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第56話 山向こうの反乱と、メルジェド帝国の先見の巫子。

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 ※※前話55話の前に閑話『???』を一話足しました。更新の順番を変更する予定だったのを忘れて55話を先にUPしてしまったからです……;;ややこしい感じになってしまい申し訳ありません。お手数ですが。宜しくお願い致しますm(_ _)m※※
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 その噂は不自然なほど早く広まった――メルジェド帝国には先見の巫子がいるらしい――と……。
 曰く、王の命を救ったとか、国の危機を救ったとか色々言われているけれど、そのお陰で『攫われた子』の噂が下火になったのは良かったかもしれない。
 あれから既に数週間が経過していた――。依然としてヒロインの行方は分からず、行方が分からないが故に私達の問題が終わったのか――それとも現在も良く無い方に転がっているのか判断がつかない状況が続いていた。
 魅了魔法に対する対策は進められていて、イラクサの魔法薬の製法を知るらしい一族が判明したりとか……。けれど、その秘伝を伝授された唯一の人は旅する薬師であるらしく、現在はユクレース王国にいるらしい。
 家族の人が、手紙を出して連絡をしてくれているので今はその返信待ちである。宝物庫の方は40階層までの地図が完成したらしいが依然として術具の発見には至っていない……。
 
 「あっと言う間に噂が変化したな――……」

 少し考え込むようにしてアルが言った。
 私はその言葉に頷いてから溜息を吐いた。まぁ、そうだろう……最初こそ、不安や恐れがあったけれど、あれから何も事件は起こっていない。
 学園長の話の後は、休学や、通学を控える子達が増えたけれど、今は少しずつ落ち着いて来ている。
 エリザベス様とベルナドット様のお家は、護衛をつける事で通学を継続――クリス先輩は学園に一番近いお店から護衛付きで通学していて、エドガー様のお家は休学にしようとしたらしいけれど、エドガー様が猛反発。それで、こちらも護衛をつける事で通学の継続となった。
 学園に通う条件の一つが、寄り道をせずに帰宅する事――。エドガー様はお気に入りのパン屋があって行きや帰りに寄るのが日課。少しくらい寄らせてほしいと言ったらしいけれど、護衛の人がそれを許可する訳も無く……。

 『――パン屋に寄らせて貰えない……』

 物凄く残念そうに言ってたのが印象的だった。
 消えた子が見つからなくても日常は続く――。警戒していた次の犯行が無いのならもう脅威は去ったのだと生徒達が考えているように感じた……。皆、声には出さなくともヒロインは売られたか死んだのだと思っている。
 ハッキリ言って複雑な気持ちだ。そのどちらでも無いと良いと思わずにはいられない。
 捜索はもちろん続いているけれど――ヒロインのお母さんは、寝食もままならない状態になってしまったらしい……。
 これは、アルに頼まれてベルナドット様がエリザベス様と様子を見に行ってくれて分かった事だ。
 住み込みの仕事は体力的にも難しく、雇い主も状況を鑑みて休ませてくれているみたいだけれど、日々衰弱していく働けない人間に、そのまま住み込んでもらう訳にもいかないと困っていたとか……。
 ダグ君は学園を辞めて仕事につく事を考えたみたいだけれど、ベルナドット様が猛反対したらしい。

 『だから、一時的に我が家に住んで頂く事にしましたの――』

 エリザベス様が言うには、ベルナドット様が敷地内の空き家の管理という名目で、昔住み込みの庭師の家だった所をダグ君とお母さんに使って貰う事にしたのだそう。もちろん後からベルシュタイン公爵の許可も取得済み。
 ダグ君はそこまでして貰う訳には――と最初は断ったらしいのだけれど、体調が戻ったらしっかり働いてくれたら良いからとベルナドット様が押し切ったとか。
 ヒロインのお母さんは、何故かエリザベス様が傍に居ると落ち着くらしく、時々訪れては食事を一緒にしたり寝るまで傍にいたりするらしい。

 『姿かたちは違うのに――何故かしら……私の事をエリシャ・ネージュさんのように思っているらしいんですの……』

 辛そうにそう言うエリザベス様を見て心が痛んだ。
 まったく似ていないエリザベス様を自分の娘が帰って来たと思う事で、精神の均衡を何とか保っているのかもしれない……。
 ヒロインが家を出た事の原因が自分にあると思っているお母さんにとっては、彼女が帰って来ない現状は最悪の事態を想像してもおかしく無い状況で……。その想像が精神を疲弊させているんだろうと思う……。

