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40:世の中世知辛いよね

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朝食を食べていると、唐突にバージルが『あ』と、何かを思い出したような声を出した。オリビアがバージルに声をかけた。


「バージルさん。どうしたの?」

「あ、いえ。……昨日、実家と絶縁をしましたが、今後一切、家名を名乗らないと言ってしまったのを思い出しまして。家名の変更をしなければ……」

「あら。じゃあ、うちの養子になりなさいな。確か、同性同士の婚姻だと養子縁組をするのでしょう?そういうことがあるからできるわよ。アルフレッドの息子になったらセドリックと兄弟になってしまうし、私の息子になればいいわ。自分で勝手に家名をつけることはできなかった筈だし。まぁ、うろ覚えなのだけど」

「え……あ、その、いいのですか?」

「いいわよ」

「お前の方が年下だから俺がお兄ちゃんだぞ。つーか、妹より年下だから末っ子だな。よっ。末っ子」

「……アルフレッド。お前は、その、いいのか……」

「あ?いんじゃね?お前、もう自分の家名は名乗れないんだろ。うちの養子になって、うちの家名を名乗るしかねぇだろ。家名が無いと、仕事でも何をするでも差し支える。お袋。とりあえず王都の役所に行ってみようぜ。こっちでも手続きができるかの確認と必要書類の確認をしねぇと。お袋の籍があるキザンナの街でしかできないなら、1回帰らなくちゃいけねぇし」

「そうね。マルタちゃん達が来たら2人で行きましょうか。あ、バージルさんはお留守番よ。大人しく寝ていなさい。帰ったら、マルタちゃんから報告を聞くから。もし動き回っていたらお説教するわよ」

「動きやがったら、肘のぶつけたらビリビリ痺れるところを泣くまで連打するからな。マジでやる。絶対に泣かす」

「……了解」


バージルが顔を引き攣らせて頷いた。セドリックに催促をされて、アルフレッドがセドリックに食べさせるのを再開すると、オリビアがパンッと手を叩いた。


「そうだわ。ねぇ。2人とも。アルが休職中のうちに、1度キザンナの街に来ない?ミディア達にも会わせたいし。アルが復職したら、旅行は中々難しいでしょう?」

「……あー。お袋。ミディア、キレてると思うか」

「とっくの昔にキレてたわよ。とても心配していたもの。諦めて怒られなさい」

「マジかよ……」

「バージルさん。どうかしら。あ、ミディアは私の娘よ。ご挨拶に来てくれた時には会わなかったわよね?アルの1つ年下なの。結婚していて、子供が3人いるわ」

「セドリックを連れていっても大丈夫でしょうか」

「赤ん坊とか小さい子供用の馬車があるらしいぞ。トーラが嫁さんの実家に帰る時に使ったって言ってた。確か、役所で借りられるんじゃなかったか?」

「セドリックもミディア達に会わせたいし、家には赤ちゃんに必要な最低限のものは揃っているわ。まぁ、少し古いものが多いのだけど。アル。そこも確認してみましょうね。そういったものがあるのなら、乗り合い馬車よりもそっちの方がいいわ。キザンナの街まで乗り合い馬車で片道2日だから……余裕をもって片道3日で移動すればいいんじゃないかしら」

「そうだな。バージル。休みは取れるか?」

「休みを取るのは問題ない。有給がまだかなり残っている」

「そういや、1回俺の実家に行ってるんだろ。そん時は何日の旅程で行ったんだ」

「……個人的な旅行ではなく、結果的に新人演習になった」

「「は?」」

「馬の脚に風魔法をかけての高速移動の訓練だ」

「何がどうしてそうなった」

「任務帰還後の休暇中に王都を少し離れると隊長に報告をした。目的地と移動手段を聞かれたので、馬を使って高速移動して1泊で帰ると言ったら、『じゃあ、ついでに新人達も連れていけ』と言われてな。急遽、長距離高速移動並びに野営の訓練が行われることになった」

「あらまぁ」

「マジか」

「風魔法の適性がある者は自分の馬と適性がない者の馬に風魔法をかけ、それを維持しつつ走る。風魔法の適性がない者は風魔法がかけられた馬を御する訓練だ。キザンナの街では近すぎて訓練にならない。もっと先まで足を延ばして、結局、約2週間の訓練になった」

「「へー」」

「アルフレッド。全く関係のない話なんだが、その時に少々思ったことがある」

「なんだよ」

「よほどの緊急時に限るが、馬車を捨てて、浄化課の者を我々の馬に乗せて運ばなければならない状態になることもあるだろう。浄化課の者にも馬での高速移動に慣れてもらっていた方が、運ぶこちらとしても助かるのだが。馬に乗るのに慣れていない者を乗せるのは正直大変だ。できたら馬の方も慣れさせたい」

