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第3章 魔法学院入学、“ゲーム”が始まりました
歓迎会をしましょう3~ダンスパーティー編~
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エルフィン様が言っていた“望み”とはなにか。
そして今後どうしていこうか考えているうちに、ダンスパーティーの開始時刻が迫って来たので、会場として設営にも携わったダンスホールへ向かいました。(ダンスパーティーでもイベントはある)
因みにウィアナさんだけど、午後一杯は生徒指導室で反省文を書かされていたようだ。(私は“特別な存在”なのにとか終始喚いていたらしい)一応、ダンスパーティーへの参加は認められたそうだけど。会場まで連れてきた担任の先生が彼女に、『パーティー中は殿下に近づかないように』とか、『自分からダンスに誘わない』などと忠告していた。……………午前中の様子をみるに、守れるか怪しいところだと思われてはいるよう。
そして、ゲームイベントだけど、攻略対象者全員、関係する。平民であるため、ダンスなどしたことがなく、壁際で所在なさげにしているところを彼らからダンスを申し込まれる、というイベント。
このイベントは選択式で展開が大きく変わる。会場の隅にいる時に出る選択肢の中から、その人物に該当するものを選んでいく。初めに出てくるのは、以下の三つ。
A・『オリエンテーションであの人と一緒だったな……』
B・『オリエンテーションでのことは忘れよう……』
C・『オリエンテーションでも一人だったしな……』
この選択肢で、Aを選ぶと、オリエンテーションで一緒に見学した攻略者の中から、Bを選ぶと、それ以外の攻略者の中からになる。
ちなみにこれ、Cを選ぶと、逆ハーレムルートに突入し(この選択肢が出るのは、クーシェルートを解放した後のみ。一学年下のルティウスは、来年度の交流会イベントで選べるようになる)、なんと攻略者全員からダンスに誘われ、みんなと次々に踊ることになる。
そこで登場するのが、『悪役令嬢ユフィリア』だ。どの選択肢でも、ぎこちないながらも楽しそうに踊っているヒロインに、『平民如きが何様のつもりなの』と蔑み、嫌がらせをするのだ。
ダンスが終わり、相手が離れたところを見計らい、手が滑ったフリをしてグラスの中の飲み物をかけたりする………まあ、テンプレートな嫌がらせをするわけだ。───ヒロインも踊った後の余韻でぼーっとしてて、『ユフィリア』にぶつかってしまっていたけど───というのが、ゲームのダンスパーティーイベント。
さて、ここで一つ問題です。
Q.私たちは今日、何の担当だったでしょう?
A.オリエンテーションとダンスパーティーの主催です。
つまり、何が言いたいのかと言うと。主催だから、飲み物や軽食の手配、演奏する曲の指示、会場の司会進行など、生徒会役員のやることはここでも多岐にわたるため、ヒロインどころか、相手を探してダンスに誘っている暇などない。(因みに、エルフィン様は生徒会長、私は副会長、ルティウスは会計)
シグルドは風紀委員長、クーシェは副委員長として、会場周辺の巡回を担当しているため、そもそも会場内にいない。
シオンは他の生徒会役員───前に話に出てきた、平民出の先輩、庶務のラディ・ドリスさん(生徒会長にという声も出たのだけど、本人が固辞し、エルフィン様が選出された。この先輩は女性。ちなみに先輩、デュオと会話している時、顔を赤らめながら嬉しそうに話している。
もう一つ補足すると、先輩は二年前の新入生総代)、書記のソール・ウリギア伯爵子息(聞き覚えがあるだろうけど、去年私に絡んできたあの伯爵令嬢の弟さんだそう。ちなみに彼は今年の新入生総代。入学式のすぐあと、『姉がとんだ醜態を晒し、申し訳ありませんでした!!』と謝罪にきた。あのお姉さんと違って、生真面目な子のようだ)と、共に会場内の演出を担当しているため、完全な裏方である。
とにかく、今日一日は嫌がらせに割いている時間など無いわけで。
明日以降から計画を立てていかないと……………。
大方の貴族の子息や令嬢は、既に婚約者が決まっている者が多いため、みんなその相手と踊る。(そうでない人たちも、きちんと男の子から声を掛けていた)平民出の新入生たちも、顔見知りがいたのか、お互いにアイコンタクトをして男の子から誘っていた。オリエンテーションでのウィアナさんのアレを見て、担任にしっかり確認を取る新入生が続出していたとか。そんな中、ウィアナさんに声をかける男子生徒もいるにはいた。(物珍しさからみたいだけど)
