上 下
4 / 26

4:お引っ越し

しおりを挟む
 不動産屋に行った翌週の休日。
 アベルは、マチューに手伝ってもらって、新居となる一軒家への引っ越し作業をしていた。一軒家は、無事に持ち主から買い取ることができた。貯金がかなり減ったが、また貯めればいいだけの話である。教授としての給料以外にも、著書や研究成果の利潤があるので、減った貯金もすぐに戻るだろう。防犯用の結界等は、自分でもできるので、そこは節約できる。
 アベルは、マチューと一緒に、借りた荷車で家財等を新居に運び込むと、早速、防犯用の結界を家に張った。
 アベルが防犯用の結界を張るところを見ていたマチューが、好奇心旺盛な様子で目を輝かせて、アベルに話しかけてきた。


「教授。今の術式、既存のじゃ無かったですよね?」

「そ。僕が考案したやつ。まだ魔術協会に承認されてないけど、まぁ、近いうちに承認されるんじゃないかな。以前の防犯結界より、少ない魔力で張れて、結界の要になる魔石も小さくて済むようにしてあるの。勿論、効果は落とさずにね。魔術回路をとことん効率化してみたのよー」

「そこのところ、詳しく!」

「いいよー。家の中で色々片付けながら、簡単な講義をしようか」

「是非! お願いします!」

「はいはーい」


 アベルは、子供みたいに目をキラキラと輝かせているマチューを見て、微笑ましくて、小さく笑った。
 家の中の片付けをしながら、マチューに詳しい話をしてやると、マチューは手を動かしながら、とても真剣に話を聞いてくれた。面白い質問もしてくれて、アベルとしても楽しい。こういうところが、マチューが助手としていいところなのである。とにかく好奇心旺盛で、頭の回転が速く、思いもよらぬ質問をしてくれたりする。そこから、新たな発見や次の研究に繋がったりもするので、本当にマチューは得難い優れた助手なのだ。

 魔術の話が終わる頃には、なんとか家の中が住めるように片付いた。料理をするのは明日からだが、風呂には今日から入れるし、寝室もちゃんと整えてある。
 アベルは、まだ色々と聞きたそうな顔をしているマチューを見て、にへっと笑った。


「今夜は引っ越し祝いって事で、何か買ってきて、此処で一緒に食べない? 勿論、僕の奢り。いっぱい手伝ってもらったからね」

「あ、ありがとうございます。じゃあ、少し早いですけど、晩ご飯を買いに行きますか」

「うん。肉がいいな。肉。ワインに合うやつ」

「あ、それなら、美味しい鹿肉の煮込みを作ってる店を知ってますよ。持ち帰りも、確かできた筈です」

「いいねぇ! 折角の引っ越し祝いだから、お高いワインを買っちゃおーっと。マチュー君は蒸留酒の方が好きでしょ。好きな銘柄買っていいよ。値段は気にしない。遠慮もなし。君には、本当にお世話になったからね」

