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第四章 長期休暇中もやることは一杯です

幕間 二人の馴れ初めは?

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 ~クーシェとミラの場合~

 それは、デュオとラディ先輩がめでたく婚約する、と報告に来てくれた後のこと。


「そういえば気になることがあるんです」
「ん?何がだ?」
「クーシェとミラがいつの間にやら付き合っていたみたいなんですが………いつからなんでしょう?」

 疑問に思っていたのだけど、聞きそびれていたのよね。私がそう疑問点を口にすると、エルフィンも首を傾げた。

「そういえば、気がついたら何やら一緒にいるようになっていたから、いつだか分からないな」

 あの二人の様子を見る限り、どう見てもここ最近ではないだろう。そうなると、学院にいる時だろうとは当たりがつくのだけど……………

「本人に聞いてみるか」
「えっ?呼ぶんですか、今から?」

 因みに時刻は午後六時。只今ディナーの真っ最中です。国王夫妻は、政務のため遅くなるとのことで、今日はエルフィンと二人きりだ。───まぁ、城の侍女が食事の配膳をしてくれているから、完全に二人っきりって訳じゃ無いけど。

「いや……さすがに今からは、な。明日来るように伝えよう」

 食事を終えたあと、共に共用スペースへと移動した。そこで食後のお茶を入れてもらい、軽く談笑した。本当の意味で婚約者となったことで、共鳴者としての繋がりも深くなったような気がする。以前と、言ったからか、こうして二人だけの時にはエルフィンは深い口付けをしてくる。人前でも、挨拶程度の軽いものはしてくるけど。
 まぁ、口付けは魔力喰いマジックイーターによる魔力補充も兼ねているから、拒否もできないし、する気もない。………単に、私が恥ずかしいだけだ。
 余談だけど、私たちは、学院を卒業後すぐに婚姻となるため、今の内から部屋を隣り合わせになるよう改装している。初めて王宮──王城でも可──に保護されてから今まで私の部屋、客間の一部を使っていたからね。
 共用スペースは二人だけの時間を……と、王妃様が手配して造って下さった。この部屋を紹介された時、王妃様が何事かをエルフィンに耳打ちし──王妃様、人の悪い顔をしていた──、それを聞いたエルフィンが『な、何を仰っているんですか、貴女は!!』と顔を真っ赤にしていたのだけど……………何を言われたんだろう?

 閑話休題。

 次の日、エルフィンはクーシェを呼び出した。

「どうかしたの?突然ミラが『聞きたいことがある』ってエルフィンからの手紙を持ってきたから、何事かと思ったんだけど……」

 クーシェは何か火急の用があるのか、と思ったみたい。

「ああ、個人的な興味からでもあるからな。直接聞いた方がいいだろう、と思ってな」
「?」
「お前とミラ、いつから付き合ってるんだ?」
「うぇ!?」

……………まぁ、普通は聞かれるとは思わないよね、付き合い始めた経緯とか。

『な……ななななな』
「落ち着け、クーシェ。
『キミの質問のせいでしょう!?』

 クーシェが吠えた。違った、叫んだ。うっかり、さっきの言葉が『わぉーん!!』と誤訳されそうになった。

『何でそれをキミに言わなくちゃならないのさ………』
「私たちの恋愛事情を知っているのに、お前のだけ知らないのは“フェア”じゃないだろう?」
『………ホント、順応性高いよね、エルフィン。その言葉だってこの世界のものじゃないのに』
「慣れるとむしろ楽だな。使い所を間違えなければ、暗号のようにも出来るしな」

 この十年、エルフィン様からねだられて、いろいろ教えてきた言葉の数々を、彼は見事に使いこなしていた。たしかに、彼の言うとおり、この世界にないからこそ、それを知っている者の間だけの言葉としてなら、意味を聞かずとも伝わるからね。

『はぁ……………分かったよ……』

 そう溜め息を吐きながら、クーシェは語り始めた。


※※※※※※※※※※

──────────一年前・シンフォニウム魔法学院にて~クーシェ視点──────────


 とうとうこの日がやって来た。彼女──が人間の学生として入学してくる日が。
 ボク──クーシェことクレイシェスは、一年早めにこの魔法学院に入学し、彼女が来るのを待ちわびていた。

