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閑話 ???

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 俺の手脚として働いてくれていた者達が壊れていく――あれを連れて来た所為で……。頭では怖ろしいと思っているのに、俺はもう逆らえない――。
 彼等もそうなのだろうか?それとも――もう自我は無いのだろうか。そうなら良い。その方がまだ救いがある。
 魔力の無い、貧民窟に捨てられていた子供だった。死んだ目をした子供達の中『生きたいか?』と聞いた時に強い視線を返した子供達――。暗部に入れ、裏の仕事を覚えさせた。
 酷い事をしているとは思ったけれど、自分を生かす事に必死だったのだ。自分と母を生かす為――父や義弟の機嫌を推し量り、分を弁えて使える駒だと思わせる為には情報が必要だった。
 だから、そう育てた。
 昏い部分――大っぴらに話せない部分を押し付けて――。それなのにアイツ等は俺に感謝していた。拾って、生かしてくれた事を――なのに。

 『あら?ちゃんと見つけたのね。偉いわ』

 二コリと笑うその女――。
 その足元には、三人の人間が歓喜に咽び泣きながら平伏していた。水晶の中、繰り広げられるその光景――。そこは謁見の間だった。本来なら王が座る筈のソコに人払いがされているとは言え、少女が座っていた……。
 可愛らしい少女は、その性情そのままに艶やかな笑みを浮かべる。
 見た目とは裏腹なその笑みは、アンバランスで危うい……奇妙な美しさを備えていた。
 
 ――毒婦。
 
 或いは魔女――そう言った言葉が脳裏に浮かぶ。危険を知らせる感覚があるのに、それをちゃんと受け取れない。まるで、自分の身体と心の間に分厚い壁があるようだった。
 少女は、人々に多幸感を与える事が出来た。そしてそれを奪う事も。
 彼女の望みを叶えたのならご褒美が――そして、彼女に逆らうのなら怖ろしいまでの喪失感と恐怖を味わう事になる。それは、麻薬に似ているのかもしれない。
 遠く離れていても、精神を掌握されている感覚――その感覚は、普段は表に決して出ない。普通の何処にでもいる人間として俺は在る。けれど、その精神の奥には軛が刺さっていて彼女の望むようにしか動けない・・・・・・・・・・・・・・のだ。

 怖ろしい。
 怖い。
 誰か――

 助けて欲しい。
 けれど、その声を届ける術を俺は持たなかった。
 少女を連れて帰った時――彼女は父に会いたいと言った。常ならそんな願いを叶えたり出来るものでは無い。けれど、俺は父と彼女を会わせた。
 少女は可愛いらしい容姿をしていたので、父が手を付けるのではないかと思ったけれど、実際そんな事にはならなかった。単純な話――彼女の能力に父はアッサリ堕ちたのだ。
 その後で、彼女の忠告から命を救われた事で父は完全に少女を信頼した――。
 そうなってしまえば、簡単だった。
 俺が信頼できる人間は、どんどん周囲から減って行った。まるで、俺が抵抗を諦められるようにしているかのようだった。事実、彼女は俺の心の奥底にある少女への警戒や恐怖を正しく認識しているようだった。

 『他と比べて掛かりが悪いのよね――これだから魔力抵抗の高い意志の強い人間って面倒だわ?』

 俺の目を覗きこんで、そんな事を言った少女。
 その時、俺はあの三人が何故あんなに簡単に陥落したのかを理解した。魔力の無い彼らには、少女の毒が回るのが早かったのだろう。あぁ――何で……。
 俺があの時出会わなければ――。けれど、彼女の言葉を借りたなら、俺は反乱を起して失敗して――殺される運命だったのだと言う。死ぬのはいやだ。隷属するのも――。けれど、抗う術が無い。
 しかも、俺はあの魔女に更なる力を与えてしまった。
 死にたく無い――その想いを見透かされて。魔女の願うものを差し出した。
 けれど次に望まれたモノを聞いて、俺は初めて死ねばよかったと――思った。誰か俺を殺して欲しいと、願った。
____________________________________________________
 
 次は、本編に戻りますm(_ _)m
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