ただ、ウィアナさん、せっかく誘ってくれるその人たちに「モブが近寄ってくるんじゃないわよ! あたしに声をかけていいのは攻略キャラのみんなだけよ!!」なんてことを言って蹴散らしていたからか、終盤には誰も声をかける人なんていなくなった。
ウィアナさん………その言葉の意味が通じるの、同じ転生者の人くらいだよ。
例え意味が通じても、敬遠したくなると思うけどね、そんな態度じゃ。そして、そこでそわそわしながら待っていても、攻略対象のみんな、持ち場から離れられないから誘われるの無理だよ……………。そうでなくてもみんな、あなたのこと、嫌ってるみたいだし。
そんな風に思いながら、ダンスではなく歓談に興じている他の生徒たちの様子を見ながら、もうそろそろ歓迎会もフィナーレだな………と思っていた時だった。
「ユフィ」
私の事を呼ぶその声の主───エルフィン様が、近くに寄ってきた。
オリエンテーションの時の話がことが脳内に甦る───
『お前の目論見が成功すれば、望み通りにしてやる。だが、それが失敗したら、私の望みを聞いてもらうぞ?』
うぅ……なんかいろいろ想像してしまう…………………………本当になんなんだろう………?
「ユフィ?」
「っ! あ………申し訳ありません、エルフィン様…………」
「いや? お前が私のことを意識してくれているようで嬉しいよ」
エルフィン様に再び抱き込まれながら、頤を上げられる。
今私、間違いなく顔が真っ赤になっていると思う。そんな私の様子をエルフィン様が「くくっ………」と面白げに眺めているのがなんだか悔しかった。
後日、ルティウスからは「僕には殿下が姉上のことを愛おし気に見つめているようにしか見えなかったです……」と言われた。
「そろそろダンスパーティーも、終わりだ。だから、お前の元へきたんだ」
「えっ?」
エルフィン様がそう切り出したところで、はっと我に返った。
私からいったん身体を離し、手を差し出した。あれ?これって─────
「ユフィ。私と踊ってくれないか───?」
「────っ! ……は……い」
治まったはずの顔の熱がまた再燃しました。(一気にボンって!!)私は、一瞬固まったものの、なんとかエルフィン様の誘いに応えた。(嬉しいやら恥ずかしいやらでぐるぐるしていただけで、決して嫌ではなかった)私の返答に間があった理由をエルフィン様はお見通しのようだった。うぅ。
どうやら、王族であるエルフィン様がラストダンスを頼まれたみたい。
エルフィン様に導かれながら、ダンスホールの中心まできた。私達に気付いた新入生たちは慌てて、在校生たちは心得た、とばかりにさっと隅に下がっていく。
エルフィン様は片手を上げて──もう片方は私の腰を支えたまま──、楽団員へ合図を送る。そして、私とエルフィン様のダンスパーティーのラストを飾るダンスが始まった。
私は終始、エルフィン様しか見ていなかった。(それでもバランスが崩れなかったのは、王妃様による淑女教育の賜です)
踊り始める直前、耳元でエルフィン様が「ダンスが終わるまでは、私だけを見ていろ」なんていうものだから、その言葉が頭の中を反響してて、周りを見る余裕なんてなかった。
だから、ウィアナさんが怒りを宿した瞳でまた私を睨みつけているのにも、もちろん気づかなかった。
で、ここで思い出すのが社交界の礼儀作法。ダンスに誘うのは男性から。そして、エルフィン様は王族。王族側からの誘いを断るというのは、王家への叛意を疑われかねない。まぁ、普通は断ろうとは思わない。(むしろ、令嬢の方は『私を誘って!』とばかりに熱の籠った視線を送りまくってる。ウィアナさんのギラついた視線もあった)
だから、エルフィン様が私の元へまっすぐに向かったのを見て、やっぱり……とがっかりする令嬢は多かった。
私たちのダンスが終わり、拍手とともに歓声を浴びて我に返った。───ヒロインのゲームイベント、私がやっちゃったなぁ…………と。彼女もそれは分かっているはずだよね………どうしよう。
「お疲れ様です。殿下、姉上。素晴らしいダンスでした」
そう言って、ルティウスが私とエルフィン様に飲み物を差し出してくれた。果物をふんだんに使ったそれは、飲んでみるとすっきりとした味わいだった。おいしい~。
すると近くで別の飲み物を飲んでいたエルフィン様が「どんな味なんだ?」と、私の顔を自分の方へ向けた────え?
