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おまけ 宵闇の錬金術師の結婚②
しおりを挟む「あら……?確か、アネッテの……」
「――……幼馴染で婚約者です」
おかしい。蓑虫になっているハズのお嬢様と遭遇した……。公爵様と取引が完了して無事契約書にお互いサインした後の事である……。さぁ帰ろうと思ったのだけど、折角なので庭でも見て行け――訳:庭の土壌改良もしてくれる??妻が花が好きでね?と言われて散策してたんだが――。何故かお嬢様に遭遇した。
その内、お嬢様が落ち着いたらアネッテの『婚約者』として自己紹介する気マンマンだったんだが、ココで遭遇するとは思わなかったぞ……?
さっきのやり取りがある所為で、正直ちょっと……罪悪感がね?チクチクとさ??うん――その何だ……お嬢様、君を売って卒業後の就職先は公爵家に決まりましたとか言えないしなぁ……。
そんな動揺をした所為か、ポロッとアネッテの婚約者だって言ってしまった。
「!!」
お嬢様、凄いビックリ顔なんだが。
目が零れ落ちそうな位に見開かれて「えっ?え!!本当ですの?!!アネッテの!!婚約者――!!!」――と。紅潮した嬉しそうな顔でピョンピョン跳ねるお嬢様。
何だこのカワイイイキモノ。俺は咄嗟に周囲を見回した――。
アネッテは居ない。
ホッと安心したけれど、ハタと思い至る――こんなお嬢様を俺だけが見たと知れたら、アネッテと公爵様に殺されるんじゃね??
うん決めた――……秘密は墓まで持って行こう……。
「あ――……落ち着いて下さい、お嬢様……ご挨拶するのは初めてでしたよね。テッド・ロディックと申します。卒業後は、こちらの公爵家で土壌改良の技術者として雇って頂く事になりました。その手続きの関係で、今日はこちらに伺っていまして……公爵様からはついでに庭の方の土も見て欲しいとの事でしたので、今ココにいる訳ですが……」
「そうなのですか?じゃあ、アネッテとテッド――先輩?は、タウンハウスに住む事になるのかしら?」
どうやら俺が学園の生徒なのは把握されているらしい。いずれバレるだろうしな――と本名を言った訳だけど……この感じだと、お嬢様はあの映像を手掛けたのは俺だって気が付いて無いよな?良かったと言うべきか??だけど、罪悪感が増すなぁ……。
「あぁっと、テッドで良いです。お嬢様――確かに学園では先輩になりますけど、それも後一年も無いですし。公爵様に雇われる身ですからね。タウンハウスに住むのはアネッテの夢なんで――公爵様にはそこも許可頂いてます」
「そうですか?ふふ――嬉しいわ!後でアネッテにお祝いを言わないと!」
「そうして頂ければ有難いです。アネッテも喜ぶと思いますんで――」
ニコニコと嬉しそうなお嬢様――。誰だよ、こんな可愛い子を悪役令嬢とか言ったの。けど、驚いたわ……もっと人見知りする子だと思ってたからな……。
チラっとその辺のコト聞いてみたらキョトンとした顔をした後、ニッコリ笑ってお嬢様はこう言った――
「だって、私の大好きなアネッテの婚約者なのでしょう??」
だったら、怖い人では無いと思って――だと。ヤバい!!純粋な、良い子だョ!
本当誰だよ悪役令嬢とか言ったの!!目ぇ腐ってんじゃ無いか??純粋過ぎて、浄化されそうだよ。
「あ、お嬢様?それアネッテに直接言ってやって貰っても良いですかね?」
「?何故ですの??」
「アネッテ――アイツお嬢様の事が死ぬほど大好きなんで、喜ぶと思うんですよね……」
俺の言葉に「そうですの??」と言ったお嬢様。
アネッテがお嬢様大好きな事はあまり伝わってなかったらしい。まぁ、アネッテの事だから、普段は澄まして冷静な侍女役をしてるだろうから仕方が無いのかもしれないな……。
お嬢様はそれでも後でちゃんと、アネッテに伝えてくれたらしい。アネッテは歓喜のあまり昇天しかけたようだ……。何で知ってるかって??泣きながら抱きつかれて「あ”りがどー、デッドぉ」って言われたからだ。
デッドってそれだと死んでるぞ――?
