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第75話 「危機一髪」
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アウスト王国に到着して、城下町へと移動した時、驚くべき光景を目にしました。
「街が、燃えてる……」
邪神の仕業だと、即座に理解しました。こんな規模の炎上を起こせるのは、邪神くらいしかいませんから。
「くそっ、カイリ殿は……もしや」
王城は崩れて、原型を保っていません。あそこでカイリ様が待っているはずなのに。
「王城が、壊されて……じゃあ、カイリ様は、もう……」
そんなはずないって、思っているのに。炎上した街と、壊れた王城を見てしまったら……認めないといけなくなってしまう。
「そんな、嘘だよ……」
助けられなかった。わたしたちの間に、重い空気が流れていきます。
「あれぇ、またボクを追いかけてきたんだ。本当に……何度も何度も、しつこい奴らだな、キミたちは」
上空から苛立った声。もう聞きあきるほど聞いた、邪神の声でした。
「意外と面倒なんだよ。いくら格下とはいえさ、ちょこまか動く虫を殺すのは。だからある程度痛め付けるだけで済ませておいたのに……こうも追い回されると、いい加減癇に触る」
「貴様が大人しくしておけば、最初から因縁が始まることもなかった。その面倒なことを始めたのは、貴様自身だろう」
「ボクの自業自得だとでも? そもそも、ボクだってお前ら人間に封印されなければこんなことする必要がなかった。先に危害を加えたのはそっちだろ」
「それは千年前のことで、今の私たちや……カイリ殿は関係ない!」
「人間ごときがボクに口答え……あぁ、鬱陶しいなぁ」
図星を突かれたのか、邪神は苛立ちを隠せていませんでした。
その様子はまるで――
「人間をよほど見下しておるようじゃが、苛立ち八つ当たりをする今の貴様は……まるで人間だな」
「――っ!」
邪神がその顔に驚愕の色を浮かべました。
「……は、ははは。そこまで神を愚弄するなんて、いっそ清々しいくらいだ。絶対にキミだけは惨たらしく殺してあげるよ」
エリザベスさんの指摘が随分効いたようで、邪神は剣を取り出します。
そして、もう片方の手には長い槍が握られていました。
「神槍――グングニル。キミたちに見せるのは始めてかな?」
カイリ様が使っていたのは剣と弓。金色に光った槍なんて、見たことはありません。
しかも……
「二本、だと……」
「そもそもどうして、神器を一本しか顕現できないと思い込んでいたんだい? カイリのやつは一本ずつしか出せなかったみたいだけど、それはあいつがボクの力を半分も引き出せてないからだよ。造物主たるこのボクの力を、あんな奴と一緒に考えないでもらいたいな」
「よくしゃべる口だ。貴様の耳障りな声で長台詞を聞かされると一種の拷問よな」
エリザベスさんの煽りが止まりません。
わたしも神を相手に恐怖を感じていないのは結構すごいんじゃないかと思ってましたけど、エリザベスさんを見てると格の違いを思い知らされますね。
誰を相手にしても怯むことなく立ち向かう姿勢……見習わないと。
街が燃えていて絶望しかけましたが、エリザベスさんの言葉で、少し救われました。
「その減らず口も、すぐに言えなくしてやるよ。ボクに逆らったことを後悔させてやる」
邪神がこちらに剣を向けてきて――たった一太刀。それだけで、周囲の建物を薙ぎ払ってしまいます。
エリザベスさんとフィオナさんの二人がかりでなんとか止めて、わたしがすぐさま回復。もう慣れた連携です……しかし。
「剣一本相手に二人がかりなんて、ならこっちはどう止めるのかな!」
槍が、剣を受け止めた二人に襲いかかります。
今まで邪神ともある程度戦えていたのは、相手が武器を一本しか使わなかったから。
二本だと、いくらなんでも対処しきれません。
「どうしたら……わたしに、できることは……」
二本目の武器に対して、完全に無防備の二人を助けないと。
でも、わたしにはそんな力はない。
――槍が、迫っている。必死でわたしたちや、街を守ろうと奮闘しているエリザベスさんたちを、刈り取ろうとしている。
「わたしには、なにも……」
――できない。自分の身すら満足に守れないわたしに、あんな攻撃を止めることなんて……
こんな時に、カイリ様がいてくれたら。強くて、格好良くて、いつだって、わたしたちを救ってくれた。
「お願い――」
もしも、生きているのなら……あの二人を――
槍がエリザベスさんの首筋に触れる――直前。