エルフィン様にキスされていると気付き、私の頭はパニックになっていた。
ちょ!? エルフィン様、ここ公衆の面前!! 「っふ………ん………ぁ……」変な声が出る……! 何して…………って、何故に舌が私の口の中─────
その辺りで私の脳内はキャパシティをオーバーした。エルフィン様が唇を離してくれたあとも、私はエルフィン様にしがみつくのもやっとだった。(エルフィン様が然り気無く魔力喰いを発動し、それにより魔力を喰われていることにも気付かなかった)
「はっ………はぁ………エルフィン様………まさか、私の……はぁ……嫌がらせ…………を阻止するために…………やってませんか?」
「私がしたいからしているだけだが? (まぁ、半分は、な)」
「え?」
「いや、なんでもない」
皆にはただキスしているようにしか見えなかったらしい。………これまた後日聞かされたけど、周囲の面々は、二つの反応に別れた。子息たちは顔を赤くして視線を逸らし、令嬢たちは口元に手を充てながらも、しっかり凝視していたらしい。平民出の人たちも、男女それぞれの反応だったとか。…………………………みんながそんなリアクションをしている頃、私はというと、前世でも今世でも初のディープなキスに、息も絶え絶えだったんだけど。
そんな状態だったから、私が飲み物を受け取ったその時、ウィアナさんが質の悪い笑みを浮かべて近寄ってくるのも視界に入っていなかった。エルフィン様が顔を羞恥で真っ赤にしたルティウスに小声で「(時と場所を考えてください………!!)」「(すまない………つい……だがな……)」「(言い訳しない!!)」「(お前、最近小言が多いぞ………)」叱られている時だった───
「きゃっ!? あっ……………うっ!」
「きゃあっ!ごめぇんなさぁ~いっ! ……………って、え?」
どんっと何かに勢いよくぶつかられ、エルフィン様とのあれこれ(魔力喰い+ディープキス)によって立っているのがやっとだった私は、身体を踏ん張れず、そのまま倒れてしまった。───ただ、頭を床にぶつけそうになる瞬間、もふっとしたものが間に挟まった(『くみゅっ』)おかげで、衝撃はだいぶ緩和された。
「ユフィ! 大丈夫か?」
「あ……はい……この子が咄嗟に割って入ってくれたので………ありがと………ミラ」
『くるるっ!』
急いで私を抱き起こしてくれたエルフィン様になんとかそう返しつつ、ミラにもお礼を言った。……ミラの体が若干凹んでいるように見えるのは気のせいだと思いたい。
そして、彼の手を借りて立ち上がろうと───
「いっ!!」
「ユフィ!?」
『くるっ!?』
立ち上がろうとして、ズキッとした痛みに、また倒れ込んでしまう──今度はエルフィン様が抱き留めてくれた。どうにも、最初に倒れた時に、足を捻ったらしい。そのままエルフィン様は私を横抱きにしながら、立ち上がった。
「あっ………エルフィン様?」
「(想定外だったな………)すぐに寮へ戻ろう。私の魔術で冷やせば、痛みもマシになるはずだ。ルティウス、すまないが……………」
「お任せを。(シオンもいますし、アレの処遇はこちらで処理しておきます)」
「ん。頼む──行こうか、ユフィ」
「はい………すみま「謝るな。目を離した私の落ち度だ」………いえ、私も気を付けなければならなかったのに………ですから、これでおあいこです」
「ユフィ─────った!?」
ルティウスと別れ、ダンスホールを後にした。運んでもらっている最中、謝り合いになり、埒が明かないなと思った私は、エルフィン様の額にビシっとデコピンをした。頑丈なエルフィン様のことだ、そこまでのダメージにはならないだろう。衝撃がきたくらいだと思う。
「ふふっ………エルフィン様、今面白い顔をされてますよ………?」
「~~~~~っ!! お、前なぁ………っ!」
