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第四章 長期休暇中もやることは一杯です

答えは以外と身近にあったようです

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 シグルドとクーシェが共鳴者としての契約を交わして二日ほど経った。シグルドにもエルフィンと同じような変化があるのかと思われたのだけど、外見的な変化はみられなかった。その代わりなのか、精神面──シグルドがクーシェの言葉が頭の中に浮かぶと言っていた件──の変化はあったみたい。
 お互いの思考の共有化──要はシンクロさせることができるようになったのだとか。オンオフは切り替え可能のようだから、は、発動させないそうだ。だから、『これでシグルドのフォローも楽になる………!』とクーシェが呟いていたことは聞かなかったことにした。……………思ったよりも頻繁に使うかもしれない。使用目的(予定)が残念過ぎる───
 
…………………………現実逃避している場合ではなかった。
 おそらく事態が動くのは学院に戻ってからだろう、というのが私たちの共通の認識だ。だからこそ、長期休暇中に実力のレベルアップを図ることになった。魔王が転生している以上、これからの対策は念入りにしてもし過ぎることはないはずなのだから。

 既に、ラディ先輩や、ソールたちとの顔合わせは済んでいる。ラディ先輩は自分を偽る必要が無くなったからか、私たちしかいない時は本来の姿──魔族の容姿のこと──でいるつもりみたい。デュオと並んで挨拶にきた彼女は、本当に幸せそうだった。もちろん、デュオも。ミラも付き合っていることが周囲に明るみになってからは、クーシェといることが多くなった。私を守るためだけに側にいたように思えた時もあったから、この変化は素直に喜んだ。かつてエルフィンが言っていた『前世の感覚に引き摺られるな』というのは、私だけではなくて、デュオやミラにも当てはまるのだと思えたから。
 ソールやルヴィカさん──二人もとも、会うなり平身低頭だった──にも、改めて挨拶された。ルヴィカさんは、『未だご不快なお気持ちならば命を以て償います………!』と人生終わらせそうな勢いで謝られたので、『これからの働きに期待しています』と言ったら思い留まってくれた。──そう言えば大丈夫だとエルフィンに助言されたからだけど……効果はてきめんだった──………シグルドとは別な意味で忠誠心の篤いだと知った。思わず遠い目になった私は悪くないと思うの。何でって?………私たちに内密に諜報活動していたことを詫びてきたソールも、ルヴィカさんと似たり寄ったりだったからだけど、何か?

 また話が逸れました。学院に戻るまでに特訓する日を設けよう、となったのだけど。

「特訓をやるにあたって、誰に師事するかなのだが………」

 学院で成績は十番以内に入る面々とはいえ、実戦経験はない。魔族との交戦になるなら、きちんと闘い方を学ぶべき、となったのだけど………。

「正直な話、私たちは“実戦”というものを知らない。いざ、魔王を始めとする魔族と相対した時、上手く力を使えませんでした、では話にならん」
「そう、ですね………この中で魔族と交戦したことがあるのは、光の精霊ラピスフィアである姉上と、地の精霊クレイシェスだけですからね。でも───」
「私は治癒や補助系統を得意としているので………戦いを教える、というのは向いていないと思います」

 ルティウスの言葉に私は申し訳なく思いながら、つけ足した。光属性の魔術にも攻撃系はあるけど……エルフィンたちは、魔術だけではなく、武器も併用しながら戦うことになるため、遠距離からの戦闘が主な私では参考にならない。さらに残念なことに、クーシェもどちらかと言えば遠距離系。使う武器も鞭なため、近接系の武器を扱うエルフィンたちには、やっぱり参考にならない。

「精霊は基本的な戦闘術は魔術オンリーだからね………武闘派なの、フレイシーグとライドリンドくらいなものだよ。あと次点でヴァランディートとボクの主であるマクスウェル様。フォルティガはどっちかといえば、軍師タイプだしね」
「クーシェ……もしかして、彼らに頼むのですか?」
「魔族と交戦経験がある精霊がボクらぐらいしかいないからね。できれば頼りたくはなかったけど……背に腹は代えられないでしょ」

 クーシェは、デュオの質問にやや苦味を帯びた表情で答えた。 
 まぁ……精霊って精神生命体だから、物理的な攻撃系が不得意な者が大多数なのよね。あの時の戦いでは、物理攻撃もこなせる精霊が集ったとも言える。

「何やら嫌そうな様子だが……不仲にでもなっていたのか?」
「違う。どうにも精霊界で、精霊が見付かったって知らせが届いたんだよ………」
「なに!?」
「どういうことですか、それは………っ!」
「ラディのように、魔族から裏切る形でこちらについてくれる者もいるなら、その逆もあり、ということか………」
「笑えないことにね。だから、精霊の中でも主だった高位精霊は、専らその“裏切り者”を追うのに手を割かれてるから……」