 主であるマクスウェル様の命もあるけど、何より自分のミスで間違った転生をさせてしまった償いもあった。今彼女は精霊としての記憶は全くない。精霊核コアは以前剥き出しのままのようだから、完璧に馴染ませるには、術である程度早める必要がある。調べてはいるけど、魔族の動きも不透明なままだ。分かったことといえば、が既に侵食されていることだ。
 水際で止めようともしたけど、元々彼らは国に裁かれてもおかしくない罪を代々重ねていた。クレイシス侯爵家にそれとなく苦言を呈してもらったけれど、聞く耳を持ってはくれなかった。あの家はもはや手遅れだろう。

 だからせめて、彼女──人としての名前はユフィリアというらしい──の周囲の人間の協力を仰ぎたいところだ。ユフィリアの婚約者だという、あの少年──精霊界で視た王太子エルフィンだ──には、何とか接触したいのだけど……………
 
 当然といえばそうなのだけど、然り気無く声をかけられる機会などそうあるわけがない。学院では身分の貴賤はないとはいえ、相手は王族。馴れ馴れしくなど出来るはずもなく。
 唯一どうにかなったのは、去年ボクが入学してきた年に、王太子殿下の側近候補だという少年と友人になれたことだろうか。彼──シグルドは、殿下の幼馴染みでもあるらしい。彼に頼んで、仲立ちしてもらうしかないかな。………ただあいつ、脳筋なんだよなぁ……………
 リカバリーに忙しくて頼みごとをする暇もないことに気がつくのにそう時間はかからなかった。

 そんなこんなでユフィリアが入学して半年程経った頃だった。
 単刀直入にいうと、バレた。
 何がって、ボクが精霊だということが。寝言で“宝珠の神子”のことを口にしたのが決定打になったようだけど。──シグルドの課題のフォローをしていたことがきっかけなのだから、あいつのお陰なのか迷うところだけど。

ぶっちゃけ、あの時のエルフィンに冗談抜きにられるかと思った。よくよく話を聞くと、単に警戒心がMAXになっただけだったようだ。後々聞いたら、デュオは仕留められそうになったことがあったらしい。────マジか。

 で、その後ユフィリアと会うこともできた。間近でみると、かつてとは髪や瞳の色は違うけど、側にいるだけで心が暖かくなるあの雰囲気は変わらなかった。本人は無自覚みたいだけど、エルフィンを見る目が愛しそうだった。端からみても両想いなのに、“破滅フラグ”を目指すとか………絶対阻止しよう、と思った。今度こそ、彼女には幸せになって欲しいから。

 そんな折、ユフィリアと会った時にフクロウの精霊がいたことを思い出した。あの子──たしかユフィリアの前世で異母姉だった子だよね。
 彼女──未來は、ユフィリアとして転生したラピスフィア(あの世界では美琴という名前だったね)を守るために、今世での寿命を犠牲にユフィリアとエルフィンの心を繋ぐ術を得た。ただ、エルフィンの魔術抵抗力が高過ぎたためか、エルフィン側の思考はユフィリアには分からなかったようだ。それでも、未來のやったことは決して無駄にはならなかった。その事実を知って尚、エルフィンはユフィリアを守るために力を尽くしてくれているのだから。
 その未來の思いを見届けたマクスウェル様が、未來をまたこの世界に転生させた。今度は精霊として。そして、彼女は“ミラ”と名付けられたらしい。


『…………………………』
「…………………………」

 うん。なんでこうなったんだっけ?

 今ボクは学院の一角にある森の中にいる。精霊はマナを身体に定期的に取り入れる必要がある。例えば月の光とか、清浄な森の中とか、澄んだ湖の側とか。そういったところで、濃度の高いマナが取り込みやすい。
 ちなみに、ユフィリアはまだ身体は半分人間だ。そのためか、自分でマナを取り込めない。だから、マナを集めることの出来る魔術師の協力が必要になる。高位精霊は特に大量のマナを必要とするため、初めの頃はデュオが、最近はエルフィンがやっている。
 余談なんだけど、ユフィリアにマナを送り込む際にエルフィン、何とも言い難い感覚に襲われるらしい。………まさか、とは思うけど………共鳴者?そのせいで神経が過敏になっていてもおかしくはないよね。彼は『婚姻するまでは何とか耐える』と言っていた。…………大丈夫かな。共鳴者であることが事実なら、ユフィリアに浄化を頼めない時、彼にやってもらう他ないんだけど。
 今度ユフィリアも交えて確認した方がいいかな?どの程度の共鳴率なのか。

