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第9話 攻略対象4人目と5人目。

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 歩いて来たのは3人だった。
 ベルナドット・クム・ベルシュタイン。エリザベス様のお兄様。一学年上の先輩である。座学よりかは剣技が好きな燃えるような赤毛に金色の瞳の情熱家――特に何事も無ければ、アルの将来の右腕となる側近候補。というよりもうほぼ内定してるかな。
 もう一人はエドガー・リオ・フラウナー。濃い緑の髪に茶色の目の彼はフラウナー伯爵家の第3子。12歳でありながら、私達と同学年になる位に優秀な彼は魔法の開発が得意である。
 この2人に関しては、少しだけど話した事があるくらいには顔見知り。アルの婚約者を決めるお茶会にも、ご学友候補として来ていたしね。
 エドガー様に関しては、当時3歳だった訳だけど……舌ったらずなのに、難しい本を読んでいたから驚いた記憶がある。
 しかも、攻略対象外で今は留学している将来の宰相候補であり、5歳年上の私の兄と意見交換とかしてたのよ。確か今はチェス友達だった筈。年は離れているけど、お互い気のおけない友人らしい。
 そして歩いて来る3人目……直接会うのは初めての3人目の名は、クリス・ロウバーグ。こちらも一学年上の先輩だ。彼は王都に店を出す王家御用達ロイヤルワラントのお店サラディナーサの長男。商人の息子な訳ですが、実は亡国の王家の直系の血を引くという裏設定があったハズ。
 深い紫色の髪に、朱色の目をした彼の顔立ちは何処となくエキゾチックだ。

 ――そう言えば、アル以外のルートでもゲームの私は悪役令嬢なのよね?

 確か……別ルートだとアルは他の攻略対象とヒロインとは親友ポジション。それが悪役令嬢は気に入らなくて嫌がらせから始まり、命の危険がありそうな事までやらかしてアルから婚約破棄。それから安定の闇堕ち魔王ルートだったはず。ゲームの中では自業自得だったとしても、それが自分の可能性の一つだと思うと怖ろしい話である。まぁ、何だかそのフラグは折れてそうだけど……。
 けど、これで攻略対象全員が揃った訳だ。ベルク先生は今この場には居ないけれど。

 「ベルナドット、エドガー……二人とも揃ってどうしたんだい?」

 アルの問いかけに、ベルナドット様とエドガー様は胸に左手を当てる礼をして、クリス様は頭を下げる礼をした。

 「お話し中に、申し訳ありません殿下。本当はもっと早くご紹介したかったのですが、何かと騒がしいようでしたので……」

 ヒロインの件で、暫く私達の周囲から人が絶えなかったので紹介する事を控えていたのだとベルナドット様が言う。紹介したい相手とはもちろんクリス様だ。

 「ベルナドット、他の二人もここは学園だ。礼は必要ない。王城の畏まった席でもないんだ。普段通りでいいぞ」

 「――了解した。アルフリード。早速だが、紹介してもいいか?コイツはクリス・ロウバーグ。名前で分かるとは思うが、サラディーナーサの長男だ」

 苦笑した後、ベルナドット様はアルの前へとクリス様を押し出した。

 「ご紹介に預かりました、クリス・ロウバーグと申します……」

 「……君のお父上には世話になっている。クリスタルガラスで作られた花は、ティアに気に入って貰えたと伝え貰えるかな?」

 「あの花は、父が後援をしております新進気鋭のガラス作家モンテールの作です。殿下にそう言って頂けたと聞けば父もモンテールも喜ぶでしょう」

 二人の会話を聞いて、私は思わず目を見開いた。アルから貰って気に入ったクリスタルガラスの花は一つだけだ。

 「まぁ、あのお花?サラディナーサの作家のものでしたのね!」

 金銀細工で木の形を模した台の上に乗せられた球体の中……本物の花と見間違う位に精巧に作られたクリスタルガラスの花々――何より驚いたのは、夜になるとその花が淡く光る事だ。
 いつも我が家に来る時は花束やお菓子のプレゼントだったのに、前回は違ったのよね。
 侍女のアンナが、最近流行っている婚約者へのプレゼントだと頬を染めながら大興奮で教えてくれたっけ。
 クリスタルガラスで出来た花には強化の魔法が掛けられているから、余程の事が無い限り壊れない。強化クリスタルガラスは塔の上から落しても割れない――が売りである。
 花の意味は『枯れつきる事のない愛を貴女に』婚約者ごっこをしてるって分かっていても、照れくさくなってしまうような意味ですよ……。

