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3章 「正義と信じた戦い」
119話 「積もる話」
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様々な情報に思考を奪われてすっかり頭から抜けていたメルトの救出という目的を遅まきながら達成する。
ずいぶん縛られていたようで、メルトの身体には縄の跡がくっきりと残ってしまったが、消えるまでは我慢してもらうしかない。
「で、シエロさん……だっけ。あなたはファルベの仲間なの?」
メルトは節々の痛みを堪えながら立ち上がり、問いかける。
敵組織の人間だと思わせないといけないという事情を知った上でも、やはり誘拐されて監禁されれば不機嫌にもなる。
「うん、ちゃんと味方だよ。その証拠は、ボクがここにいることそのものだ」
「どういうこと?」
「君は違和感を覚えなかった? そもそも君を連れ去った人間の片方がボクに変わっていたことにさ」
「確かの、この洞穴に監禁されてから人が入れ替わってるのはおかしい気がしてたけど……他にも協力者がいたのかと思ってたから……」
衛兵に偽装していた二人の犯人。その一人がいつの間にか違う人物になっていたら疑問を覚える筈だ。
敵組織の規模が分からない以上、三人目が現れたとも考えられるが。
「実際はボクが片方を殺してその代理として犯人側に付いただけだった訳だ」
「あ、ルナたちが見つけた死体ってもしかして……!」
「あれ? 上手く隠しておいたつもりだったんだけど、見つかっちゃってたのか」
「見つけたのは偶然だけれどね。見張りがいた時の対策として洞穴の周囲を見回ってたんだ。あれがシエロの仕業だったなんてね。驚きだよ」
一般人ではないと予想していたが、まさか犯人のうちの一人だったとは。
「あれもボクの仕業だね。あいつの代理って理由ならこの場所にいられるからね」
「お前がここにいる理由は分かったけど、お前が今ここで正体を明かした理由がまだ聞けてないぞ。結局なんだったんだよ」
ファルベは寄り道していた話題を元に戻す。
「それは、ボクの素性にボスが勘づき始めたからだ。いや、もしかしたら既にバレてたのかもしれない。だからボクに直接手を下される前に離れることに決めた」
「勘づかれていることについて、私たちがシエロを非難することはできないね。寧ろ、今までバレずに潜入していたことを賞賛すべきところだ。だが、シエロはどうして勘付かれていると察せたんだい?」
「それは多分ファルベ君の方が知ってるかもね。城下町の大通りで人質を取られた事件があったんだけど……あれはボクは知らなかった」
「知らなかった? 同じ組織なのにか?」
「うん。ボクに下された命令は城下町から離れた町の人間を殺して冒険者狩りをおびき寄せろってだけだった」
つまり本命はファルベを殺すことではなく、メルトを連れ去ることだったのか。
「でも、人質を取ってやることがこれなんだから……やっぱり俺の命が目的なのか……?」
「それは間違いないよ」
ファルベがなんとなく発した呟きに、肯定の意を示すシエロ。
「ボスはファルベ君をとても警戒してる。じゃなきゃ君一人殺すために組織の人間をここまで使う訳がない……と、少し話が逸れたね」
シエロは話の脱線に気づいて一つ咳払いをすると、話を本題に戻す。
「ボスはファルベ君を確実に仕留めるために人質を取りたかった。だけど、その主犯をボクに任せると裏切られると踏んだ。ボクを疑ってたからね。そこで、 ファルベ君とその連れを分断して、なおかつボクという不穏分子を遠ざけるために離れの村の住民の皆殺しを命じたんだ。ああ、でも、実際に人は殺してないよ。いくら潜入任務とはいえ、大量殺人にまで協力するつもりはなかったからね」
「お前が人を殺してないってことは知ってるよ……」
ファルベは確信を持って言える。シエロの言った「殺人は犯していない」という言葉は事実だ。
だって、あの時。ファルベがその事件の現場に行った時に犯人の女はこう言っていたのだから。
『あなたがちんたらしているせいで村の連中に逃げられちゃったじゃない』
あれは、シエロが自分に命じられた皆殺しが失敗するように、村の住民が逃げられるまで時間を稼いでいたのだ。
そもそも、一番最初に会った時も、シエロは殺人を犯していない。殺人犯を救出するという役割で出てきたが、それ以前には現場にいなかった。
「あ、でもそういえばお前はどうして一番最初に俺と会った時、犯人を助けたんだ。お前がスパイなら、わざわざ俺と対立してまで助ける必要なんて……」
「流石に毎回毎回ボクと一緒に命令を受けた犯罪者が命を落としたり捕まったりしてれば気づかれるでしょ。あの時はまだ情報が欲しかったし、ボクに対する疑いも少なかったから、あえて助けて信用を得ようとしただけだよ」
シエロは直後に「それにね」と、付け加えて、
「ボクだってあの冒険者狩りと戦えるなら戦ってみたかったしね。そういう好奇心もあった。そんなところかな。理由としては」
「なるほどね。だから犯人を助けたり見殺しにしたりチグハグな行動を取ってたのか。……そういえば、あのキモい女を殺した時、お前は加勢に入らなかったしな。あれは死んで欲しかったからか」
「別に死ぬまでは行かなくてもよかったんだけどね。捕まえたとしても問題はなかった。どちらにせよ敵組織の勢力を減らせれば、それで」
シエロにとっては結果などどうでもいいものだったらしい。
「まあ、そんなところかな。ボクの行動としては。他に何か気になることはある?」
「まだ聞きたいことはあるけど、とりあえずここから離れよう。ラルフにもシエロの生存報告しなければいけないだろうしね」