 『彼女のお母さんもですが……ダグ君も見てられませんわ……』

 ベルシュタイン公爵家に行くまで、ダグ君はお母さんにつきっきりだった。疲弊していく義母親に何も出来ない事で自分を責めてもいたし、ほとんど寝る間も無かったらしい。
 顔色も、悪く――疲れ果てていたようだから、公爵家に移れた事はダグ君にとっても良かったんじゃないかな。
 クリス先輩も、ベルナドット様から話を聞いたようで安心していたらしい。
 何と言っても、クリス先輩――顔色が悪くヤツレた状態のダグ君に『学園を辞めるので、働かせて欲しい』と相談されて、どうしようか?と言う状態だったみたいなんだよね……。
 お母さんの精神状態が安定してればまだ良かったのかもしれないけれど、最初の頃はダグ君がいなくなると半狂乱になってしまう状況だったから――まず、ダグ君に仕事は無理だろうとクリス先輩は思ったそう――それから、ダグ君の将来を心配して学園を辞めるのでは無く、休学にしてはどうか?と説得している最中だったようだ。
 だとしても、仕事が出来無ければ食べて行けない訳で――。さてどうしようか?と御両親と相談していたらしい。
 だから、今回ベルナドット様が多少強引でも公爵家に居られる状況を作ってくれた事で安心できたと、御両親と一緒に喜んだみたい。

 『父が、ダグ君が優秀な成績な事を知って、卒業までの援助を申し出ていますの……ただ援助を受けるのは嫌だと言われたので、奨学金のように貸すという形を取る事になりそうですけど……』

 ベルシュタイン公爵がそう言ってくれているのなら、安心だ。エリザベス様とベルナドット様のお父さんは騎士団の一番偉い人――。直観力に優れ、彼に気に入られたり優秀だと言われれば出世するとまで言われる人だ。その人が、ダグ君を援助すると言ってくれたのだから、ホッとした。
 エリザベス様のお陰か、ヒロインのお母さんも少しずつ落ち着いて来ているようで、このまま少しずつ回復してくれればダグ君も復学出来そうだと聞いている。

 『ベルナドットに頼んで正解だった――今回は動くに動けなかったから――……』

 ダグ君の将来への道筋が保たれそうだと言う事を知り、安堵の息を吐いてアルはそう言ってたっけ……。今回、王太子であるアルは動きを制限されてたんだよね。
 同様に、王太子の婚約者である私も父から『動くな』と命令されたので動けなかったんだけど……。珍しく声を掛けて来たと思ったら、いきなりそう言われてちょっとだけイラッとしました。
 何なんだろうあの人、致命的に言葉が足らないんだけど……。アルにグチを言ったら、王家を探るような怪しい動きがあるんだそうで……。今は落ち着いたらしいけれど、あの時は不用意に動けない状況だったらしい。しかも、何処の国が探りに来ていたのかまだ判明して無いんだとか。
 山向こうの国では反乱が起こったらしいし、アルも少しピリピリしてる。
 アル的にはメルジェド帝国の先見の巫子が気になるらしい。さっきも言ったけれど、噂の広がり方が早すぎるからだ。
 隣国の噂なんて、ジワジワと広がって行くのなら理解できるんだけど、今回の噂は野火が広がるように一気に広まった。それは誰かが故意に広げた・・・・・・・・・可能性があるって事だ。
 その『故意』がどんな意味かによって巫子の位置づけがだいぶ変わって来る。

 『私も先見して欲しい』

 と言う客寄せ的な意味なら問題無いんだけれど、噂の内容が不明瞭で実際に巫子が『何』をしたのかが分からない所為か客寄せの効果にはいまいち届かなそうだし。
 真実か分からない眉つばモノの噂として、面白可笑しく話されているのが現状だ。
 じゃあ、何のために――?それが分からないからアルは巫子の噂が気に入らないのだ。理由がハッキリしないモヤモヤは私にも理解が出来た。ヒロインの事もそうだけど、山向こうの反乱の件もあるし落ち着かない日々が続きそうだった……。
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