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44.日曜日は逆に早く起きたい
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「はあ……」
洗濯物を干しながら、ため息をついてしまう。
今日は日曜日。
休日の朝は……好きになれない。お仕事が休みだから、仁ちゃんを起こす必要が無くて。
それに、昨日の夜の事もあるし。
「仁ちゃん、やっぱり嫌だったんだろうな……」
運動会の相談をしている最中から、仁ちゃんは明らかにおかしかった。
一言、二言の返事しかしてくれないし。急に大きな声を出したり。立ち上がったり。
斎藤さんのアドバイス通り、おんぶとお姫様抱っこを試してもらってからは、尚更。
何か思い悩んでいるような、堪えているような……しんどそうな様子で。
私が重くて、肉体的に大変だった……わけでは無いと思う。
日課のトレーニングで鍛え上げられた仁ちゃんの身体能力なら、貧弱体形の私を抱える位、何でも無かったろうし。
だとしたらやっぱり……私みたいなのを妻として、会社の皆さんに披露しなきゃならない(しかも、場合によってはお姫様抱っこで)……そんな未来を具体的に想像しちゃって、憂鬱な気持ちになってしまったんだろう。
「運動会の事を黙ってたのは……そういう理由だったのかも……」
私を晒しものにしたくない、勿論そんな優しさもあったのだと思う。
でもそれ以上に、私みたいなのをパートナーだと紹介するのは、やっぱり気が引けたんじゃないかな。
昨日大園さんには、仁ちゃんはそんな人じゃない、なんて言ったけど……。
いくら仁ちゃんが優しくても、私の容姿の不出来さは、その寛容さをもってしてもあまりある。
「斎藤さんにしがみつきの特訓を頼むより、大園さんにメイクの特訓を頼むべきだったかな……」
申し訳ない。
それほどの苦痛を仁ちゃんに与えておきながら……私は、かつてない位にドキドキしてしまった。
おんぶでもお姫様抱っこでも。仁ちゃんが近くて。
爆速で鳴る心臓の鼓動が、どうか仁ちゃんに聞こえませんように。そう祈りつつ……『いけない! 競技中、仁ちゃんの負担にならないよう、真剣に取り組まなきゃ!』と、必死になってアレコレ尋ねてみたけれど。ちゃんと誤魔化せていただろうか。
「ダメだな、私、好きが漏れ漏れで……」
結婚して2年。こんな事じゃ、仁ちゃんに気付かれてしまうのも時間の問題かも。
なんてため息を吐いていたら――
「おはよ」
「っひ……!!」
突然背後から聞こえて来た、仁ちゃんの声。
驚きのあまり、手に抱えていた洗濯カゴを落としてしまった。
「あ、悪い、驚かせて」
バルコニー用のサンダルを履き、申し訳なさそうな顔で駆け寄って来る仁ちゃん。
「ううん、私こそリアクション大きすぎて、ごめんね」
「いや……休みの日位、俺が洗濯するって言ってんのに。残り干すから、唯は休んでろよ」
「あ、ありがとう……でも……」
地面に転がるプラスチック製の洗濯籠に目をやると……そこにはがっつりとヒビが入っていて。
「小さな破片がお洋服についてたら大変だから、もう一度洗い直すよ。ごめんね、お家のもの、粗末にして」
「そんなんいいから……。つーかさ、それじゃあ買いに行かね? 新しいランドリーバスケット」
らんどりーばすけっと? ああ、洗濯カゴの事か。さすがは仁ちゃん、おしゃれな言い方するなあ。
なんて、横文字を使う仁ちゃんに関心してる場合じゃない。
「せっかくの日曜日だし、仁ちゃんは自分時間を大切にして? 洗濯か……ランドリーバスケットは、私が買っておくから」
「いや、俺が驚かせたから、こうなったんだし」
「ううん、壊したのは私だもん。気を遣わなくていいから」
貴重な休日を、私のドジの犠牲にしたくはない。せっかくのご厚意だけれど、気持ちだけ頂いて。
そう思って、笑顔で遠慮してみたのだけど。仁ちゃんは何やら難しい顔をしていて。
「まただ……斎藤、うるせえな……」
「ん?? 斎藤さん?」
「あ、違う、何でもない。俺もちょうど、インテリアショップ行きたいと思ってたんだ。唯が良ければ、一緒に行かねえか?」
え。インテリアショップ?
洗濯かごって、ホームセンターとかにあるんじゃ?
