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15:浮かれたおっさん
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ガイナは足取り軽く家路を急いでいた。
途中で夕飯の材料を買い、ついでに菓子屋に寄って、フィガロが好きなジャムクッキーを買う。増えた荷物を両手に持って、ガイナはご機嫌に下手くそな鼻歌を歌った。
ガイナの夏休みが終わって数日が経っている。夏休み中にラウトと恋人になってしまった。浮かれるなという方が無理な話だ。ラウトとは今まで通り、朝と夕方に少し話すくらいだが、ガイナにとっては胸の中で嬉しさが爆発しそうな位嬉しいことだ。ラウトのゆるい笑みを見ているだけで、胸が激しく高鳴って、いっそのこと暴れだしてしまいたい程である。お互いに自分の子供のことが最優先だ。そこがまたいい。ガイナにとってはフィガロが何よりも大事で最優先だし、ラウトもニーズのことを一番に考えている。変に気を使う必要がないので、気楽だし、安心できる。
明後日はガイナもフィガロも休みなので、ラウトの家で皆で食事会だ。デザートにプリンを作っていく予定である。フィガロと一緒に作る。いつものプリンではなく、フィガロに誕生日プレゼントとして買った図鑑に乗っていたレシピに2人で挑戦する。フィガロは誕生日プレゼントの『ご当地食べ物図鑑』をとても気に入っており、時間に余裕がある時は2人で図鑑に載っているレシピに挑戦して楽しんでいる。ラウトお勧めの本も気に入ったようで、何度も読み返している。ラウトから本を紹介してもらったことを伝えれば、フィガロはラウトから他にお勧めの本がないかと聞いて、教えてもらった本を図書館で借りたり、ラウトから借りて読んだりしている。ラウトから紹介してもらった本はどれも面白いらしく、フィガロは暇がある時はいつも本を読んでいる。フィガロがとても楽しそうなので、ガイナも嬉しい。
家の近くに着くと、遊ぶ子供達の側にラウトの父バスクの姿が見えた。道端に置いた椅子に座り、縄跳びをして遊ぶ子供達を、穏やかな笑みを浮かべて眺めている。ニーズがガイナに気づいた。
「おじちゃーん!おかえりー!」
「おーう。ただいま」
口々に『おかえり』と言ってもらえて、なんとも胸が擽ったくなる。椅子に座ったバスクが、ガイナを見上げて口を開いた。
「ガイナ。お疲れ様。今日はとびきり暑かったね」
「だよなぁ。巡回で汗ぐっちょぐちょになったからよ。気持ち悪くて着替えたぜ」
「おや。毎日大変だね」
「まぁ。仕事だ。めちゃくちゃ暑い日が続くからよ。バスクじいさんも気をつけろよ。空調はちゃんと使って、水分と塩分をしっかりな」
「うん。ありがとう。友人からスイカを貰ってね。良ければどうだい? 大きなスイカだから、僕達だけじゃ持て余すんだ。子供達におやつで食べてもらったけど、まだ半分以上あるんだよね」
「ありがたく貰うわ。スイカは好きだから嬉しいぜ」
「ふふっ。後でラウトに持って行かせるよ」
「お、おう。あー……先生は?」
「ん? 朝からずっと部屋に籠っているよ。締切が明日なんだそうだ。『半分しか書けてない』って涙目になっていたよ」
「おいおい。そりゃやべぇだろ。わざわざ先生に持ってきてもらうのは流石にわりぃわ。俺が取りに行くぜ」
「いいんだよ。ちょっとした息抜きになるからね。全く。ご飯を食べる時間も惜しいからって、朝からずっと食べていないんだよ。ちょっとお説教してやっておくれよ。僕が言ったって聞きやしない」
「そりゃ駄目だな。飯はちゃんと食わねぇと。作家先生だって身体が資本だろ」