片手を額に充てながら(片手で私をしっかり支えてくれていた)目を白黒させるこの方が可笑しくて、思わず笑ってしまった。今度はエルフィン様が顔を真っ赤にする番だった。
寮についてすぐ、エルフィン様が氷の魔術で冷やしてくれた。熱をもってきてじんじんしてきていた痛みも、だいぶ楽になった。
翌日、保険医の先生に診てもらったところ、処置が速かったことが効を奏したのか、「数日もあれば治るでしょう」と診断された。
で、ウィアナさんなのだけど………本人は「余所見をしていたらぶつかってしまった」「わざと転んだんじゃないの」って訴えていたらしいのだけど、私にぶつかる前から見ていたラディ先輩によれば、「あれは、どうみても悪意を持ってぶつかってました! だって、ユフィちゃんに向かって一直線に走ってったもの!」だ、そうだ。
ちなみに、ラディ先輩には生徒会入りしてすぐの頃に、「先輩なのですから、楽に話してくださって構いませんよ」と言ったら、「助かるわ! 凄い喋りづらかったの!」とすぐに順応していた。
……………まあ、その話は置いておいて。他の目撃した人───というか、あの時はみんな私とエルフィン様を注視していたので、ウィアナさんの弁明は聞き入れられなかった。
結局、ウィアナさんは一ヶ月の停学処分となった。ウィアナさん、まだ何か喚いていたらしいけど、シオンが「退学になりたくないなら、一月おとなしくしていろ」と言ったらぴたっと文句がやんだのだとか。───もしかして、庇われたとか思ってない? シオン、むしろ脅してたような気がしたのだけど。
そして今後どうしていこうか考えているうちに、ダンスパーティーの開始時刻が迫って来たので、会場として設営にも携わったダンスホールへ向かいました。(ダンスパーティーでもイベントはある)
因みにウィアナさんだけど、午後一杯は生徒指導室で反省文を書かされていたようだ。(私は“特別な存在”なのにとか終始喚いていたらしい)一応、ダンスパーティーへの参加は認められたそうだけど。会場まで連れてきた担任の先生が彼女に、『パーティー中は殿下に近づかないように』とか、『自分からダンスに誘わない』などと忠告していた。……………午前中の様子をみるに、守れるか怪しいところだと思われてはいるよう。
そして、ゲームイベントだけど、攻略対象者全員、関係する。平民であるため、ダンスなどしたことがなく、壁際で所在なさげにしているところを彼らからダンスを申し込まれる、というイベント。
このイベントは選択式で展開が大きく変わる。会場の隅にいる時に出る選択肢の中から、その人物に該当するものを選んでいく。初めに出てくるのは、以下の三つ。
A・『オリエンテーションであの人と一緒だったな……』
B・『オリエンテーションでのことは忘れよう……』
C・『オリエンテーションでも一人だったしな……』
この選択肢で、Aを選ぶと、オリエンテーションで一緒に見学した攻略者の中から、Bを選ぶと、それ以外の攻略者の中からになる。
ちなみにこれ、Cを選ぶと、逆ハーレムルートに突入し(この選択肢が出るのは、クーシェルートを解放した後のみ。一学年下のルティウスは、来年度の交流会イベントで選べるようになる)、なんと攻略者全員からダンスに誘われ、みんなと次々に踊ることになる。
そこで登場するのが、『悪役令嬢ユフィリア』だ。どの選択肢でも、ぎこちないながらも楽しそうに踊っているヒロインに、『平民如きが何様のつもりなの』と蔑み、嫌がらせをするのだ。
ダンスが終わり、相手が離れたところを見計らい、手が滑ったフリをしてグラスの中の飲み物をかけたりする………まあ、テンプレートな嫌がらせをするわけだ。───ヒロインも踊った後の余韻でぼーっとしてて、『ユフィリア』にぶつかってしまっていたけど───というのが、ゲームのダンスパーティーイベント。
さて、ここで一つ問題です。
Q.私たちは今日、何の担当だったでしょう?
