上 下
72 / 170
2章 「永遠の罪」

72話 「姉妹のような」

しおりを挟む
 メルトと向かい合った瞬間、ルナは緊張した心が緩んでいくのを感じて、自分で驚く。何度か話して結構打ち解けているつもりではいたが、何せファルベに「呪い」をかけた張本人だ。
 いつまでもそれに引っ張られるほど根に持つタイプではなくとも、安心するような、心が落ち着く相手になるなんて予想もしていなかった。

 とはいえそんな心境はおくびにも出さず、ルナはいつも通りに話しかける。

「時間ですか……はい、大丈夫ですよ。ししょーが出てくるのはもう少し経ってからですし」

「そっか、ありがとう。でもここだと誰かに話を訊かれちゃいそうだし、場所変えよっか。あ、いや別に人に聞かれちゃまずいこととか、変なこと話すわけじゃないよ。一応、念のためだから」

 話す内容に関しては、おおよその検討は付いている――というより、今日この瞬間、この時間で話す内容など、一つしかない。

 ただ、ルナには一つ違和感を覚えるところがあった。ルナの前に立つ彼女――メルトは、「冒険者狩り」という存在に対して並々ならぬ感情を抱いている。
 それは、冒険者狩りが処刑されたという情報を受けても尚、この世のどこかに存在していると信じ込み、他国に渡ってまで復讐を果たしに来る程に。

 そんな彼女が、ルナの前だからとはいえ、冒険者狩りの話題でこんなに平常心を保っていられるのだろうか。普通に、普段通りに接してこれるものなのか。
 まして、この村に冒険者狩りが来ていると聞いた上で、だ。

「念のため、ですか。ルナは全然大丈夫ですよ。それでは、どこにしましょうか」

「そうだね……どこにしよっか。ごめん、私から提案したのに何も考えてなかった……。うーん、取り敢えず広場からそんなに遠く離れたくはないし、できるだけ近くであんまり人目につきにくい場所……」

 広場に集まる人だかりは増えていくばかりで、減る様子はない。そんな中で人目につきにくい場所なんてそうそう思いつかない。この村に詳しいメルトですらすぐには見つからないのだから、ルナなら尚更だ。

 少しの間、悩ましそうに腕を組み、首を揺らしていたが、突然何か思いついたかのように「あっ!」と声を出すと、

「そうだ!私の家に来ない?この広場からもそんなに遠くないし、部屋の中だから他の人に聞かれないし、お菓子とかお茶とか用意できるよ。あ、でも……ルナちゃん次第だけど……」

 ルナとしてもファルベが出てくるまではやることがない。集まった村の人と話して交流を広めておくのも大切だろうが、メルトに付いて行った方が良いような気がする。

 そうだ。特に意味はないが、行った方が良い気がする。何となく、ただの気分で、他意はない。他意はないのだ、本当に。

「お菓子に釣られたわけじゃないですから……」

「ん? ルナちゃん、何か言った?」

「いえ、何でもないですよ~」

 吹けない口笛を吹いて、乾いた音を立てる。自然と目が泳ぎ、見るからにやましいことを隠しているような子供っぽい仕草ではあるが、本人はそれに気づいていない。もしかしたら、上手く誤魔化せていると思っている可能性すらあるのがルナらしいところではあるが。

 そんな思惑があったりなかったり、メルトに付いていくことに決めたルナは、元気よく頷く。
 特にルナが何かをするわけでもなく、主役は師匠であるファルベのはずなのに、下手をすると本人以上に緊張していたルナにはちょうどいい息抜きだ。

 メルトもルナの考えを知ってかしらずか、優しく微笑むと、

「ありがとう! じゃあ、付いてきて!」

 と、そんなことを言いつつ、ルナの手を引いて歩く。

「いえ、ルナは自分で歩きますから……」

 別にそれが不快だったわけでもないが、突然の出来事に理解が追いつかず、思わず否定してしまう。むしろ、ルナはこうして接してくれるような人間など、これまでに経験したことはなかったので物珍しく、嬉しいという気持ちもあったりするのだが、

「あ、ごめんね! 迷惑だったかな」

「そんなことはないですよ。ルナとしては、嬉しいくらいですので……お姉さんができたみたいで」

 ルナに姉も妹もいないが、こうして手を引いてくれるメルトは側から見ると、姉妹のように見えるのだろうか。
 そう見られたとしてもルナは迷惑なんかじゃない。だから、

「だから、ルナの方からお願いしますね」

 優しく触れるように握るメルトの手をキュッと柔らかく握り返し、微笑む。

「――!」

 メルトは驚いたような顔をして、その後顔を真っ赤に染めると、コクコクと頷いて、再び歩き出す。

 二人は、どこか気恥ずかしいながらも、仲睦まじい姉妹のような雰囲気で、メルトの家に向かっていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...