「そうだよねぇ。ガイナ」
「ん?」
「ラウトを頼むよ」
バスクが意味深に微笑んだ。ガイナは目を泳がせながら、買い物袋を持った手でポリポリと頬を掻いた。
「あー……聞いたか?」
「聞かなくても分かるよ。2人とも分かりやすいねぇ」
「そ、そうか?」
「ふふっ。いいことだね。あの子の前の伴侶は僕の知り合いから紹介してもらったんだけどね。あの子とは相性がよくなかった。ラウトがあんなに毎日浮かれて楽しそうにしているところなんて、多分初めて見るかな。小さな頃から大人しい子でね。あまり分かりやすくはしゃがない子だったんだけど。ガイナと仲良くなってからは毎日が楽しそうだ」
「そ、そっか」
「ラウトの修羅場が明けたらデートでもしておいで。子供達は僕がみているから」
「……いいのか?」
「勿論」
「あー……でも、どうせ出かけるならフィガロ達も一緒がいいな。街の郊外の原っぱに遊びに行きてぇって先生と話してたんだわ。バスクじいさんも行くだろ?」
「おやおや。2人っきりでデートをしなくてもいいのかい?」
「子供はすぐに大きくなるだろ? 子供と一緒にいられるうちは、できるだけ一緒にいて色んなことやりてぇんだ。多分、先生も同じこと考えてる」
「ふふっ。そんな君だからラウトも好きになったんだろうね。じゃあ、せめて夜に2人でお酒でも飲みに行くといいよ。昼間は子供達と、夜は大人2人で過ごせばいい。ニーズもフィガロがいると嬉しいようでね」
「あー……じゃあ、その、甘えさせてもらってもいいか?」
「ふふっ。勿論いいとも。さて。そろそろ洗濯物を取り込まなくてはね。日が落ち始めてる」
「あ。そうだな。そろそろシュルツじいさんが来る頃だな」
ガイナは遊んでいる子供達に声をかけてから、家の中に入り、台所に荷物を置いてから洗濯籠を片手に庭に出た。洗濯物を取り込み終えたタイミングで、シュルツがアンジェリーナを迎えに来た。笑顔でアンジェリーナ達を見送り、ニーズ達とも別れて、フィガロと一緒に夕食を作る。
夕食を食べながら、ガイナは少し考えてから、口を開いた。
「フィガロ」
「ん」
「先生と恋人になった」
「知ってる」
「マジか」
「そうなんだろうなって」
「あー……そんなに分かりやすいか? 俺」
「うん。めちゃくちゃご機嫌だし。先生といる時はなんかもう空気が甘い感じ」
「おおぅ……マジか……」
「父さん」
「おう」
「よかったね」
「……おう」
フィガロがとても嬉しそうに笑った。ガイナは頬が熱くなるのを感じながら、手を伸ばして、フィガロの頭をやんわりと撫でた。
「父さん」
「ん?」
「楽しい?」
「おう」
ガイナがニッと笑うと、フィガロもニッと笑った。アンジェリーナの家の喫茶店や明後日の食事会の話をしながら、2人で夕食を終え、片付けも一緒にして、ガイナはフィガロと一緒にベッドに潜り込んだ。フィガロはもう10歳だし、其々の部屋があるので、バーバラに来てからは昼寝以外では一緒に寝ていなかった。しかし、今夜はなんとなく一緒に寝たい気分だった。
夕食を終えたくらいの時間に、ラウトがスイカを片手に家に来た。目の下が隈で真っ黒な上に顔色が悪かったラウトにちょっと小言を言って、フィガロが見ていないことを確認した上で、触れるだけのキスをした。
ラウトが嬉しそうに笑って、『これで頑張れます』と言った。ガイナは『程々にな』と言って、帰っていくラウトを見送った。
次の食事会の夜、2人でガイナの家で酒を飲む約束をした。嬉しくて堪らない。明後日が本当に待ち遠しい。我ながら浮かれきっている気がする。バスクにもフィガロにもバレバレだったようだし。
