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悪役令嬢の侍女アネッテの攻防。

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 あの後、マリ―ロッテは引きこもりになったらしい。
 まぁ、当然よね。自作自演がバラされたのだもの。今まで『悪役令嬢』としてのお嬢様の噂を流していた事も広まって『悪女』とか『最悪令嬢』とか言われてるのよ。
 多分だけど、あの女――バカ王子狙いだったと思うんだ……。悲劇のヒロインを演じて、取り入ろうとしたのね。王子の方は全然そんな風にあの女を意識して無かったの、気が付かなかったのね――バカだから。
 しかも、あの証拠を見た王子がお嬢様に一目ぼれするとか思わなかった事だろう。笑いが止まらないわ!
 あのバカ娘の母親も、一緒に領地に引きこもったらしいし万々歳!!本当に性格悪かったのよ?
 ヒロイン顔で優しいマリ―ロッテちゃんと、悪役令嬢として名高いお嬢様――嬉々としてそんな噂を振りまいてたんだから、そりゃ、世間から白い目で見られるわよね?
 冤罪でお嬢様を陥れようとする腹黒女が娘なのだもの。『悪役令嬢』なお嬢様が存在しないって世間に知られた現在いま――嬉々として話してた噂だって嘘だってバレた訳だし。今後信用される事は無いと思う。

 ――あのバアさんは頑張ってるのよね……。
  
 お嬢様の祖母であるあの人は、自分の若い頃にそっくりのマリ―ロッテがお気に入り。
 自分の孫に悪役令嬢顔がいる事が気に入らなかった訳ですよ。それで、奥様をイビってたんだけど……。ねぇ?ハッキリ言っても良いかしら??
 お嬢様って、どっちかって言ったら旦那様にそっくりなのよ……。ついでに言えば、旦那様のお父上――先代公爵にもそっくりな訳。
 ねぇ?奥様の所為じゃないじゃない。
 バアさんの旦那様の血が濃く出ただけでしょ??けど、あの人に言わせると先代公爵も息子も涼しげな目元が素敵な男前な訳。で、お嬢様は目つきの悪い可愛く無い子なのよ??意味分からないわ……。
 先代の公爵が生きていたら、きっと滅茶苦茶怒ったわよ?だって、お嬢様の事可愛がってたもの……。

 ――ん?

 もしかして、それが気に入らなかったとか……。あのお二人恋愛結婚だったし……?まさかね……。そんな下らない嫉妬でお嬢様を??
 ――もしそうだったら、絶許!!絶対許せない案件な気がするんだけど?!!
 寝てる耳元でガラスでも引っ擦ってやろうかしら……。睡眠不足になれば良いのに――……。
 まぁ、そんな事をしてるから最愛のムチュコタンに嫌われるんですけどねぇ??旦那さまからしてみれば、愛しの奥様とお嬢様を苛めるような人は親でも嫌いになるだろうさ。
 さんざ、旦那様が怒っても止めなかったんだから自業自得――……うん――??もしかして、愛息子が奥様とお嬢様を庇ったから状況が悪化した――???
 あ――……。うん、あれだ――……旦那様には黙っておこう……ショック死しそうだし……。
 
 ――私は何も気が付かなかった……嫉妬に狂うのって人生壊すよね??