 話を戻すと。

 ボクはマナを取り込むため、この森へよく来る。ボクの司る属性との相性もいいしね。
 で、何で困惑しているか、というと。マナを取り込み終わって、少しまったりしていこうか、と目を開けたら目の前にミラがいたからだ。
 ボクが硬直すること約十分。先に動いたのはミラだった。
 ちょいちょい、とこちらに歩いてきて、ボクの膝の上にぽすん、と乗った。(ちなみにこの時、ボクは胡座をかいていた)─────???

『くるるるる』
「?」

 『ありがとう』?なんかお礼言われるようなことしたっけ?ボク。

『くるっ、くるるる、くるっくー』
「あー、それは別に………」

 今度は『また、あの子に会わせてくれて、ありがとう』と言われた。そして、ボクのお腹辺りに顔をぐりぐりしてきた。頬擦りしているつもりらしい。
 可愛いなぁ。フクロウだからか、彼女だからなのかは分からないけど。いや、どっちもか。ほっこりしながら、ミラの頭を撫でた。するとミラは、気持ちよさげに目を瞑った。
 しばらくそうしていた。夕暮れになったのに気がついて、その日はボクもミラも慌てて寮へ帰った。

 それからというもの、ボクたちは、暇を見つけては二人で森で過ごすようになった。ボクは本体に戻って、ミラがくっつきやすいようにしてみた。なんだか不思議な感じだなぁ。一緒にいると心が安らぐんだよね。これが“愛しい”ってことなのかな。エルフィンがユフィリアの側にいたがる理由が分かった気がした───

 そんなボクらが、俗にいう“お付き合い”が始まるのに、そう時間はかからなかった。『キミが好きだ』と言った時のミラは、ぶわっと全身の羽毛が逆立っていた。そのあとべったりくっつくようになった。
─────あぁ、もう!可愛いなぁ!!
 唯一残念な点は、犬とフクロウじゃ、キスできないんだよね……………それだけが悩みだ。

※※※※※※※※※※

──────────現時点~ユフィリア視点~──────────

「─────と、いうことかな」

 思いの外長く語っていてような気がするけど………要するに、クーシェとミラは、“波長があった”ということなのかな。

「……………なぁ、ユフィ」
「はい?なんですか、エルフィン」
「こいつの話を聞く限り、一年前から、ということになるよな?」
「………そう、ですね。想いを伝えたのもそう間をおかず、みたいですし……………」
「(道理で容赦なく『キスして』とか言うと思っていたら………けしかけられていたわけか……………)」
「え?エルフィン、何か言いました?」
「いや、気のせいだ」
「??」

 予想外なことに、私たちの中で一番早く想いが通じあっていたらしいことに、何とも言えない気分になった、そんな日でした。


 ~シグルドとルヴィカの場合~

これは、シグルドがクーシェの共鳴者だと判明し、契約を交わした日から間もなくのこと。

 その日、『ユフィリア様とエルフィン様に大事な話があります』と、ルヴィカに言われ、王城の一室でで待っていた。

「…………あの……私とエルフィンはルヴィカに呼ばれてきたのだけど……」
「姉上たちはそうなんですか?僕たちはシグルドに、です」
「え?シグルド?」

 ルティウスの言葉に、私は驚きの声をあげた。組み合わせが分からない。何故この二人?──というかエルフィン、驚かないのね?