 「夜になると光りますの。とても幻想的で綺麗……最近のお気に入りなのです。あれはどうして光るのかしら……」

 「モンテールの開発した蓄光魔法が使われています。昼の光を貯め込んで夜に淡く光らせる事に成功したとか……。確か、光る特性のある石を粉にして混ぜているとも言っていましたが、それ以上は教えてくれませんでした。何でも企業秘密だそうです」

 「へぇ、今はそんなのが流行りなのか」
 
 「そんなのだなんて失礼ですわよ。繊細に作られたあれを見れば、そんな事は言えなくなりますわ。あれは職人の手で作られた芸術品ですもの。それよりベルナドット様、最近エレナ様には会ってらっしゃるのかしら?とても、お寂しそうでしてよ?剣の素振りをし始める位……」

 私はベルナドット様にニッコリと笑いかけた。
 エレナ様とは彼の婚約者の事である。私とはお茶会で良くお話する仲だ。王太子殿下の婚約者の立場としては、将来王太子殿下を支える臣下の婚約者の方とは仲良くあるべき――それが母から言われた事。
 なのでエドガー様の婚約者のリリベル様とも仲良くさせて頂いている。個人的には、二人ともハッキリサッパリとした性格なので普通にお友達になりたい感じなんだけど……。
 エレナ様は女性ながら、騎士を目指してらっしゃるので将来的には王太子妃の騎士になる予定だし……リリベル様も、母親が王妃様付きの筆頭女官をしているので将来は王太子妃の筆頭女官になる予定――結論、王太子の婚約者は私な訳で、彼女達は既に私に仕える気マンマンな訳だ。
 だからちょっと壁があるのよ。仕える事になる主――って壁が。

 「うっ……」

 「最近、お友達との訓練が楽し過ぎて全然会って無いのでしょう?たまには遠駆けにでも出かけたらいかが?それから、剣技を嗜んでいらしてもエレナ様は女性ですわ――お花もお好きでしてよ?」

 「……はぁ……忠告感謝致しますよ……ローゼンベルク嬢。次の休みは花束を持って遠乗りにでも誘いに行きます」

 ポリポリと頬を掻きながら気まずそうに言うベルナドット様に、アルと私は思わず笑ってしまった。
 ベルナドット様は、隠しているつもりでいるけれどエレナ様に嫌われたくないのである。何故ならベルナドット様の本気の遠駆けに付き合ってくれて、何なら狩りも一緒にしてくれる……その上、少し放っておいたからと言って拗ねたり怒ったりしない女性は希有だ。
 そんな彼女が拗ね初めてるって、どれだけ放置したのよ……。その内、捨てられても知らないよ?
 拗ねたような顔をし始めたベルナドット様を見て、アルと目線を合わせてクスクスと笑う――これはゲームの中では無かった光景だ。何故なら、ゲームの中の彼らには婚約者がいなかったのだから……。
 じゃあ何で婚約者がいるかと言えば、ヒロインがどのルートを選んでも私が闇堕ちするので、アルがベルナドット様とエドガー様、二人と気が合いそうで家格も問題が無いエレナ様とリリベル様を婚約者にどうかと両家に打診したからである。
 アル曰く、婚約者や恋人がいれば攻略される可能性減るよね?との事らしい。
 ちなみに、クリス様の方は父親の方から情報を入手している。現在は、彫金師のお姉さんとお付き合いしているようだ。
 ベルク先生の方は幼馴染ともうすぐ結婚するらしい。クリス様とベルク先生は自然とそういう流れになったみたいだった。こちらとしては有難い事です。
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