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第3章 魔法学院入学、“ゲーム”が始まりました

ヒロインと出会いました

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 私──ユフィリアが、エルフィン様、ルティウスと共にこのシンフォニウム魔法学院に入学してきて早一年。

 今日はゲームのヒロインが入学してくる日。そして、エルフィン様達がヒロインに会って恋に落ちていく始まりの日………ヒロインの子、いい子だといいな。
 ゲームのヒロインなのだから、可愛くて、性格も素晴らしいに決まってるのだけど。(デュオには、むしろ警戒すべきですと言われた)
 その時、ふと扉をノックする音が聴こえた。

「はい? 空いているので、どうぞ?」 

 私が許可するのを待って、入ってきたのはエルフィン様だった。

「準備は出来たか? そろそろ我々生徒会メンバーは会場入りしていないといけないから、迎えにきた」
「あ、はい、それは大丈夫です。……ありがとうございます、わざわざきてくださるなんて……」
「婚約者なんだ、当たり前だろう? それと───」

 そう言いつつ、私の側にやってきたエルフィン様は、徐に私を抱き寄せた。

「………エルフィン、様……?」
「式の前だ……………?」
「エ…………んぅ!? ………………んっ」
「………っふ…………ん………」

 エルフィン様の手が私の顎を掬い上げ、そのままキスをしてくる。そして、魔力喰いマジックイーターが発動し、魔力が吸い上げられることによる感覚が私を襲う。ゾクゾクと身体が震え、恍惚としてくる。このまま、身を任せてしまいたいくらいに─────

 暫くして、エルフィン様が唇を離した。途端に私の身体は脱力し、エルフィン様はそれを危なげなく支えてくれた。
 現実の時間はものの数分だったけど、体感時間としてはかなり長く感じられた。唇を舐めるエルフィン様は何とも言えない妖艶さを纏っていた。

「……ふぅ。? ユフィリア」
「…………何も………入学式の……前でなくても……………」
「すまない。対策をしておきたくてな」
「……はい?」

 例の件? という私の疑問に、エルフィン様は意味深に微笑むだけで、教えてくれなかった。飢餓感があったわけでもなさそうだし、何故今だったのかな……?


 気怠る気な私を支えたまま、エルフィン様は入学式を行う講堂へ移動し始めた。……………さっきから在校生の人たちの視線を感じるよぅ………エルフィン様に寄りかかって歩くのが精一杯で、周りを見渡してる余裕、ないけどね……………
───入学式の日は、ヒロインが攻略対象者たちに初めて会うイベントが盛りだくさんなのよね。
 そういえばエルフィン様とヒロインの出会いイベントは、『ユフィリア』がエルフィン様にベタベタしながら移動している最中だったような………
 今の状況、まさにそれだよね。ヒロインが来てくれないと嫌がらせできないし、でもまだ気怠さが抜けない─────
 そこまで考えていたところで、不意にエルフィン様が足を止めた───かと思ったら、突然私を横抱きにした。俗に言う“お姫様抱っこ”……………! さらに周囲の視線が増えたぁ………!! え? なに!? なんで!?

「きゃあー、そこどい…………えっ? ………ぷげっ!!」

─────え?
 エルフィン様が私を横抱きにした直後、棒読みな悲鳴が聴こえたと思ったら、どさっという音と共に、潰れた蛙のような声が続いた。
 視線を向けると──エルフィン様に抱えられたままなので見下ろした、が正しいと思う──、そこにはやや小柄な女の子が地面にベタっとうつ伏せになっていた。
 あ、因みに私もあれから身長が伸びました。大体一六〇㎝くらいかな?まあ、それでもエルフィン様たちの方が遥かに高いんだけど。
 それはともかく。

 ……………あれ? 状況的に、もしかしてこの子、ヒロイン……………?
 緩いウェーブがかかっている亜麻色の髪に、今は見えないけど……あ。今顔を上げた。(そして、驚愕に眼を見開いた。?)眼は、ぱっちりとしたグレーの瞳。間違いない。───

 エルフィン様とヒロインの出会いは、入学式が行われる講堂の道すがらになる。その日ヒロインは、公共馬車の出発が遅れ、学院到着が入学式が始まるギリギリの時間になってしまい、会場の講堂まで慌てて走っていた。講堂を目前にして、目の前に人がいることに気付き、『すみません!! 道を空けてください……!!』と叫ぶのだが、『ユフィリア』に足を引っかけられ、転んでしまう。『あら。ごめんなさい? ぶつかられそうだったから、つい足がでちゃったわ。そもそも、こんなところに薄汚い平民がいる方がおこがましいのよ。無様に転ぶなんてなんてみっともないのかしら』なんて、言葉を投げ掛けられ、呆然としているところに、エルフィン様が『そこの者。大丈夫か……?』と手を差し伸べる。そしてヒロインは、『あ……ありがとう……ございます………』とその手をおずおずと握る─────と、いうのが二人の出会いイベントなのだけど………
 エルフィン様に横抱きにされちゃったものだから、足を引っかけることができなかったのよね……。そもそもいつからきてたのか気がつかなかった………──(声もかなり至近距離になるまで聴こえなかったし)──。頭が真っ白になって、我に返るのに時間がかかっていたから、『ユフィリア』のあの台詞も言えなかったし(そもそも横抱きにされたまま言ってもなんか違うよね)。

