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第2話 人生終了のおしらせ。
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あのおじいさんは低血糖だったそうだ。
祖母のお見舞いに行った病院で、一之瀬 昴と再会した私はそう聞く事ができた。彼は、この病院の医師の一人なのだと言う。といっても、彼にこの病院で会ったのはこの一度だけだ。それきり、その事は忘れてしまった。
その後、レイナが看護師になりたいと言いはじめ、結局同じ看護学校に通うハメになった。私はこの時、私が看護師になりたがっているから彼女が看護師になりたいと言い始めたのだと思ったのだ。それが間違いだとは気が付かずに……。
次に一之瀬 昴と再会したのは、看護師になって務める事になった病院のロビーでだ。私の横には、もちろんレイナもいた。彼女は嬉しそうに一之瀬医師に駆け寄るとにっこりと笑いかける。
「お久しぶりです――私の事、覚えてますか?」
彼は、とても戸惑った顔をしたけれど、私の顔を見てレイナの事も思い出したらしい。けれど、それはとてつもない間違いだった。彼は、レイナの事を思い出すべきじゃ無かったのだ――。
それ以降、レイナは一之瀬医師との再会は運命だと私に言いはじめたのだから……。
彼の左手に嵌まる指輪を指摘したけれど、彼女が聞く耳なんて持つ筈も無い。家を突き止めて、一人暮らしだから別居で離婚寸前に違いないと妄想を膨らませ、猛烈なアタックをはじめたのだ。
色々な人がやめるようにレイナに言った。もちろん私もだ。
それでも改善されなくて沢山の人達が、レイナをなんとかしろと私に言って来るようになった。彼女が私の事を親友だと言いふらしていたからだ。
その一人ひとりに私は彼女とは幼馴染なだけで、自分ではどうにも出来ない、忠告しても言う事を聞かないと説明するしかなかった。大多数の人は納得し、同情してくれたけれど……幾人かには、特に一之瀬医師に密かに恋している人達からは罵詈雑言を頂いた。ざりざりと精神が削られるような毎日が続く……。私はとても疲れていた。
「好きです。愛してます。私と幸せ一杯の家庭を築きましょう?もう、両親には話してあるの……後は昴さんに家に挨拶しに来て貰うだけです」
以前患者さんの前で告白して、次にやったらクビだと言われていた筈の彼女は多分……患者さんの前で無ければ良いと思ったのだろう。一之瀬医師の車の前に立って、潤んだ目で彼の手を握った。
一之瀬医師が車に近づいた瞬間、何処からともなく現れたのだ――。その早技に、彼も凍りついているのが分かった。私は、職員玄関を開けた状態で固まって、まわれ右する事にする。
彼には申し訳ないが、レイナの所為で精神的な疲労が半端無かったのである。
「澪ちゃんも応援してくれているんです。そうよね?結婚式には友人代表でスピーチしてくれるんでしょ?」
深淵――振り返れば、ぞくりとするような黒い双眸が私を見ていた。
その視線を受けて、私が居る事に気が付いた一之瀬医師が振り返って私を睨む。
「君もなのか?いい加減にしてくれ!!彼女を煽るような事を言わないでくれないか!」
レイナの手を嫌そうに振りほどきながら、一之瀬医師は低い声で唸った。私は、溜息を吐くと諦めて二人へと向かって歩いて行く――。
私はもっと必死になって逃げるべきだった。面倒だから適当に相手をしておけばいいやとレイナとの関わりを諦めずに……こんな面倒事に巻き込まれて、これから先もコイツに人生を消費されて生きるのか?
