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第72話 ――みんなの英雄」
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「俺にはやるべきことがある。ナナたちや、街の人……みんなを救う英雄になるために」
なにも持ってないわけじゃないと気づけた。なにも残っていないわけじゃないと知った。なら、立ち上がって進むしかない。
「ある人がさ、言ってたんだ。俺は英雄になるべく生まれてきたんだって。正直、今でもそんな大層な人間だとは思えないけど……それを信じてみようって思ったんだ」
俺に与えられた使命があるのなら、果たさなきゃ行けない。俺に希望を託したシオンのためにも。
「さて、じゃあこれからどうしよっか。カイリに偉そうなこと言っちゃったけど、一発逆転の手段とか思い付いてないんだよね」
「そうだな。カイリが立ち直ってくれたのは喜ばしいが……厳しい状況は続いている」
二人の懸念はもっともだ。俺としても、全部をひっくり返す手だてが思い付いてるわけじゃない。
「でも、なにかあるはずなんだ。でなきゃ、シオンがあそこまで言い切った理由が分からねえ」
俺には力がある。なにもないように感じても、立ち向かうための力がある。シオンはそう言っていた。
あの言葉の真意が分かれば少しはマシに――
「あ、れ……」
俺の中に違和感が生じる。なにかがおかしい。なにかが矛盾している。
自分の中の違和感を確かめるように、俺は頭を回す。
「もしかして……」
「どうしたの、なにか分かった?」
ソニアが俺の顔を覗き込んでくる。まだ確かなことは分かっていないけど、違和感の正体に気づいた。
「『封印の祠』……」
「封印の祠? それって過去の英雄が邪神を封印したって場所だよね」
そうだ。ナナ曰く、邪神の肉体は封印の祠によって封じられている。
「でも、シオンは確かに言ってたんだ。『俺たちはかつて邪神を討伐した』って」
「討伐できたのに、封印したの? 倒しきれなかったとかじゃなくて?」
「いいや、間違いなくシオンたち、千年前の英雄は邪神を滅ぼした。少なくとも、肉体は完全にな。『魔書』を読んだ時、その光景をはっきりと見たんだ」
「それっておかしいよ。だって、封印の祠には邪神の肉体が封じられてるって――」
そう、言い伝えと事実とで大きな矛盾が生まれている。
伝承なんて年月を経れば伝わりかたが変わるなんてよくあること。それも、千年も経てばほとんど別物になったっておかしくはない。
「信用すべきは魔書で見た記憶――だとしたら」
邪神の肉体は千年も昔に消滅している。それならば――封印の祠には、一体なにが封印されている?
「邪神の肉体じゃなく、その魂でもない。だって、邪神の意思は、今も現世にある」
思い出せば、初めて封印の祠に行った時、妖精が言っていた。
『いつか戻ってくることがあれば連れて来い』って英雄に言われたのだと。
それと、もう一つ。俺には神の力が宿っていた。あれは千年前にシオンの魂の中に邪神の力を封印したもの。
シオンの魂が俺に入った結果、俺が神の力を使えていた。
「だとすると……元々あったはずの、『シオンの力』は、どこへ行った」
俺が使っていたのは神の力。シオンの力じゃない。シオンの魂を継いでいるのに、どうして俺はシオンの力を使用できなかった?
