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第48話 家庭の事情はそれぞれです。

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 さて、資料の捜索です。
 けど実はこちらの図書室は本命ではありません……。だからと言って図書室にも何があるか分からないから、しっかり捜索するけどね!
 今日の捜索の本命はウォルフ先輩――先代の理事長の部屋の方が何かある可能性が高いのと、正当な後継者を連れて行く隠し部屋があるそうで、そちらを探してくれる事になっている。
 対抗魔法が出てくれば嬉しいけれど、せめて、学園内の何処に魔術書が隠されているかのヒント位は見つかって欲しい……。
 今は手分けして図書室を捜索中。私とアル、ベルナドット先輩とエリザベス様、ベルク先生とエドガー様。そして先程言ったようにウォルフ先輩が単独行動である。
 それから、ルクスさんと執事さんが魔王関連の書籍を探してくれている。

 『――つい、ワルステッド殿を追い出すようにしてしまったが、ルクス殿達は、この後大丈夫だろうか??』

 本を探し始める前に、アルが問いかけた言葉だ。
 ワルステッドが追い出されたのは自業自得だけれど、ルクスさん達が残った事で、理事長やワルステッドに嫌がらせされないか心配になったらしい。

 『義弟は、父に言わないでしょう。少なくとも自分の失点・・になるような言い方はしません。義弟の扱いには慣れてます・・・・・ので大丈夫です。お気づかいありがとうございます』

 穏やかに笑うルクスさんだけれど、扱いに慣れている――その言い方に『嫌がらせされるのには、慣れていますから』と聞こえてしまった。アルも同じようで複雑そうな顔をしている。
 それに気が付いただろうに、ルクスさんは気が付かない振りをして書架の分類を教えてくれた。目録が無いのでザックリしたものですが、と言い置いて。
 その目録が無いのは、昔、理事長が破棄したかららしい。
 厳格な先代と折り合いが悪かった理事長――悪い友達と付き合うようになってからその反目は激化。先代が亡くなった時にその先代が愛したこの図書室を壊そうとしたみたい。
 まず最初にした事が目録の破棄。
 そして本を焼き捨てようとしたらしいけれど、それはルクスさんが全力で止めたみたい。『貴重な本もあるから』――そう言って。時が経てば価値が上がるかもしれないと言うルクスさんの言葉に理事長は、金になるかもしれない本があるのならと――焼き捨てる事をやめたようだ。

 『祖父には、引き取って育てて貰った恩があるので――どうしても、ここは守りたかったんです……』

 詳しい事情は分からないけれど、ルクスさんの養育をしたのは先代さんらしい。だから、理事長とは違った常識人なのかな??
 その騒動以来、理事長は図書室を放置していたようだ。放置と言えば、もう一か所――先代の部屋は今は物置になってるみたい。元々、先祖代々の当主の部屋だったらしいけれど、理事長は陰気な部屋だと言って嫌い、日当たりのよい部屋を改装して自室にしているんだって。
 余所の家の事情だし、どうしようも無いのだけれど少し切ない気持になった。
 血縁って拗れると、他人と拗れるよりも面倒な感じになったりするよね……。直接の知り合いじゃないけれど、家が傾いて長男が逃げて、後を継いだ次男が何とか立て直したら長男が帰って来て家督争い――この話の場合、長男の方が断然悪いと思うけれど、更に悪いのが彼等のご両親……。
 長男がいなくなった途端に次男に泣きついた癖に、家が立ち直って長男が帰ってきたら――

 『直系にあたるのは長男だから――』

 とか言い始めたんだって。
 そりゃあ揉めるよね。長男は逃げ出したんだし、家督は正式に次男が継いでるんだからハッキリと『長男に嫡子の資格無し』ってするべきだったと思うんだ。しかも、家を傾けたのはその長男が原因だったらしいし。
 結局、呆れた次男は事業を立ち上げて隣国へ――長男が偉そうに家督を継いだけれど、再度家は傾き――……貴族位を取られるはめになった。
 長男が一発逆転を賭けて、賭博で貴族位まで賭けたらしい。普通はありえないような事態です。そもそも貴族位ってやり取り出来るの?と思ったけれど、下位貴族は出来るらしい。
 貴族位を手に入れた人は、国の審査が通れば貴族として認められるから喰いつめた男爵家が貴族位を売るなんて事もあるんだって。
 両親は、次男に助けを求めたみたいだけれど、一度裏切られた次男が助ける事は無かったようだ。この話はまだマシな方。刃傷沙汰にはならなかったし……。次男が冷静に家を見放せたから良かったんだろう。固執してたら殺し合いになった可能性が高い。この国、決闘制度が残っているので……。まぁ、最終手段だから、あまり聞かない話だけれどね。

 「代々続いた家だから、何か出て来てくれると良いのだけれど……」
 
 アルの言葉に、そうですわねぇと同意する。私達が担当しているのは歴史と分類されている棚。概ね入っているのは歴史関係の書籍だけれど、時々、趣味のボンサイとかって本が入っていたりするので気が抜けない。
 ボンサイって盆栽かな?
 上の段は作業用踏み台に腰掛けたアルが担当。下の方の段は私が担当している。本を手にとって、中身の表題とかを確認――。稀に表紙と違ったり、隠す目的で表紙にまったく違うタイトルをあてるものもあったりするので……表紙を見ただけで納得してはいけないのだ……。
 私は、最初二人で本を捜索する事に落ち着かないような恥ずかしさがあったけれど、アルが真面目な様子で甘い空気が出て無いお陰で私も普通にしていられるようになった。まぁ、普通に本の捜索が重労働だったせいで、それどころじゃ無かったのもあるけれど……。

 「これ、今日が終わる頃には筋肉痛ですわね……」

 「確かに、良い運動になりそうだ。ティア、無理せずに途中で休んだ方が良いよ?」

 剣を振りまわしている俺と違って、腕力無いでしょう?と言われて一瞬黙り込む。確かに腕力に自信は無い。アルが指し示した先には、侍女さんが置いて行ってくれた探しだした本を置くワゴンとその横に置かれた椅子だ。 

 「――……無理はしませんわ」

 溜息を一つ吐きながら、そう告げる。出来れば今日だけで理事長宅への訪問を済ませたい――そんな焦りをアルには見透かされていたみたい。だって来る度にあんなやり取りしたくないんだよ……。
 ルクスさん達の負担も凄いと思うし。
 けど、無理して迷惑をかけるのも本意じゃないので、ちゃんと自重する事にした。
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