「そこの者……大丈夫か?」

 エルフィン様がそう声をかける。(あ。イベント通りの台詞)ヒロインは暫し呆然としていたけど、エルフィン様のその台詞で喜色の表情を浮かべた───「はい! ありが───あれ?」──んだけど、伸ばした手は空を切った。そして、(羞恥でかな?)固まった。まあ、エルフィン様、私を横抱きにしたままだからね………手を差し伸べられるわけないよね。(……というか、随分元気な様子だよね。おずおずとじゃなくて、勢いよく手を出したし。さっき結構派手に転んでいたような気がしたけど……怪我はなさそう?)そんな私の心の声が聴こえたわけではないけれど、エルフィン様が口を開いた──ただし、かなり冷たい声音だったけど。←何でそんな態度? ゲームと展開が違うよね、これ。

「……特に怪我は無さそうだな。次からは、前も見ずに走らないように気を付けるといい。そうでなくとも今日は人が多い。───では、行こうか、

 ヒロインへそう忠告して、最後に私に向けて優しく微笑むと(変わり身が速かった)、エルフィン様は歩き出しました。あれ? イベントは──? というか、エルフィン様、どさくさに紛れて私のこと、愛称で呼びましたね? ヒロイン、大丈夫かな……とちらっと見て、びくっとした。
 彼女が射殺さんばかりの瞳で、私を睨んでいたからだ。慌てて視線を反らした。すると──「ユフィリア。」──エルフィン様が、私を抱えていた腕の力をやや強めた。どうやら無自覚にエルフィン様の服を握っていたらしい。そのお陰か心は幾分か落ち着いた。

ヒロインに声が届かない距離になったところで、私はエルフィン様に話しかけた。

「ありがとうございます……エルフィン様」
「久しぶりに向けられた悪意に身体が過剰に反応したのだろう。気にするな。去年の二の舞にすまいと、側にいたのにすまなかったな」
「いえ、もう大丈夫です……………あ、さっきの子がゲームのヒロインだったようなんですが………あのままでよろしかったのですか?」
「ああ、がそうだったのか。、何かのタイミングを図るみたいに尾けて来ていたから、何処の手の者かと思ったぞ」
「え!? 学院の門から真っ直ぐ走って来たんじゃなかったのですか!?」

 おかしいな。遅刻しそうで慌てて走ってたんじゃなかったの?

「私たちがこうやってゆっくり歩いていても充分間に合う時間帯なのに、何故慌てる必要がある。そもそも、。一時間以上は先のはずだぞ?」
「あ」

 …………………………そういえばそうでした。今の時刻は七時頃。新入生入場が九時半。そして、入学式が十時から始まる。(新入生が学院に入れるのは八時からだ)エルフィン様も私も、生徒会のメンバーだから早めに来て、入学式の最終打ち合わせのために移動してたんだもんね。────あれ? ってことは彼女、どうやって入ったんだろう? 本来のイベントも、まだ先だったってことだよね?
 私がそう思っていた時だった──

「殿下、ユフィリア様、ご無事ですか!?」

 そう言って駆け寄ってきたのは、学院教師のシオンだった。

「ん? どういう意味だ?」
「あ、いえ……ボクは報告を受けただけですが、どうやらいたらしくて。学院の守衛が『私はなんだから通しなさいよ!』とおかしなことを言って、強引に突破した不審者がいた、と言っていまして………幸いにもそいつは直ぐに見つかったようです。転んだのか、地面に這いつくばっていたところを確保されたそうなので、もう危険はないのですが………」
「「…………………………」」

 私もエルフィン様も、思わず顔が引き攣った。それ、もしかしなくてもさっきのヒロインのことじゃ……………
 二人して同じ反応をしていることに気付いたシオンは──

「まさか……遭遇したんですか!? !! ミラ、貴女は何をしていたんです!?」
『くる!? くるるるっく!?』(たぶん、「え!? それワタシのせい!?」と言っていたんじゃないかと思う)
「……………まぁ、ある意味では不審だったな」
「……………えっと……………あはは……」



 その後、新入生ということが分かり、守衛の静止を無視し、許可なく学院に侵入したことで、彼女は一週間の謹慎処分を受けたらしい。(エルフィン様は退学にしたかったようだ)まあ、入学式から一週間はイベントは何もない。ただ、他の攻略者との入学式イベントは起こせなかった、ということにはなるけど。(唯一遭遇したエルフィン様のイベントも、成功したとは言い難いけど)













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