魂を器として、力を中身とすると、既に入っている「シオンの力」を一旦外へ出さないと、「神の力」という中身を注ぐことはできない。
「滅ぼしたはずの邪神の肉体を封印してる、『封印の祠』。行方知れずになった『シオンの力』。シオンの力はどこかで保管されているはず……答えは、一つしかない」
これはあくまで俺の勝手な推論でしかない。証拠があるわけじゃない。
だけど、希望が残っているとすれば、向かう以外の選択肢はない。
「ソニア、シャル! アルマジール大森林にある『封印の祠』に行こう! 恐らくそこに――邪神を倒すなにかがあるはずだ!」
「カイリ、城下町の方はどうする」
「信じるしかねえ。俺たちが戻るまで耐えてくれるって」
ここで立ち止まっても、戦いに行っても、結果は変わらない。
信じる、俺を慕ってくれた街の人たちを。きっと、生き残ってくれると。
「分かった。私たちも信じよう。カイリを、そして、民を」
「あたしも賛成。可能性が少しでもあるなら……行くしかないよね!」
「そうと決まれば一刻も早く行かねえとな。絶対に俺たちで――邪神をぶっ倒すぞ!」
俺はソニアとシャルの手を繋ぎ、『転移』を発動する。
なにも持ってないわけじゃないと気づけた。なにも残っていないわけじゃないと知った。なら、立ち上がって進むしかない。
「ある人がさ、言ってたんだ。俺は英雄になるべく生まれてきたんだって。正直、今でもそんな大層な人間だとは思えないけど……それを信じてみようって思ったんだ」
俺に与えられた使命があるのなら、果たさなきゃ行けない。俺に希望を託したシオンのためにも。
「さて、じゃあこれからどうしよっか。カイリに偉そうなこと言っちゃったけど、一発逆転の手段とか思い付いてないんだよね」
「そうだな。カイリが立ち直ってくれたのは喜ばしいが……厳しい状況は続いている」
二人の懸念はもっともだ。俺としても、全部をひっくり返す手だてが思い付いてるわけじゃない。
「でも、なにかあるはずなんだ。でなきゃ、シオンがあそこまで言い切った理由が分からねえ」
俺には力がある。なにもないように感じても、立ち向かうための力がある。シオンはそう言っていた。
あの言葉の真意が分かれば少しはマシに――
「あ、れ……」
俺の中に違和感が生じる。なにかがおかしい。なにかが矛盾している。
自分の中の違和感を確かめるように、俺は頭を回す。
「もしかして……」
「どうしたの、なにか分かった?」
ソニアが俺の顔を覗き込んでくる。まだ確かなことは分かっていないけど、違和感の正体に気づいた。
「『封印の祠』……」
「封印の祠? それって過去の英雄が邪神を封印したって場所だよね」
そうだ。ナナ曰く、邪神の肉体は封印の祠によって封じられている。
「でも、シオンは確かに言ってたんだ。『俺たちはかつて邪神を討伐した』って」
「討伐できたのに、封印したの? 倒しきれなかったとかじゃなくて?」
「いいや、間違いなくシオンたち、千年前の英雄は邪神を滅ぼした。少なくとも、肉体は完全にな。『魔書』を読んだ時、その光景をはっきりと見たんだ」
「それっておかしいよ。だって、封印の祠には邪神の肉体が封じられてるって――」
そう、言い伝えと事実とで大きな矛盾が生まれている。
伝承なんて年月を経れば伝わりかたが変わるなんてよくあること。それも、千年も経てばほとんど別物になったっておかしくはない。
「信用すべきは魔書で見た記憶――だとしたら」
邪神の肉体は千年も昔に消滅している。それならば――封印の祠には、一体なにが封印されている?
「邪神の肉体じゃなく、その魂でもない。だって、邪神の意思は、今も現世にある」
思い出せば、初めて封印の祠に行った時、妖精が言っていた。
『いつか戻ってくることがあれば連れて来い』って英雄に言われたのだと。
それと、もう一つ。俺には神の力が宿っていた。あれは千年前にシオンの魂の中に邪神の力を封印したもの。
シオンの魂が俺に入った結果、俺が神の力を使えていた。
「だとすると……元々あったはずの、『シオンの力』は、どこへ行った」
俺が使っていたのは神の力。シオンの力じゃない。シオンの魂を継いでいるのに、どうして俺はシオンの力を使用できなかった?
魂を器として、力を中身とすると、既に入っている「シオンの力」を一旦外へ出さないと、「神の力」という中身を注ぐことはできない。
「滅ぼしたはずの邪神の肉体を封印してる、『封印の祠』。行方知れずになった『シオンの力』。シオンの力はどこかで保管されているはず……答えは、一つしかない」
これはあくまで俺の勝手な推論でしかない。証拠があるわけじゃない。
だけど、希望が残っているとすれば、向かう以外の選択肢はない。
「ソニア、シャル! アルマジール大森林にある『封印の祠』に行こう! 恐らくそこに――邪神を倒すなにかがあるはずだ!」
「カイリ、城下町の方はどうする」
「信じるしかねえ。俺たちが戻るまで耐えてくれるって」
ここで立ち止まっても、戦いに行っても、結果は変わらない。
信じる、俺を慕ってくれた街の人たちを。きっと、生き残ってくれると。
「分かった。私たちも信じよう。カイリを、そして、民を」
「あたしも賛成。可能性が少しでもあるなら……行くしかないよね!」
「そうと決まれば一刻も早く行かねえとな。絶対に俺たちで――邪神をぶっ倒すぞ!」
俺はソニアとシャルの手を繋ぎ、『転移』を発動する。
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