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233.事件ですか事故ですかって聞かれるけどその2択以外のケースもあるよね
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「じゃ、じゃあもう体は大丈夫なのか!? 後遺症とかも!?」
「うん、もうすっかり元気」
病棟で唯一の憩いの場所だと唯が連れて来てくれた、中庭が一望できる窓辺のサロンで。
力こぶをつくるように、両手をあげて健在ぶりをアピールしてくれる唯。ホッと胸をなでおろす。
「よかった……すいません俺、テンパっちゃって。蓮さんの話も最後まで聞かずに」
円卓の隣に座る蓮さんに、軽く頭を下げる。
「いや、俺こそごめん。今日退院だから心配いらないんだけどって、結論から話せばよかったんだよな。仁の後を慌てて追いかけたんだけど、早すぎて……やっぱりスサノオのSSSは、身体能力が桁違いだな」
「いえそんな……。蓮さんのピカチュ〇も、鬼気迫る迫力でした」
「ん? ピカ」
「ああいや……それに、さっきのハグもすいませんでした。思い余ってつい。唯も、ごめんな」
「気にしないで。来てくれてありがとう、仁ちゃん」
頭を下げる俺に、優しく微笑みかけてくれる唯。
「それも、俺こそごめん、だよ。嫉妬心をむき出しにして、申し訳ない。それに……唯が入院してるの、伏せてた事も……」
蓮さんはそう言って、心苦しそうに視線をテーブルに落とした。
「……それについては正直、マジかよって思っちゃいました」
もしかしたら、蓮さんは俺が『こんな怪我をさせるなんて、もう任せておけない!』とキレて、唯を奪い返しに来るんじゃ、とか思ったのかもだけど。
唯は俺の元妻であり、父さんと母さんの娘。ようは、家族なのに。
「そうだよな。ごめん。万一を考えて、一華さん達には伝えたんだけど……」
「でもね、それには事情があったの。仁ちゃんや美琴さんが知ったら……気を遣うだろうなって……」
「気を遣う? 俺と美琴が? それって」
どういう意味かと訊ねようとした時、思い出した。
『やば~! そっか、私七瀬を亜種のとこに送りこんじゃった事になるんだ』
「まさか……七瀬さんが!?」
「誤解しないでね? 事故! 事故である事には違いないの!」
立ち上がる俺を落ち着かせるかのように、両掌を向ける唯。
「……故意じゃないとしても、許せはしないけどな」
「蓮ちゃんっ」
珍しく、ツンツンに角がある口調と表情の蓮さん。
「七瀬さんはね、亜種がすごく……その、苦手だったみたいなの。でも私、知らなくてね。一緒にご飯食べてる時にお互いの身の上話になって……つい、ポロっと喋っちゃって」
「そうしたら、彼女は強い拒否反応を示して、すぐに帰ろうとしたらしんだ。それで……それを止める唯を、乱暴に振り払って……そのまま、階段から……」
「マジっすか……」
衝撃の経緯に、開いた口が塞がらない。
「すいませ……俺、美琴や七瀬さんが第七校のOGだって、最近まで知らなくて……っ」
口元に手を当てて謝る俺に、蓮さんは首を横に振る。
「彼女に履歴書の提出を求めなかった俺にも責任はあるんだ。人柄重視の採用を、なんて思って。考えが甘かった」
「二人共、自分を責めないで。諸悪の根源は、私が亜種だって事で」
「「唯は絶対に悪くない!」」
申し訳なさそうに肩を縮こまらせる唯に、俺と蓮さんの声が重なる。
「まぁ、とにかくそんなわけで……七瀬さんには退職してもらったんだ。幸い唯の意識もすぐにもどって、回復も見込めそうだったから、仁と美琴さんには落ち着いた頃に伝えようと……ごめんな」
「こっちこそ、本当にすいませんでした。……それで、あの……お腹の……子供は……?」
膨らみの無くなった唯のお腹を横目に……聞きたいけど、聞きにくかった疑問を、思い切ってぶつけてみる。
万が一、その命までも失われたのなら、七瀬さんを紹介した者の一人として、ちゃんと知っておかなければならないから。
「……気になるのか?」
子供の話になった途端、一気に険しい表情になる蓮さん。
全身から血の気が引く。
「ま、待ってください、まさか……っ」
「あ! いたいた! 唯!」
青ざめた顔で蓮さんを見つめる俺の後ろから、聞き覚えのある声が響く。
「も~! 病室に忘れ物取りに行ってきり、一向に戻ってこないから、お母さん心配……」
「母さん!?」
「あら!? 仁!? それに蓮さんまで!? どうしてこんな所にいるのよ!? 凛さんの結婚式は!?」
取り巻き達をゾロゾロと連れた母の、突然の登場。
それにも勿論驚いたのだが。