冗談じゃ無い
疲れから、抑えきれない怒りのままに私は二人に歩み寄ると、レイナの頬をブッ叩いた。
「い―加減にしてくれる?私とアンタは確かに幼馴染だけど、友達だった事なんて無い。アンタのお花畑な脳みその中じゃどうなってんのか知らないけどさ。人の話は聞かない――自分に都合の良いように話を捻じ曲げて、私が嫌がろうが親友だからって言って纏わりついて――本当に大嫌い」
「えっ?え?」
「一之瀬先生――私はコイツと友達じゃありません。コイツと貴方の仲を応援した事もなければ、妄想の中の結婚式でスピーチする予定もありません」
私は、一之瀬医師を睨みつけてそれだけ言うとポカンとした顔をする彼と、涙を浮かべて頬を押さえるレイナを置き去りにして歩き去った。
家についた後スマホを見たら、レイナからは異常だと思えるほどの着信があったけれど私は大きな溜息とともにその番号を着拒した。もっと早くこうしていれば良かったのだ……。
次の日、誰か目撃者が他にもいたのか、レイナの行動が問題になった。病院側としても、問題行動しかおこしていない看護師を雇い続ける理由も無い。結局、彼女は病院を解雇された。
これで、悪夢は去ったと思ったのが間違いだったと理解したのは、12月24日の夜――
「……おつかれさま――」
「……おつかれさまです……」
気まずい気持ちでお互いに顔を合わせる。勤務が終わり、駅までの道を歩いていた時だった。後ろから、一之瀬医師に声を掛けられたのは。
「あれ、先生車は――?」
彼は、車通勤だった筈だ。なのに何故歩いているのだろう……?
「車……車ね――通勤しようと思ったら、破壊されてて、ね?」
疲れ果てた顔で話す言葉を聞けば、家から離れた所に借りている駐車場でタイヤはパンク、フロントは割れ車体はボコボコの酷い有り様だったらしい。悪戯と言うには度が過ぎている。一瞬私の脳裏にレイナの顔が浮かんだ。
――まさか……ね。
レイナは彼女の家族によって病院に入院させられるのだと近所の噂で聞いていた。そんな状況の彼女が、車を壊しになんて行けないだろう。
一之瀬医師は、朝から手術が入っていたため一旦被害届は出さず、タクシーで病院に来たそうだ。そして、今から警察に行くのだと。
「……それは、お疲れ様です……」
「……あの、佐藤さん……」
交差点の手前で名前を呼ばれて立ち止る。8歳年上のその人は、困ったように私を見ていた。こうして見上げれば、睫毛が長く疲れていても整った顔立ちなのが良く見える。
世の女性は、この顔にドキドキするのだろう。私は自分の平凡さを嫌と言うほど分かっているので、ただキレイな顔だな位にしか感じなかったけれど……。
「ずっと、謝りたくて――申し訳無い。君の事情も知らずに酷い事を――」
「あぁ……お気になさらず。必死で逃げれば良いのにズルズルと付き合い続けてたのは私なんで。自業自得です。先生こそ、大変でしたね……奥様もいらっしゃるのに」
私の言葉に一之瀬医師は少し困ったような顔をした後、口を開いた。
「……この指輪、実は女性避けなんだ。昔から、しつこく言い寄られる事が多くて……大体の人はコレをみれば諦めてくれるんだよ……」
苦笑して話す彼に私も苦笑で返す。言わずとも、お互い諦めなかった彼女を思い出していたからだ。
「本当に災難でしたね。けど、私に話してしまって良かったんですか?」
「佐藤さんからは、そういう面倒くさい感じがしないから」
……見た目が良くて医者――どうやら、面倒と表現したくなるほどの色々な事があったらしい。ましてや、最近のトラブルがレイナだ。面倒所の騒ぎじゃ無いだろう。
互いの目を見れば、そこにあるのは共感だった。レイナという厄介な相手に好かれたという同士のようなものだからだろう。
そんな事を考えていた時――突然、腕に衝撃を感じて何かが落下した音がした。鈍い痛みに目をやれば、落ちた鞄が転がっている。
一之瀬医師が私を庇うように立つと、「なんで……」とポツリと呟いた。
――レイナ?