「シグルドには、『みんなに聞いて欲しいんだ』と言われたのですが……」
「デュオ様はともかく……私まで?と思ったのですが……」

 そう言うのはデュオとラディ先輩の二人。デュオはともかく、ラディ先輩はシグルドはおろか、全く接点のないルヴィカに呼ばれて困惑している。
 どうやら、あの二人、男性陣はシグルド、女性二人(私とラディ先輩)はルヴィカが声をかけたようだ。エルフィンだけがシグルドに声をかけられなかったのは、単に私とエルフィンが二人でいる時にルヴィカが来たからだと思う。

「…………何故全員に……………ユフィリアとエルフィンにだけでいいでしょう……………!」
『くるる?』

 頭を抱えているクーシェとは対称的に首を傾げているミラ。クーシェ、シグルドたちの用件に心当たりがあるみたい。ミラはたぶん、『大丈夫?』と聞いていると思う。

「…………何故、は私が一番聞きたいです……………」
「というか、お前まで呼ばれたのか、ソール」

 疲れたように呟くソールにエルフィンが声をかける。

「私にもなにがなんだか………魔王の転生者の足取りを掴まなくてはいけないのに……急にシグルド様に引っ張ってこられまして……………」

 どうにも、マラゾン伯爵子息──魔王の転生者だろうと推察されている──の行方がぱったりと途絶えてしまったらしい。今期の長期休暇が始まって間もなく、姿を消したらしい。疑いが濃厚な時期に失踪………やっぱり、彼がそうなんだろうか。
 そんな状況で、諜報を担っているソールに暇などあるはずがない。疲れているのはあちこち走り回っているからだろうし。
 あれ?ルヴィカにも同じことが言えるんじゃ?
 そう思っていたら、ルヴィカは追跡担当ではないらしく、主に街で情報収集をしているそうだ。

「大丈夫………?ソール………疲れがとれないなら、少しくらいお休みをもらえるように頼んでみましょうか?」
「──っ!いえ!ユフィリア様のお手を煩わせるわけにはいきません!!これくらい、なんてことはありません!」

 ヨレヨレというほどではないけど、明らかに疲労の色が濃いソールに、思わずそう声をかけた。若干眼の下に隈ができている。
 私の言葉にソールは慌てて否定した。そこに口を挟んだのはエルフィンだった。

「駄目だ。そんな状態でまともに任務をこなせると思っているのか。お前は今日の用が終わったら休暇をとらせるようにエドガーに命じておく。二・三日でいいから少しは休め」
「お願い、ソール………休んで。休めるときに休んでおかないと、いつか倒れてしまう」
「……は、分かりました」
「───ということだ。その間の追跡任務はお前が引き継げよ、ルヴィカ」
「「「「「え?」」」」」

 
 私、ルティウス、デュオ、ラディ先輩、ソールの声が重なった。その声に応えるように、扉が開き、ルヴィカとシグルドが入ってきた。
エルフィン、クーシェは気づいていたのだろう。
 ソールが気づかなかったのは、それだけ疲労が蓄積されていたからに違いない。

「クーシェもそうですが………殿下にまで気づかれていたとは…………」
欺けると思われていたわけか?」
「いえ、そんな侮るような気は欠片もございません。ソールを案じて様子を伺っていたのは確かですが、今回のことは別件です。ご不快ならば、処分は私だけに」

 エルフィンは不機嫌さをけど、ふっと厳しかった顔を緩めた。

「………試してすまなかったな。これでも内心悔しかったんだ。お前がユフィを思えばこそ、あの任務を引き受けたことを知ってな」
「───!!い、いえ!私こそ、誤解を招く振舞い、誠に申し訳ございません!!」

 あの任務、というのは去年の騒動のことだよね。

「謝罪の必要はない。ユフィも言ったと思うが、これからの働きに期待している。ソール、お前もだ」
「はっ……!ご期待に沿えるよう、一層の精進を致します!!」
「はい……!非才なるこの身で役立つならば、如何様にもご用命下さい」
「ほら、言っただろう、ルヴィカ?エルフィンなら全て分かった上だって」
「………ええ、貴方の言葉に嘘偽りがあるわけなかったわね」

 それまで黙ってやり取りを聞いていたシグルドが、ルヴィカの肩をぽん、と叩いて笑った。……………なんだか二人の会話──ルヴィカの言葉使いが随分砕けてる。

「で、話があるというのは?」
「ああ、実はこのルヴィカと、婚約することになったことを伝えたくてな!」

 話が一段落したのを見計らって、ルティウスがシグルドに尋ねた。それに答えたシグルドの台詞でみんな固まった。もちろん、私も。唯一固まらなかったクーシェが、「あー……………」と天を仰いだ。
 彼はこれを知っていたからこそ、あの反応だったのね……… 