「あー、そうなるよね……面倒くさいからシャルに任せていい?」
「駄目に決まってるだろう。ファルベ君に頼んでほしいな」
「サラッと俺に押し付けんな」
そんな言葉を交わしながら、全員で洞穴を出て行く。
ずいぶん縛られていたようで、メルトの身体には縄の跡がくっきりと残ってしまったが、消えるまでは我慢してもらうしかない。
「で、シエロさん……だっけ。あなたはファルベの仲間なの?」
メルトは節々の痛みを堪えながら立ち上がり、問いかける。
敵組織の人間だと思わせないといけないという事情を知った上でも、やはり誘拐されて監禁されれば不機嫌にもなる。
「うん、ちゃんと味方だよ。その証拠は、ボクがここにいることそのものだ」
「どういうこと?」
「君は違和感を覚えなかった? そもそも君を連れ去った人間の片方がボクに変わっていたことにさ」
「確かの、この洞穴に監禁されてから人が入れ替わってるのはおかしい気がしてたけど……他にも協力者がいたのかと思ってたから……」
衛兵に偽装していた二人の犯人。その一人がいつの間にか違う人物になっていたら疑問を覚える筈だ。
敵組織の規模が分からない以上、三人目が現れたとも考えられるが。
「実際はボクが片方を殺してその代理として犯人側に付いただけだった訳だ」
「あ、ルナたちが見つけた死体ってもしかして……!」
「あれ? 上手く隠しておいたつもりだったんだけど、見つかっちゃってたのか」
「見つけたのは偶然だけれどね。見張りがいた時の対策として洞穴の周囲を見回ってたんだ。あれがシエロの仕業だったなんてね。驚きだよ」
一般人ではないと予想していたが、まさか犯人のうちの一人だったとは。
「あれもボクの仕業だね。あいつの代理って理由ならこの場所にいられるからね」
「お前がここにいる理由は分かったけど、お前が今ここで正体を明かした理由がまだ聞けてないぞ。結局なんだったんだよ」
ファルベは寄り道していた話題を元に戻す。
「それは、ボクの素性にボスが勘づき始めたからだ。いや、もしかしたら既にバレてたのかもしれない。だからボクに直接手を下される前に離れることに決めた」
「勘づかれていることについて、私たちがシエロを非難することはできないね。寧ろ、今までバレずに潜入していたことを賞賛すべきところだ。だが、シエロはどうして勘付かれていると察せたんだい?」
「それは多分ファルベ君の方が知ってるかもね。城下町の大通りで人質を取られた事件があったんだけど……あれはボクは知らなかった」
「知らなかった? 同じ組織なのにか?」
「うん。ボクに下された命令は城下町から離れた町の人間を殺して冒険者狩りをおびき寄せろってだけだった」
つまり本命はファルベを殺すことではなく、メルトを連れ去ることだったのか。
「でも、人質を取ってやることがこれなんだから……やっぱり俺の命が目的なのか……?」
「それは間違いないよ」
ファルベがなんとなく発した呟きに、肯定の意を示すシエロ。
「ボスはファルベ君をとても警戒してる。じゃなきゃ君一人殺すために組織の人間をここまで使う訳がない……と、少し話が逸れたね」
シエロは話の脱線に気づいて一つ咳払いをすると、話を本題に戻す。
「ボスはファルベ君を確実に仕留めるために人質を取りたかった。だけど、その主犯をボクに任せると裏切られると踏んだ。ボクを疑ってたからね。そこで、 ファルベ君とその連れを分断して、なおかつボクという不穏分子を遠ざけるために離れの村の住民の皆殺しを命じたんだ。ああ、でも、実際に人は殺してないよ。いくら潜入任務とはいえ、大量殺人にまで協力するつもりはなかったからね」
「お前が人を殺してないってことは知ってるよ……」
ファルベは確信を持って言える。シエロの言った「殺人は犯していない」という言葉は事実だ。
だって、あの時。ファルベがその事件の現場に行った時に犯人の女はこう言っていたのだから。
『あなたがちんたらしているせいで村の連中に逃げられちゃったじゃない』
あれは、シエロが自分に命じられた皆殺しが失敗するように、村の住民が逃げられるまで時間を稼いでいたのだ。
そもそも、一番最初に会った時も、シエロは殺人を犯していない。殺人犯を救出するという役割で出てきたが、それ以前には現場にいなかった。
「あ、でもそういえばお前はどうして一番最初に俺と会った時、犯人を助けたんだ。お前がスパイなら、わざわざ俺と対立してまで助ける必要なんて……」
「流石に毎回毎回ボクと一緒に命令を受けた犯罪者が命を落としたり捕まったりしてれば気づかれるでしょ。あの時はまだ情報が欲しかったし、ボクに対する疑いも少なかったから、あえて助けて信用を得ようとしただけだよ」
シエロは直後に「それにね」と、付け加えて、
「ボクだってあの冒険者狩りと戦えるなら戦ってみたかったしね。そういう好奇心もあった。そんなところかな。理由としては」
「なるほどね。だから犯人を助けたり見殺しにしたりチグハグな行動を取ってたのか。……そういえば、あのキモい女を殺した時、お前は加勢に入らなかったしな。あれは死んで欲しかったからか」
「別に死ぬまでは行かなくてもよかったんだけどね。捕まえたとしても問題はなかった。どちらにせよ敵組織の勢力を減らせれば、それで」
シエロにとっては結果などどうでもいいものだったらしい。
「まあ、そんなところかな。ボクの行動としては。他に何か気になることはある?」
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「あー、そうなるよね……面倒くさいからシャルに任せていい?」
「駄目に決まってるだろう。ファルベ君に頼んでほしいな」
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