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3章 「正義と信じた戦い」
117話 「それはあまりにも唐突で」
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「何回目だよ。お前と会うのも」
「ボクもあんま覚えてないけど、確かによく会うね」
何度もファルベの前に現れるのも、いい加減うんざりしてきたところだ。
「ファルベ、なんで来たのよ! 私なんて放っておけばよかったのに!」
ファルベの姿を視認するなりメルトは叫ぶ。
「こいつらを信じて付いてきたのは私の責任なんだから……あんたがわざわざ危険を冒してまで助けに来なくても……」
「いいや、助けるよ。たとえどんな危険があったとしてもな」
そもそもこの国で生まれ育ったわけでもないメルトが、衛兵に偽装した犯罪者を見分けられないのは無理があるし、それに。
「俺はもう、身近な人間の死を見たくないんだよ」
「……」
「これは完全な俺の我儘だ。責任だとか、義務とかじゃない。ただ俺がそうしたいだけだよ」
手が届くのなら、必ず手を伸ばす。それが、ファルベ自身の望みだから。
「だから――」
ファルベは縄で縛り付けられているメルトに向けて、
「――絶対、助けてやる」
そう誓う。その直後、メルトの側に立っていたやせぎすの男が苛立ち混じりの口調で、
「そろそろ話は終わったのかななんかカッコいいこと言ってるのが死ぬほど気に食わなかったんだけど、仕方なく……本当に仕方なく待ってあげたんだから感謝して欲しいもんだねだってほら僕って優しいからさ褒めて讃えて然るべきだと主張したいもんだよね」
言葉を区切らず、一息に言い切る。聞き取りづらいがどうやら感謝の言葉を求めているらしい。だが、聞いて欲しいなど頼んでいない。
故にスルーを決める。
「で、お前らが要求したいもんはなんだ」
「要求?」
「人質までとるんだ。なんかあるんだろ?」
おおよその予想はついているが、あえて質問する。これも時間稼ぎのためだ。
細い男は苛立ちを抑える気もなく、
「冒険者狩りの排除――つまりはお前の死だよ」
指先を突きつけて、告げる。
「ったく、ボスもボスでなんでこんなクソガキを警戒してるんだ僕にかかればこんな雑魚一人でも余裕で殺せるのに人質まで取らせやがって面倒臭い本当に面倒臭い正直シエロももう一人も必要なかったんだ結局あいつは周囲を見張るって出て行ったっきり戻ってこないし死んだんじゃねえのかどうでもいいけどさ」
ブツブツと恨み節を呟き続ける。どこまで息が続くのか。一息で話せる量に驚きつつも、ファルベは言葉を紡ぐ。
「じゃあさっさと俺を殺せばいいさ。ただし、メルトには手を出すなよ」
「あんた馬鹿じゃないの!? それじゃ意味ないじゃない!」
メルトが大声で訴えかけてくる。それが不愉快だったのか、男がメルトに掴みかかって、
「うるさい黙れキンキンと耳障りなんだよなんなら今ここで殺してもいいんだぞ立場を弁えろうるさい本当にうるさい」
血走った目つきでメルトを睨む。
「やめろ、メルトには手を出すな。俺の命ぐらいはいつでも差し出すからさ」
先走ってメルトに危害を加えないように、ファルベは両手を上げて無抵抗を示す。
その間にも、思考を回し続ける。
先程の言葉を信用するなら、奴らの組織のボスはファルベを相当警戒しているらしい。「人質まで取らせやがって」なんて言うのはつまりボスからそう指示されたのだろう。そこまでしてファルベは排除しなければならない対象なのか。
もしかしたら、城下町の大通りで人質を取った事件も、ボスに命令されていたのかもしれない。
「やめろとかお前に命令される筋合いはないはずなんだけどなんで上から目線なんだ意味が分からない理解できないこの女を殺されてもいいのかいやもう殺すか」
言葉を発するほどに怒りを溜めていく男を見て、これ以上の時間稼ぎは不可能だと判断したファルベは、
「シャルロット!」
あらかじめ決めていた通り、シャルロットの名前を呼ぶ。そして、一瞬にしてシャルロットとルナが現れ、メルトを救い出す――はずだった。
「なっ……!」
「シエロお前どういうつもりだなにがしたいなにをしてるなんのつもりだ!」
いつのまにか痩せ細った男の背後の位置に移動していたシエロが、手に持った長剣で男の身体を貫いていた。
「どういうつもりも何も、ボクは最初からこうする気だったよ?」
「裏切りかお前裏切ったのか許さない絶対殺――」
「裏切り? そんなことしてないよ。だってボクはね」
男の言葉に割り込んで彼の言葉を否定すると、突き刺した長剣をそのまま下ろし、身体を両断する。
「最初から君たちに協力する気はないからね。仲間じゃなければ裏切りでもない……って、これは屁理屈かな?」
シエロは長剣に付着した血を男の死体の衣服で拭き取りながら、
