【3章完結!】最弱の「色使い」の冒険譚〜追放された少年は第二の人生を歩む〜

やのもと しん

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3章 「正義と信じた戦い」

130話 「異変」

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「お前ほど魔物に関しての知識があるやつなんて他にいないんだから、前線に出てくるべきじゃない」

 ざわつく停留所内で、ファルベはラルフに詰め寄る。

「万が一、お前を失った場合代わりがいない。俺や他の冒険者はまだしもな」

 ラルフは魔物研究家の中でも最高峰だ。未発見の事実も知らない知識もどこからともなく仕入れてくるし、直接会ったことはないはずなのに生態を理解している。だからこそ、どこの国もラルフを欲しがっているのだ。

 ファルベのように対人に特化した人間も、シャルロットのように情報取得が得意な人間も代用が効く。だが、知識に関してはラルフしか知らない情報があまりに多すぎて、代理を立てることなど不可能だ。

「自慢したいわけではないけど、僕だって僕自身の知識量は並々ならぬものだと思っている。けど、それでも今回ばかりは行きたいんだ」

「なにがそんなにお前を駆り立てるんだよ……」

「うーん? なんだろうね。はは、まあ気にしなくてもいいさ」

 煮え切らないラルフにファルベは怪訝な表情を浮かべる。

「そんなことよりファルベ君。さっきはまるで君は代用が効くとでも言いたげだったけどね。そんなことはないからね! 君以外に適した人間なんてこの世界に他にいないんだ!」

 段々と熱が入っていくラルフの言葉に圧倒されてしまう。突然語気が強くなっていくことに困惑しつつ、ファルベは口を開く。

「どうしたんだよ、急に。ってか、適してるってなににだよ」

「………………そりゃあもちろん冒険者狩りに、だよ。」

「ああ、そういうことか」

 確かに、冒険者狩りとして治安維持に努めるのも一朝一夕では難しい。次代を育てるのにも、その才能を探すのも時間がかかるはずだ。
 だからラルフがファルベを失うことを気にかけるのも分かる気がする。……それにしても熱が入りすぎだとは思うが。

「お前が来るのは百歩譲っていいとして……良くはねえけど、俺が守れば大丈夫だろ。けど、マルスとニルスは参加させるべきじゃない。危険すぎる」

「さっきも言ったけど、それはファルベ君が彼らを見くびりすぎだって。僕が与えた仕事もこなしてくれたし、十分実力はあると思うよ」

「実力がどうこうじゃなくて、子供を危険に晒していいのかってことだよ」

「それを言ったらファルベ君もそうだろう?」

「俺は経験があるから……!」

「実力とか関係ないなら、ファルベ君もただの子供だ」

 自分で言ったんだろう? とでも言いたげにこちらに視線を送るラルフ。

「それに、志願してきたのはマルス君とニルスちゃんの二人の方からだよ。実力と実績を鑑みて許可を下したのは僕だけど」

「大丈夫ですよ、お兄様。私たちを信用してくださいまし」

 気づかないうちにファルベのすぐそばまでやってきていたニルスが声をかけてくる。

「そーだよ! 兄ちゃんは心配性すぎる! 俺たちだってすっごく強くなったんだぞ!」

「そうかもしれねえけどさ……」

 キラキラした目で言われると否定するのも気が引ける。とはいえ、引き下がるわけにもいかない。

「あと、彼らに参加してもらう理由はもう一つあって……」

 引き止める言葉をかけようとした瞬間、ラルフが言いづらそうに頬を掻く。

「もう一つ?」

「うん。これは今回の作戦が終わってから伝えるつもりだったんだけど、別の作戦が同時進行しててね。ベテラン冒険者や大人はそっちにほとんど戦力を割いてるんだ」

「なんだそれ、初耳だぞ」

「初めて言ったからね」

 そういうことじゃないと言いたかったが、感情に任せて突っかかるのは得策じゃない。

「だから今回の作戦にはマルスとニルスも動員しなきゃなのか」

「そうだね。ファルベ君にはこの作戦が終われば別の方に合流してもらう予定だけど、流石にマルス君とニルスちゃんは無理かもしれないね」

「いけるって! なにすんのか知らないけど!」

「マルスはともかく、私は任せてください」

「なんだって!」

 二人の喧嘩はいつものこととして、もっと重要なのはラルフの言う「別の作戦」だ。

 ファルベも参加するなら少しでも情報を得たいところだが。

「そのもう一つってのは……」

「それは目の前の問題を片付けてからだね。じゃあみんな、馬車に乗って行って欲しいな!」

 ファルベたちが話している間に、ざわめいていた集団は静かになっていた。というより、冒険者たちの困惑より大きな声で揉めるファルベたちの方が気になってそれどころじゃなくなったのだろう。

 ラルフの合図とともに馬車に乗る冒険者たち。一つの馬車に三人ずつ。恐らく事前に決めていただろう順番に乗っていく。

「じゃあ僕はマルス君とニルスちゃんを連れて馬車に乗るから。ファルベ君は――」

「私たちが一緒に乗ろう」

 横から割り込むように話に入ってきたのはシャルロットだ。その隣にはシエロも立っている。

「お前たちと一緒か。戦力的には頼りになるけど」

 むしろ、戦力が偏りすぎな気がする。ラルフの乗る馬車にシャルロットかシエロのどちらかを乗車させた方がいいのではないかと思うが、ラルフたちは既に馬車に乗ってしまっている。

「まあ、大丈夫か」

 マルスにも言われていた通り、心配性すぎるのかもしれない。

 そう自分を納得させてファルベたちも馬車に乗り込む。





 ゴロゴロと音を立てて回る車輪。その音を聞きながら、ファルベはラルフの言っていた別の作戦について考える。

 この国には他にも問題があるのか。そんな話は聞いたことがない。
 けれど、犯罪者組織討伐より戦力を割いているということはよほど重大な問題なのだろう。

 思えば、集められた冒険者が低級らしき人間ばかりだったのも、中級以上の冒険者を別の作戦に招集していたと考えると辻褄が合う。

「だけど、それは一体……」

「何か気になることでもあるのかい? ファルベ君」

 悩むファルベの顔を覗き込むシャルロット。

「ラルフのやつが、他にも同時進行してる作戦があるって言っててな。それについて考えてた」

「他……聞いたことないな。シエロはどうだい?」

「ボクもないね~っていうか、それ機密情報とかじゃないの? ボクらに言っちゃって良かったの?」

「まあお前らも参加するだろうし大丈夫だろ」

 別の作戦は恐らく少しでも多くの人員が必要なはずだ。なら、シャルロットやシエロも戦力に入れたがるに決まっている。
 そう考えると、伝えるのが早いから遅いかだけの話だ。

「でも、そんな先のことばかり考えるのも良くないと思うよ。目の前の問題を片付けてからじゃないとね」

「それ、ラルフにも言われた」

「うわ……」

 思わず漏れたシャルロットの嫌そうな呟きに笑いが溢れる。

 そこで集中力が切れたのか、脳から排除していた周囲の音が耳に入ってくる。と、

「――待て」

「どうしたんだい?」

 ファルベは何かの違和感に気づく。

「音が、少ない」

「音?」

 シャルロットもシエロも、ファルベの言葉を反芻する。そこで気づいたのか、馬車に付いている小窓を開けて顔を出す。すると、

「俺たちの隣で走ってた馬車――どこ行った?」

 馬車が一台。音もなく消えていた。

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