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6:夢の始まり

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ただ寝転がっているだけのアルフレッドに、バージルが声をかけてきた。


「起き上がれ」

「なんでだ。さっさと済ませろよ」

「いきなり俺にのしかかられたいのか」

「素直にきめぇ」

「だったら起きろ」


アルフレッドは舌打ちをしてから、のろのろと起き上がった。胡坐をかいて座れば、バージルが手を差し出してきた。アルフレッドが無表情でその手を見れば、バージルが真面目くさった顔で口を開いた。


「まずは俺に触れられることに慣れろ。ガチガチに固まっていると濡れない」

「濡れる必要ないだろ」

「童貞か?濡れていなければ入らない。仮に入っても痛いだけだぞ」

「童貞なわけあるか。潤滑油的なもんを使えばいいだろ」

「今日は用意をしていない。まぁ、体質にもよるのだろうが、おそらく濡れるだろう。どうしても濡れない場合は用意をする」

「……心が折れそう」

「こんなところで折れるな。ほら。こちらに来い」

「明後日コーネリーを殴る。絶対にだ」

「部下に八つ当たりをするな」

「全ての元凶はあいつだ」


アルフレッドは露骨に顔を顰めながら、バージルのゴツい手に触れた。騎士をしているだけあって、バージルの手は皮膚が硬く、傷痕のようなものもあった。筋肉質な身体をしているからか、アルフレッドよりも体温が高い。向かい合って嫌々手を重ねていると、バージルがアルフレッドのほっそりとした手を握り、やんわりと手を引いた。


「なんだ」

「膝に乗れ」

「お前なぁ。俺は年上だぞ。年下の若造の膝になんか乗れるか」

「お前、いくつだ」

「『貴殿』はどうした」

「お前に敬意を払う必要性を感じなくなった。で、いくつだ」

「てめぇこの野郎。……もうすぐ35」

「ふーん。本当に年上なんだな」

「敬え。崇め奉れ」

「年上として敬ってほしければ、それ相応の言動をしろ」

「心の底から殴りたい」

「やめろ」


やんわりとだが、逃がしてはくれない感じで手を引かれ、アルフレッドは渋々腰を上げ、手を引かれるがままに、胡坐をかいているバージルの膝の上に跨った。少し羨ましくなる程筋肉質な太腿の上に乗るようにして腰を下ろせば、バージルの両手が支えるようにアルフレッドの腰に触れた。すぐ目の前に猛禽のように鋭く整ったバージルの顔がある。なんともイラっとする程度には男前だ。眉間に皺を寄せてバージルの顔面をまじまじと見てから、鳶色の瞳を見つめて、アルフレッドは口を開いた。


「お前、それなりにモテるだろう」

「声をかけられることはたまにある」

「今の歳でも普通に結婚ができるだろ」

「結婚はしたくない。1度で懲りた。浮気をされただけじゃなく、それ以外にも色々あって、離婚の時にかなり拗れて面倒だった。俺が構わなかったから悪いと喚かれたりな。俺が遠征で家にいなくて寂しかったから浮気をしたそうだ。家に帰らなかった俺が悪いらしい」

「意味が分からん。仕事だからしょうがないだろ。つーか、働かないと養えねぇだろ」

「離婚に伴って職場の方でも家の方でも揉めた。女の考えることはよく分からない。結婚なんてうんざりだ」

「あぁ。上司の紹介で結婚したんだっけ」

「あぁ。当時の直属の上司だったから、かなり面倒臭いことになった」

「うわぁ……お気の毒」

「お前は男だから気が楽だ」

「そりゃどうも」


話しながら、バージルの熱い手がアルフレッドの腰や背中を触れるか触れないかの絶妙なタッチで撫で始めた。居心地が悪い。他人の体温や肌の感触を感じるのは、数年ぶりである。無言が気まずいのもあって、アルフレッドは目を泳がせながら口を開いた。


