフィンの言葉に、みんな頷いた。遅かれ早かれ、には厳しい処罰が下される。その前に、猛省して欲しいが、エルフィン様のいうように、立ち直れないくらい思い切りへし折ってやった方がいいのかも、と思ってもいる。

 学院祭まであと少し。今年も何事もないことを祈るばかりだ。
 まぁ、この願いも、無に帰すと思う。は間違いなくやらかすだろう、と思ってしまっている自分もいるのだから。


 
 

 
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