A.オリエンテーションとダンスパーティーの主催です。
つまり、何が言いたいのかと言うと。主催だから、飲み物や軽食の手配、演奏する曲の指示、会場の司会進行など、生徒会役員のやることはここでも多岐にわたるため、ヒロインどころか、相手を探してダンスに誘っている暇などない。(因みに、エルフィン様は生徒会長、私は副会長、ルティウスは会計)
シグルドは風紀委員長、クーシェは副委員長として、会場周辺の巡回を担当しているため、そもそも会場内にいない。
シオンは他の生徒会役員───前に話に出てきた、平民出の先輩、庶務のラディ・ドリスさん(生徒会長にという声も出たのだけど、本人が固辞し、エルフィン様が選出された。この先輩は女性。ちなみに先輩、デュオと会話している時、顔を赤らめながら嬉しそうに話している。
もう一つ補足すると、先輩は二年前の新入生総代)、書記のソール・ウリギア伯爵子息(聞き覚えがあるだろうけど、去年私に絡んできたあの伯爵令嬢の弟さんだそう。ちなみに彼は今年の新入生総代。入学式のすぐあと、『姉がとんだ醜態を晒し、申し訳ありませんでした!!』と謝罪にきた。あのお姉さんと違って、生真面目な子のようだ)と、共に会場内の演出を担当しているため、完全な裏方である。
とにかく、今日一日は嫌がらせに割いている時間など無いわけで。
明日以降から計画を立てていかないと……………。
大方の貴族の子息や令嬢は、既に婚約者が決まっている者が多いため、みんなその相手と踊る。(そうでない人たちも、きちんと男の子から声を掛けていた)平民出の新入生たちも、顔見知りがいたのか、お互いにアイコンタクトをして男の子から誘っていた。オリエンテーションでのウィアナさんのアレを見て、担任にしっかり確認を取る新入生が続出していたとか。そんな中、ウィアナさんに声をかける男子生徒もいるにはいた。(物珍しさからみたいだけど)
ただ、ウィアナさん、せっかく誘ってくれるその人たちに「モブが近寄ってくるんじゃないわよ! あたしに声をかけていいのは攻略キャラのみんなだけよ!!」なんてことを言って蹴散らしていたからか、終盤には誰も声をかける人なんていなくなった。
ウィアナさん………その言葉の意味が通じるの、同じ転生者の人くらいだよ。
例え意味が通じても、敬遠したくなると思うけどね、そんな態度じゃ。そして、そこでそわそわしながら待っていても、攻略対象のみんな、持ち場から離れられないから誘われるの無理だよ……………。そうでなくてもみんな、あなたのこと、嫌ってるみたいだし。
そんな風に思いながら、ダンスではなく歓談に興じている他の生徒たちの様子を見ながら、もうそろそろ歓迎会もフィナーレだな………と思っていた時だった。
「ユフィ」
私の事を呼ぶその声の主───エルフィン様が、近くに寄ってきた。
オリエンテーションの時の話がことが脳内に甦る───
『お前の目論見が成功すれば、望み通りにしてやる。だが、それが失敗したら、私の望みを聞いてもらうぞ?』
うぅ……なんかいろいろ想像してしまう…………………………本当になんなんだろう………?