視線の先にいたのはレイナだ。いつからいたのか、ブツブツと何か呟きながら爪を噛んでいる。目の下には隈。ちゃんと食べていないのか、こけた頬――目だけが異様に光っていた。
「悪役は、奥さんだけだと思ってたのに……澪ちゃん酷い……澪ちゃんも昴さんが好きだったのね?だから、私に諦めろって……駄目よ。澪ちゃん。昴さんは私の恋人なの――ね?そうですよね??昴さん」
ゆっくりと歩いて来て無邪気に笑う。
駄目だ――コレ。
無邪気な筈の笑顔が怖い。レイナでは無く、何か得体のしれないモノに出会った感覚。逃げなくちゃと思うのに、身体が動かない。それは一之瀬医師も同じのようだった。
「俺は、君の恋人じゃ無い」
「嘘よ。嘘嘘!レイナが望む事は、全部その通りになるのよ?だから、昴さんはそんなこと言っちゃダメなの。どうしてそんな事いうのかしら……澪ちゃん……?澪ちゃんのせいなの??まさか、浮気してたの……?澪ちゃんと??だからクリスマス・イブに二人で歩いてたのね!!酷いわ澪ちゃん!私が昴さんと結婚するって知ってた癖に!どうして?私達親友でしょう??」
ぐりんと目を見開いて、レイナが叫ぶ。私はその目を逸らせなかった。逸らせたら良く無い事が起こる……そんな気がして……。
どうしてこんな時に限って人通りが無いんだろう。助けを求めるにも、民家は遠く――暗い小学校の校庭と、人のいない町工場があるばかりだ。
――近道だからって、こんな道選ぶんじゃ無かった――。
「二人とも大好きなのに、神様はなんて酷いのかしら……私にはどちらも選べない。だから、どちらも選べばいいよね?」
人通りの無い場所に、車の音が聞こえた。大型のトラックだろうか、それともバスか……。
え?と思った時には遅かった。レイナの何処にそんな力があったのか、今でも分からない。ただ一つ分かったのは、私と一之瀬医師がレイナの体当たりで車の前に押し出された事だ。不幸だったのはトラックが車通りも少ないその道をスピードを出して走っていた事――。
――私達3人は、そのトラックに轢かれた。少なくとも私は即死だったと思う。
祖母のお見舞いに行った病院で、一之瀬 昴と再会した私はそう聞く事ができた。彼は、この病院の医師の一人なのだと言う。といっても、彼にこの病院で会ったのはこの一度だけだ。それきり、その事は忘れてしまった。
その後、レイナが看護師になりたいと言いはじめ、結局同じ看護学校に通うハメになった。私はこの時、私が看護師になりたがっているから彼女が看護師になりたいと言い始めたのだと思ったのだ。それが間違いだとは気が付かずに……。
次に一之瀬 昴と再会したのは、看護師になって務める事になった病院のロビーでだ。私の横には、もちろんレイナもいた。彼女は嬉しそうに一之瀬医師に駆け寄るとにっこりと笑いかける。
「お久しぶりです――私の事、覚えてますか?」
彼は、とても戸惑った顔をしたけれど、私の顔を見てレイナの事も思い出したらしい。けれど、それはとてつもない間違いだった。彼は、レイナの事を思い出すべきじゃ無かったのだ――。
それ以降、レイナは一之瀬医師との再会は運命だと私に言いはじめたのだから……。
彼の左手に嵌まる指輪を指摘したけれど、彼女が聞く耳なんて持つ筈も無い。家を突き止めて、一人暮らしだから別居で離婚寸前に違いないと妄想を膨らませ、猛烈なアタックをはじめたのだ。
色々な人がやめるようにレイナに言った。もちろん私もだ。
