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92.繰り返しお伝えします、が、何度も言わせんなよに聞こえる時あるよね
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「繰り返しお伝えします。続いての競技は、プログラム8番、借り物競争です。参加される皆さんは、入場ゲートまで……」
何度も繰り返しお伝えされるせいで……放送がかかる度に、緊張が増してしまう。
入場ゲートから、応援席を目視確認。
よし。唯は人事部の最前列にいるな。岡崎さんが手配してくれたんだろう。
借り物は、借りられやすい場所でスタンバってる必要があるから。
スタートして、50メートル先の机においてあるお題の紙を取り、そのまま、借り物の元へ走り、机の位置から再スタート……。長いのは、そこからの350メートルだ。
借り物を抱えた状態で、四方八方から受けるであろう妨害攻撃。徒競走のようなスピードでは、当然走れない。
「仁君、お疲れ様~! 審判、疲れましたね~」
微塵も疲労の色に染まっていない爽やかな笑顔で現れた、凛。
「どの口が言うんだ……お前、隅っこで眺めてただけだろ」
「だって、騎馬戦の気迫、すごいじゃない? 社長の息子に怪我させちゃいけない、なんて配慮、誰もしてくれないから。怖くて」
気持ちのいいくらいの、お坊ちゃま回答。もう、怒る気も失せてきた。
「あっ、清香は観客席にいるよ」
「知ってる。お前の横に座ってるのが見えた」
「な~んだ。自分のアシが人事部の応援席にいないから……心配してるかな~と思ったんだけど」
「新入社員に割り振られた応援席の最後列より、社長子息としてVIP席に座るようなクソガキが……自分の婚約者を亜種の横にスタンバらせるわけないって事くらい、わかるっつーの」
「だって、応援席って寒いじゃん? パイプ椅子は、ずっと座ってたらお尻が痛くなっちゃうし」
あ、ダメだ。やっぱり少しずつ、血圧が上がってきた。
「お前がまだベッドの中にいる時間から、あのパイプ椅子を延々並べたのは誰だと思ってんだよ」
「誰って? 風神の血統種が手伝ってくれたって聞きましたよ? 仁君がスカウトした」
こいつ。委員の集まりには遅刻して来たくせに、なんでそーゆー事は知ってんだよ。
「うふふ~、なんで知ってるんだって顔。仁ちゃんてポーカーフェイスと見せかけて、意外とわかりやすいよね。……教えて貰ったんだよ。仁君の大嫌いな、あの人に」
あの人。その言葉に、ピクリと反応してしまう。
「バレバレの嘘ついてるんじゃねえよ。あの人は今日」
「来てないと思ってる? 超こまめにVIP席をチェックしてるのに、見つからなかったから? 徒競走の参加者を誘導してる時も、大玉転がしで泣いて悔しがるお子ちゃまを保護者の元に届けてる時も、騎馬戦の審判の時ですら、チラチラ、チラチラ見てたもんね?」
今日の俺の行動を監視していたかのような、言いよう。不覚にも、言葉を詰まらせてしまう。
そんな俺の肩を叩いて、凜は声を出して笑い始めた。
「あはは! よっぽどこわいんだなあ、あの人が。安心してください、もういないから。朝一に準備の様子だけ見に来てたんだよ。忙しいみたいで……開会式が始まる前に他の仕事に行っちゃった」
「……ああ、そうかよ」
無関心を装った、返事。どうせバレバレだろうけど。俺がホッとしている事なんて。
「そんなわけだから、安心して競技に集中してね?」
「お前こそ、な」
「走順1組目のかた~! こっちに並んでください~!」
血圧上昇作用のある凛との会話がひと段落した所で……聞き覚えのが耳を突く。
周囲を見渡すと、1と書いたプラカードを持った一輝が、『走順1組めの……』と、繰り返しアナウンスしていた。
「「あ……」」
目が合った瞬間、互いに口を同じ形に開けた。が、あいつはすぐに視線をそらして……。
「ん? あれ一輝さんじゃないですか? 実行委員じゃないのになんで……ああっ、広報でもインフル休みが出てたから、代理ですかね~? 仁君、何か聞いてる?」
「知らん」