「あぁ。それはいいな。キックスに手紙を書いて打診してみる。俺が復職したら、すぐに訓練できるようにしておこう。浄化と別に日程を組んで訓練だけをするのは厳しいから、瘴気の発生が比較的少ない場所での浄化を終えた帰りにやればいい。浄化直後の休憩と王都に帰還してからの休みを少し多めにすれば問題ないだろ。それなら全員が順番にできる。完全に王都詰めなのはキックスだけだしな」

「こちらもまずは直属の隊長に提案してみる。とはいえ、浄化課から打診してくれた方が、話が進みやすいだろう。予算が絡むことだから、実際に行えるようになるのは来年の春以降になるだろうが」

「ねぇ。2人とも。聞いたことがなかったのだけど、浄化任務の時は、医療従事者は同行するの?」

「浄化課の奴らは、一応全員応急処置程度はできる。医療魔法を使えるのは何人かだな。基本的に、瘴気が発生している場所に1番近い町か村で現地の医者に待機してもらってる」

「こう言ってはなんだけど、医者の腕もピンキリじゃない。現場の医者の腕や施設設備次第では、助かる命も助からない場合があるんじゃない?」

「腕のいい医者を連れていけるのが1番いいんだけどよぉ。どうしても予算の関係がなぁ。瘴気の浄化は国にとって必須事項なんだが、ぶっちゃけそんなに予算が潤沢な訳じゃねぇんだよ。瘴気は常に国のあちこちで湧いている。あれだよ。完全にいたちごっこなんだよ。人的被害が殆ど出ない、できるだけ瘴気の発生量が少ないうちに浄化課の人間を派遣して浄化してってやってるけど、瘴気の発生を根本的に止められない以上、無尽蔵に国の予算をかける訳にはいかないだろ?とはいえ、貴重な浄化できる人材を無駄に減らすわけにもいかない。同行している騎士達もな。先代の頃から上に医者の同時派遣の要請を再三してるんだけど、中々なぁ……」

「騎士団の方でも、衛生兵のような医療魔法の使い手を同行させるという話が出ているが、やはり予算の関係で中々実現しない。医療魔法は習得に時間も金もかかる。一朝一夕じゃ人材を育てられない。白銀騎士団で人材を育てるのは現実問題として厳しいし、既に医療魔法を習得している者を雇うには、やはり金がかかる。この国は決して貧しい訳ではないが、かといって非常に豊かという訳ではない」

「ぶっちゃけ、瘴気の浄化や魔物の討伐って国の金儲けには繋がらないからなぁ。割と扱いが雑なんだよな。瘴気の浄化はマジで必要なことなんだが、そのことをきっちり理解している奴が実際少ない。貴族とか特にな」

「浄化をしてもらえるのが当たり前のことだからだろう。もう50年以上、他国との戦もない。腹の探り合いの外交ばかりをしていて、実際に武力が物を言うという事態を経験したことがない者が殆どだ。特に貴族は特権階級だからな。本来の貴族の責務を忘れている者もそれなりにいる。瘴気に関して、その危険を身近に感じない者には、その必要性が本当の意味では理解ができないのだろう。まぁ、他人事と言う訳だ」

「腹の立つ話ね」

「まぁな。先代の頃から上に色々かけあってはいるんだが、本当に難しいんだよなぁ。消費しかしない瘴気の浄化に金をかけるより、金を稼げる魔導具開発やらに予算をかけた方がいいってお偉方が多いんだよ」

「嘆かわしい話だ。現場を知らない癖に組織の上立つ者こそが、現場の人間にとっては害悪だ」

「それな」

「規模は違うけれど、そこら辺は病院と一緒ね。私も経営陣とはよく闘っていたわ。今にして思えば、クビにならなかったことが不思議なくらいの発言をしていたわね」

「どこも現場の人間は大変だよなぁ」

「そうだな」

「そうねぇ」


なにやら朝っぱらから3人でしみじみとしてしまった。
朝食の後片付けを終え、マルタ達が来ると、アルフレッドはオリビアと一緒に役所へと出かけた。バージルを養子にする手続きは王都の役所でもできるそうで、必要書類を貰い、バージルの家名変更に伴う諸々の変更手続きに必要なことの説明を受けた。家の名義変更など、やらなくてはいけないことがかなりできた。バージルの職場にも色々と書類を提出しなければいけないだろう。バージルが何日もじっと大人しくしているとは思えない。バージルが休暇のうちに全て済ませることにする。アルフレッドは大量の必要書類を抱え、オリビアと急いで家に帰った。


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