「え?婚約?シグルドが!?脳筋過ぎて、質の悪い令嬢に捕まり兼ねないとか言われていたシグルドが!?」

 ルティウス………気持ちは分かるわ。事実、その叫びに誰も否定の声をあげないもの。

「……………シグルド。説明しろ。何がどうなって婚約に至ったんだ?」

 額に手をあてながら、エルフィンはシグルドへ質問した。それに答えたのは、シグルドではなくルヴィカだった。

「殿下。それについては私がご説明を」
「……ああ………。その方が賢明か。では、頼む」

 うん。シグルドの説明だと、一から十までの話を十しか話さないしね。今もそうだったし。

「分かりやすく言いますと、アーティケウス伯爵家と、ウリギア伯爵家との間で縁談が持ち上がっていたのです」
「あぁ、貴族間の繋がりを作るためにも、同格の家柄同士の縁談は当然の流れか」
「はい。初めはエルス様とどうか、と言われたのですが……」

 因みにエルス様は、エドガー様の嫡子。要するにシグルドの兄上だ。シグルドの脳筋の被害者……失礼、単純明快な性格の弟に頭を悩ませる苦労性な方だ。

「ですが、私はシグルドを選ばせて頂きました」
「?エルスはアーティケウス伯爵家の次期当主だ。お前にとってもウリギア伯爵家にとってもそう悪い話ではなかったはずだが……」

 アーティケウス伯爵家は、過去に何人も騎士団長職を拝命する者が生まれるほどの騎士の名家だ。現当主夫妻は跡継ぎに恵まれなかったため、エドガー様の長男、エルス様に白羽の矢がたった。次男のシグルドは本人の希望もあり、騎士として育てることになったそうだ。(そのためか、シグルドは一応次期騎士団長候補でもあったらしい)
 
「たしかに、エルス様は次期当主に相応しい資質をお持ちの方です──────────が、私はユフィリア様の侍女を目指しております。当主夫人になどなってしまったらお側にお仕え出来ないではありませんか!そう思っていたら、シグルドがユフィリア様と主従契約を結んだというではありませんか!私、この方しかありえない、と思いましたの!!」

 この時、ソールを除く全員の心は一致したと思う。『お前の基準はそこか!!』と。(まぁ、二人称はそれぞれ違うと思うけど)何で彼だけ違うかというと『さすが姉上です!』と言っていたからだ。
 私はいろいろ居たたまれない気持ちになった。エルス様、ごめんなさい。私のせいで貴方は論外にされたようです。
 そして、そんな理由で選ばれたシグルドはというと─────

「おう!オレも、ユフィリア様へのルヴィカの忠誠心は素晴らしいな、と思ったんだ!ルヴィカが伴侶ならいい関係を築いていけると思うんだ」

 そう。貴方の基準も私なの。いえ、まぁシグルドに関してはなんとなく予想はついていたのだけど。シグルド、これまでの縁談も『ユフィリア様に忠誠を誓えないやつなら必要ない』と言い切ってきたからだ。そんなシグルドにとって、ルヴィカの言葉はストライクゾーンだったに違いない。

 大概のご令嬢は、“未来の騎士団長の妻”という立場目当ての人ばかりだった。エルフィンとエドガー様が裏で縁談を潰していたけど。正に言質を取られたら不味いパターンだしね。下手すると『上手く王太子殿下の目に留まれば側室、あわよくば正妃に!』なんて令嬢もいたらしい。シグルドのこと、踏み台にする気満々ね。私も追い落とせるとか思われているけど。この頃の私は、婚約破棄狙います!と宣言してたから、余計にエルフィンが殺気立った。縁談持ってきた家とその縁談相手の令嬢に。というか、ルティウスやデュオも目が据わっていた。……………その令嬢たちと家に何があったかは想像に固くない。

 学院に入学するまでの私は、まるで知名度がなかったから、ある意味仕方ない評価ではあったのだけど。今は名実共に『王太子妃に相応しい令嬢』と認めてもらえたから、過去のことであれこれ悩む気はない。エルフィンたち、やり過ぎじゃ………と思うことはあったけど。

 まぁ………本人たちが納得しているのなら、とやかく言ったところで意味は無いのだけど。出来ればお互いに愛も芽生えて欲しい、と思ったのは私だけではなかったと思う。






 





 
 
 






  

 
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