上 下
8 / 105

自分に合った化粧を知らない女は結構いる

しおりを挟む
 年の頃は16、7だろうか。
 ピンクのブリブリ系ドレスに、派手に盛ったヘアスタイル。
 顔は……多分割と可愛いだろうに、下手な化粧で台無しにしている。

 「陛下。部屋の左隅の、柱の陰からこちらを見ているご令嬢……ご存知ですか? 直視するのは避けて、ご確認下さい」

 「え? ちょ、ちょっと待って…」

 後ろから、陛下だけに聞こえる程度のボリュームで囁く。
 話し掛けている事すら察せられないよう、口元を極力動かさないよう気をつけながら。

 「ええと、どの子かしら」

 「ピンクのドレスを着た、16、7歳くらいの娘です。巻き髪ハーフアップで、身長は陛下と同程度。目がぱっちりとしていて、華やかではありますが、少々品に欠ける顔立ちの。胸は…残念ながら豊満ですが、その分二の腕にわずかながらムダ肉が見受けられます。ですからトータルで言うと陛下の圧勝ですね」

 「……ちょっと、余計な情報が多……あぁあの子ね。キャンベル子爵家の長女よ。確か、エレナ? だったかしら」

 流石は陛下。一度でも会った事のある人物の氏名や顔は絶対に忘れない。
 たとえ下級貴族であっても、女王に名前すら覚えられていない事を快く思う者はいないだろう。

 自分は女王に知られている、一目置かれているという自負は陛下への忠義心にも繋がる。主従の信頼関係構築において必要不可欠なものなのだ。

 「先程から、殺気に満ちた視線を陛下に向けています。大変失礼な事を伺いますが……彼女から恨まれる心当たりは?」

 「……あるわ。ああ……なんというか、すごく……ベタな展開が見えてきた……」

 「と、いいますと?」

 「ああローラ陛下! ご機嫌うるわしゅう……」

 囁くような俺と陛下の会話に、突然割り込んで来たのは……

 「こんばんは、グランヴィル伯爵」

 陛下のお言葉に笑顔で応じ、目元にかかる金の前髪を指先でかき分ける、見るからに頭の軽そうな男。
 俺の大嫌いな、陛下の婚約者候補の一人。

 「相変わらずお美しくていらっしゃる。この度は栄誉ある黄薔薇の勲章を授与して頂けるとの事で……私も身の引き締まる思いでおります」

 陛下の手を取り唇を寄せるグランヴィル伯爵。
 紳士の淑女に対する挨拶として、特段珍しい光景ではないが……沸き立つ嫌悪感。
 今夜だけで、何人もの女に同じ事をしたであろう汚らしい手と唇で、陛下に触れるなんて。

 そんな俺と同じように歯を食いしばっている人間を、会場内に見つけた。

 それは他でもない、エレナ・キャンベル嬢。

 「ああ……」

 思わず声を漏らす。
 陛下のおっしゃる『ベタな展開』の意味するものが、ようやく理解できたから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。

ユユ
恋愛
幼い頃から築いてきた彼との関係は 愛だと思っていた。 何度も“好き”と言われ 次第に心を寄せるようになった。 だけど 彼の浮気を知ってしまった。 私の頭の中にあった愛の城は 完全に崩壊した。 彼の口にする“愛”は偽物だった。 * 作り話です * 短編で終わらせたいです * 暇つぶしにどうぞ

【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めのか
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。 さくっと読める短編です。 ※完結しました。ありがとうございました。 閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。 ご感想へのお返事は、執筆優先・ネタバレ防止のため控えさせていただきますが、大切に拝見しております。 本当にありがとうございます。

やり直し悪役女王は腹黒聖女が来る前に『婚約破棄』を目指します

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「ダイヤ王国女王ソフィーリア・ラウンドルフ・フランシス。貴女との婚約およびダイヤ国とスペード夜王国との同盟を白紙に戻させてもらう」 婚約者であるシン・フェイ王子に裏切られ、ダイヤ王国ソフィーリアは悪役女王として国を滅ぼし殺される。13回目のタイムリープも彼女が即位する18歳から繰り返すと思ったら、まさかの8歳からのスタート!?  フェイ王子との婚約破棄が運命の転機と気づきソフィーリアは「恋なんかしない」と決意。13回目は恋慕の情は捨て「ダイヤ王国の滅亡を回避する!」そう決めたはずなのに「ソフィ、私を選んで欲しい」なぜか猛烈なアタックをかける婚約者のフェイ王子。「この人、本当にシン様?」と困惑している間に、外堀も埋められて婚約してしまう。さらに学でフェイ王子と一緒に暮らすなんて今までなかった展開に発展。 ソフィーリアを悪役女王に仕立て上げた聖女の姿も不在?12回目までと全く異なる展開に、いつの間にか隣国の皇太子や王子たちに求婚されまくることに。 甘々溺愛×両片思い×逆ハーレム

聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子
恋愛
私の双子の妹の《エミル》は、聖女として産まれた。 特別な力を持ち、心優しく、いつも愛を囁く妹は、何の力も持たない、出来損ないの双子の姉である私にも優しかった。 「《ユウナ》お姉様、大好きです。ずっと、仲良しの姉妹でいましょうね」 傍から見れば、エミルは姉想いの可愛い妹で、『あんな素敵な妹がいて良かったわね』なんて、皆から声を掛けられた。 でも違う、私と同じ顔をした双子の妹は、私を好きと言いながら、執着に近い感情を向けて、私を独り占めしようと、全てを私に似せ、奪い、閉じ込めた。 冷たく突き放せば、妹はシクシクと泣き、聖女である妹を溺愛する両親、婚約者、町の人達に、酷い姉だと責められる。 私は妹が大嫌いだった。 でも、それでも家族だから、たった一人の、双子の片割れだからと、ずっと我慢してきた。 「ユウナお姉様、私、ユウナお姉様の婚約者を好きになってしまいました。《ルキ》様は、私の想いに応えて、ユウナお姉様よりも私を好きだと言ってくれました。だから、ユウナお姉様の婚約者を、私に下さいね。ユウナお姉様、大好きです」  ――――ずっと我慢してたけど、もう限界。 好きって言えば何でも許される免罪符じゃないのよ? 今まで家族だからって、双子の片割れだからって我慢してたけど、もう無理。 丁度良いことに、両親から家を出て行けと追い出されたので、このまま家を出ることにします。 さようなら、もう二度と貴女達を家族だなんて思わない。 泣いて助けを求めて来ても、絶対に助けてあげない。 本物の聖女は私の方なのに、馬鹿な人達。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

処理中です...