それ以上に俺を唖然とさせたのは……母が抱えているモノ。
可愛らしい布にくるまれてスヤスヤ眠る、小さな赤ん坊だった。
「うん、もうすっかり元気」
病棟で唯一の憩いの場所だと唯が連れて来てくれた、中庭が一望できる窓辺のサロンで。
力こぶをつくるように、両手をあげて健在ぶりをアピールしてくれる唯。ホッと胸をなでおろす。
「よかった……すいません俺、テンパっちゃって。蓮さんの話も最後まで聞かずに」
円卓の隣に座る蓮さんに、軽く頭を下げる。
「いや、俺こそごめん。今日退院だから心配いらないんだけどって、結論から話せばよかったんだよな。仁の後を慌てて追いかけたんだけど、早すぎて……やっぱりスサノオのSSSは、身体能力が桁違いだな」
「いえそんな……。蓮さんのピカチュ〇も、鬼気迫る迫力でした」
「ん? ピカ」
「ああいや……それに、さっきのハグもすいませんでした。思い余ってつい。唯も、ごめんな」
「気にしないで。来てくれてありがとう、仁ちゃん」
頭を下げる俺に、優しく微笑みかけてくれる唯。
「それも、俺こそごめん、だよ。嫉妬心をむき出しにして、申し訳ない。それに……唯が入院してるの、伏せてた事も……」
蓮さんはそう言って、心苦しそうに視線をテーブルに落とした。
「……それについては正直、マジかよって思っちゃいました」
もしかしたら、蓮さんは俺が『こんな怪我をさせるなんて、もう任せておけない!』とキレて、唯を奪い返しに来るんじゃ、とか思ったのかもだけど。
唯は俺の元妻であり、父さんと母さんの娘。ようは、家族なのに。
「そうだよな。ごめん。万一を考えて、一華さん達には伝えたんだけど……」
「でもね、それには事情があったの。仁ちゃんや美琴さんが知ったら……気を遣うだろうなって……」
「気を遣う? 俺と美琴が? それって」
どういう意味かと訊ねようとした時、思い出した。
『やば~! そっか、私七瀬を亜種のとこに送りこんじゃった事になるんだ』
「まさか……七瀬さんが!?」
「誤解しないでね? 事故! 事故である事には違いないの!」
立ち上がる俺を落ち着かせるかのように、両掌を向ける唯。
「……故意じゃないとしても、許せはしないけどな」
「蓮ちゃんっ」
珍しく、ツンツンに角がある口調と表情の蓮さん。
「七瀬さんはね、亜種がすごく……その、苦手だったみたいなの。でも私、知らなくてね。一緒にご飯食べてる時にお互いの身の上話になって……つい、ポロっと喋っちゃって」
「そうしたら、彼女は強い拒否反応を示して、すぐに帰ろうとしたらしんだ。それで……それを止める唯を、乱暴に振り払って……そのまま、階段から……」
「マジっすか……」
衝撃の経緯に、開いた口が塞がらない。
「すいませ……俺、美琴や七瀬さんが第七校のOGだって、最近まで知らなくて……っ」
口元に手を当てて謝る俺に、蓮さんは首を横に振る。
「彼女に履歴書の提出を求めなかった俺にも責任はあるんだ。人柄重視の採用を、なんて思って。考えが甘かった」
「二人共、自分を責めないで。諸悪の根源は、私が亜種だって事で」
「「唯は絶対に悪くない!」」
申し訳なさそうに肩を縮こまらせる唯に、俺と蓮さんの声が重なる。
「まぁ、とにかくそんなわけで……七瀬さんには退職してもらったんだ。幸い唯の意識もすぐにもどって、回復も見込めそうだったから、仁と美琴さんには落ち着いた頃に伝えようと……ごめんな」
「こっちこそ、本当にすいませんでした。……それで、あの……お腹の……子供は……?」
膨らみの無くなった唯のお腹を横目に……聞きたいけど、聞きにくかった疑問を、思い切ってぶつけてみる。
万が一、その命までも失われたのなら、七瀬さんを紹介した者の一人として、ちゃんと知っておかなければならないから。
「……気になるのか?」
子供の話になった途端、一気に険しい表情になる蓮さん。
全身から血の気が引く。
「ま、待ってください、まさか……っ」
「あ! いたいた! 唯!」
青ざめた顔で蓮さんを見つめる俺の後ろから、聞き覚えのある声が響く。
「も~! 病室に忘れ物取りに行ってきり、一向に戻ってこないから、お母さん心配……」
「母さん!?」
「あら!? 仁!? それに蓮さんまで!? どうしてこんな所にいるのよ!? 凛さんの結婚式は!?」
取り巻き達をゾロゾロと連れた母の、突然の登場。
それにも勿論驚いたのだが。
それ以上に俺を唖然とさせたのは……母が抱えているモノ。
可愛らしい布にくるまれてスヤスヤ眠る、小さな赤ん坊だった。
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