まさか、泣いてお礼を言われると思わなかったけどさ――喜んで貰えたようで良かった。ついでに、大好きなお嬢様に祝福されたんだ――結婚しないとか言えなくなっただろうし、俺的にも良かったと思う。
ついでに、ちゃっかりとご褒美をお願いしておいた。
結婚式は卒業してからするとして、先に婚姻届出したいってさ――ちなみにその説得はお嬢様が猫と戯れる映像で一瞬にして終わった。お嬢様――最強な気がする。
まぁ、そんなこんなで二人で実家に顔出しに行った後、婚姻届を提出――。タウンハウスは、俺が卒業して結婚式してからになるので、在学中は別居婚する事になった訳だ。
それでも良い。
アネッテの夫って立場が手に入ったからまぁ、一応満足だし。後の諸々は卒業後の結婚式の後のお楽しみである。
――そう楽観視してた時もありました……。
何かあったのかって?
まぁ、まずは結婚式だよね。
公爵様が寛大なお心で、公爵家の中にある教会でささやかだけど結婚式をさせてくれた。普通の貴族家にはそもそも敷地内に教会が無い訳だけど……あったとしても、普通、使用人には使わせないよね??ちょっと、いやかなりビックリした。
今代の公爵様はその辺が鷹揚と言うかなんと言うか……功績のある使用人だったり、勤続年数の長い使用人だったりは無償で教会使わせてくれるらしい。
俺達の功績はモチロン、お嬢様に関するアレやコレだよね。後はアネッテの小父さん――じゃなかった俺の義父さんが公爵様と知り合いだった。
地方の男爵家の娘が行儀見習いで公爵家の侍女とか、不思議だったんだよな……。例の病の薬材の依頼、公爵様が出してたらしい。魔の海域を通り抜けなけりゃ薬材を手に入れられないってんで、ほとんどの船乗りが逃げ腰で断った――そんな中、お義父さんだけが船を出したと――結果、薬は出来たけど、お義父さんが片足無くした事に責任を感じた公爵は、敍爵の時に力を貸した。
元は平民の船乗り。
功績があるからと言っても貴族として認めたくないってヤカラは何処にでも湧くものだ。
それを、自分の友人だと言って捩じ伏せたのが公爵。
実際、二人は領地を行き来するくらい仲の良い友人だそうな。教会を貸してくれたのは、その関係もあるだろう。まぁ、それは良かった。良かったんだけど……。
「あ、テッド?お嬢様が卒業して結婚するまで初夜はお預けね??」
「――……」
おい神様?ちょっと俺の人生に障害物置くのヤメテ貰えませんかね?!!
明日は結婚式――ルンルン気分でいたのに一気に地獄の一丁目だわ!!何でかって言ったら、お嬢様の在学中は御傍を離れる気が無いからだとさ!!つまり「今は、赤ちゃん出来たら困るし……」って事らしい。
酷ぇよ。なんなの?生殺し……??逆らったら離婚だって言われそうだったので、結婚式の前日だと言うのに俺は一人で枕を濡らした……。
「……おい、新郎。――普通はもっと幸せそうにしてるんもんじゃ無いのか??」
そんな風に声をかけて来たのは『ザック』だ――コイツは隣国の王太子。もちろんザックは偽名である。道に迷っていたコイツを助けてやったら何故か意気投合したんだよな――。仲良くなって王太子とか言われた時は、頭大丈夫か??と思ったもんだけど、本当に王太子だったんだよ……。コイツ本当に平民に馴染み過ぎ。
王太子してる時は、声を掛けるのも憚られるレベルで高貴な雰囲気だけど、変装してる今は何処にでもいそうな普通の青年である。
「ははっ……嫁が昨日、残酷な現実を突き付けたりしなけりゃな??」
「??」
疑問符が沢山見えそうな感じで聞かれたので、昨日、お預けを喰う事になった話した――爆笑されたんだけど……?鬼かオマエ。
「いっそ、離婚してくれれば今度こそ、国に連れて帰るんだけどなぁ……」
「縁起でもねぇな?!しねぇよ!!」
結婚式当日に何言ってんだ。マジで怒るぞ??