ガイナは穏やかな寝息を立てているフィガロの可愛い寝顔を眺めた後、どうしても緩んでしまう頬を擦って、静かに目を閉じた。
途中で夕飯の材料を買い、ついでに菓子屋に寄って、フィガロが好きなジャムクッキーを買う。増えた荷物を両手に持って、ガイナはご機嫌に下手くそな鼻歌を歌った。
ガイナの夏休みが終わって数日が経っている。夏休み中にラウトと恋人になってしまった。浮かれるなという方が無理な話だ。ラウトとは今まで通り、朝と夕方に少し話すくらいだが、ガイナにとっては胸の中で嬉しさが爆発しそうな位嬉しいことだ。ラウトのゆるい笑みを見ているだけで、胸が激しく高鳴って、いっそのこと暴れだしてしまいたい程である。お互いに自分の子供のことが最優先だ。そこがまたいい。ガイナにとってはフィガロが何よりも大事で最優先だし、ラウトもニーズのことを一番に考えている。変に気を使う必要がないので、気楽だし、安心できる。
明後日はガイナもフィガロも休みなので、ラウトの家で皆で食事会だ。デザートにプリンを作っていく予定である。フィガロと一緒に作る。いつものプリンではなく、フィガロに誕生日プレゼントとして買った図鑑に乗っていたレシピに2人で挑戦する。フィガロは誕生日プレゼントの『ご当地食べ物図鑑』をとても気に入っており、時間に余裕がある時は2人で図鑑に載っているレシピに挑戦して楽しんでいる。ラウトお勧めの本も気に入ったようで、何度も読み返している。ラウトから本を紹介してもらったことを伝えれば、フィガロはラウトから他にお勧めの本がないかと聞いて、教えてもらった本を図書館で借りたり、ラウトから借りて読んだりしている。ラウトから紹介してもらった本はどれも面白いらしく、フィガロは暇がある時はいつも本を読んでいる。フィガロがとても楽しそうなので、ガイナも嬉しい。
家の近くに着くと、遊ぶ子供達の側にラウトの父バスクの姿が見えた。道端に置いた椅子に座り、縄跳びをして遊ぶ子供達を、穏やかな笑みを浮かべて眺めている。ニーズがガイナに気づいた。
「おじちゃーん!おかえりー!」
「おーう。ただいま」
口々に『おかえり』と言ってもらえて、なんとも胸が擽ったくなる。椅子に座ったバスクが、ガイナを見上げて口を開いた。
「ガイナ。お疲れ様。今日はとびきり暑かったね」
「だよなぁ。巡回で汗ぐっちょぐちょになったからよ。気持ち悪くて着替えたぜ」
「おや。毎日大変だね」
「まぁ。仕事だ。めちゃくちゃ暑い日が続くからよ。バスクじいさんも気をつけろよ。空調はちゃんと使って、水分と塩分をしっかりな」
「うん。ありがとう。友人からスイカを貰ってね。良ければどうだい? 大きなスイカだから、僕達だけじゃ持て余すんだ。子供達におやつで食べてもらったけど、まだ半分以上あるんだよね」
「ありがたく貰うわ。スイカは好きだから嬉しいぜ」
「ふふっ。後でラウトに持って行かせるよ」
「お、おう。あー……先生は?」
「ん? 朝からずっと部屋に籠っているよ。締切が明日なんだそうだ。『半分しか書けてない』って涙目になっていたよ」
「おいおい。そりゃやべぇだろ。わざわざ先生に持ってきてもらうのは流石にわりぃわ。俺が取りに行くぜ」
「いいんだよ。ちょっとした息抜きになるからね。全く。ご飯を食べる時間も惜しいからって、朝からずっと食べていないんだよ。ちょっとお説教してやっておくれよ。僕が言ったって聞きやしない」
「そりゃ駄目だな。飯はちゃんと食わねぇと。作家先生だって身体が資本だろ」
「そうだよねぇ。ガイナ」
「ん?」
「ラウトを頼むよ」
バスクが意味深に微笑んだ。ガイナは目を泳がせながら、買い物袋を持った手でポリポリと頬を掻いた。
「あー……聞いたか?」
