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186.大きなクリスマスツリーって憧れる
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「180センチか……う~ん……憧れるけど……う~ん……」
輸入雑貨屋さんで立派なクリスマスツリーを見上げ、うなり声を漏らしてしまう。
そんな私の横から、蓮ちゃんがツリーのトップあたりに手を伸ばして。
「いいんじゃない? 俺の背と同じ位だから、踏み台無しで飾りつけ出来るし」
「でも、3万円だよ?」
「大きさの割に、リーズナブルだと思うけどな」
「でも、年に1回しか使わない物に、3万円……せめて1万円……ううん、5千円位なら奮発しちゃおって気になるんだけど」
「うーん……会社を興したばかりで、唯が慎重になる気持ちはわかるけど。クリスマスツリーを買える程度の蓄えは、あるよ?」
存じております。
私は仁ちゃんの家を出てからすぐに。蓮ちゃんは先月にそれぞれアスカを退社したけれど……蓮ちゃんがこれまでに築いた資産があれば、かなり贅沢な暮らしが出来るという事は。でも……
「だからって、それを私が無駄遣いして良いわけじゃないよ。それに、今日はクリスマスツリーを見に来たわけじゃ……あ、あった! 加湿器コーナー!」
モクモクと上がる水蒸気を見つけて、小走りで向かう。
「わあ~、やっぱり雑貨屋さんの加湿器はオシャレだね」
乾燥が気になる冬の時期には、一層種類が増えて、楽しい。
超音波式、スチーム式、ハイブリッド式。それぞれのメリットデメリットの書かれたポップを、うきうきしながら読ませて頂く。
「各部屋に一つ、なんて必要かな? あ、無駄遣いとか言いたいんじゃ無くて。こういうのってマメに手入れしないとすぐにカビるだろ?」
「お手入れなら私に任せて! 仁ちゃんと暮らしてた時は一年中、湿度管理徹底してたし!」
「……そうなんだ」
「仁ちゃん、けっこうアレルギー体質だったからさ。お肌も呼吸器も、保湿命! ハウスダストも、乾燥していない方が舞いにくいし。蓮ちゃんは割と強い方かもだけど、潤いはあるに越したことないと思うんだ」
「……あのさ、二人で暮らし始めてからずっと思ってたんだけど……唯、普通に仁の話、するよね」
少し困惑しているような顔で、蓮ちゃんはペン立てサイズの卓上加湿器を手に取った。
「だって……私が意味ありげな顔で加湿器を見つめてたらどう思う? どうしたの? って訊いても、何でもないよって言って、無理に笑ってたらどう思う? 不安にならない?」
「……確かに。それも、あるあるだな。ご配慮ありがとうございます」
「蓋をするから吹きこぼれるって事、あると思うんだよね。だから、無理に隠さないでいようかと。仁ちゃんと過ごしてた私も、私だから。蓮ちゃんには全部の私を、そばに置いて欲しい」
そう言って腕を組んでみたのだけど。
蓮ちゃんの表情はまだ、複雑そうで。
「……ダメかな?」
「ううん、そうじゃないけど。それはそれで……普通に妬けるなと思って」
何かを誤魔化すように、掌に乗せた小さな加湿器をまじまじと見つめる蓮ちゃん。
その横顔が、とても愛おしくて……人目をはばからず、抱き付いてしまう。
「めんどくさい男で、ごめん」
「大事なものは、大抵めんどくさいって、誰かが言ってたよ?」
その日――私達はベッドサイドに置く小さな加湿器と、大きなクリスマスツリーを買った。
私達の健康と、幸せな時間の為のお買い物。
二人で話し合った結果、それなら無駄遣いじゃないっていう、結論に達したから。
輸入雑貨屋さんで立派なクリスマスツリーを見上げ、うなり声を漏らしてしまう。
そんな私の横から、蓮ちゃんがツリーのトップあたりに手を伸ばして。
「いいんじゃない? 俺の背と同じ位だから、踏み台無しで飾りつけ出来るし」
「でも、3万円だよ?」
「大きさの割に、リーズナブルだと思うけどな」
「でも、年に1回しか使わない物に、3万円……せめて1万円……ううん、5千円位なら奮発しちゃおって気になるんだけど」
「うーん……会社を興したばかりで、唯が慎重になる気持ちはわかるけど。クリスマスツリーを買える程度の蓄えは、あるよ?」
存じております。
私は仁ちゃんの家を出てからすぐに。蓮ちゃんは先月にそれぞれアスカを退社したけれど……蓮ちゃんがこれまでに築いた資産があれば、かなり贅沢な暮らしが出来るという事は。でも……
「だからって、それを私が無駄遣いして良いわけじゃないよ。それに、今日はクリスマスツリーを見に来たわけじゃ……あ、あった! 加湿器コーナー!」
モクモクと上がる水蒸気を見つけて、小走りで向かう。
「わあ~、やっぱり雑貨屋さんの加湿器はオシャレだね」
乾燥が気になる冬の時期には、一層種類が増えて、楽しい。
超音波式、スチーム式、ハイブリッド式。それぞれのメリットデメリットの書かれたポップを、うきうきしながら読ませて頂く。
「各部屋に一つ、なんて必要かな? あ、無駄遣いとか言いたいんじゃ無くて。こういうのってマメに手入れしないとすぐにカビるだろ?」
「お手入れなら私に任せて! 仁ちゃんと暮らしてた時は一年中、湿度管理徹底してたし!」
「……そうなんだ」
「仁ちゃん、けっこうアレルギー体質だったからさ。お肌も呼吸器も、保湿命! ハウスダストも、乾燥していない方が舞いにくいし。蓮ちゃんは割と強い方かもだけど、潤いはあるに越したことないと思うんだ」
「……あのさ、二人で暮らし始めてからずっと思ってたんだけど……唯、普通に仁の話、するよね」
少し困惑しているような顔で、蓮ちゃんはペン立てサイズの卓上加湿器を手に取った。
「だって……私が意味ありげな顔で加湿器を見つめてたらどう思う? どうしたの? って訊いても、何でもないよって言って、無理に笑ってたらどう思う? 不安にならない?」
「……確かに。それも、あるあるだな。ご配慮ありがとうございます」
「蓋をするから吹きこぼれるって事、あると思うんだよね。だから、無理に隠さないでいようかと。仁ちゃんと過ごしてた私も、私だから。蓮ちゃんには全部の私を、そばに置いて欲しい」
そう言って腕を組んでみたのだけど。
蓮ちゃんの表情はまだ、複雑そうで。
「……ダメかな?」
「ううん、そうじゃないけど。それはそれで……普通に妬けるなと思って」
何かを誤魔化すように、掌に乗せた小さな加湿器をまじまじと見つめる蓮ちゃん。
その横顔が、とても愛おしくて……人目をはばからず、抱き付いてしまう。
「めんどくさい男で、ごめん」
「大事なものは、大抵めんどくさいって、誰かが言ってたよ?」
その日――私達はベッドサイドに置く小さな加湿器と、大きなクリスマスツリーを買った。
私達の健康と、幸せな時間の為のお買い物。
二人で話し合った結果、それなら無駄遣いじゃないっていう、結論に達したから。
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