それでも改善されなくて沢山の人達が、レイナをなんとかしろと私に言って来るようになった。彼女が私の事を親友だと言いふらしていたからだ。
その一人ひとりに私は彼女とは幼馴染なだけで、自分ではどうにも出来ない、忠告しても言う事を聞かないと説明するしかなかった。大多数の人は納得し、同情してくれたけれど……幾人かには、特に一之瀬医師に密かに恋している人達からは罵詈雑言を頂いた。ざりざりと精神が削られるような毎日が続く……。私はとても疲れていた。
「好きです。愛してます。私と幸せ一杯の家庭を築きましょう?もう、両親には話してあるの……後は昴さんに家に挨拶しに来て貰うだけです」
以前患者さんの前で告白して、次にやったらクビだと言われていた筈の彼女は多分……患者さんの前で無ければ良いと思ったのだろう。一之瀬医師の車の前に立って、潤んだ目で彼の手を握った。
一之瀬医師が車に近づいた瞬間、何処からともなく現れたのだ――。その早技に、彼も凍りついているのが分かった。私は、職員玄関を開けた状態で固まって、まわれ右する事にする。
彼には申し訳ないが、レイナの所為で精神的な疲労が半端無かったのである。
「澪ちゃんも応援してくれているんです。そうよね?結婚式には友人代表でスピーチしてくれるんでしょ?」
深淵――振り返れば、ぞくりとするような黒い双眸が私を見ていた。
その視線を受けて、私が居る事に気が付いた一之瀬医師が振り返って私を睨む。
「君もなのか?いい加減にしてくれ!!彼女を煽るような事を言わないでくれないか!」
レイナの手を嫌そうに振りほどきながら、一之瀬医師は低い声で唸った。私は、溜息を吐くと諦めて二人へと向かって歩いて行く――。
私はもっと必死になって逃げるべきだった。面倒だから適当に相手をしておけばいいやとレイナとの関わりを諦めずに……こんな面倒事に巻き込まれて、これから先もコイツに人生を消費されて生きるのか?
冗談じゃ無い
疲れから、抑えきれない怒りのままに私は二人に歩み寄ると、レイナの頬をブッ叩いた。
「い―加減にしてくれる?私とアンタは確かに幼馴染だけど、友達だった事なんて無い。アンタのお花畑な脳みその中じゃどうなってんのか知らないけどさ。人の話は聞かない――自分に都合の良いように話を捻じ曲げて、私が嫌がろうが親友だからって言って纏わりついて――本当に大嫌い」
「えっ?え?」
「一之瀬先生――私はコイツと友達じゃありません。コイツと貴方の仲を応援した事もなければ、妄想の中の結婚式でスピーチする予定もありません」
私は、一之瀬医師を睨みつけてそれだけ言うとポカンとした顔をする彼と、涙を浮かべて頬を押さえるレイナを置き去りにして歩き去った。
家についた後スマホを見たら、レイナからは異常だと思えるほどの着信があったけれど私は大きな溜息とともにその番号を着拒した。もっと早くこうしていれば良かったのだ……。
次の日、誰か目撃者が他にもいたのか、レイナの行動が問題になった。病院側としても、問題行動しかおこしていない看護師を雇い続ける理由も無い。結局、彼女は病院を解雇された。
これで、悪夢は去ったと思ったのが間違いだったと理解したのは、12月24日の夜――
「……おつかれさま――」
「……おつかれさまです……」
気まずい気持ちでお互いに顔を合わせる。勤務が終わり、駅までの道を歩いていた時だった。後ろから、一之瀬医師に声を掛けられたのは。
「あれ、先生車は――?」
彼は、車通勤だった筈だ。なのに何故歩いているのだろう……?
