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嫁入り前の娘がどうとか良く言うけれど嫁入り後ならどうでもいいわけじゃない

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 「なんで君がここにいるんだ」

 「なんでもなにも、ここはあたしの部屋だっつーの」

 夜。作業報告書を書き終え、夕食をとり、シャワーを浴びた後宿舎の自室に戻ると……そこには同じくシャワー後と思われるジェニーがいて。

 「相部屋という事か?」

 「当たり前じゃん。こんな田舎の一兵卒に、個室なんて割り当てられないって。ここじゃ騎士だろうが清掃員だろうが、住み込みで働いてる人間はみーんな同じ宿舎で寝泊りしてんのよ」

 別に、個室が与えられて当然と思っていたわけではない。
 ノースリーフに来て一週間。この部屋にはベッドも机もワードローブも2組ずつあるのに、出入りしているのは俺だけだった。だから……

 「てっきり、ルームメイトはいないものかと」

 「いやめっちゃ使用感あったでしょ、机もベッドも! 存在はするけど姿を見せない事情がある、とは思わなかったの?」

 ジェニーは濡れた赤毛をガシガシとタオルで拭きながら、呆れたように笑ったが……正直、考えもしなかった。
 というか、全くもってそこに意識がいかなかった。この一週間は、陛下の事ばかり考えていたから。

 「え、ちょ、ちょ、どこ行くの?」
 
 何も言わずに部屋を出ようとする俺に、少し驚いた様子で尋ねてくるジェニー。

 「基地司令官殿の所に行ってくる。おかしいだろう。いい歳の男女が同室だなんて」

 「あのね、相部屋が決まった時、あたしが司令官様に何も言わなかったと思う? 他に空き部屋が無いから仕方ないだろうって突っぱねられたからこそ、この一週間、実家から食堂しょくばに通ってたんじゃないの」

 「じゃあなんで今日はここに?」

 「あんたが女王様に惚れ込んでるってわかったから。他に好きな女がいるなら、あたし相手にバカな真似はしないっしょ? 」

 ジェニーはベッドに腰かけ足を組むと、にっと口の端を上げた。寝巻きと思われる薄地のワンピースの裾から、健康的な肉付きのふくらはぎが覗く。

 「着替えの時は外に出てもらうとか、ベッドは今みたいに横並びじゃなく、壁の端と端に寄せるとか、工夫は必要だと思うけど。それでも実家から通うよりはね~。朝食の下ごしらえがあるから朝はめっちゃ早いし――」

 ジェニーが言い終えるのを待たず、俺は彼女の手を掴むと、強引にベッドに押し倒した。

 「ひゃあ!? ちょ!! なになに!?」

 真の抜けた声を上げながら、自身に跨る俺を見上げるジェニー。

 「確かに、俺がお慕い申し上げているのは陛下だけだ。でもだからといって、他の女性をどうこうできないわけじゃない。感情を伴わずとも肌を重ねられる。それが男だ。俺を信用してくれるのは嬉しいが、君も嫁入り前の婦女子として、もう少し自衛に努めた方が良い」

 「は……はい……ごめ、んなさい……」
 
 唖然とした表情のまま、謝罪の言葉を口にする彼女の手を引き、体を起こす。

 「乱暴な真似をしてすまない。こんな風に、男に力ずくで来られたら、いくら勝気な君でも抵抗出来ないという事を理解してほしくて……司令官殿には俺から改めてお願いしてみる。ダメなら、俺が他に宿を探せばいい話だ。君は何も心配しなくてい……え?」

 ふと見たジェニーの顔は、今朝彼女が作ってくれたミネストローネの様に真っ赤で――。

 それに気付いた俺……に気付いたジェニーは、大慌てで俺の手を振り払った。

 「わ、わかった!! き、き肝に銘じとく!! で、で、でもでも! 部屋はこのままで、本当に大丈夫だから!!」

 どもりながら、乱れた髪を整える彼女に、俺は頭を抱える。
 またやってしまったと……。

 「し、しっかし司令官様も何を考えてるんだかね~! 女とモメてとばされた色男を、女と同じ部屋にブチ込むなんて! ホント、配慮が足りないにも程がある――」

 熱を帯びた自分の顔を、パタパタと手の平で仰ぐルームメイト。そんな彼女の両肩を、真正面から掴む。

 「ひ! こ、今度は何!?」

 「ジェニー、間違ってたら申し訳ないんだが……今ので、俺に惚れてしまったりはしていないか?」

 「はあ!?」

 真顔で尋ねる俺に、ジェニーの顔はますます紅潮した。
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