無能はいらないと追放された俺、配信始めました。神の使徒に覚醒し最強になったのでダンジョン配信で超人気配信者に!王女様も信者になってるようです

やのもと しん

文字の大きさ
上 下
4 / 81

第4話 「覚醒」

しおりを挟む
「……ヘ?」

 一体なに言ってんだ? そう言いかけたけれど、俺の言葉が続く前に少女が顔を近づけて話す。

「だから、お名前です! ……って、そういえばわたしも自己紹介してないんでした! わたしはナナと言います!」

「う、うん……よろしく」

 ナナの勢いに押されて思わずナナの手をとってしまい、ナナの表情が一層晴れやかになる。

「それで、あなたのお名前は?」

「俺はカイリ。隣にいるのはアリシアだよ。とりあえず、俺たちで君を守る予定だけど、その声の大きさで外に出るとすぐばれそうだから、静かにね」

「はい! 分かりました! カイリ様!」

 大声出してるじゃん。秒で約束破られたんだけど。でも、キラキラした顔を向けられるとなにも言えない。

「運命の王子様がようやく! あぁ、わたしはなんて幸せ者なんでしょう」

「ははは……夢見がちな子、なんだね……」

 ……アリシア引いてない? 気のせい?

「ともかく、すぐに出発しよう。朝だし、比較的人の目に付きやすいはず……だから、追手も分かりやすく追ってこないとは思う。それに、アリシアのサーチもあるし、撒くのも難しいことじゃないと信じよう!」

「語尾が弱気だから心配だけど……やるしかないもんね」

「わたしも頑張りますよーっ!」

 ナナも決意を固めたところで宿から出る。アリシアに泊めてもらったし、お礼に宿代くらい出そうと格好つけようとした……全く足りなかった。横からアリシアがお金を出してくれた。恥ずかしさで消えたくなってきた。

「顔を真っ赤にする王子様……これはこれでありですね……」

 隣から声が聞こえてくる。ありなんだ、それ。

 気まずいけど、ナナの命がかかっている場でいつまでも恥ずかしがってられない。取り合えずなにも考えないように努めながら、周囲を警戒する。

「アリシア、スキルを使ってくれるか」

「もう使ってる。……『視える』範囲には敵意を持つ人間はいないみたい」

 目を瞑って辺りを探っていたアリシアは目を開くと、俺に視線を向ける。

「良かった。じゃあ街から離れよう。出来る限り人が少ない方へ」

「それは危なくない?」

「人が多い方が危ないよ。混みあってたらどさくさに紛れて……なんてことにもなりかねないし。人気の少ない方がサーチもしやすいだろ」

「確かに、人が多いと敵意を持つ人間だけを的確に探せないし、カイリの言うとおりにした方が良いね」

 方針は決まった。街から離れて辺境に向かう。追手も大きな街から探すだろうし、わざわざ人の少ない場所に逃げるとは思わないだろう。追手は俺たちと言う仲間がいるのを知らないのだから。


 歩くこと三十分。俺の足は早々に疲労を感じていた。

「くそ、車か……せめて自転車が欲しい……」

「クルマ? ジテンシャ?」

 ナナが首を傾げている。日本にいたころを思い出して思わず呟いた単語が聞かれてしまうとは。

「俺の故郷にあった乗り物だよ。馬車みたいなもんだ」

「カイリ様の故郷、どんなところか気になります……」

「うーん、そんなに珍しいところでもなかったけどな。それに、もう帰れないだろうから知っても意味ないぞ」

「あっ……もしかして、故郷がなくなっちゃった、とか……?」

 ナナが心配そうに眉を寄せる。俺の気に障ることを聞いてしまったか、不安になってるみたいだ。

「そんなところだ。でも、そこまで悲観的になってないから、気にしなくていいよ」

「カイリは故郷が好きじゃなかった……とか?」

 なんでそうなった!? ……一瞬そう思いかけたけどそう思われても仕方がないのか。確かに思い入れがなさそうな言い方だったかもしれない。

「そうじゃねえけど……ここに、この世界に来た時、なんか……『安心した』んだよな」

 確かに、俺は日本で友達が多かったわけじゃないし、学校が好きなわけでもなかった。それでも、家族は愛してくれたし、好きな人もいた。

 人並みに日本を愛していた自覚はあった。なのに、俺はこの世界に居心地の良さを感じていた。
 日本と同じくらいに……もしかしたら、それ以上に。そんなこと、自分でも信じたくないけど。