俺と一輝のゴタゴタを知ってるくせに、白々しく顔を覗き込んでくる凜の言葉を受け流して……1組目走者の俺は、大人しく一輝の元へ足を運ぶのだった。
何度も繰り返しお伝えされるせいで……放送がかかる度に、緊張が増してしまう。
入場ゲートから、応援席を目視確認。
よし。唯は人事部の最前列にいるな。岡崎さんが手配してくれたんだろう。
借り物は、借りられやすい場所でスタンバってる必要があるから。
スタートして、50メートル先の机においてあるお題の紙を取り、そのまま、借り物の元へ走り、机の位置から再スタート……。長いのは、そこからの350メートルだ。
借り物を抱えた状態で、四方八方から受けるであろう妨害攻撃。徒競走のようなスピードでは、当然走れない。
「仁君、お疲れ様~! 審判、疲れましたね~」
微塵も疲労の色に染まっていない爽やかな笑顔で現れた、凛。
「どの口が言うんだ……お前、隅っこで眺めてただけだろ」
「だって、騎馬戦の気迫、すごいじゃない? 社長の息子に怪我させちゃいけない、なんて配慮、誰もしてくれないから。怖くて」
気持ちのいいくらいの、お坊ちゃま回答。もう、怒る気も失せてきた。
「あっ、清香は観客席にいるよ」
「知ってる。お前の横に座ってるのが見えた」
「な~んだ。自分のアシが人事部の応援席にいないから……心配してるかな~と思ったんだけど」
「新入社員に割り振られた応援席の最後列より、社長子息としてVIP席に座るようなクソガキが……自分の婚約者を亜種の横にスタンバらせるわけないって事くらい、わかるっつーの」
「だって、応援席って寒いじゃん? パイプ椅子は、ずっと座ってたらお尻が痛くなっちゃうし」
あ、ダメだ。やっぱり少しずつ、血圧が上がってきた。
「お前がまだベッドの中にいる時間から、あのパイプ椅子を延々並べたのは誰だと思ってんだよ」
「誰って? 風神の血統種が手伝ってくれたって聞きましたよ? 仁君がスカウトした」
こいつ。委員の集まりには遅刻して来たくせに、なんでそーゆー事は知ってんだよ。
「うふふ~、なんで知ってるんだって顔。仁ちゃんてポーカーフェイスと見せかけて、意外とわかりやすいよね。……教えて貰ったんだよ。仁君の大嫌いな、あの人に」
あの人。その言葉に、ピクリと反応してしまう。
「バレバレの嘘ついてるんじゃねえよ。あの人は今日」
「来てないと思ってる? 超こまめにVIP席をチェックしてるのに、見つからなかったから? 徒競走の参加者を誘導してる時も、大玉転がしで泣いて悔しがるお子ちゃまを保護者の元に届けてる時も、騎馬戦の審判の時ですら、チラチラ、チラチラ見てたもんね?」
今日の俺の行動を監視していたかのような、言いよう。不覚にも、言葉を詰まらせてしまう。
そんな俺の肩を叩いて、凜は声を出して笑い始めた。
「あはは! よっぽどこわいんだなあ、あの人が。安心してください、もういないから。朝一に準備の様子だけ見に来てたんだよ。忙しいみたいで……開会式が始まる前に他の仕事に行っちゃった」
「……ああ、そうかよ」
無関心を装った、返事。どうせバレバレだろうけど。俺がホッとしている事なんて。
「そんなわけだから、安心して競技に集中してね?」
「お前こそ、な」
「走順1組目のかた~! こっちに並んでください~!」
血圧上昇作用のある凛との会話がひと段落した所で……聞き覚えのが耳を突く。
周囲を見渡すと、1と書いたプラカードを持った一輝が、『走順1組めの……』と、繰り返しアナウンスしていた。
「「あ……」」
目が合った瞬間、互いに口を同じ形に開けた。が、あいつはすぐに視線をそらして……。
「ん? あれ一輝さんじゃないですか? 実行委員じゃないのになんで……ああっ、広報でもインフル休みが出てたから、代理ですかね~? 仁君、何か聞いてる?」
「知らん」
俺と一輝のゴタゴタを知ってるくせに、白々しく顔を覗き込んでくる凜の言葉を受け流して……1組目走者の俺は、大人しく一輝の元へ足を運ぶのだった。
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