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2章 「永遠の罪」

47話 「視線の正体」

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 儀式が終わり、二日後。ルナは依然平和に過ごしていた。この村で新たにできた友人達とは上手くやっており、何度も遊びに出ては親交を深めている。
 いずれはファルベの元に戻り、この関係を失ってしまうのだろうが、折角の機会だ。一緒にいる限りは精一杯この関係を続けても良いだろう。

 ともかく、平穏無事に日々を過ごすルナだったが、その中に一つだけ気になるものがあった。
 というのも、

「何でしょう……誰かに見られているような気がするんですよねぇ……」

「そうなの? だれもいなさそうだけど」

 そう言って、横から覗いてくるのはこの村で初めてできた友人――イルだった。彼女とも関係は変わらず、一番親密な関係である。もはや親友と言っても過言ではない。

「うーん……気のせい、なんですかねぇ。でも視線は感じる気はするし……やっぱりししょーみたいに上手くできないですね」

「ししょー? それって、だれのこと?」

「ああ、何でもないですよ」

 にこりと笑って誤魔化す。それだけで無闇と詮索するべきものではないと理解してくれたのか、イルは渋々ながらも口を閉ざす。

「それより、今日は何しますか?」

「うーん。そのあたり散歩しておかいものしてもいいんだけど……わたしお金もってないしなぁ」

 イルは、悲しげに眉をひそめる。ルナもこの二日間でこの村の店も見て回ったのだが、村の規模としては当然だが、ファルベの家がある城下町に比べたら店の数が少ない。とはいえ、見たことのない商品を陳列している店も見かけたことがあるので、買い物で一日過ごすのも可能だろう。
 イルが金銭を持っていないので今日はできないみたいだ。

「あ、そうだ!」

 不意にイルが目を見開き手を叩く。あまりに唐突なその声に驚きつつ、そちらへ目を向ける。

「何か思いついたんですか?」

「うん! わたしの家であそばない?」

「イルさんのお家、ですか。そうですね、そうしましょうか」

 諸事情により、他人の家に入るという経験がほとんどなかったルナは、イルのその提案に心躍るものを感じながら、それに賛同する。

「それじゃあ、付いてきて!」

 ルナの腕を引っ張って走り出すイル。広場の隅のベンチ、もはや定位置と化したそこから離れていく途中で、

「あいたっ!」

 前を走るイルが誰かとぶつかり、それに続くルナもつんのめってしまう。

「いてて……ってあれ?どうしたの?」

 イルは、ぶつかった相手――黒い服に身を包んだ大柄の男に向かってそう質問する。イルの言葉の雰囲気や、相手の男の反応を見るに知り合いらしい。
 男はやけに鋭い目つきでこちらを睨みつけると、

「おう、ちょうど良い時に来たな。お前に用があんだよ」

「え、わたし……?」

 まさか自分がと言わんばかりに驚きつつも呟くイル。しかし、

「ちげえよ、イル。お前の後ろの奴のことだよ」

 男の視線は真っ直ぐにルナに向かっていた。男は不快そうに舌打ちするが、男とルナに挟まれる位置にいたイルが自分に声かけられたものだと勘違いしてしまうのは責められない。

「ルナなんですね。何の用があるんですか?ルナには全然心当たりがないんですが」

「ああ? そんなもん言わなくても分かるだろ」

 そう吐き捨てて、ルナの近くまで寄ってくると耳元に口を近づけて、

「――『冒険者狩り』。この言葉に聞き覚えがあるだろ。いいから着いてこい」

 男の声に、背筋が凍るような感覚を覚える。それは、「冒険者狩り」という単語が聞こえたからではない。「聞かれていた」というのが事実だと証明されたことに対して、だ。

 これがこの村に広まれば騒ぎどころの話ではない。不安げに揺れるイルの視線を受けながら、

「分かりました」

 と、それだけ言った。男がルナから離れると、見計らったように今度はイルが近づいてきて、

「口はわるいけど、あの人わるいひとじゃないから。なんの用事かは分からないけど、そんなに気にしなくてもいいよ」

 どうやら、今のところ男は大きな騒ぎにするつもりはないようで、さっきの単語もいるに聞かれないようにしてくれていたみたいだ。

 悪い人ではないというイルの発言は信用できるのかもしれない。
 そして、ルナだけが男達の元に残り、イルは一度自宅へ戻るということになった。

 時折ルナの方へ振り返るイルを見送り、その姿が見えなくなった直後、

「な……っ!」

 男が立っている背後から強い衝撃を受けて、ルナはその場に倒れる。
 暗くなる視界と同時に地面の冷たい感覚を味わい、徐々にその感覚も消え去っていく。薄れていく意識が五感と肉体を置き去りにして、遠く、遠く、離れていき――そして、消えた。

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