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愛されるよりも愛したいのは若い証拠

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 「え、ええと、あの……間違っていたら申し訳ないのですが……もしかすると私は今、あなたから愛の告白を受けたのでしょうか?」

 どもりながら、慎重に言葉を選びながら、彼女の顔色をうかがう。

 「あなた、ナルシストのくせに鈍いわよね。デートしてくれれば色々教えてあげるなんて……馬鹿な条件を出した時点で、気付いて欲しかったんだけど」

 すっかり茎と葉だけになってしまったコスモスの前に座り込んでいた彼女は、すっと立ち上がると、真っ直ぐに俺を見つめた。

 「あなたが好きなの。兄を訪ねて行った訓練学校で、初めて会った時から……ずっと……」

 「訓練学校……? 先日の舞踏会が初対面だとばかり……」

 「どうせあなたは覚えていないだろうと思っていたわ。昔からローラ王女の事以外、全く関心がないんだから」

 まさか、これ程の美女との出会いを記憶していないとは。自分のローラ様へのぞっこんぶりが、若干怖くなる。
 同時に、女神すらファーストコンタクトで撃墜させてしまう、己の魅力も。

 自覚していたつもりだったけれど。彼女のハートを奪ってしまった可能性を、感じてはいたけれど。

 ああ母上。あなたは、ナルシストは嫌われるとお叱りになりましたが……あなたの息子は自分が優良な雄だという事を自負していても尚、モテにモテてしまう罪な男でした。

 けれど……たとえ誰に想いを寄せられようと、俺の気持ちは変わらない。

 「ありがとう、クリスティーナ嬢。あなたのように素敵な女性に想いを寄せられるなんて光栄です。でもすまない。俺には心に決めたお方がいるのです」

 俺はクリスティーナ嬢の手を握り、頭を下げた。
 彼女の気持ちには答えられない。けれど勇気をもって愛を示してくれた彼女に、最大限の礼儀を払いたくて。
 
 そんな俺の後頭部に振ってきたのは、彼女の控えめな笑い声。

 「ふふ、本当に馬鹿正直なんだから。利用価値のある女が自分に惚れているっていうのに。うまいこと使ってやろうとか思わないの?」

 「私は、愛してくれる人を大切に出来ない人間は、人を愛する資格も愛される資格も無いと考えております。ですからあなたはもう、私にとって大切な人です。身勝手に利用するようなことは、したくない」

 「じゃあ紅薔薇の秘密は? 私と兄があなたや女王を憎む理由は? 私から聞きださないと、永久に謎のままよ?」

 まるで自分を利用して、情報を聞き出すべきだと言わんばかりの、挑発的な言葉。
 彼女の真意は、わかりかねる。けれど、確かなのは……

 「あなたやクリスが進んで協力したくなるような……そんな男に、私がなればいいだけの話です」

 無理をして彼女に取り入る事はやめようと、そう思った時に気が付いた。
 誰かを利用し、自分の都合のいいように動かそうとしている限り、本当の信頼関係は築けない。

 例え一時的な利益を生む事には成功したとしても、いつか破綻する。
 そしてその結果、大切な陛下に悪影響が及んだら……俺はどれほど悔いても悔やみきれないだろう。

 「あなた方兄妹が、俺を憎む理由はわからない。けれど、覚えておいてください。事情さえ理解できれば、俺は自分の非を真摯に謝罪し、あなた方の心に平穏をもたらしたいと願っている。そして、協力し合う仲間になって欲しいと、望んでいます」

 うっそうと生い茂る木々が、俺達の沈黙を見守る。

 深い緑の中、まるでそこにだけに陽の光が射しているかのように、光を放つ美貌。その持ち主は、聖母を思わせる笑みで俺に応じた。 

 「……あなたは本当に……まっすぐな人ね。それでこそ、私の初恋の相手だわ」

 「話してもいいと思った時は、いつでも連絡をして下さい。……あっ」

 頭頂部に、ポツリと弾んだ雨粒。
 そうだ。今日は夕方から夜にかけて大雨になるかもと……アランがアドバイスをくれたのだった。
 
 予定ではとっくに平地に到着して、ジェニーが作ってくれたスイートポテトを食べて、3時には下山出来ている筈だったから。さして警戒していなかったけれど。

 「クリスティーナ嬢、雨が降ってきました。本降りになる前に急いで山を下りましょう。私が背負いますので。さ……」

 こちらが計画したデートで、女性をずぶ濡れにするわけにはいかない。
 俺は再び、クリスティーナ嬢に背を向けて、しゃがみ込んだ。

 しかし……背後に感じたのは、彼女の体温と乳房ちぶさの幸せな圧迫感では無く……

 「まっすぐ過ぎて……ボキって、折ってやりたくなる」

 悪寒が走る程に、低く、冷ややかな声。

 「は……?」

 そう口を開いて振り返った所で……俺の意識は途切れたのだった。
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