甲高い音を立てて、槍が弾かれました。
「――なんとか、ギリギリ間に合ったな」
そこには確かに、カイリ様が立っていました。
「街が、燃えてる……」
邪神の仕業だと、即座に理解しました。こんな規模の炎上を起こせるのは、邪神くらいしかいませんから。
「くそっ、カイリ殿は……もしや」
王城は崩れて、原型を保っていません。あそこでカイリ様が待っているはずなのに。
「王城が、壊されて……じゃあ、カイリ様は、もう……」
そんなはずないって、思っているのに。炎上した街と、壊れた王城を見てしまったら……認めないといけなくなってしまう。
「そんな、嘘だよ……」
助けられなかった。わたしたちの間に、重い空気が流れていきます。
「あれぇ、またボクを追いかけてきたんだ。本当に……何度も何度も、しつこい奴らだな、キミたちは」
上空から苛立った声。もう聞きあきるほど聞いた、邪神の声でした。
「意外と面倒なんだよ。いくら格下とはいえさ、ちょこまか動く虫を殺すのは。だからある程度痛め付けるだけで済ませておいたのに……こうも追い回されると、いい加減癇に触る」
「貴様が大人しくしておけば、最初から因縁が始まることもなかった。その面倒なことを始めたのは、貴様自身だろう」
「ボクの自業自得だとでも? そもそも、ボクだってお前ら人間に封印されなければこんなことする必要がなかった。先に危害を加えたのはそっちだろ」
「それは千年前のことで、今の私たちや……カイリ殿は関係ない!」
「人間ごときがボクに口答え……あぁ、鬱陶しいなぁ」
図星を突かれたのか、邪神は苛立ちを隠せていませんでした。
その様子はまるで――
「人間をよほど見下しておるようじゃが、苛立ち八つ当たりをする今の貴様は……まるで人間だな」
「――っ!」
邪神がその顔に驚愕の色を浮かべました。
「……は、ははは。そこまで神を愚弄するなんて、いっそ清々しいくらいだ。絶対にキミだけは惨たらしく殺してあげるよ」
エリザベスさんの指摘が随分効いたようで、邪神は剣を取り出します。
そして、もう片方の手には長い槍が握られていました。
「神槍――グングニル。キミたちに見せるのは始めてかな?」
カイリ様が使っていたのは剣と弓。金色に光った槍なんて、見たことはありません。
しかも……
「二本、だと……」
「そもそもどうして、神器を一本しか顕現できないと思い込んでいたんだい? カイリのやつは一本ずつしか出せなかったみたいだけど、それはあいつがボクの力を半分も引き出せてないからだよ。造物主たるこのボクの力を、あんな奴と一緒に考えないでもらいたいな」
「よくしゃべる口だ。貴様の耳障りな声で長台詞を聞かされると一種の拷問よな」
エリザベスさんの煽りが止まりません。
わたしも神を相手に恐怖を感じていないのは結構すごいんじゃないかと思ってましたけど、エリザベスさんを見てると格の違いを思い知らされますね。
誰を相手にしても怯むことなく立ち向かう姿勢……見習わないと。
街が燃えていて絶望しかけましたが、エリザベスさんの言葉で、少し救われました。
「その減らず口も、すぐに言えなくしてやるよ。ボクに逆らったことを後悔させてやる」
邪神がこちらに剣を向けてきて――たった一太刀。それだけで、周囲の建物を薙ぎ払ってしまいます。
エリザベスさんとフィオナさんの二人がかりでなんとか止めて、わたしがすぐさま回復。もう慣れた連携です……しかし。
「剣一本相手に二人がかりなんて、ならこっちはどう止めるのかな!」
槍が、剣を受け止めた二人に襲いかかります。
今まで邪神ともある程度戦えていたのは、相手が武器を一本しか使わなかったから。
二本だと、いくらなんでも対処しきれません。
「どうしたら……わたしに、できることは……」
二本目の武器に対して、完全に無防備の二人を助けないと。
でも、わたしにはそんな力はない。
――槍が、迫っている。必死でわたしたちや、街を守ろうと奮闘しているエリザベスさんたちを、刈り取ろうとしている。
「わたしには、なにも……」
――できない。自分の身すら満足に守れないわたしに、あんな攻撃を止めることなんて……
こんな時に、カイリ様がいてくれたら。強くて、格好良くて、いつだって、わたしたちを救ってくれた。
「お願い――」
もしも、生きているのなら……あの二人を――
槍がエリザベスさんの首筋に触れる――直前。
甲高い音を立てて、槍が弾かれました。
「――なんとか、ギリギリ間に合ったな」
そこには確かに、カイリ様が立っていました。
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