「さて、出てきていいよ――シャル」
未だ姿を見せず、待機しているシャルロットに呼びかけた。
「ボクもあんま覚えてないけど、確かによく会うね」
何度もファルベの前に現れるのも、いい加減うんざりしてきたところだ。
「ファルベ、なんで来たのよ! 私なんて放っておけばよかったのに!」
ファルベの姿を視認するなりメルトは叫ぶ。
「こいつらを信じて付いてきたのは私の責任なんだから……あんたがわざわざ危険を冒してまで助けに来なくても……」
「いいや、助けるよ。たとえどんな危険があったとしてもな」
そもそもこの国で生まれ育ったわけでもないメルトが、衛兵に偽装した犯罪者を見分けられないのは無理があるし、それに。
「俺はもう、身近な人間の死を見たくないんだよ」
「……」
「これは完全な俺の我儘だ。責任だとか、義務とかじゃない。ただ俺がそうしたいだけだよ」
手が届くのなら、必ず手を伸ばす。それが、ファルベ自身の望みだから。
「だから――」
ファルベは縄で縛り付けられているメルトに向けて、
「――絶対、助けてやる」
そう誓う。その直後、メルトの側に立っていたやせぎすの男が苛立ち混じりの口調で、
「そろそろ話は終わったのかななんかカッコいいこと言ってるのが死ぬほど気に食わなかったんだけど、仕方なく……本当に仕方なく待ってあげたんだから感謝して欲しいもんだねだってほら僕って優しいからさ褒めて讃えて然るべきだと主張したいもんだよね」
言葉を区切らず、一息に言い切る。聞き取りづらいがどうやら感謝の言葉を求めているらしい。だが、聞いて欲しいなど頼んでいない。
故にスルーを決める。
「で、お前らが要求したいもんはなんだ」
「要求?」
「人質までとるんだ。なんかあるんだろ?」
おおよその予想はついているが、あえて質問する。これも時間稼ぎのためだ。
細い男は苛立ちを抑える気もなく、
「冒険者狩りの排除――つまりはお前の死だよ」
指先を突きつけて、告げる。
「ったく、ボスもボスでなんでこんなクソガキを警戒してるんだ僕にかかればこんな雑魚一人でも余裕で殺せるのに人質まで取らせやがって面倒臭い本当に面倒臭い正直シエロももう一人も必要なかったんだ結局あいつは周囲を見張るって出て行ったっきり戻ってこないし死んだんじゃねえのかどうでもいいけどさ」
ブツブツと恨み節を呟き続ける。どこまで息が続くのか。一息で話せる量に驚きつつも、ファルベは言葉を紡ぐ。
「じゃあさっさと俺を殺せばいいさ。ただし、メルトには手を出すなよ」
「あんた馬鹿じゃないの!? それじゃ意味ないじゃない!」
メルトが大声で訴えかけてくる。それが不愉快だったのか、男がメルトに掴みかかって、
「うるさい黙れキンキンと耳障りなんだよなんなら今ここで殺してもいいんだぞ立場を弁えろうるさい本当にうるさい」
血走った目つきでメルトを睨む。
「やめろ、メルトには手を出すな。俺の命ぐらいはいつでも差し出すからさ」
先走ってメルトに危害を加えないように、ファルベは両手を上げて無抵抗を示す。
その間にも、思考を回し続ける。
先程の言葉を信用するなら、奴らの組織のボスはファルベを相当警戒しているらしい。「人質まで取らせやがって」なんて言うのはつまりボスからそう指示されたのだろう。そこまでしてファルベは排除しなければならない対象なのか。
もしかしたら、城下町の大通りで人質を取った事件も、ボスに命令されていたのかもしれない。
「やめろとかお前に命令される筋合いはないはずなんだけどなんで上から目線なんだ意味が分からない理解できないこの女を殺されてもいいのかいやもう殺すか」
言葉を発するほどに怒りを溜めていく男を見て、これ以上の時間稼ぎは不可能だと判断したファルベは、
「シャルロット!」
あらかじめ決めていた通り、シャルロットの名前を呼ぶ。そして、一瞬にしてシャルロットとルナが現れ、メルトを救い出す――はずだった。
「なっ……!」
「シエロお前どういうつもりだなにがしたいなにをしてるなんのつもりだ!」
いつのまにか痩せ細った男の背後の位置に移動していたシエロが、手に持った長剣で男の身体を貫いていた。
「どういうつもりも何も、ボクは最初からこうする気だったよ?」
「裏切りかお前裏切ったのか許さない絶対殺――」
「裏切り? そんなことしてないよ。だってボクはね」
男の言葉に割り込んで彼の言葉を否定すると、突き刺した長剣をそのまま下ろし、身体を両断する。
「最初から君たちに協力する気はないからね。仲間じゃなければ裏切りでもない……って、これは屁理屈かな?」
シエロは長剣に付着した血を男の死体の衣服で拭き取りながら、
「さて、出てきていいよ――シャル」
未だ姿を見せず、待機しているシャルロットに呼びかけた。
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