上 下
75 / 81

第75話 「危機一髪」

しおりを挟む
 アウスト王国に到着して、城下町へと移動した時、驚くべき光景を目にしました。

「街が、燃えてる……」

 邪神の仕業だと、即座に理解しました。こんな規模の炎上を起こせるのは、邪神くらいしかいませんから。

「くそっ、カイリ殿は……もしや」

 王城は崩れて、原型を保っていません。あそこでカイリ様が待っているはずなのに。

「王城が、壊されて……じゃあ、カイリ様は、もう……」

 そんなはずないって、思っているのに。炎上した街と、壊れた王城を見てしまったら……認めないといけなくなってしまう。

「そんな、嘘だよ……」

 助けられなかった。わたしたちの間に、重い空気が流れていきます。

「あれぇ、またボクを追いかけてきたんだ。本当に……何度も何度も、しつこい奴らだな、キミたちは」

 上空から苛立った声。もう聞きあきるほど聞いた、邪神の声でした。

「意外と面倒なんだよ。いくら格下とはいえさ、ちょこまか動く虫を殺すのは。だからある程度痛め付けるだけで済ませておいたのに……こうも追い回されると、いい加減癇に触る」

「貴様が大人しくしておけば、最初から因縁が始まることもなかった。その面倒なことを始めたのは、貴様自身だろう」

「ボクの自業自得だとでも? そもそも、ボクだってお前ら人間に封印されなければこんなことする必要がなかった。先に危害を加えたのはそっちだろ」

「それは千年前のことで、今の私たちや……カイリ殿は関係ない!」

「人間ごときがボクに口答え……あぁ、鬱陶しいなぁ」

 図星を突かれたのか、邪神は苛立ちを隠せていませんでした。
 その様子はまるで――

「人間をよほど見下しておるようじゃが、苛立ち八つ当たりをする今の貴様は……まるで人間だな」

「――っ!」

 邪神がその顔に驚愕の色を浮かべました。

「……は、ははは。そこまで神を愚弄するなんて、いっそ清々しいくらいだ。絶対にキミだけは惨たらしく殺してあげるよ」

 エリザベスさんの指摘が随分効いたようで、邪神は剣を取り出します。
 そして、もう片方の手には長い槍が握られていました。

「神槍――グングニル。キミたちに見せるのは始めてかな?」

 カイリ様が使っていたのは剣と弓。金色に光った槍なんて、見たことはありません。

 しかも……

「二本、だと……」

「そもそもどうして、神器を一本しか顕現できないと思い込んでいたんだい? カイリのやつは一本ずつしか出せなかったみたいだけど、それはあいつがボクの力を半分も引き出せてないからだよ。造物主たるこのボクの力を、あんな奴と一緒に考えないでもらいたいな」

「よくしゃべる口だ。貴様の耳障りな声で長台詞を聞かされると一種の拷問よな」

 エリザベスさんの煽りが止まりません。
 わたしも神を相手に恐怖を感じていないのは結構すごいんじゃないかと思ってましたけど、エリザベスさんを見てると格の違いを思い知らされますね。

 誰を相手にしても怯むことなく立ち向かう姿勢……見習わないと。
 街が燃えていて絶望しかけましたが、エリザベスさんの言葉で、少し救われました。

「その減らず口も、すぐに言えなくしてやるよ。ボクに逆らったことを後悔させてやる」

 邪神がこちらに剣を向けてきて――たった一太刀。それだけで、周囲の建物を薙ぎ払ってしまいます。

 エリザベスさんとフィオナさんの二人がかりでなんとか止めて、わたしがすぐさま回復。もう慣れた連携です……しかし。

「剣一本相手に二人がかりなんて、ならこっちはどう止めるのかな!」

 槍が、剣を受け止めた二人に襲いかかります。
 今まで邪神ともある程度戦えていたのは、相手が武器を一本しか使わなかったから。

 二本だと、いくらなんでも対処しきれません。

「どうしたら……わたしに、できることは……」

 二本目の武器に対して、完全に無防備の二人を助けないと。
 でも、わたしにはそんな力はない。

 ――槍が、迫っている。必死でわたしたちや、街を守ろうと奮闘しているエリザベスさんたちを、刈り取ろうとしている。

「わたしには、なにも……」

 ――できない。自分の身すら満足に守れないわたしに、あんな攻撃を止めることなんて……

 こんな時に、カイリ様がいてくれたら。強くて、格好良くて、いつだって、わたしたちを救ってくれた。

「お願い――」

 もしも、生きているのなら……あの二人を――

 槍がエリザベスさんの首筋に触れる――直前。

 甲高い音を立てて、槍が弾かれました。

「――なんとか、ギリギリ間に合ったな」

 そこには確かに、カイリ様が立っていました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ダンジョンに潜るニート、大人気配信者と最強のタッグとなる