そんな疑問が、頭に浮かんだけれど。
「本当? じゃあ一緒に行ってもいいかな?」
「ああ、じゃあ9時出発とかでいいか? 日曜で混むだろうから、開店と同時に到着目指す感じで。洗濯物は洗い直すなら乾燥までまわしとけばいいし」
「うん! 準備するね!」
ささやかな『?』はこの際無視だ。
日曜日、仁ちゃんと出かけられる。この嬉しすぎるイベントを逃すわけにはいかない。ついでだというなら、喜んで便乗させて頂こう。
それにしても、仁ちゃんが行くようなオシャレなインテリアショップに、本当に洗濯かごが売っているのだろうか……。
そんな不安を抱えながら、亀裂の入った洗濯かごを手に取った。
取っ手も格子状のかご部分も、オールプラスチック。
オシャレとは言えない普通の洗濯かご。生活感はあるけれど、その分安心感もある。
「ダメにしちゃって、ごめんね……」
何年もの間、毎日お世話になった愛用品に謝罪をして、私はまだ濡れている洗濯物を抱え、再びランドリールームに戻るのだった。
洗濯物を干しながら、ため息をついてしまう。
今日は日曜日。
休日の朝は……好きになれない。お仕事が休みだから、仁ちゃんを起こす必要が無くて。
それに、昨日の夜の事もあるし。
「仁ちゃん、やっぱり嫌だったんだろうな……」
運動会の相談をしている最中から、仁ちゃんは明らかにおかしかった。
一言、二言の返事しかしてくれないし。急に大きな声を出したり。立ち上がったり。
斎藤さんのアドバイス通り、おんぶとお姫様抱っこを試してもらってからは、尚更。
何か思い悩んでいるような、堪えているような……しんどそうな様子で。
私が重くて、肉体的に大変だった……わけでは無いと思う。
日課のトレーニングで鍛え上げられた仁ちゃんの身体能力なら、貧弱体形の私を抱える位、何でも無かったろうし。
だとしたらやっぱり……私みたいなのを妻として、会社の皆さんに披露しなきゃならない(しかも、場合によってはお姫様抱っこで)……そんな未来を具体的に想像しちゃって、憂鬱な気持ちになってしまったんだろう。
「運動会の事を黙ってたのは……そういう理由だったのかも……」
私を晒しものにしたくない、勿論そんな優しさもあったのだと思う。
でもそれ以上に、私みたいなのをパートナーだと紹介するのは、やっぱり気が引けたんじゃないかな。
昨日大園さんには、仁ちゃんはそんな人じゃない、なんて言ったけど……。
いくら仁ちゃんが優しくても、私の容姿の不出来さは、その寛容さをもってしてもあまりある。
「斎藤さんにしがみつきの特訓を頼むより、大園さんにメイクの特訓を頼むべきだったかな……」
申し訳ない。
それほどの苦痛を仁ちゃんに与えておきながら……私は、かつてない位にドキドキしてしまった。
おんぶでもお姫様抱っこでも。仁ちゃんが近くて。
爆速で鳴る心臓の鼓動が、どうか仁ちゃんに聞こえませんように。そう祈りつつ……『いけない! 競技中、仁ちゃんの負担にならないよう、真剣に取り組まなきゃ!』と、必死になってアレコレ尋ねてみたけれど。ちゃんと誤魔化せていただろうか。
「ダメだな、私、好きが漏れ漏れで……」
結婚して2年。こんな事じゃ、仁ちゃんに気付かれてしまうのも時間の問題かも。
なんてため息を吐いていたら――
「おはよ」
「っひ……!!」
突然背後から聞こえて来た、仁ちゃんの声。
驚きのあまり、手に抱えていた洗濯カゴを落としてしまった。
「あ、悪い、驚かせて」
バルコニー用のサンダルを履き、申し訳なさそうな顔で駆け寄って来る仁ちゃん。
「ううん、私こそリアクション大きすぎて、ごめんね」
「いや……休みの日位、俺が洗濯するって言ってんのに。残り干すから、唯は休んでろよ」
「あ、ありがとう……でも……」
地面に転がるプラスチック製の洗濯籠に目をやると……そこにはがっつりとヒビが入っていて。
「小さな破片がお洋服についてたら大変だから、もう一度洗い直すよ。ごめんね、お家のもの、粗末にして」
「そんなんいいから……。つーかさ、それじゃあ買いに行かね? 新しいランドリーバスケット」
らんどりーばすけっと? ああ、洗濯カゴの事か。さすがは仁ちゃん、おしゃれな言い方するなあ。
なんて、横文字を使う仁ちゃんに関心してる場合じゃない。
「せっかくの日曜日だし、仁ちゃんは自分時間を大切にして? 洗濯か……ランドリーバスケットは、私が買っておくから」
「いや、俺が驚かせたから、こうなったんだし」
「ううん、壊したのは私だもん。気を遣わなくていいから」
貴重な休日を、私のドジの犠牲にしたくはない。せっかくのご厚意だけれど、気持ちだけ頂いて。
そう思って、笑顔で遠慮してみたのだけど。仁ちゃんは何やら難しい顔をしていて。
「まただ……斎藤、うるせえな……」
「ん?? 斎藤さん?」
「あ、違う、何でもない。俺もちょうど、インテリアショップ行きたいと思ってたんだ。唯が良ければ、一緒に行かねえか?」
え。インテリアショップ?
洗濯かごって、ホームセンターとかにあるんじゃ?
そんな疑問が、頭に浮かんだけれど。
「本当? じゃあ一緒に行ってもいいかな?」
「ああ、じゃあ9時出発とかでいいか? 日曜で混むだろうから、開店と同時に到着目指す感じで。洗濯物は洗い直すなら乾燥までまわしとけばいいし」
「うん! 準備するね!」
ささやかな『?』はこの際無視だ。
日曜日、仁ちゃんと出かけられる。この嬉しすぎるイベントを逃すわけにはいかない。ついでだというなら、喜んで便乗させて頂こう。
それにしても、仁ちゃんが行くようなオシャレなインテリアショップに、本当に洗濯かごが売っているのだろうか……。
そんな不安を抱えながら、亀裂の入った洗濯かごを手に取った。
取っ手も格子状のかご部分も、オールプラスチック。
オシャレとは言えない普通の洗濯かご。生活感はあるけれど、その分安心感もある。
「ダメにしちゃって、ごめんね……」
何年もの間、毎日お世話になった愛用品に謝罪をして、私はまだ濡れている洗濯物を抱え、再びランドリールームに戻るのだった。
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