「ユフィ?」
「っ! あ………申し訳ありません、エルフィン様…………」
「いや? お前が私のことを意識してくれているようで嬉しいよ」
エルフィン様に再び抱き込まれながら、頤を上げられる。
今私、間違いなく顔が真っ赤になっていると思う。そんな私の様子をエルフィン様が「くくっ………」と面白げに眺めているのがなんだか悔しかった。
後日、ルティウスからは「僕には殿下が姉上のことを愛おし気に見つめているようにしか見えなかったです……」と言われた。
「そろそろダンスパーティーも、終わりだ。だから、お前の元へきたんだ」
「えっ?」
エルフィン様がそう切り出したところで、はっと我に返った。
私からいったん身体を離し、手を差し出した。あれ?これって─────
「ユフィ。私と踊ってくれないか───?」
「────っ! ……は……い」
治まったはずの顔の熱がまた再燃しました。(一気にボンって!!)私は、一瞬固まったものの、なんとかエルフィン様の誘いに応えた。(嬉しいやら恥ずかしいやらでぐるぐるしていただけで、決して嫌ではなかった)私の返答に間があった理由をエルフィン様はお見通しのようだった。うぅ。
どうやら、王族であるエルフィン様がラストダンスを頼まれたみたい。
エルフィン様に導かれながら、ダンスホールの中心まできた。私達に気付いた新入生たちは慌てて、在校生たちは心得た、とばかりにさっと隅に下がっていく。
エルフィン様は片手を上げて──もう片方は私の腰を支えたまま──、楽団員へ合図を送る。そして、私とエルフィン様のダンスパーティーのラストを飾るダンスが始まった。
私は終始、エルフィン様しか見ていなかった。(それでもバランスが崩れなかったのは、王妃様による淑女教育の賜です)
踊り始める直前、耳元でエルフィン様が「ダンスが終わるまでは、私だけを見ていろ」なんていうものだから、その言葉が頭の中を反響してて、周りを見る余裕なんてなかった。
だから、ウィアナさんが怒りを宿した瞳でまた私を睨みつけているのにも、もちろん気づかなかった。
で、ここで思い出すのが社交界の礼儀作法。ダンスに誘うのは男性から。そして、エルフィン様は王族。王族側からの誘いを断るというのは、王家への叛意を疑われかねない。まぁ、普通は断ろうとは思わない。(むしろ、令嬢の方は『私を誘って!』とばかりに熱の籠った視線を送りまくってる。ウィアナさんのギラついた視線もあった)
だから、エルフィン様が私の元へまっすぐに向かったのを見て、やっぱり……とがっかりする令嬢は多かった。
私たちのダンスが終わり、拍手とともに歓声を浴びて我に返った。───ヒロインのゲームイベント、私がやっちゃったなぁ…………と。彼女もそれは分かっているはずだよね………どうしよう。
「お疲れ様です。殿下、姉上。素晴らしいダンスでした」
そう言って、ルティウスが私とエルフィン様に飲み物を差し出してくれた。果物をふんだんに使ったそれは、飲んでみるとすっきりとした味わいだった。おいしい~。
すると近くで別の飲み物を飲んでいたエルフィン様が「どんな味なんだ?」と、私の顔を自分の方へ向けた────え?
エルフィン様にキスされていると気付き、私の頭はパニックになっていた。
ちょ!? エルフィン様、ここ公衆の面前!! 「っふ………ん………ぁ……」変な声が出る……! 何して…………って、何故に舌が私の口の中─────
その辺りで私の脳内はキャパシティをオーバーした。エルフィン様が唇を離してくれたあとも、私はエルフィン様にしがみつくのもやっとだった。(エルフィン様が然り気無く魔力喰いを発動し、それにより魔力を喰われていることにも気付かなかった)
「はっ………はぁ………エルフィン様………まさか、私の……はぁ……嫌がらせ…………を阻止するために…………やってませんか?」
「私がしたいからしているだけだが? (まぁ、半分は、な)」
「え?」
「いや、なんでもない」
皆にはただキスしているようにしか見えなかったらしい。………これまた後日聞かされたけど、周囲の面々は、二つの反応に別れた。子息たちは顔を赤くして視線を逸らし、令嬢たちは口元に手を充てながらも、しっかり凝視していたらしい。平民出の人たちも、男女それぞれの反応だったとか。…………………………みんながそんなリアクションをしている頃、私はというと、前世でも今世でも初のディープなキスに、息も絶え絶えだったんだけど。
