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206.手土産のセンスが良い人に憧れる

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 「……世間は狭いわね」

 「……それな」

 前菜からデザートまでのコース料理を堪能し、レストランの前で咲塔さんと別れた後……ボソっと言う、美琴。

 「まさか……紫苑さんが蓮さんの友達だったなんて」

 「はぁ……ちょっと考えれば、気付けたかもしれねえのに……」

 昨年、唯が担当した夏夏ランドでのスライダー案件……蓮さんの友人であるアスクレピオスに助けを借りたと言っていた事とか。
 咲塔さんが現在、友人の興した派遣会社に在籍している事とか。
 そもそも蓮さんと同い年で、かつAAAになる程優秀なら、零校の出身かもとか。
 ヒントはいくつもあったのに。

 「どうするの?」

 「まぁ、とりあえずは持ち帰る。どっちにしろ、契約内容について上と相談しなきゃだし」

 「じゃあ仁は前向きって事? 元嫁に手を出さないなら頑張って働くよ~っていう、紫苑さんとの契約に?」

 「それは……」

 わからん。まさかそんな話になると思ってなかったから、まだきちんと受け止め切れてもない。

 「つーか普通、他人がそこまでするか? あっちには殆どメリットの無い契約だぞ?」

 「ん~……いかにも理系男子って感じの雰囲気だけど、意外に情に厚いタイプなのかな。紫苑さんにとって蓮さんはよっぽど大事な友達なんじゃない? 幼稚部からの仲だって言ってたもんね? 元嫁の事も知ってる風な感じだったし」

 「そうっ、俺も思った! 唯子って呼んでたもんな!? まさかあの人も唯を……!? それで唯の幸せの為にあんな……」

 「ええ~? そこまでモテるか? あの元嫁が? 噂に違わぬ地味ガールだったけど?」

 そう言って腕組みをする美琴にびっくりだ。

 「美琴の美意識はマジでハイレベルだな……この前のエレベーターでの……あれほど可愛い唯を見て、そんな風に言えるとは」

 「仁の美意識がバカになりすぎてるんじゃない? てか、ポロポーズしてきた彼女にそんな事を言える神経も、どうかと思うし」

 「え。あれ本気だったのか?」

 「うん。割と。だから考えといて。あ、勿論、紫苑さんとの仕事が片付いてからでいいから」

 割と本気、とは思えない軽いタッチの返事。
 でも、仕事を優先する冷静さを備えている所は……『割と本気』に矛盾しない。

 「私は紫苑さんゲットしといた方がいいと思うけどな。それでチーフになれるなら安いもんじゃない。課長さんにも言われたんでしょ? なりふり構わず上を目指せって」

 「そうなんだけど……やっぱり、屈辱だろ」

 蓮さんに、借りを作るようで。

 「仕事だって割り切るしかないっしょ。蓮さんのトコに行くのが憂鬱なのはわかるけどさ」

 「ん? 蓮さんのトコに行く? 俺が?」

 「だって、言ってたじゃない。紫苑さんは蓮さんトコとの専属契約を所属契約に変更する予定だって。だったら、仁の方から蓮さんに挨拶に出向くべきでしょ? 一応、向こうの会社に不利益を与えるわけだし?」

 「え!? じゃあ……その時、唯に会えるかもって事か!?」

 雨雲の隙間から射した、太陽光……のような朗報に、思わず満面の笑みを浮かべてしまう。
 そんな俺を見て、美しい顔を歪める美琴。

 「嘘でしょ? 嬉しさが勝つの? マジで病気……」

 「あ! じゃあ手土産が必要だよな? 何にしよう? 美琴、なんかオシャレで気の利いたやつ無いか!?」

 「落ち着いて。まずは課長さんと相談、でしょ? 本決まりになったら、チョイスしてあげるから」

 「唯は基本嫌いな食べ物ねぇけど、スイーツとかは甘すぎ無いのが好きだと思う! よくシュークリーム作ってくれたんだけど、カスタードも生クリームも甘さ控え目で絶品だった!」

 「うん、わかったわかった。蓮さんの好みは?」

 「蓮さんは知らん」

 「じゃあ凛君にきい」

 「そうだ! スイーツよりもすげー良い肉とか持っていこうかな? 唯は倹約家だから、自分では買わないと思うんだよ! どうしよう? 季節的には厚切りステーキよりも、すき焼きにできるような薄切りの肉の方がいいかな!? それとも」


 その後……
 『そもそもそーゆーのを彼女にきくな』とキレた美琴の機嫌を取る為に……俺は彼女の家で、夜遅くまで美脚マッサージをさせられたのだった。
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