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第45話 余計な事は必要ないです。ただ、お宅を見せて下さい。

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 ※理事長イラッと注意報※
____________________________________________________
 アルのエスコートで馬車から降りる……。
 理事長のお宅、つまりエルダルトン伯爵邸の入り口の前にはずらりと並ぶ使用人の方達――その中央に、成金趣味丸出しの格好をした理事長、理事長夫人――理事長にそっくりの男性が一人。
 一歩下がった場所に、小奇麗な格好で使用人には見えない男性が一人立っていた。
 満面の笑顔の理事長達と違い、頭が痛そうな顔をしているのが印象的だ。良く見れば、理事長と似た顔なのに体型がまったく違う所為か、顔つきが違う所為かまともに見える。

 ――うーん、何だろう……理事長に見覚えがある――……?

 会った事、無いはずなんだけれど……??ゲームにこんな人、出て来ただろうか……?まぁ、後でゆっくり考えよう。
 今回の訪問に関して、ベルク先生に理事長と手紙のやり取りをして貰った中で、アルが伝えて欲しいと言った事がある。『いち学生として伺うので、出迎えなどしないで欲しい――』と言うものだ。その結果が――使用人さん達まで総出でのお出迎え。
 うん。理事長、何を聞いていたのかな?聞いたけどスル―なのかな??しないでって言っても、『本当はして欲しいんでしょ??』って思ったのかな?それとも、書かれている事に気が付かなかったのかな??――……正解がどれかまったく分からない……。
 事実、アルは馬車の扉が開いた瞬間、表情が無くなった。おそらく、眉を顰めそうになったのを堪えた結果の無表情だと思われる。

 「良くお越しいただきました、王太子殿下!!――ですが、学園の馬車でいらしたのですなぁ……」

 瞬間、空気が凍りましたョ?
 何とも不服そうな理事長に、ベルク先生は、顰め面を隠さなくなりました……。他の皆さまは引き攣った顔。あ、ウォルフ先輩だけは満面の笑顔だね!
 そして、その空気に気が付かない理事長夫妻と、息子その①――対照的に、もう一人の息子さん(だと思われる)と使用人の方達は顔を青褪めさせて直角になりそうな位に頭を下げている。
 まぁ、歓迎の言葉はまだ良い――けどさ、理事長――学園の馬車で来たのを『落胆しました』って言っちゃダメでしょ……。あぁ、良かった――学園の馬車借りて来て……。
 これ、王家や公爵家の馬車で来てたら、嬉々として周りに吹聴したよね??『我が家は王家と付き合いが~云々』って。――目に見えるようだ……。

 「理事長――今回は、学業の一環としての調査訪問・・・・・・・・・・・・・を許可頂き有難うございます――今回の訪問は学生としてのもの・・・・・・・・・・・・・・――歓迎して頂けるのは有難い事ですが、ここまでして頂くのは――不要かと。馬車に関しても同じ事――。私は学生として来たので、家紋のついた馬車は必要ないのです・・・・・・・・・・・・・・・・

 アルが、目が笑って無い笑顔で、理事長にそう告げた。
 一応、釘を刺した感じです。
 どうせ、私達が来た事は理事長によって拡散されるハズ。その事を周囲から聞かれた時に、学園の馬車で行った事を伝えつつ『学生』としての行動だと言う訳だ。王家は関係ないよ――?って……。
 この、意味理事長にちゃんと伝わっただろうか……。

 「あぁ!そんなご謙遜なさらずに!!王太子殿下をお迎えするのです!!最高のおもてなしをするのが、臣下の勤め――我等にもお心配りして頂くとは、殿下は本当にお優しい!!」

 ――理事長――……聞いちゃいない。
 ダメだ、これはヤンワリとした指摘は一切理解しないタイプだ!!はっきり、迷惑だ!不敬だ!!って言わないと分からないヤツ。……ハッキリ言ったとしても、何が相手に不快感を与えたか理解出来無さそうな所が頭が痛い。
 理事長の発言に、ウンウンと肯定しながら頷いている夫人と息子その①にも理解は難しいだろうなぁ……。
 後ろで、能面のような顔になったもう一人の息子さんが、再び直角に頭を下げた。
 ご心痛お察しします。

 「まずは、お茶でもいかがですかな??隣国の高級茶葉を手に入れましてね!」

 「――……お気持は大変ありがたいのだが、調べ物の時間が取れなくなるのは困る。気持だけ頂こう」

 すかさずアルが『無理』だと告げた。アルがこう言ったのは理事長のお茶に付き合ったら、今日の調べ物は出来なくなるだろう事が予想されたからだと思う。下手をすればまた後日となりかねない。
 普通なら、気持ちだけ頂こうの前とか後に『それは次回に……』とかリップサービスが入るんだけど、それを言質として勘違いされるのを避ける為か、アルはその言葉を入れなかった。

 「そうですか――?それは残念ですな……ならば、ワルステッドに案内させましょう――……優秀な子でして、殿下もお気に召されるはず――それから、おい!ルクス!!殿下の邪魔をせずにお手伝いしろよ?」

 理事長はそう言って、息子その①ワルステッドを満面の笑みで前に立たせ、その後、腕を引っ張って気苦労の絶え無さそうな息子のルクスさんを、ワルステッドから一歩下がった位置に立たせた。
 その対照的な扱い方に理事長への不快感が募る……。
 ニヤニヤ笑いのワルステッド――頭の痛そうなルクスさん……二人とも、20代前半かな?学園でも見た事が無いし……。そして、多分ルクスさんの方がワルステッドより年上だと思う。
 ワルステッドが幼稚に見えるからじゃないよ??

 「いやぁ、コレは身分の卑しい下女が産んだ子でして……爵位を継ぐ前の子ですし、礼儀もなって無いと思いますが、雑用にでも使って下さい……」

 理事長――それ、わざわざ言わなくて良いヤツ……。
 その言葉を聞いた一瞬、ルクスさんの顔が紅潮して歪んだ。恥ずかしさじゃなく、おそらくは怒り――。自分の母親を『身分の卑しい下女』扱いされて、怒らない人なんていないだろう。しかも理事長の発言は、ルクスさんが日頃どう扱われているかを公衆の面前で暴露しているものだ。
 普通の人なら、眉を顰める類の発言である。
 私達の顔は、無表情――全員、能面みたいだった。不快を表せば、ルクスさんをはじめ、使用人の人達に気を使わせてしまうだろう……かといって、上辺だけの笑顔でこの惨状を受け入れる事も出来ない。
 苦渋の結果がこの無表情デス。

 「――……そうですか、優秀な御子息二人・・に案内頂けるとは有難い。ですが、これも勉学の一環、手伝い等は不要です」

 アルのその言葉に、ルクスさんがハッと顔を上げた。そして、目元を赤くして嬉しそうな顔を堪えた後、そっと頭を下げたのだった……。
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