そんな状態だったから、私が飲み物を受け取ったその時、ウィアナさんが質の悪い笑みを浮かべて近寄ってくるのも視界に入っていなかった。エルフィン様が顔を羞恥で真っ赤にしたルティウスに小声で「(時と場所を考えてください………!!)」「(すまない………つい……だがな……)」「(言い訳しない!!)」「(お前、最近小言が多いぞ………)」叱られている時だった───
「きゃっ!? あっ……………うっ!」
「きゃあっ!ごめぇんなさぁ~いっ! ……………って、え?」
どんっと何かに勢いよくぶつかられ、エルフィン様とのあれこれ(魔力喰い+ディープキス)によって立っているのがやっとだった私は、身体を踏ん張れず、そのまま倒れてしまった。───ただ、頭を床にぶつけそうになる瞬間、もふっとしたものが間に挟まった(『くみゅっ』)おかげで、衝撃はだいぶ緩和された。
「ユフィ! 大丈夫か?」
「あ……はい……この子が咄嗟に割って入ってくれたので………ありがと………ミラ」
『くるるっ!』
急いで私を抱き起こしてくれたエルフィン様になんとかそう返しつつ、ミラにもお礼を言った。……ミラの体が若干凹んでいるように見えるのは気のせいだと思いたい。
そして、彼の手を借りて立ち上がろうと───
「いっ!!」
「ユフィ!?」
『くるっ!?』
立ち上がろうとして、ズキッとした痛みに、また倒れ込んでしまう──今度はエルフィン様が抱き留めてくれた。どうにも、最初に倒れた時に、足を捻ったらしい。そのままエルフィン様は私を横抱きにしながら、立ち上がった。
「あっ………エルフィン様?」
「(想定外だったな………)すぐに寮へ戻ろう。私の魔術で冷やせば、痛みもマシになるはずだ。ルティウス、すまないが……………」
「お任せを。(シオンもいますし、アレの処遇はこちらで処理しておきます)」
「ん。頼む──行こうか、ユフィ」
「はい………すみま「謝るな。目を離した私の落ち度だ」………いえ、私も気を付けなければならなかったのに………ですから、これでおあいこです」
「ユフィ─────った!?」
ルティウスと別れ、ダンスホールを後にした。運んでもらっている最中、謝り合いになり、埒が明かないなと思った私は、エルフィン様の額にビシっとデコピンをした。頑丈なエルフィン様のことだ、そこまでのダメージにはならないだろう。衝撃がきたくらいだと思う。
「ふふっ………エルフィン様、今面白い顔をされてますよ………?」
「~~~~~っ!! お、前なぁ………っ!」
片手を額に充てながら(片手で私をしっかり支えてくれていた)目を白黒させるこの方が可笑しくて、思わず笑ってしまった。今度はエルフィン様が顔を真っ赤にする番だった。
寮についてすぐ、エルフィン様が氷の魔術で冷やしてくれた。熱をもってきてじんじんしてきていた痛みも、だいぶ楽になった。
翌日、保険医の先生に診てもらったところ、処置が速かったことが効を奏したのか、「数日もあれば治るでしょう」と診断された。
で、ウィアナさんなのだけど………本人は「余所見をしていたらぶつかってしまった」「わざと転んだんじゃないの」って訴えていたらしいのだけど、私にぶつかる前から見ていたラディ先輩によれば、「あれは、どうみても悪意を持ってぶつかってました! だって、ユフィちゃんに向かって一直線に走ってったもの!」だ、そうだ。
ちなみに、ラディ先輩には生徒会入りしてすぐの頃に、「先輩なのですから、楽に話してくださって構いませんよ」と言ったら、「助かるわ! 凄い喋りづらかったの!」とすぐに順応していた。
……………まあ、その話は置いておいて。他の目撃した人───というか、あの時はみんな私とエルフィン様を注視していたので、ウィアナさんの弁明は聞き入れられなかった。
結局、ウィアナさんは一ヶ月の停学処分となった。ウィアナさん、まだ何か喚いていたらしいけど、シオンが「退学になりたくないなら、一月おとなしくしていろ」と言ったらぴたっと文句がやんだのだとか。───もしかして、庇われたとか思ってない? シオン、むしろ脅してたような気がしたのだけど。
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