 さて――あれからの公爵家での事だ――まず、私がした事は旦那様の許可を取る事――。やらかした王子が、すぐにお嬢様に会えるようなご褒美――罰を受けてる最中の王子にはまだ早いと進言したのだ。
 旦那様は、無茶苦茶イイ笑顔で了承した。
 お嬢様の気持ちを知ってる旦那様としては、複雑だったんだろう。婚約破棄は出来ない――けど、愛娘を傷付けたクソ王子(本当に言った)はスグには許せないよね?と。
 私と旦那様はまさしく同志だった。
 お嬢様ラブな所は二人とも他の追随を許さないという自負もある。奥様は、程々になさいね?と言われたけれど「「え?徹底的にではなく??」」と旦那様と見事にハモったのを見て呆れた顔をされた。
 旦那様は、陛下にも許可を取ってくれたらしい。
 これで、私がボンクラ王子を叩きだしたとしても!不敬罪に問われる事は無いのだ!!ビバ!権力!!陛下バンザイ!!!
 堪え性も無くお嬢様に会いに来たお邪魔虫を叩き返す――なんて快感!!婚約者のテッドの呆れ顔なんか目に入らない勢いで、私の王子を追いかえす日々が始まった。
 会わせるなんてとんでもない。
 お嬢様は、まだまだ混乱中である。公開プロポーズが本当の事だったのか、あの事件が本当に起こったのかベットのシーツにくるまりながら、蓑虫と化しているお嬢様――愛らしい。当然、暫く学園はお休みだ。
 今回の件のショックで――と言えば、幸いお嬢様が成績優秀だった事もあって試験の点数さえ悪く無ければ進学させてくれるらしい。学園長グッジョブ!
 それにしてもだ。蓑虫の……この可愛らしいお嬢様をクソ王子――いや狼が見たのなら、バリバリムシャムシャと喰われてしまうのではなかろうか……。だって、カワイイもの!!お嬢様――……!!!
 それは絶対に阻止しなければ……。
 だから、まずは文通からと王子に伝える。シュンとした顔をした所で、心が痛んだりしない。ざまぁみろだ!!この野郎!!!
 と言う訳で、お嬢様と王子の文通が始まった……。人に届けさせりゃあいいのに、公爵邸に来ればお嬢様に一目会えるかもしれないと考えた王子が直接届けに来る訳だ。
 で、あわよくば上がろうとするんだけど、不肖アネッテ――「お帰りはあちらですワ」と笑顔で追い返しておりますのよ。
 最近は、手紙にバラを一輪添えるようになりやがりました。もちろん色は情熱の赤――。花言葉は――「あなたを愛しています」「愛情」「美」「情熱」「恋」「熱烈な恋」本数での花言葉は――「一目ぼれ」「あなたしかいない」……ケッ。
 そのバラを飾るリボンにも腹が立つのだ。何でって――?
 
 お嬢様には趣味があるから――!

 それが リ ボ ン 集 め なのです!!
 リボンと言っても色々とあるんですよ?刺繍されたもの、編んで作られたレースのもの――。男性向けの武骨なものもありますが、お嬢様が好きなのは可愛らしい物や美しいレースのもの……。
 手仕事が丁寧で繊細なものを好まれます。えぇ。お嬢様にとってもお似合いですね。
 どうやらボンクラ王子は、お嬢様が以前に言っていた事をまだ覚えていたらしい。その当時よこした無難なリボンとは大違い――お嬢様に何が似合うか熟知した様子で、髪飾り用、ドレス等の装飾用にと送って来る。
 それがまた的確なのよ!お嬢様に着けて頂く為に私がドレスにワンポイントで付けたり、髪飾りを作っているのだけど――リボンの段階でアイディアが湧いて来て止まらないのだ……。
 実際にお嬢様には絶賛頂いていて満足よ。送って来たのが王子じゃ無けりゃもっと嬉しかったのに……。
 この前なんて、アンティークのリボンの切れ端をセンス良く配置した小振りの額縁を持って来たわ――お嬢様が気に入って枕元に飾ってるのよ。腹が立つったら!

 ――うぐぐぅ……。

 私の大切なお嬢様なのにぃ……!
 最近、王子が来るのが遅かっただけでソワソワしているお嬢様――。私が、王子を追い返している間、カーテンの後ろに隠れるようにして見ているのが丸分かりです。まぁ、バカ王子は気が付いて無いけれど……。
 手紙を読むたびに顔を赤くして、最近なんかは嬉しそうにしているのよ――。
 複雑だわ。
 お嬢様が嬉しそうなのは嬉しいのよ?けど、その嬉しそうな顔をさせてるのが王子だと思うと――蹴りたくなるわ。負けたような気持ちになるし……。
 しかも、最近――手紙を読んだ後、寂しそうな顔をなさるのよ……。
 私、王子に嫌がらせする為に頑張ってたわけ。お嬢様にこんな顔をさせる為じゃないのよ――?うぅぅ――……。悩んでいたらテッドがこう言ったわけ――。