「触り方がいやらしい」

「いやらしいことをするからな」

「堅物嫌味野郎じゃないのか」

「誰が嫌味野郎だ。独身で恋人をつくる気もないからな。娼館には普通に行く」

「ふーん。俺は娼館には行ったことがない。そんな金があったら本を買う」

「だから、あんなに本が沢山あるのか。最後にセックスをしたのは?」

「3……いや、4年前か?『仕事と私、どっちが大事なの』って月並みな台詞を言われてフラれた。俺は結婚も考えていたんだが」

「そんな女とは結婚をしなくて正解だ。浮気をされるのがオチだ」

「美人だったんだけどなぁ」


話しながら、バージルがアルフレッドの首筋に顔を埋めた。首筋に柔らかいものが触れ、熱くぬるついたものが這う。バージルに舐められている。腰や背中を撫でていた手は尻にも伸び、触れるか触れないかの絶妙な力加減で撫で回されている。めちゃくちゃ悔しいことに、じわじわ気持ちがいい。ぬるぬると首筋を這う熱い舌の感触にも、腰や尻を撫で回すゴツイ手の感触にも、背筋がゾクゾクするような微かな快感を感じている。堅物嫌味野郎の癖にテクニシャンか。アルフレッドは下腹部がじんわりと熱を持つような感覚から気を逸らすように、下唇を強く噛んだ。ちゅくっと小さな音を立ててアルフレッドの首筋を優しく吸ったバージルが、首筋から顔を離し、歯が食い込むアルフレッドの下唇を指でなぞった。


「噛むな。傷になる」

「……うるせぇ。放っておけ」

「こっちはお前に感じてもらう為に色々やっているんだ。大人しく楽しんでおけ」

「楽しめるかボケ」

「感じないと濡れない。いっそ夢だとでも思え。気持ちがいい単なる夢だ。目が覚めたら、いつものお前だ」

「……こいつ腹立つなぁ。生意気だぞ。年下の癖に」

「キスをするぞ」

「するなって言っただろ。きめぇ」

「煩い。これは一夜の夢だ」

「……あっそ」


アルフレッドは小さく溜め息を吐いた。元々近かったバージルの顔が更に近づき、柔らかいものが唇に触れた。超至近距離にある鳶色の鋭い瞳から目を逸らさずに、アルフレッドは自分からバージルの唇を吸った。マグロに徹しようと思っていたが、予定変更である。一夜の夢として楽しめと言うのならば、楽しんでやろうではないか。やられっぱなしは性に合わない。アルフレッドはバージルを挑発するように、ねっとりとバージルの下唇に舌を這わせた。バージルが低く笑った。もう一度バージルの唇を軽く吸えば、今度はバージルがアルフレッドの唇を優しく吸ってきた。互いに視線を逸らさないまま、探り合うように唇を吸い合う。バージルの熱い手がアルフレッドの身体のラインをなぞるようにして、やんわりと肌を撫で始めたので、アルフレッドはわざと煽るように、するりとバージルの太い首に両腕を絡めた。唇を触れ合わせたまま、真っ直ぐに鳶色の瞳を見つめて囁く。


「俺を楽しませろよ。むっつり野郎」

「誰がむっつりだ」

「お前」

「この野郎」


軽口を窘めるように、バージルが優しくアルフレッドの下唇を噛んだ。アルフレッドは小さく笑って、口を開けて舌を伸ばした。アルフレッドの舌にバージルの舌が触れ、ぬるぬると舌同士を絡めあった後、するりとアルフレッドの口内にバージルの舌が入ってきた。バージルの熱い舌がゆっくりと歯列をなぞり、味わうように上顎をねっとりと舐め始めた。腰のあたりがぞわぞわする感覚に、アルフレッドは目を細めた。自分からバージルの舌に舌を絡め、反撃するようにバージルの口内に舌を潜り込ませて、口内をゆっくりと舐め回す。下腹部がじんわりと熱い。舌をやんわりと吸われて、反射的にビクッと小さく腰が跳ねた。再びバージルの舌がアルフレッドの口内に入ってきて、性感を煽るように動き回る。

息が上がるまで、じっくりとキスをした。ちょっとイラっとすることに、今までしてきた中で一番気持ちがいいキスだった。テクニシャンか。唇を離したバージルが再びアルフレッドの首筋に顔を埋めた。肌の下の太い血管をなぞるようにして、ねっとりと舐め上げられる。バージルの熱い舌が肌を舐め上げるようにして耳にまで移動し、耳の形をなぞるように舌が這う。ねっとりと耳を舐められると、どうしても背筋がゾクゾクしてしまう。アルフレッドは熱い息を吐きながら、バージルの逞しい腕の中で身体をくねらせた。


「耳、やめろ」

「気持ちいいか」

「……っ、そこで喋んな」


バージルがクックっと小さく笑いながら、アルフレッドの耳を咥え、優しく噛みついてきた。耳の穴にも舌を差し込まれ、くちゅくちゅと水音を立てながら舐められる。絶対にわざとだ。いやらしい水音とバージルの濡れた舌の感触に、アルフレッドは堪らず掠れた息を吐いた。反対側の耳もしつこい程舐め回された後、再びねっとりとしたキスをして、ゆっくりとベッドに押し倒された。

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