「聞かなくても分かるよ。2人とも分かりやすいねぇ」
「そ、そうか?」
「ふふっ。いいことだね。あの子の前の伴侶は僕の知り合いから紹介してもらったんだけどね。あの子とは相性がよくなかった。ラウトがあんなに毎日浮かれて楽しそうにしているところなんて、多分初めて見るかな。小さな頃から大人しい子でね。あまり分かりやすくはしゃがない子だったんだけど。ガイナと仲良くなってからは毎日が楽しそうだ」
「そ、そっか」
「ラウトの修羅場が明けたらデートでもしておいで。子供達は僕がみているから」
「……いいのか?」
「勿論」
「あー……でも、どうせ出かけるならフィガロ達も一緒がいいな。街の郊外の原っぱに遊びに行きてぇって先生と話してたんだわ。バスクじいさんも行くだろ?」
「おやおや。2人っきりでデートをしなくてもいいのかい?」
「子供はすぐに大きくなるだろ? 子供と一緒にいられるうちは、できるだけ一緒にいて色んなことやりてぇんだ。多分、先生も同じこと考えてる」
「ふふっ。そんな君だからラウトも好きになったんだろうね。じゃあ、せめて夜に2人でお酒でも飲みに行くといいよ。昼間は子供達と、夜は大人2人で過ごせばいい。ニーズもフィガロがいると嬉しいようでね」
「あー……じゃあ、その、甘えさせてもらってもいいか?」
「ふふっ。勿論いいとも。さて。そろそろ洗濯物を取り込まなくてはね。日が落ち始めてる」
「あ。そうだな。そろそろシュルツじいさんが来る頃だな」
ガイナは遊んでいる子供達に声をかけてから、家の中に入り、台所に荷物を置いてから洗濯籠を片手に庭に出た。洗濯物を取り込み終えたタイミングで、シュルツがアンジェリーナを迎えに来た。笑顔でアンジェリーナ達を見送り、ニーズ達とも別れて、フィガロと一緒に夕食を作る。
夕食を食べながら、ガイナは少し考えてから、口を開いた。
「フィガロ」
「ん」
「先生と恋人になった」
「知ってる」
「マジか」
「そうなんだろうなって」
「あー……そんなに分かりやすいか? 俺」
「うん。めちゃくちゃご機嫌だし。先生といる時はなんかもう空気が甘い感じ」
「おおぅ……マジか……」
「父さん」
「おう」
「よかったね」
「……おう」
フィガロがとても嬉しそうに笑った。ガイナは頬が熱くなるのを感じながら、手を伸ばして、フィガロの頭をやんわりと撫でた。
「父さん」
「ん?」
「楽しい?」
「おう」
ガイナがニッと笑うと、フィガロもニッと笑った。アンジェリーナの家の喫茶店や明後日の食事会の話をしながら、2人で夕食を終え、片付けも一緒にして、ガイナはフィガロと一緒にベッドに潜り込んだ。フィガロはもう10歳だし、其々の部屋があるので、バーバラに来てからは昼寝以外では一緒に寝ていなかった。しかし、今夜はなんとなく一緒に寝たい気分だった。
夕食を終えたくらいの時間に、ラウトがスイカを片手に家に来た。目の下が隈で真っ黒な上に顔色が悪かったラウトにちょっと小言を言って、フィガロが見ていないことを確認した上で、触れるだけのキスをした。
ラウトが嬉しそうに笑って、『これで頑張れます』と言った。ガイナは『程々にな』と言って、帰っていくラウトを見送った。
次の食事会の夜、2人でガイナの家で酒を飲む約束をした。嬉しくて堪らない。明後日が本当に待ち遠しい。我ながら浮かれきっている気がする。バスクにもフィガロにもバレバレだったようだし。
ガイナは穏やかな寝息を立てているフィガロの可愛い寝顔を眺めた後、どうしても緩んでしまう頬を擦って、静かに目を閉じた。
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