「ありがとうございます。では、遠慮なくご馳走になります」

「うん。じゃあ、ご飯と酒を買いに行こうか」

「はい」


 アベルはご機嫌に、財布と家の鍵だけを持って、マチューと共に家を出た。





ーーーーーーー
 夜も更けた頃。
 アベルは、ぐいーっとグラスのワインを飲み干し、ぶっはぁと酒臭い息を吐いた。


「セックスが! したい!」

「うわ、また始まった」

「うえーん。マチューくーん。セックスしたいよー。それもズッコンバッコン激しいやつー。もう一ヶ月近くセックスしてないよー。ケツが寂しいよー」

「はいはい。ちょっと飲み過ぎですよ。教授」

「ちんこが! 欲しい! それもデッカいやつ!!」

「卑猥な言葉を叫ばない! ご近所さんに迷惑でしょうが!」

「防犯結界と一緒に防音結界も張ってますー」

「えっ。いつの間に!?」

「その気になれば、ちょちょいのちょいだもん」

「教授って、本当にできる男なんですよねー」

「あーー! セックス! セックス! ケツにちんこぶち込まれてたーーい!!」

「これが無ければなぁ……なんて残念な人……」

「うぅ……君にこの苦しみが分かるかい? 目の前にデカちんがいるのに食えない苦しみが」

「分かりません」

「君を食ったら、君、助手を辞めるだろー!? 突っ込んでくれるちんこデカい男を探すより、君程の助手を探す方が大変なんだからなーー!!」

「ありがとうございます?」

「うっ、うっ、歳はとりたくないよぉ。年々、男を探すのが大変になってきてるしぃ。バーに行っても、近寄ってくるのは、僕に抱かれたい男ばっかりだしぃ」

「へぇー」

「僕は! ちんこを! 突っ込まれたいの!! 腹の奥までズッコンバッコン突きまくられて、イキまくりたいの!!」

「業が深い……」

「ちんこー。ちんこをくれー。イキがいいピチピチのちんこー。目の前にあるけど、これは食えないちんこー。頑張れ僕の自制心」

「ちょー頑張ってください」

「ちょーがんばるぅ……はぁー。苦労して捕まえた彼氏にもフラれたしぃ。一昨日、行ったバーでも、いいちんこ見つからなかったしぃ。うぅ……ちんこ……僕にちんこをおくれ」

「本当に残念な人だな。ほら。教授。ワインをどうぞ。さっさと潰れて寝てください」

「うえーん。ワイン美味しーい。もー。花街の男娼買っちゃおうかなぁ。でも、玄人より素人の方が好きだしなぁ。僕」

「はいはい。飲んで飲んで。さっさと潰れろ」

「うんうん。ワイン美味しい。お高いの買って正解!!」

「美味しいですねー。そのまま酔い潰れて寝てくださーい」

「うぇーい」


 アベルは、マチューに勧められるがままに、ぐいぐいワインを飲んだ。アベルは、そんなに酒に強い方じゃない。自分でも酔ってるなーと思うが、男を食えないなら、せめて美味しいワインをしこたま飲みたい。
 アベルは酔い潰れて寝落ちるまで、『ちんこ欲しい!』と何度も叫びながら、ひたすらワインを飲んだ。

 翌朝。
 アベルは、新たに購入した自分のベッドで目が覚めた。二日酔いで頭がガンガン痛む。
 低く唸りながら、なんとか起き上がり、階段を下りて一階の居間に行けば、居間はキレイに片付いていた。テーブルの上には、メモ書きと、二日酔いの度にお世話になる薬の瓶が置いてあった。メモ書きには、マチューの几帳面な字で、『家の鍵は玄関の新聞入れから入れておきます。二日酔いでしょうから、ゆっくり休んでください』と書かれてあった。多分、アベルが二日酔いになる事を見越して、二日酔いの薬を用意してくれていたのだろう。本当にできた助手である。

 アベルは、苦くて不味い二日酔いの薬を一息で飲み干すと、はぁと大きな溜め息を吐いた。マチューには、今回、本当に世話になった。何か、改めてお礼をせねばなるまい。
 男を紹介してやりたいが、紹介して欲しいのは、むしろアベルの方なので、これは却下。無難に、お高いけど美味しいお菓子と、マチューが好きな蒸留酒でいいだろう。

 アベルは、のろのろと階段を上がり、寝室に戻った。昨夜、アベルを寝室に運んでくれたのは、間違いなくマチューだ。本当に優れた助手じゃなかったら、手を出すのだが。デカちんだし。が、マチュー程、気が利いて、研究熱心な助手を探す方が大変なので、マチューには手を出さない。暫くペニスを咥えこんでいないアナルがうずうずするが、マチューは駄目だ。

 寝て起きたら、また男専門の男が集まるバーに行こうと決めて、アベルは二度寝をした。




ーーーーーーー
 アベルは、暗い道を歩きながら、大きな溜め息を吐いた。今夜も全滅だった。いいな、と思って声をかけた相手にはフラれるし、声をかけてきた相手は、抱かれたい派の男ばかりであった。本当に歳はとりたくないものである。昔ならば、入れ食い状態だったのに、今や、一晩の相手を探すのも一苦労である。
 折角、苦労してできた恋人とも別れたし、一晩の相手も見つからないし、ケツが寂しくて仕方がない。今、玩具で遊んでも、多分、虚しさがつのるだけなので、玩具で遊ぶのも気が引ける。

 アベルは、溜め息を連発しながら、がっくりと肩を落として、とぼとぼと新たな我が家へ帰った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獅子は今までの己を捨てながら快楽に溺れ絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