「車……車ね――通勤しようと思ったら、破壊されてて、ね?」
疲れ果てた顔で話す言葉を聞けば、家から離れた所に借りている駐車場でタイヤはパンク、フロントは割れ車体はボコボコの酷い有り様だったらしい。悪戯と言うには度が過ぎている。一瞬私の脳裏にレイナの顔が浮かんだ。
――まさか……ね。
レイナは彼女の家族によって病院に入院させられるのだと近所の噂で聞いていた。そんな状況の彼女が、車を壊しになんて行けないだろう。
一之瀬医師は、朝から手術が入っていたため一旦被害届は出さず、タクシーで病院に来たそうだ。そして、今から警察に行くのだと。
「……それは、お疲れ様です……」
「……あの、佐藤さん……」
交差点の手前で名前を呼ばれて立ち止る。8歳年上のその人は、困ったように私を見ていた。こうして見上げれば、睫毛が長く疲れていても整った顔立ちなのが良く見える。
世の女性は、この顔にドキドキするのだろう。私は自分の平凡さを嫌と言うほど分かっているので、ただキレイな顔だな位にしか感じなかったけれど……。
「ずっと、謝りたくて――申し訳無い。君の事情も知らずに酷い事を――」
「あぁ……お気になさらず。必死で逃げれば良いのにズルズルと付き合い続けてたのは私なんで。自業自得です。先生こそ、大変でしたね……奥様もいらっしゃるのに」
私の言葉に一之瀬医師は少し困ったような顔をした後、口を開いた。
「……この指輪、実は女性避けなんだ。昔から、しつこく言い寄られる事が多くて……大体の人はコレをみれば諦めてくれるんだよ……」
苦笑して話す彼に私も苦笑で返す。言わずとも、お互い諦めなかった彼女を思い出していたからだ。
「本当に災難でしたね。けど、私に話してしまって良かったんですか?」
「佐藤さんからは、そういう面倒くさい感じがしないから」
……見た目が良くて医者――どうやら、面倒と表現したくなるほどの色々な事があったらしい。ましてや、最近のトラブルがレイナだ。面倒所の騒ぎじゃ無いだろう。
互いの目を見れば、そこにあるのは共感だった。レイナという厄介な相手に好かれたという同士のようなものだからだろう。
そんな事を考えていた時――突然、腕に衝撃を感じて何かが落下した音がした。鈍い痛みに目をやれば、落ちた鞄が転がっている。
一之瀬医師が私を庇うように立つと、「なんで……」とポツリと呟いた。
――レイナ?
視線の先にいたのはレイナだ。いつからいたのか、ブツブツと何か呟きながら爪を噛んでいる。目の下には隈。ちゃんと食べていないのか、こけた頬――目だけが異様に光っていた。
「悪役は、奥さんだけだと思ってたのに……澪ちゃん酷い……澪ちゃんも昴さんが好きだったのね?だから、私に諦めろって……駄目よ。澪ちゃん。昴さんは私の恋人なの――ね?そうですよね??昴さん」
ゆっくりと歩いて来て無邪気に笑う。
駄目だ――コレ。
無邪気な筈の笑顔が怖い。レイナでは無く、何か得体のしれないモノに出会った感覚。逃げなくちゃと思うのに、身体が動かない。それは一之瀬医師も同じのようだった。
「俺は、君の恋人じゃ無い」
「嘘よ。嘘嘘!レイナが望む事は、全部その通りになるのよ?だから、昴さんはそんなこと言っちゃダメなの。どうしてそんな事いうのかしら……澪ちゃん……?澪ちゃんのせいなの??まさか、浮気してたの……?澪ちゃんと??だからクリスマス・イブに二人で歩いてたのね!!酷いわ澪ちゃん!私が昴さんと結婚するって知ってた癖に!どうして?私達親友でしょう??」
ぐりんと目を見開いて、レイナが叫ぶ。私はその目を逸らせなかった。逸らせたら良く無い事が起こる……そんな気がして……。
どうしてこんな時に限って人通りが無いんだろう。助けを求めるにも、民家は遠く――暗い小学校の校庭と、人のいない町工場があるばかりだ。
――近道だからって、こんな道選ぶんじゃ無かった――。
「二人とも大好きなのに、神様はなんて酷いのかしら……私にはどちらも選べない。だから、どちらも選べばいいよね?」
人通りの無い場所に、車の音が聞こえた。大型のトラックだろうか、それともバスか……。
え?と思った時には遅かった。レイナの何処にそんな力があったのか、今でも分からない。ただ一つ分かったのは、私と一之瀬医師がレイナの体当たりで車の前に押し出された事だ。不幸だったのはトラックが車通りも少ないその道をスピードを出して走っていた事――。
――私達3人は、そのトラックに轢かれた。少なくとも私は即死だったと思う。
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