俺はギロリとザックを睨んだ。冗談でも言うなよ。フラグとかになったらどうすんだ。
「本当に残念だ。俺の妹を差し出しても良い位だったんだぞ……?」
「――忘れてるみたいだが、俺は平民だぞ?」
凄い勢いで、取り込みたかったって宣言されたんだが??妹ってお姫様だろ??何言ってんだろコイツ。
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ザックに今から考えなおしてくれてもいいぞ?――と、そんな風に言われた。んな事を言われても、アネッテ以外に興味無いからな――俺。
俺の返事が分かってる癖に。無駄だって分かってるだろ??そんな風に呆れていたら、ザックがヤレヤレって顔をした後「テッドってさ――或る意味マゾだよね??」とか言いやがった。
マゾて。
確かに精神力を試されてると言うか、修行を課されてるような気はするけど……マゾじゃ無い――よな??
「あぁ、本当に残念だよ……。そうだ、そう言えばあの黒い箱、役に立ったよ――お前に会ったら礼を伝えて欲しいって言われてたんだ」
黒い箱が活躍って何だろうと思ったら、ザックの友人の子爵家で不義密通の証拠を撮るのに使われたらしい。
不義密通――
どうせなら、もう少し平和な使われ方をして欲しかった――だけど、お嬢様の件で俺も隠し撮りで証拠を集めたしなぁ。
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「兄?」
「複雑な血縁関係だけど、一応、従兄妹になるから合法」
成程?まぁ、何かゴチャゴチャしてそうだけど、他人の家の事だしまぁいいや。会った事は無いが、ザックの友人の子爵――……違った、子爵の息子に「おめでとう」って言っておいてくれと言付けた。さて――
時間が来て結婚式――。
先に新郎である俺がバージンロードを歩いて祭壇の前に行く。途中、参列してくれているお嬢様と目が合った。嬉しそうにニッコリ笑ってくれる。本当に良い子。
その膝の上には胸を張ってツンと澄ました顔のリツがいる。結婚式用なのか白いレースのリボンを首に結ばれているその猫は、もう子猫では無い――まぁ、大人猫って言うには若い気がするけど……艶やかな毛並みで、まるでお嬢様の騎士の如くそこに座っていた。俺には視線すら寄越さない。
その隣の王子が、お嬢様の手を握りたそうにしているのだけど、リツがギンっと睨む度に手を引っ込めていたのに苦笑しそうになる。こっちもお預けされてるらしい。まさか王子が同志になるとは。
花嫁が入場する――
アネッテは綺麗だった。思わず相好が崩れそうになる……いつもと違って、はにかんだ笑顔が眩しい。
お義父さんに「娘を頼む」と言われて力強く「はい」と言って頷いた――その後、式は粛々と進んで、俺達は誓いのキスをした――もう、キスをしてアネッテに殴られる事は無い。
――初夜はお預けだけどな……。
そんな不満が無い訳じゃ無いが、惚れた弱味と言うヤツだ。我慢するさ――。まぁ、この時の俺は真の地獄とは何かちゃんと分かって無かったよね?
結婚後、我慢したよ――俺、頑張った。地獄の苦しみを味わった事は一生忘れられないと思う。
同じベットで、お触り禁止。じゃあ、別の部屋で――と言われるのが嫌だから耐えたけど……!!俺、やっぱりマゾなんかな……?本気で泣きたかったヨ?お嬢様の結婚式でマジ泣きしたし。
数年後――
お嬢様の妊娠とほとんど同時に妊娠してたアネッテは、お嬢様の息子の乳母になるんだけどその物凄い執念に感動すべきなのか、呆れるべきなのかと俺が悩んだのは言うまでも無い。
ちなみに俺の所は娘が産まれた。若様とは乳姉弟で仲が良くて微笑ましい。アネッテの家系は子だくさんなので、ウチの子達は5人姉弟となった……。色々苦労したけど、今は――まぁ、幸せに暮らしている。
____________________________________________________
と言う事で、エヴァンジェリンが結婚するまでお預けと言う――不憫なテッドさんでした。
そこだけは最初から決まっていたんだよ――ゴメンネ……?後で幸せになれるから頑張って欲しい……そんな事を考えながらポチポチしていました。
次からは、お嬢様のおまけの話です。更新は多分来週からになります。そちらもお付き合い頂けたら幸いです!
頂いた感想ですが、本日用事があるので帰宅してから読ませて頂き承認させて頂きたいと思います。お待たせしてしまい申し訳ありませんが、宜しくお願いいたしますm(_ _)m
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