「できれば帰りたい気持ちはあるけど……このままでもいいかなって気持ちもあるんだ。自分でも不思議な感覚だけど」

 この世界に来た瞬間に、俺は無意識的にこの世界で生きたいと望んだ。転移した日からどうしてそう思うのか、何度も自問自答してきたけど、答えは出ていない。

 この世界で初めて、俺は俺自身の話をした。だから、それが楽しくて……それに気づかなかったんだと思う。

「――っ! カイリ! 下がって!」

 アリシアの焦りに満ちた声が聞こえてくる。

「……えっ?」

 俺はアリシアの方に顔を向けるが――その直後だった。
 ガンッ! っと、強い衝撃が頭部に発生する。なにか硬い物体で誰かが俺の頭を殴ったのだ。

「カイリ!」

 ふらふらとよろめいた俺の腕を掴んだのはアリシアだった。強く引き、抱き寄せる。俺の身体を支えながらアリシアが走り出した。

「ナナちゃん! ついてきて!」

「は、はい!」

 俺を抱えているせいでアリシアの速度は遅い。子供のナナでも余裕でついていけるぐらいだ。こんな速度ではすぐに追いつかれてしまう。

「追え! 決して逃がすな!」

 後ろから声がする。その後鉄の擦れる音と土を蹴る音。鎧を着た集団が追いかけてきているのが見なくても分かる。

「ごめん、な……俺の、せいで……」

 頭からなにかの液体が流れてくる。額を伝い、目に入る。液体が目に付く不快感と痛みで思わず右目を瞑る。

 ――なんで。なんで。なんで。なんで、俺たちは追いかけられている? だって、アリシアのサーチには敵正反応がなかった。

 歩く道中でもアリシアのスキルは解除されていなかったはず。敵の集団がこちらに来ているなら気づいて然るべきだった。それなのに、どうして。

「……まずい。逃げられない」

 アリシアの前には崖があった。底が見えないほどの深さだ。回り込んで動こうとアリシアが身体を切り替えるも、左右からも鎧の音が聞こえてくる。

 前には崖。後ろには敵。左右にも敵。もう逃げ場なんてない。ここに逃げるまで敵に追い付かれなかったことにも納得だ。敵はわざわざ追い付く必要なんてないのだから。

 だって――いずれ逃げ場所なんてなくなるから。
 俺たちは希望のない綱渡りを渡り切った。ただ、それだけ。渡り切っただけで、その先はない。

「戦うしか……ないよね」

 アリシアが覚悟を決めている。ナナはその横で震えるばかり。

 無理だ。アリシアにはそこまでの戦闘技能はない。一緒にパーティーを組んでいたから分かる。しかも今は負傷した俺とナナを守らないといけない状況。結果なんて分かり切ってる。

「大人しくその娘を差し出せ。そうすればお前たちの命は助けてやろう」

 鎧を着こんだ男たちの中から、リーダーらしき人物が前に出て、アリシアに告げる。

 俺もいいかげん力になりたくて、足手まといながらもアリシアの隣に立つ。戦力にはならないけれど、肉壁くらいにはなれるだろう。

「カイリ……安静に」

「そんなこと言ってられないだろ。俺だって、やられっぱなしなんて嫌だ」

 逆転の目はない。分かっている筈なのに、俺はこうして、立っている。

「どうあっても渡す気はないか……ならば、諸共殺すのみ」

 一斉に武器を構え、敵が向かってくる。数は見える限りでも三十を超える。伏兵もいると考えればもっと多いだろう。

 アリシアがこちらを見る。不安そうに、心配そうに、じっと、こちらを見ている。

 アリシアには助けられてばっかりだ。アリシアを助けたい。ナナを助けたい。そしてなにより――こんなところで、諦めたくない。

「カイリ様!」

 俺の意思に応えたように、声が聞こえる。弱弱しく、震えた声が。

「わたしを――『助けて』!」

 ナナの悲鳴に似た声を聞いた。その直後、俺の「内側」からなにかが生まれてくる。

 それは、言葉だった。脳の奥底……無意識の領域からにじみ出る言葉。俺の口が、勝手にその言葉を発していた。


「――『限定解除』」


 瞬間、俺の手に巨大な剣が出現する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。

ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。 冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。 その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。 その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。 ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。 新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。 いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。 これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。 そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。 そんな物語です。 多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。 内容としては、ざまぁ系になると思います。 気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...