上 下
103 / 170
3章 「正義と信じた戦い」

103話 「逆転の目」

しおりを挟む
「きゃあ!」

 腕を切られたというのに、女は随分と可愛らしい悲鳴をあげて飛び退る。
 女はまるで腕を切られた痛みが快感にでも変わっているかのような、光悦した表情を浮かべて、

「ああっ、いいわ! 今の一撃は効いたわ!」

 自分の身が傷付けられたことも気にせず女は歓喜の言葉を告げる。

「なんだよ、こいつ……」

 信じられない反応にファルベは驚きを通り越してドン引きする。
 今まで重傷を負っても気にせず戦いを挑んでくる人間はいた。だが、傷を負ったことを喜ぶ人間などいたことはない。というかいていいはずがない。

「あら、怖がらせちゃったかしら? 大丈夫よ。だって私、この程度の傷は昔からよくついていたもの」

 そう言うと、女は左腕を前に突き出し、力を込める。すると、

「嘘、だろ……」

 腕の切断面から新しい腕が生えてきた。そして、流れ出ていたはずの血も止まり、腕についた血を拭き取ればそこには色白な肌の無傷な腕があった。

 攻撃が全くの無意味と化した現実を受け止めきれないファルベは一瞬思考が停止する。

「あはは、驚いた顔も可愛いわね。わざと切られてあげた甲斐があったわ」

「わざと……?」

「そうよ。あなたじゃ私に勝てないって事実を伝えたくって。一番わかりやすいのがこれだったの。実際、あなた今絶望してるでしょう? せっかく届いた攻撃がなんの意味もなさずに終わってしまったことに」

 女は慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、さっきの出来事の真相を話す。
 正直なところ、ファルベ自身もおかしいとは思っていた。ファルベが全力で走ったところで彼女の高速移動には追いつけないし、超えることは尚更できない。

 それなのにあれほどあっさり攻撃を当てられたというのは、やはりどこかおかしかった。

 女は、長い金髪を指先で弄びながら、

「あなたより素早く動けて、あなたより遠くから攻撃できて、あなたにない治癒能力も持ってる。むしろあなたの優れているところを探す方が難しいわ」

 優しく、ファルベに勝ち目がないことを伝えてくる。
 直後、女はファルベの目の前まで迫る。目で追えないほどの速度で距離を詰めてきたのだ。そして、その場から動かないファルベの顔に自身の顔を近づけ、もはや鼻の先同士が接触するのではというところまできて、

「なあ、ひとつだけ言ってもいいか」

「なあに?」

 ファルベは、片手を持ち上げると言った。

「どんだけ戦意のなさそうな相手でも、迂闊に近づかない方がいいぜ」

 持ち上げた手を女の眼球に向けて、

「この距離なら、外さない」

 その確信を得た。直後、女の目は黒く塗りつぶされ、完全にその役割を放棄した。 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

処理中です...