代永 並木
ファンタジー
元会社員、現ニートの井坂澪は数年前突如現れたダンジョンに潜っていた 魔物の棲むダンジョンで金の為に戦う そんな日々を続けていたら危機に晒されていた1人の配信者に出会い助ける そこから配信を一緒にやらないかと言う勧誘が始まった

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

私の愛する人は、私ではない人を愛しています

ハナミズキ
恋愛
代々王宮医師を輩出しているオルディアン伯爵家の双子の妹として生まれたヴィオラ。 物心ついた頃から病弱の双子の兄を溺愛する母に冷遇されていた。王族の専属侍医である父は王宮に常駐し、領地の邸には不在がちなため、誰も夫人によるヴィオラへの仕打ちを諫められる者はいなかった。 母に拒絶され続け、冷たい日々の中でヴィオラを支えたのは幼き頃の初恋の相手であり、婚約者であるフォルスター侯爵家嫡男ルカディオとの約束だった。 『俺が騎士になったらすぐにヴィオを迎えに行くから待っていて。ヴィオの事は俺が一生守るから』 だが、その約束は守られる事はなかった。 15歳の時、愛するルカディオと再会したヴィオラは残酷な現実を知り、心が壊れていく。 そんなヴィオラに、1人の青年が近づき、やがて国を巻き込む運命が廻り出す。 『約束する。お前の心も身体も、俺が守るから。だからもう頑張らなくていい』 それは誰の声だったか。 でもヴィオラの壊れた心にその声は届かない。 もうヴィオラは約束なんてしない。 信じたって最後には裏切られるのだ。 だってこれは既に決まっているシナリオだから。 そう。『悪役令嬢』の私は、破滅する為だけに生まれてきた、ただの当て馬なのだから。

奴の執着から逃れられない件について

B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。 しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。 なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され..., 途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

私はあなたの母ではありませんよ

れもんぴーる
恋愛
クラリスの夫アルマンには結婚する前からの愛人がいた。アルマンは、その愛人は恩人の娘であり切り捨てることはできないが、今後は決して関係を持つことなく支援のみすると約束した。クラリスに娘が生まれて幸せに暮らしていたが、アルマンには約束を違えたどころか隠し子がいた。おまけに娘のユマまでが愛人に懐いていることが判明し絶望する。そんなある日、クラリスは殺される。 クラリスがいなくなった屋敷には愛人と隠し子がやってくる。母を失い悲しみに打ちのめされていたユマは、使用人たちの冷ややかな視線に気づきもせず父の愛人をお母さまと縋り、アルマンは子供を任せられると愛人を屋敷に滞在させた。 アルマンと愛人はクラリス殺しを疑われ、人がどんどん離れて行っていた。そんな時、クラリスそっくりの夫人が社交界に現れた。 ユマもアルマンもクラリスの両親も彼女にクラリスを重ねるが、彼女は辺境の地にある次期ルロワ侯爵夫人オフェリーであった。アルマンやクラリスの両親は他人だとあきらめたがユマはあきらめがつかず、オフェリーに執着し続ける。 クラリスの関係者はこの先どのような未来を歩むのか。 *恋愛ジャンルですが親子関係もキーワード……というかそちらの要素が強いかも。 *めずらしく全編通してシリアスです。 *今後ほかのサイトにも投稿する予定です。

ただヤってる短編集で悪かったな

える
BL
 【王道じゃなくて悪かったな】の短編集、全てR18。  体毛表現、スカトロ、調教系、ソフトSM…etc  かなり特殊です。本編では書かないパラレル番外編的なのも出てくる予定。  更新は不定期です。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

処理中です...