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第55話 「終焉に進む世界」

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 ――「それ」が始まったのは夜遅くの出来事だった。

「今日はカイリ様と沢山の時間を過ごせて、楽しかったですね」

 わたしはいつも通り、日記を書いていました。なにげないことから、大きなことまで。カイリ様と出会ってからは書くことが多すぎて、日記帳では足りないくらいです。

「そろそろ、寝る準備でも……」

 ――と、その時。強い振動が、わたしの身体を揺らしました。

「な、なに……これ……」

 震源地はすごく近い。そして、次にわたしを襲ったのは、激しい不快感。
 いつもそう。カイリ様に危機が近づいたり、危険に遭う事態が起きれば、いつもわたしの心に奇妙な不快感が生じる。

「カイリ様……なにか、危ない目に……」

 その嫌な予感は、すぐに当たってしまいます。

 カイリ様の部屋の位置から、すさまじい勢いで、光の筋が空高く昇っていきます。
 直後、家が音を立てて崩れ落ちていきました。せっかく国民の皆さんのお力添えで完成した、わたしたちの家が……わたしたちの「日常」が、崩壊していく。

 崩壊に巻き込まれそうになった時、わたしの身体を掴んだのはシャルさんの腕でした。

「ナナ、大丈夫か」

「シャルさん、ありがとうございます!」

「一体どうして急に家が……壊れてしまったんだ」

「嫌な予感がします。カイリ様を探してくださいませんか」

 胸のざわつきが収まりません。空高く昇った光は空中でぴたりと止まって、ようやくその姿を現しました。

「あれは……カナさん……?」

 顔も、身体も。間違いなくカナさんのもの。だけど……雰囲気が全く別のものになっていました。
 空中で止まったカナさんはゆっくりと口を開きます。

「不完全とはいえ……ボクの力を取り戻すことができた。……今日は素晴らしい日だ」

 後光が眩く光る。夜の暗闇を晴らすように、太陽のように、煌めいて。

「――第二神器。真名、解除。神弓『アポロン』」

 弓を上空に放ちました。そして、幾重にも分裂した光の矢が――街中に降り注ぎます。

 かつて、わたしたちが厄災との戦いで強力な戦力になったその力は、今現在。

 私たちを襲う、凶悪な力に変貌してしまったのです。
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