 たしかに笑えない。かつての戦い以前より、精霊たちは人を善き隣人として契約を結び、彼らの繁栄に力を貸していた。
 とりわけ人間を“下等生物”と見下しがちな魔族とは衝突も多く、兼ねてから険悪な関係とも言えた。だから彼ら魔族が侵攻してきた時、人間を守るべく、みんな率先して戦った。本来なら契約していなければ、不干渉を貫く精霊が、だ。─────被害は決して軽くはなかったけど。
 それ以降は“人の世は人の力で”と、契約も干渉するのも控えるようになった、とクーシェは補足した。

「その裏切り者とやらは、何をやったんだ?」
「まあ、気になるよね………」
「高位精霊総出での追跡と言うなら、そいつも高位精霊なのか、クーシェ?」

 それまでずっと黙っていたシグルドが、クーシェに尋ねた。端的に言うだけなら、的を射てはいるけど………

「…………………………まぁ………ね……………スフィアラ様が先代からマクスウェルの名を継いだ際、代わって闇の精霊を統括するべく選ばれた奴だったからね」
「ということは、そいつは闇の高位精霊か……」
「そうだよ、シグルド。その闇の精霊の名はシャウド。たしか、あいつが気に入ったとかで、加護を与えた人間がいたかな………。それから、もう一つ。キミたちにとってもアレな話だけど………」
「なんだ、まだ最悪な知らせがあるのか」
「たぶん、ボクらにとっては、一番最悪かもね」
「「「「???」」」」

 クーシェと私を除いた四人が頭に疑問符を浮かべた。
 何故私が反応していないのかといえば、クーシェがそう評した時に見回したのがみんなの方だけだったからだ。疑問符は浮かんでないけれど、きょとん、とはしていたけどね。話が見えない。

「そいつが、例の新入生──あの自称ヒロインの転生に関わっていたらしいんだよ」
「「「「!!!!!」」」」
「え?」

 え?なに?何でみんな、そんなに殺気立ってるの!?自称ヒロインって、ウィアナさんのことだよね?

「ほぉ………?」
「ちょ………、エルフィン、気持ちは分かるけど、抑えて!!周りが凍り始めてる!!」
「………っ!すまない───」

 クーシェが慌ててエルフィンに声をかけた。彼がはっと我に返ると、氷はたちまち溶け出した。

「………その馬鹿はいつかしめる。クーシェ、加護を与えられた人間は誰だか分かるか?」
「ん?えーっと………なんていったか……………たしか………ケルニオ・ドーク・マラゾンって名付けられたってあいつが自慢気に話してた……………かな…………?ん?─────ッ!!!」
「………っ!!エルフィン様……」
「……分かっている、ルティウス。………限りなく、ではなくなったな……………!」
。何故クーシェたち精霊たちでさえ、これまで魔王の魂の行方が分からなかったのか、そして魔王が覚醒したらしき時期が何故今だったのかが」
「………っ!答えはすぐ側にあったって訳か───!!」

 クーシェは思わず拳を近くの壁に叩きつけた。私は手を強く握りしめた。どうやらシャウドは二重に裏切っていたみたいね……………



「そうか、気付かなかったとは………平和ボケし過ぎていたようだな」




………………………………………ん?一人称が“私”なのは、エルフィンだけなはず──(デュオやルティウスは、公式的な場では“私”と言っている)それに、これは女性の声だよね。何だかひどく───

 声のしたほうに視線を向けると、そこには─────私と瓜二つの容姿をした女性が立っていた。ただ、相違点を挙げるなら、彼女の髪の色は濡れ羽色といえるほど黒くて、瞳の色は濃紺だったけれど。
───ああ。彼女は、と思った。

「ふむ。中々鍛えがいがありそうだな?クレイシェス」
「…………………………えー……………そこはフォルティガを寄越すところでは?」
「あいつも後から合流すると言っていたから、問題はない。それに───」

 エルフィンたちを見回しながらそう言ったところで、私と目が合った。彼女は眼を細めると、私の側へとやってきた。そして、ぎゅっと抱き締めてくる。

「会いたかった………ラピスフィア………───」
「うん。貴女も元気そうでよかった」
「ユフィ、その者は───?」
「はい、彼女は───」
「あ………すまない、挨拶もないとは、失礼した」

 エルフィンが声をかけてきたことで、彼女は我に返ったようだ。エルフィンを正面にして、みんなを見回したあと、丁寧にお辞儀をする。

「初めまして、と言うべきだな、かつての盟友の末裔たち、そして………カイセルギウスの後継者よ。まあ、もう分かっているかもしれないが………私はラピスフィアとは双子精霊である闇の精霊スフィアラという───今は、先代より継いだマクスウェルの名を名乗っている」

 ほとんど確信を得ていたとはいえ、みんな、『精霊王マクスウェル』直々の降臨には驚きを隠せなかったみたい。
 私も充分驚いてはいるけど、懐かしさの方が優っていた。

 

 

 


 

 
 

 

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