悪役令息の僕とツレない従者の、愛しい世界の歩き方

ばつ森⚡️4/30新刊
BL
【だって、だって、ずぎだっだんだよおおおおおお】 公爵令息のエマニュエルは、異世界から現れた『神子』であるマシロと恋仲になった第一王子・アルフレッドから『婚約破棄』を言い渡されてしまった。冷酷に伝えられた沙汰は、まさかの『身ぐるみはがれて国外追放』!?「今の今まで貴族だった僕が、一人で生きて行かれるわけがない!」だけど、エマニュエルには、頼りになる従者・ケイトがいて、二人の国外追放生活がはじまる。二人の旅は楽しく、おだやかで、順調に見えたけど、背後には、再び、神子たちの手がせまっていた。 「してみてもいいですか、――『恋人の好き』」 世界を旅する二人の恋。そして驚愕の結末へ!!! 【謎多き従者×憎めない悪役】 4/16 続編『リスティアーナ女王国編』完結しました。 原題:転んだ悪役令息の僕と、走る従者の冒険のはなし

不遇な孤児でβと診断されたけどαの美形騎士と運命の恋に落ちる

あさ田ぱん
BL
ノアはオランレリア王国に何にも恵まれず生まれた。ノアの両親はエヴラール辺境伯家から金を持ち逃げし、ノアを捨てた。残されたノアは両親の悪行を理由に蔑まれながらも、懸命に修道院で働きながら少しずつ借金を返済をしている。ノアは毎週、教会の礼拝にやってくる名門・騎士家の嫡男で美しく心優しいローレン・エドガーに一目惚れしていたが、十四歳で行われた第二性の検査でノアはβと診断されローレンはαと診断される。αのローレンとβのノアでは番になれないと知りながらもノアはローレンを好きになってしまう。同じ日にΩと診断されたエヴラール辺境伯家のマリクは、両親揃ってαと言うこともありΩという事実に苦しんでいた。癇癪を起こしたマリクを止めたローレンとノアをマリクは怒って修道院に閉じこめるが、それがきっかけで共同生活をするローレンとノアの仲は深まっていく。でも、マリクも態度とは裏腹にローレンが好きなようで、マリクとローレンは婚約するとの噂が持ち上がる…。 ※美形で強い騎士攻め×不憫で健気な平凡受け ※R-18は※でお知らせします。 ※7/11改題(旧タイトル:麗しのアルファと持たざる男の運命の恋)

【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ
BL
「お前の結婚相手が決まったよ」父王の一言で、ぼくは侍従と守護騎士と共に隣国へと旅立った。 平凡顔王子の総愛され物語。 小国の第4王子イルマは、父王から大国の第2王子と結婚するよう言われる。 ところが、相手は美貌を鼻にかけた節操無しと評判の王子。 到着すれば婚約者は女性とベッドの中!イルマたちは早速、夜逃げをもくろむが…。 宰相の息子、忠誠を捧げる騎士、婚約者の浮気者王子。 3人からの愛情と思惑が入り乱れ!? ふんわりFT設定。 コメディ&シリアス取り交ぜてお送りします。 ◎長編です。R18※は後日談及び番外編に入ります。 2022.1.26 全体の構成を見直しました。本編後の番外編をそれぞれ第二部~第四部に名称変更しています。なお、それにともない、本編に『Ⅵ.番外編 レイとセツ』を追加しました。 🌟第9回BL小説大賞に参加。最終81位、ありがとうございました。 本編完結済み、今後たまに番外編を追加予定。 🌟園瀨もち先生に美麗な表紙を描いていただきました。本当にありがとうございました!

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

君は俺の安定剤

丸井まー(旧:まー)
BL
鬱の気があるパトリックは、精神安定剤の過剰摂取で入院していた。条件付きで退院していいことになったのだが、その条件は、世話焼きな隣人のセドリオと一緒に暫く暮らすことだった。メンタル病んでるちょっと訳ありなおっさんと穏やかで優しい青年のちょっとしたお話。 見た目怖い穏やか青年✕メンタル病んでる男前おっさん。 ※♡喘ぎ ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

色んな女の子になって「ロールプレイングゲーム」する話

ドライパイン
ライト文芸
「魂を込めて演技するってあるでしょ? じゃあそれって、『役柄のキャラクターに憑依している』みたいだよね?」 「これはまだα版だから、テストプレイヤーをどんどん募集してるよ!」 「プレイしたい? それじゃぁ、ね……」

気弱な男子と強気な女性が入れ替わる話。

氷室ゆうり
恋愛
うーん、最近人気がちょっぴり減ったかもですね。鉄板の入れ替わりで逆転を図ります! 男女の入れ替わりは大人気なはずなので、今後に期待します! ああ、r18ですので、どうぞよろしく! それでは!

処理中です...