 「王子への敵対心とお嬢サマへの『愛』――どっちが上なの?」

 お嬢様への愛に決まってんでしょスットコドッコイ!!そう言ったら、じゃあ、答えは出せるよね――?ですって……私は目からウロコがボロボロ落ちるような気持ちになった。
 そうよ。
 全てはお嬢様の幸福が第一なのよ!気に食わない王子への制裁なんてどうでも良いわ!!お嬢様が幸せそうに笑ってくれればアネッテは幸せです!!
 
 「テッド、あんた良い事を言ってくれたわ!」

 「ご褒美くれてもいいよ?」

 「あんた、最近すぐソレね――まぁ、いいわ。ご褒美あげる!」

 私は、テッドの頬にキスをした。
 驚いた顔をしたテッドが一瞬固まった後――いきなりキスして来たので反射でストマックブローをかます。だから、まだそこまで許して無いんだってば!!
 そのまま悶えるテッドを置いて、私は旦那様に面会を求めた――。

 「腹立たしい事この上ないんですが、王子とお嬢様を会わせようかと……」

 私の言葉に旦那様が訝しげな顔をした。
 まぁ、そうだろう。
 私としても、本来なら結婚式までこの状態で王子に嫌がらせしたい心境だったのだし、旦那様もそうだったと思うんだよね……。旦那様は「――何故かな?」と一言私に聞いた。
 私は、大きく溜息を吐くと何故そうする事にしたのかを滔々と話し始めた。

 「――……つまり――あバカ王子と会えない事で――エヴァンジェリンが苦しんでいると……」

 とても、苦しそうである――旦那様が。
 旦那様の中の葛藤は、私が通った道だ――そのお心は良く分かる。
 お嬢様の為なら、王子に会わせてやりたい――けれど……クソ王子への怒りは消えた訳では無いのだ。

 「――だから、程々になさいって言ったじゃありませんの……」

 呆れ顔の奥様の言葉に、旦那様はガクリと頭を落した。
 どうやら奥様はお嬢様が落ち着いてきたら、自分の王子への気持ちに気が付くと踏んでいたらしい。私や旦那様が王子に会わせないと決めて行動している事をお嬢様は気が付いている――けれど『私の事を想って』してくれている事だと考えて、王子に『会いたい』とは言えないだろうと……。
 クッ!
 『エヴァンジェリン様見守り隊』初代名誉顧問として、私はまだまだ未熟だったらしい。奥様の炯眼に私は自分の愚かさを悟った。
 旦那様も「グギギギギ――」と歯ぎしりしながら口を開く。

 「――いい、だろう……次に、王子が来たら――エヴァンジェリンと、あ、あ、あ、」

 「会わせておあげなさいな?」

 旦那様――どうしても『会わせろ』って言えなかったんですね……。分かります。
 お嬢様を想って血涙を流してらっしゃる旦那様を見ながら、仕様の無い人ねと仰って奥様が続きの言葉を私に告げる――。あぁ、神よ――仕方が無い事とは言え、あの王子をお嬢様に会わせねばならないなんて何と言う試練を与えるのでしょうか……。あのバカ王子が小指を机の足にでもぶつけて悶絶しますように――……。
 
 ――……真摯なアネッテの願いのお陰か実際に、王子が小指を派手にぶつけて悶絶するのだけど、それを知る人間はこの場にはいなかった……――そして、王子と会えた事を喜ぶエヴァンジェリンが大層可愛らしかったので、アネッテが鼻血を出しそうになるのは次の日の事である……。
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 お気に入り登録、ありがとうございます!!
 
 ココまでで本編が終了です。本日中の更新もここまで……次はおまけの話で、テッドの話となります。
 その後、エヴァンジェリンの話を書いて完結にしたいと思っています。予定では後、2~3話になるかと……。来週中に終わらせられたらいいな……。
 最後までお付き合い頂けたら嬉しいですm(_ _)m
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