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メリットデメリットと頻繁に口に出すとちょっと賢くなった気分になる
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全身が、重い。
最近、いくら寝ても疲れが取れないと思ってはいたけれど……まさかこんな風に倒れてしまうなんて。
「クリスチーナさん! レオちゃんが倒れたってホントかい!? さっき、お使いから帰って来た息子に聞いて……!」
「バークさん! ええ、昨日の夜、突然……」
ベッド横の椅子に腰かけたまま、夜通し看病してくれたクリスティーナと、心配して駆けつけてくれた隣人の話し声が聞こえる。
「すぐにあたしらに相談してくれりゃあ良かったのに! 待ってな! 今すぐに隣町の医者を呼んで――」
「いえ、こんな天気の中出掛けるなんて、危険です。昨日から、雨の勢いは全く弱くなっていないんですよ?」
「んな事言ってる場合かい! 意識も朦朧としてるじゃないか! おいレオちゃん! わかるか? 隣のバークさんが来たぞ! 母ちゃんも一緒だぞ!」
そう言って、ベッドで横たわる俺の顔を覗き込む、バークさんと、夫人。
いつも温和で豪快な笑顔を浮かべている二人とは全く違う、険しい表情。
「この村じゃ毎年この時期、レオちゃんみたいに倒れる奴がいるんだよ! あの医者はそういう患者を何人も診てるから、きっと力になってくれる!」
「でも、診る事は出来ても、治療する事は出来ないから、毎年患者が出てるんでしょう?」
「そうだけども……っ、診てもらわん事にはわからねぇじゃねぇの! 大丈夫よ! 馬車なんて上等なもんはねぇけど、隣町は走って行けない距離じゃねえ!」
「ダメよ! 私の父は、大雨の中外出して、死んだの! あなた達にそんな危険を冒させるわけにはいかない! レオだってそんな事きっと望まないわ!」
「雨ぐらいなんだ! 急がねえと! こうして倒れて寝たきりになったまま、死んじまった奴だっているんだよ!?」
「だけど! 悪天候の中出かけるリスクに見合う程のメリットを、その医者がもたらしてくれるとは思えない!」
「めりっとって! んな小難しい事言われてもわかんないわ! とにかくあたしらは行くから! あんたはレオちゃんをしっかりみてるんだよ!」
らしくも無く、声を荒げて揉めている様子の三人。
「そうよね。今更他の医師を呼ぶなんて、無意味よね」
彼らの会話の中に、聞き覚えのある4人目の声が、突然加わった。
玄関扉を無遠慮に開く音と共に。
俺は鉛のように重くなった首をゆっくりと動かし、開いたままの扉の前に立つ来訪者の方へと目を向ける。
そのお方は、鼻の頭にかかる位深々とかぶっていたマントのフードを、細い指先でまくり上げ、ばさりと脱いだ。
細かな水滴が輝きを放ちながら宙へ床へと舞い、お姿があらわになる。
雨雲の隙間から射す陽の光のように、圧倒的な存在感を放つ金の髪。
サロイドの海よりも澄んだ碧い瞳。
「ねえ? クリスティーナ?」
突如目の前に現れた、シルクバニア王国のローラ女王陛下は低い声でそう言うと、俺の手を握るクリスティーナをギロリと睨みつけた。
数か月前、俺が爵位を返還した時と同じ……身が燃え滾る程に、怒りに満ち満ちた目つきで。
最近、いくら寝ても疲れが取れないと思ってはいたけれど……まさかこんな風に倒れてしまうなんて。
「クリスチーナさん! レオちゃんが倒れたってホントかい!? さっき、お使いから帰って来た息子に聞いて……!」
「バークさん! ええ、昨日の夜、突然……」
ベッド横の椅子に腰かけたまま、夜通し看病してくれたクリスティーナと、心配して駆けつけてくれた隣人の話し声が聞こえる。
「すぐにあたしらに相談してくれりゃあ良かったのに! 待ってな! 今すぐに隣町の医者を呼んで――」
「いえ、こんな天気の中出掛けるなんて、危険です。昨日から、雨の勢いは全く弱くなっていないんですよ?」
「んな事言ってる場合かい! 意識も朦朧としてるじゃないか! おいレオちゃん! わかるか? 隣のバークさんが来たぞ! 母ちゃんも一緒だぞ!」
そう言って、ベッドで横たわる俺の顔を覗き込む、バークさんと、夫人。
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「この村じゃ毎年この時期、レオちゃんみたいに倒れる奴がいるんだよ! あの医者はそういう患者を何人も診てるから、きっと力になってくれる!」
「でも、診る事は出来ても、治療する事は出来ないから、毎年患者が出てるんでしょう?」
「そうだけども……っ、診てもらわん事にはわからねぇじゃねぇの! 大丈夫よ! 馬車なんて上等なもんはねぇけど、隣町は走って行けない距離じゃねえ!」
「ダメよ! 私の父は、大雨の中外出して、死んだの! あなた達にそんな危険を冒させるわけにはいかない! レオだってそんな事きっと望まないわ!」
「雨ぐらいなんだ! 急がねえと! こうして倒れて寝たきりになったまま、死んじまった奴だっているんだよ!?」
「だけど! 悪天候の中出かけるリスクに見合う程のメリットを、その医者がもたらしてくれるとは思えない!」
「めりっとって! んな小難しい事言われてもわかんないわ! とにかくあたしらは行くから! あんたはレオちゃんをしっかりみてるんだよ!」
らしくも無く、声を荒げて揉めている様子の三人。
「そうよね。今更他の医師を呼ぶなんて、無意味よね」
彼らの会話の中に、聞き覚えのある4人目の声が、突然加わった。
玄関扉を無遠慮に開く音と共に。
俺は鉛のように重くなった首をゆっくりと動かし、開いたままの扉の前に立つ来訪者の方へと目を向ける。
そのお方は、鼻の頭にかかる位深々とかぶっていたマントのフードを、細い指先でまくり上げ、ばさりと脱いだ。
細かな水滴が輝きを放ちながら宙へ床へと舞い、お姿があらわになる。
雨雲の隙間から射す陽の光のように、圧倒的な存在感を放つ金の髪。
サロイドの海よりも澄んだ碧い瞳。
「ねえ? クリスティーナ?」
突如目の前に現れた、シルクバニア王国のローラ女王陛下は低い声でそう言うと、俺の手を握るクリスティーナをギロリと睨みつけた。
数か月前、俺が爵位を返還した時と同じ……身が燃え滾る程に、怒りに満ち満ちた目つきで。
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