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問題がわからない事が問題
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王都から遠く離れた田舎にある、ノースリーフ。
緑豊かなこの町に、俺の新たな職場、騎士団第30駐屯地がある。
その敷地内の宿舎の一室で……俺はため息を吐いていた。
「どうしてなんだ……」
誰にでも無く呟く。
今朝突入した浴場で、陛下がやはり女性である事を知ってから、ずっと考えてきた。
ノースリーフへ向かう馬車に揺られている間も。
駐屯地の最高責任者・基地司令官殿に着任の挨拶をしている時も。
そして、当面の寝床となるこの部屋で、荷物を整理している今この瞬間も。
けれどわからない。
つい数分前の出来事のように感じる、浴場での陛下とのやり取りを思い返してみる。
立ち上る湯煙。
その合間にのぞく、小ぶりな二つの金山。
愛する人が、やはり女性であったという歓喜。
そして、全男子が憧れる魅惑的な膨らみを至近距離で拝んでしまった興奮。
それらが大爆発を起こし、俺の鼻腔の毛細血管を噴火させた。
そう、俺は豪快に、鼻血を吹いてしまったのだ
そんな俺に、反射的に悲鳴をあげた陛下。
すると、それを聞きつけた近衛兵や騎士達が続々と『禊ぎの間』の前に集まり始めた。
陛下は俺におっしゃった。すぐに立ち去るように。女王の湯あみ現場に侵入したと知れれば、ただでは済まないからと。
エレナ嬢の時は、保身の事などどうでもよかったが……状況は変わった。
俺が社会的にまずい立場になれば、陛下と結ばれるという夢が絶たれてしまう。
陛下と想いが通じ合った今、そんなリスクを犯すわけにはいかない。
俺は指示された通り、浴場の奥『恵みの間』にある隠し扉を開けた。
『異動先で落ち着いたら、必ず会いに参ります! そうしたら正式に、お付き合いを――!!』
去り際に、そう叫びながら。
けれど陛下は、首を横に振られた。
『それはできません! あなたを諦めさせる為に男だなんて嘘をついたのよ! たとえ両想いでも、私達が結ばれる事は絶対にありません!』
『どうしてですか』と尋ねる間もなく、扉は閉ざされ……俺は目の前に続く階段を進んで行くしかなくて――。
長い階段を下り、登り、薄暗い通路を走り抜け……そうしてたどり着いたのは、城の裏門近く。
俺は混乱しながらも、ノースリーフへ向かう馬車を待たせていた事を思い出し、門の外へと急いだ。
ずぶぬれの下半身に、血まみれの騎士服と顔。
待ちぼうけていた馬車の御者が『ひっ!』と悲鳴をあげたが……その時の俺は、適当な言い訳を思いつけるような精神状態ではなくて――
「なぜなんだ……」
木箱から取り出した、ネックレスを握りしめる。
騎士団入団のお祝いにと、陛下がくださったもの。
御守りがわりに、身につけておいて欲しいと言われていたけれど、もったいなくて。ずっと大切にしまっていた。
『私達が結ばれる事は絶対にありません』
頭の中で、陛下のお声が響く。
せっかく想いが通じたのに。
男性などではなかったのに。
はじめ、問題は身分だと思っていた。
けれどそうではなく、性別なのだと知らされた。
だがそれさえも偽りだというなら……
この恋の問題は……一体何なのだろう……?
緑豊かなこの町に、俺の新たな職場、騎士団第30駐屯地がある。
その敷地内の宿舎の一室で……俺はため息を吐いていた。
「どうしてなんだ……」
誰にでも無く呟く。
今朝突入した浴場で、陛下がやはり女性である事を知ってから、ずっと考えてきた。
ノースリーフへ向かう馬車に揺られている間も。
駐屯地の最高責任者・基地司令官殿に着任の挨拶をしている時も。
そして、当面の寝床となるこの部屋で、荷物を整理している今この瞬間も。
けれどわからない。
つい数分前の出来事のように感じる、浴場での陛下とのやり取りを思い返してみる。
立ち上る湯煙。
その合間にのぞく、小ぶりな二つの金山。
愛する人が、やはり女性であったという歓喜。
そして、全男子が憧れる魅惑的な膨らみを至近距離で拝んでしまった興奮。
それらが大爆発を起こし、俺の鼻腔の毛細血管を噴火させた。
そう、俺は豪快に、鼻血を吹いてしまったのだ
そんな俺に、反射的に悲鳴をあげた陛下。
すると、それを聞きつけた近衛兵や騎士達が続々と『禊ぎの間』の前に集まり始めた。
陛下は俺におっしゃった。すぐに立ち去るように。女王の湯あみ現場に侵入したと知れれば、ただでは済まないからと。
エレナ嬢の時は、保身の事などどうでもよかったが……状況は変わった。
俺が社会的にまずい立場になれば、陛下と結ばれるという夢が絶たれてしまう。
陛下と想いが通じ合った今、そんなリスクを犯すわけにはいかない。
俺は指示された通り、浴場の奥『恵みの間』にある隠し扉を開けた。
『異動先で落ち着いたら、必ず会いに参ります! そうしたら正式に、お付き合いを――!!』
去り際に、そう叫びながら。
けれど陛下は、首を横に振られた。
『それはできません! あなたを諦めさせる為に男だなんて嘘をついたのよ! たとえ両想いでも、私達が結ばれる事は絶対にありません!』
『どうしてですか』と尋ねる間もなく、扉は閉ざされ……俺は目の前に続く階段を進んで行くしかなくて――。
長い階段を下り、登り、薄暗い通路を走り抜け……そうしてたどり着いたのは、城の裏門近く。
俺は混乱しながらも、ノースリーフへ向かう馬車を待たせていた事を思い出し、門の外へと急いだ。
ずぶぬれの下半身に、血まみれの騎士服と顔。
待ちぼうけていた馬車の御者が『ひっ!』と悲鳴をあげたが……その時の俺は、適当な言い訳を思いつけるような精神状態ではなくて――
「なぜなんだ……」
木箱から取り出した、ネックレスを握りしめる。
騎士団入団のお祝いにと、陛下がくださったもの。
御守りがわりに、身につけておいて欲しいと言われていたけれど、もったいなくて。ずっと大切にしまっていた。
『私達が結ばれる事は絶対にありません』
頭の中で、陛下のお声が響く。
せっかく想いが通じたのに。
男性などではなかったのに。
はじめ、問題は身分だと思っていた。
けれどそうではなく、性別なのだと知らされた。
だがそれさえも偽りだというなら……
この恋の問題は……一体何なのだろう……?
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